お社様の森【BL】

渡辺 佐倉

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番外編2

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水浴び


※引き続き蛙です。

ある暑い日のことだった。
窓という窓を開け放ってもじっとりと暑い中、それでも一番涼しい座敷で汗を拭っていると、時雨様が俺の元へ来て俺を見下ろす。

こんなに暑いというのに時雨様は汗一つかいておらず、顔色もいつも通りだ。

「水浴びに行こうか。」

俺に気を使ってか、戯さんとして接して居た時の様な喋り方を時雨様は良くする。
本来のじゃべり方とは違うその言葉遣いに、申し訳なさと少しだけ懐かしさを感じる。

「水浴びですか?」
「そう。小川が近くにあるんだ。」
「俺、水着持ってないですけど……。」

どうしようか思案する。
そもそも、水着を履くという文化がこちら側にあるのかも分からないが、真っ裸で泳ぐわけにもいかないだろう。

「下このままでいいですか?」

川なのだから石とかもあるだろう。
今履いている短パンの裾を掴んで聞くと、いいんじゃないかとのことだったのでそのまま行くことにする。
まあ、濡れてしまってもこの暑さだ帰りの道中で乾いてしまうだろう。
子供っぽいかもしれないが、ちょっとそういったことが楽しみだ。

時雨様に連れられてきたのは膝位までの水位の小川で、透明な清流は太陽の光でキラキラと輝いている。



「時雨様も入りますか?」

思わず、言葉が弾んでしまう。
川で遊ぶのは多分小学校以来で、はしゃいでしまう。

「ああ。」

草履を脱いで、Tシャツを脱いで、勢いよく川へ入る。
こけもあまり生えていない様で足元もすべりそうになかった。

水は程よくつめたかった。
手で水をすくって勢いよく自分の頭にかける。

ずぶ濡れになっていくにつれ、体にこもった熱が取れていく。
時雨様も着物のまま入ってきた。

「あの、着物……。」
「気にしなくていい。」

そう言うと時雨様は俺に向かってみずをかけた。
彼の方をみると、ニヤリと笑う。

面白くなって声を出して笑いながら、俺も水をかける。

ばしゃばしゃと音をたてながら水を飛ばし合う。

「気持ちいいですね。」
「そうだな。」

蛙の特徴を受け継ぐ時雨様はやはり水が好きな様だった。

少し下流に進むと突然、水深が深くなる。
思わず足を取られ転びそうになったところを時雨様に腕を掴まれ助けられた。

「あ……、ありがとうごさいます。」
「この辺から深くなるから、気をつけろ。」

抱きかかえられる恰好のまま時雨様は言う。
折角水で冷えた体が火照る気がする。

「そ、そういえば、折角なので元の姿になって泳いだりしないんですか?」


恥ずかしさを紛らわすために、時雨様に話しかける。
彼の本来の姿が蛙だという事は良く知っている。
蟇は泳ぐのかよく分からなかったが、雨と土地の神様である時雨様が水が苦手だとは思わない。

時雨様は無表情に俺のことを見下ろした。

「伴侶が醜い生き物なのは由高もいやであろう?」
「醜いって、時雨様が?まさか。」
「人は、我の様な生き物が恐ろしいのではないのか?」

時雨様の金色の瞳が、ゆらりと揺れた気がした。

「だって、俺男ですし、一々蛙怖いとかならなくないですか?」

女の子でキャーキャーと怖がっている子がいた記憶はあるが、別に俺は男だし、蛙が恐ろしいと思ったことはない。
そもそも、時雨様は時雨様だろう。

それにきっとここを泳ぐのは気持ちがいいだろう。
じっと見おろされたので、ニコリと笑い返す。

「そうだな。」

その後何か時雨様は言った気がしたが聞き取れなかった。
着物を緩めるとそのまま、蛙の姿に変わった。

『由高も一緒に泳ぐか?』

頭の中に直接言葉が響く。

「俺は上手く泳げるか……。」

プールと違うし、水着ではない為、短パンが水を吸って重たくなっている。

『我に捕まればいい。』

時雨様に言われ、抱き着くみたいに背中につかまる。

時雨様の背中はひんやりとしていて気持ちがいい。



蛙の匂いで浮かべたのは田んぼの泥の香りだったが別に何も匂いはしなかった。
人間の様に体臭というものが無いのかもしれない。
それは少しだけ残念だなと思いながら、時雨様の背中にもたれかかる。
頬に時雨様の背中がくっついて冷たくて気持ちがいい。

足が付かない位の深い場所だというのに、不安は全くない。
時雨様に身を預けて二人で水の上を漂う。

こんな瞬間、ああやっぱり彼は人間とはまるで違う生き物なのだと実感するけれど、それでも、姿が人では無く蛙でもそれでも愛おしいのだ。

痛くない程度に捕まる腕に力を込めて、時雨様にそっと頬ずりをした。

そろそろ上がりましょうか?と言うのも忘れて二人ただ、くっついていたかった。

「また来ましょうね。」

俺がそう言うと、時雨様は『そうだな。』と呟いた。


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