座敷童様と俺

渡辺 佐倉

文字の大きさ
27 / 31

9-2

しおりを挟む
 彦三郎のことを見ていないのにこの家に男の子がいると庭師は知っている。

 このことがいい事なのか悪い事なのか分からない。仕方が無く彦三郎本人聞く。

「昔は割とそんなもんだったな」

 懐かしいという様な表情と声だった。
 もしかしてという気持ちになる。

 彦三郎の力が弱まっているというのは多分事実だった。ということは昔は力が今よりもずっと強かったということだ。

 前の様になっているということはもしかして。でもきっと……。

「明日庭師の人なんかもってきてくれるらしいよ」

 そう彦三郎に伝えると「なんだろうな?」と彦三郎は穏やかに言った。

* * *

 翌日玄関先で庭師に渡されたのは小さな鉢植え、所謂盆栽と呼ばれるようなものだった。

「これは、旭山桜という品種の桜なので」

 所謂ソメイヨシノとはちょっと違った感じの花が咲きますよ。
 庭師は散る頃にまた取りに来ますからと言って笑顔を浮かべる。

 思わずつられて笑顔を返してしまう。

 庭師が帰った後、一週間から十日後に咲くと言われた盆栽を彦三郎に見せる。

「これも貢物ってやつなのかな?」

 つぼみの付いた盆栽を見ながらそうつぶやく。彦三郎は当たり前のことの様に「こういう事ってよくあるぞ」と言った。
 少なくとも俺にはそんなことは、度々発生したりはしない。

 彦三郎の座敷童の力なのだろうか。

「桜咲いたら一緒に桜餅食べような」

 実際のところはよく分からいけれど、そこを気にしてもよく分からないのだから、せめてこの奇妙な同居人とささやかに桜を楽しみたいと思った。



 庭師の男に簡単に手入れの方法を説明された後、実は聞いていたことがあった。

 彼女がそういうもの結構好きだからとはにかみながら教えてくれた、和菓子店の前で看板を見上げる。
 近隣で桜餅の美味しい店を教えてもらうとここを紹介された。

 少し薄暗い店内には餅だの最中だの、あとは上生菓子とかかれた綺麗な食べ物が置いてある。

 団子も買おうか少し悩んでから、桜餅を四つ頼む。

 彦三郎はあんこは好きなのだ。桜餅もきっと好むだろう。

 昔ながらの桜の葉っぱで包まれている桜餅は、薄いピンク色をしていてとても綺麗だ。

「この店はいつからあるんですか?」
「創業80年になります」

 笑顔で言われる。長く続いているお店だと思った。それでも彦三郎よりは多分年下の店だ。

 もしかしたら一度位、門脇の人間が買って彦三郎に渡したかもしれないけれど、桜餅は食べたことが無いと言っていた。

 少し前に見た、夢を思い出す。彦三郎の過去の夢だ。

「いろんな美味い物食べさせてやりたいなあ……」

 帰路一人になると思わずそんなことを呟いてしまう。
 自分はそれほど食に興味は無い。

 コンビニ飯が続いてもなんでも、正直どうでもいいタイプだ。

 だけど、あの奇妙な同居人には美味い物を食べさせたいと思うのだ。



 桜はほころんでいて、ピンク色が美しい。

 縁側に盆栽を置いて、それから濃いめにいれた緑茶と皿に盛りつけた盆を持っていく。
 まだ肌寒い日も多いというのに彦三郎は薄着で縁側にだらりと腰を下ろしている。

「そんなに窓に近づいて、大丈夫か?」
「別に触れさえしなきゃ大丈夫だ」

 盆をそのまま縁側に置く。

 この際、小さな座卓でも買ってしまった方がいいだろうか。
 少し肌寒いとはいえ、春の太陽が降り注ぐ縁側は気持ちがいい。

 花見って言うにはちょっと寂しいかもしれない。花吹雪が舞い散る景色を彦三郎にもみせてやりたかった。

「これ美味いな」

 彦三郎は一口桜餅を食べて言う。
 道明寺タイプの餅は粒々としていて、とても美味しい。

 この葉っぱ食べていいのか? と聞かれ頷く。
 少ししょっぱくて桜の匂いがする。

 桜の盆栽からも、少し甘い様な桜の香りがする。

 緑茶が美味しいと思ったのは何歳だっただろうか。
 彦三郎の見た目と同じ年位の時には、苦いものは少し苦手だった気がする。


 熱いお茶と桜餅を交互に食べてそれから、ふうと息を吐きだす。

 彦三郎が二つ桜餅を食べた後、最後に一つ残った桜餅をじいっと見ていることに気が付く。

「もう一個たべるか?」

 これは別にホットケーキの焦げている方を取るのとは違う。

 一個食べた桜餅は美味しかった。
 それで満足になっただけなのだ。




 彦三郎は何かを確認するみたいに、俺の顔を見て、それから桜餅を頬張った。

 残りのお茶を飲み干してそれから、ふわふわと咲く桜を眺める。

「ひまわりの種でも植えようか?」

 何となくだ。
 完全に思い付きで彦三郎に話しかける。

 ひまわりは小学校の頃育てたことがある。
 この庭で育てることもきっとできるだろう。

 彦三郎は「兄さんがちゃんと世話をするならいいぜ」と言った。

 明日ホームセンターに行って種を買ってこよう。


 きっと今年の夏には大きな花が咲く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...