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彦三郎のことを見ていないのにこの家に男の子がいると庭師は知っている。
このことがいい事なのか悪い事なのか分からない。仕方が無く彦三郎本人聞く。
「昔は割とそんなもんだったな」
懐かしいという様な表情と声だった。
もしかしてという気持ちになる。
彦三郎の力が弱まっているというのは多分事実だった。ということは昔は力が今よりもずっと強かったということだ。
前の様になっているということはもしかして。でもきっと……。
「明日庭師の人なんかもってきてくれるらしいよ」
そう彦三郎に伝えると「なんだろうな?」と彦三郎は穏やかに言った。
* * *
翌日玄関先で庭師に渡されたのは小さな鉢植え、所謂盆栽と呼ばれるようなものだった。
「これは、旭山桜という品種の桜なので」
所謂ソメイヨシノとはちょっと違った感じの花が咲きますよ。
庭師は散る頃にまた取りに来ますからと言って笑顔を浮かべる。
思わずつられて笑顔を返してしまう。
庭師が帰った後、一週間から十日後に咲くと言われた盆栽を彦三郎に見せる。
「これも貢物ってやつなのかな?」
つぼみの付いた盆栽を見ながらそうつぶやく。彦三郎は当たり前のことの様に「こういう事ってよくあるぞ」と言った。
少なくとも俺にはそんなことは、度々発生したりはしない。
彦三郎の座敷童の力なのだろうか。
「桜咲いたら一緒に桜餅食べような」
実際のところはよく分からいけれど、そこを気にしてもよく分からないのだから、せめてこの奇妙な同居人とささやかに桜を楽しみたいと思った。
庭師の男に簡単に手入れの方法を説明された後、実は聞いていたことがあった。
彼女がそういうもの結構好きだからとはにかみながら教えてくれた、和菓子店の前で看板を見上げる。
近隣で桜餅の美味しい店を教えてもらうとここを紹介された。
少し薄暗い店内には餅だの最中だの、あとは上生菓子とかかれた綺麗な食べ物が置いてある。
団子も買おうか少し悩んでから、桜餅を四つ頼む。
彦三郎はあんこは好きなのだ。桜餅もきっと好むだろう。
昔ながらの桜の葉っぱで包まれている桜餅は、薄いピンク色をしていてとても綺麗だ。
「この店はいつからあるんですか?」
「創業80年になります」
笑顔で言われる。長く続いているお店だと思った。それでも彦三郎よりは多分年下の店だ。
もしかしたら一度位、門脇の人間が買って彦三郎に渡したかもしれないけれど、桜餅は食べたことが無いと言っていた。
少し前に見た、夢を思い出す。彦三郎の過去の夢だ。
「いろんな美味い物食べさせてやりたいなあ……」
帰路一人になると思わずそんなことを呟いてしまう。
自分はそれほど食に興味は無い。
コンビニ飯が続いてもなんでも、正直どうでもいいタイプだ。
だけど、あの奇妙な同居人には美味い物を食べさせたいと思うのだ。
桜はほころんでいて、ピンク色が美しい。
縁側に盆栽を置いて、それから濃いめにいれた緑茶と皿に盛りつけた盆を持っていく。
まだ肌寒い日も多いというのに彦三郎は薄着で縁側にだらりと腰を下ろしている。
「そんなに窓に近づいて、大丈夫か?」
「別に触れさえしなきゃ大丈夫だ」
盆をそのまま縁側に置く。
この際、小さな座卓でも買ってしまった方がいいだろうか。
少し肌寒いとはいえ、春の太陽が降り注ぐ縁側は気持ちがいい。
花見って言うにはちょっと寂しいかもしれない。花吹雪が舞い散る景色を彦三郎にもみせてやりたかった。
「これ美味いな」
彦三郎は一口桜餅を食べて言う。
道明寺タイプの餅は粒々としていて、とても美味しい。
この葉っぱ食べていいのか? と聞かれ頷く。
少ししょっぱくて桜の匂いがする。
桜の盆栽からも、少し甘い様な桜の香りがする。
緑茶が美味しいと思ったのは何歳だっただろうか。
彦三郎の見た目と同じ年位の時には、苦いものは少し苦手だった気がする。
熱いお茶と桜餅を交互に食べてそれから、ふうと息を吐きだす。
彦三郎が二つ桜餅を食べた後、最後に一つ残った桜餅をじいっと見ていることに気が付く。
「もう一個たべるか?」
これは別にホットケーキの焦げている方を取るのとは違う。
一個食べた桜餅は美味しかった。
それで満足になっただけなのだ。
彦三郎は何かを確認するみたいに、俺の顔を見て、それから桜餅を頬張った。
残りのお茶を飲み干してそれから、ふわふわと咲く桜を眺める。
「ひまわりの種でも植えようか?」
何となくだ。
完全に思い付きで彦三郎に話しかける。
ひまわりは小学校の頃育てたことがある。
この庭で育てることもきっとできるだろう。
彦三郎は「兄さんがちゃんと世話をするならいいぜ」と言った。
明日ホームセンターに行って種を買ってこよう。
