座敷童様と俺

渡辺 佐倉

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 甘いもの、その中でも彦三郎はあんこの類が好きだった。

「桜餅なあ。一遍食ってみたいけどな」

 そう言われる。
 桜の葉なんてスーパーでは見たことが無い、気がする。自分たちで作るよりどこか美味しい店から買ってくるべきだよなあと思うが、生憎どこの店が美味しいと評判なのかも知らない。

 縁側で緑茶をと桜餅で花見なんていうのもいいのかもしれない。
 この家には、そもそも桜の木は無いし、桜の開花はもう少し先の筈だ。

 手作りの方がいいのかもしれない。少しでもと思うのに彦三郎は「一度死んでるんだぞ。その後の余生があるだけで御の字だ」と時々言う。

 それに、と彦三郎がこの前言っていた言葉を思い出す。

「妖怪の時間間隔なんぞあてにならないからな。
少しが20年だったなんてザラだ」

 長丁場かもしれないんだし、そんなに力を入れすぎなくたっていいんだ。
 そう彦三郎は言った。

「兄さんがここにずっといられないこと位、俺にもわかってるよ」

 彦三郎は笑顔で、けれど少し寂しそうに言った。

 自分の唇が戦慄くのに、上手く言葉が紡げない。

「いつか必ずここからだしてやるから」

 約束にもならない言葉をそれでも伝える「楽しみにしてるな」と彦三郎は答えた。

* * *

 3月の上旬、本家の親戚から連絡があり、庭師が庭木の手入れをしに来るという話を聞いた。
 くれぐれも室内にいれないようにと言われ、まああの札を見られたくは無いだろうと思った。

 どちらにせよ、彦三郎の事は見えないらしいので、普通に業者の人が来るってだけの話だ。

 まだ寒さの残っていた日、庭師の人はこの家を訪れた。
 留守番を任されてるだけだと伝えた俺にも、丁寧に今日やることを伝える男は俺よりも少し年上だろうか。

 それでも、かなり若く見えるのにしっかりした口調で説明をして梯子をもって庭に向った。

 彦三郎は家の中から目を細めて、懐かしいものでも見る様に剪定作業を眺めている。
 きっと年に何回か、こうやってずっとずっと眺めて来た恒例行事の様なものなのだろう。

 
 庭師はきっと気が付いていない。
 もしかしたら足音位聞こえて不気味がっているのかもしれないけれど、今は俺がいるから聞き分けも出来ないだろう。

「お疲れ様です」

 家にいれないという約束があるため、声をかけた後、庭で缶コーヒーを渡す。

「ありがとうございます」

 丁寧に言われて庭師がコーヒーに口を付けるのを確認した。

 それから、聞きたかった話を口に出す。

「あの、桜って簡単に植えられたりしますか?」

 きっと今植えられてるものの質問をするのが一般的なのだろう。
 脈略も無く、突然桜植えたいっていうのも微妙だろう。

「無理っすね。」

 思ったより簡潔に答えが返ってきた。

 あー、残念だなと思う。
 ここで彦三郎と桜を見ることは出来ないのか。

 ニコニコと庭師は朗らかに笑ってる。

「でも、そうですね。
この缶コーヒーのお礼に、今年だけ特別に桜お貸ししますよ」

 お兄さんまじめそうだし。
 
 それに――

 庭師はちらりと窓の方を見た。

「弟さんもきっと喜びますよ」



 彦三郎の事が見えているのか「へ!?」思わず変な声をだす。

「あれ?俺、なんで弟さんだと思ったんだろう。妹さんでした?」

 庭師からは予想もしていなかった返事をされる。

 この家にいるのは弟でも妹でもない。座敷童だ。
 けれど正直彦三郎は女に間違えられるようには見えない。

「彼、ちょっと人見知りするんですが会われましたか?」

 弟ではないと説明するのが面倒で、そう聞く。

「いや、会ってはいないんですが」

 ホントなんで俺弟さんだと思ったんでしょうね? 不思議そうに庭師が言う。

「前、聞いたんでしたっけ? 明日いいもの持ってきますので弟さんと楽しんでくださいね」

 前、なんてものは無い。そもそも弟もいないのだけれど、兎に角彦三郎に明日何かを持ってきてくれるらしいこととなった。
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