きっと今年の夏には大きな花が咲く。
このことがいい事なのか悪い事なのか分からない。仕方が無く彦三郎本人聞く。
「昔は割とそんなもんだったな」
懐かしいという様な表情と声だった。
もしかしてという気持ちになる。
彦三郎の力が弱まっているというのは多分事実だった。ということは昔は力が今よりもずっと強かったということだ。
前の様になっているということはもしかして。でもきっと……。
「明日庭師の人なんかもってきてくれるらしいよ」
そう彦三郎に伝えると「なんだろうな?」と彦三郎は穏やかに言った。
* * *
翌日玄関先で庭師に渡されたのは小さな鉢植え、所謂盆栽と呼ばれるようなものだった。
「これは、旭山桜という品種の桜なので」
所謂ソメイヨシノとはちょっと違った感じの花が咲きますよ。
庭師は散る頃にまた取りに来ますからと言って笑顔を浮かべる。
思わずつられて笑顔を返してしまう。
庭師が帰った後、一週間から十日後に咲くと言われた盆栽を彦三郎に見せる。
「これも貢物ってやつなのかな?」
つぼみの付いた盆栽を見ながらそうつぶやく。彦三郎は当たり前のことの様に「こういう事ってよくあるぞ」と言った。
少なくとも俺にはそんなことは、度々発生したりはしない。
彦三郎の座敷童の力なのだろうか。
「桜咲いたら一緒に桜餅食べような」
実際のところはよく分からいけれど、そこを気にしてもよく分からないのだから、せめてこの奇妙な同居人とささやかに桜を楽しみたいと思った。
庭師の男に簡単に手入れの方法を説明された後、実は聞いていたことがあった。
彼女がそういうもの結構好きだからとはにかみながら教えてくれた、和菓子店の前で看板を見上げる。
近隣で桜餅の美味しい店を教えてもらうとここを紹介された。
少し薄暗い店内には餅だの最中だの、あとは上生菓子とかかれた綺麗な食べ物が置いてある。
団子も買おうか少し悩んでから、桜餅を四つ頼む。
彦三郎はあんこは好きなのだ。桜餅もきっと好むだろう。
昔ながらの桜の葉っぱで包まれている桜餅は、薄いピンク色をしていてとても綺麗だ。
「この店はいつからあるんですか?」
「創業80年になります」
笑顔で言われる。長く続いているお店だと思った。それでも彦三郎よりは多分年下の店だ。
もしかしたら一度位、門脇の人間が買って彦三郎に渡したかもしれないけれど、桜餅は食べたことが無いと言っていた。
少し前に見た、夢を思い出す。彦三郎の過去の夢だ。
「いろんな美味い物食べさせてやりたいなあ……」
帰路一人になると思わずそんなことを呟いてしまう。
自分はそれほど食に興味は無い。
コンビニ飯が続いてもなんでも、正直どうでもいいタイプだ。
だけど、あの奇妙な同居人には美味い物を食べさせたいと思うのだ。
桜はほころんでいて、ピンク色が美しい。
縁側に盆栽を置いて、それから濃いめにいれた緑茶と皿に盛りつけた盆を持っていく。
まだ肌寒い日も多いというのに彦三郎は薄着で縁側にだらりと腰を下ろしている。
「そんなに窓に近づいて、大丈夫か?」
「別に触れさえしなきゃ大丈夫だ」
盆をそのまま縁側に置く。
この際、小さな座卓でも買ってしまった方がいいだろうか。
少し肌寒いとはいえ、春の太陽が降り注ぐ縁側は気持ちがいい。
花見って言うにはちょっと寂しいかもしれない。花吹雪が舞い散る景色を彦三郎にもみせてやりたかった。
「これ美味いな」
彦三郎は一口桜餅を食べて言う。
道明寺タイプの餅は粒々としていて、とても美味しい。
この葉っぱ食べていいのか? と聞かれ頷く。
少ししょっぱくて桜の匂いがする。
桜の盆栽からも、少し甘い様な桜の香りがする。
緑茶が美味しいと思ったのは何歳だっただろうか。
彦三郎の見た目と同じ年位の時には、苦いものは少し苦手だった気がする。
熱いお茶と桜餅を交互に食べてそれから、ふうと息を吐きだす。
彦三郎が二つ桜餅を食べた後、最後に一つ残った桜餅をじいっと見ていることに気が付く。
「もう一個たべるか?」
これは別にホットケーキの焦げている方を取るのとは違う。
一個食べた桜餅は美味しかった。
それで満足になっただけなのだ。
彦三郎は何かを確認するみたいに、俺の顔を見て、それから桜餅を頬張った。
残りのお茶を飲み干してそれから、ふわふわと咲く桜を眺める。
「ひまわりの種でも植えようか?」
何となくだ。
完全に思い付きで彦三郎に話しかける。
ひまわりは小学校の頃育てたことがある。
この庭で育てることもきっとできるだろう。
彦三郎は「兄さんがちゃんと世話をするならいいぜ」と言った。
明日ホームセンターに行って種を買ってこよう。
きっと今年の夏には大きな花が咲く。
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