幸福の神様

渡辺 佐倉

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楽園

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* * *

彼は土地神様ではなくなってしまった。
けれど、彼は元気で、事実上自由の身らしい。


顔色はだいぶ良くなっている彼はとりあえず僕のもう荷物を片付けてしまったアパートにいる。


「僕が無事で良かったって、あれ、どういう意味ですか?」
「え?」

彼は視線をさまよわせながらしばらく逡巡した後言う。

「君が乗るはずだった電車が土砂崩れに巻き込まれる筈だった……」

この街の人間でも無い世話係のために土地神であることをやめたというのか。

「だって、そんなの……」

僕だけじゃないのかもしれない。
土砂崩れが起きる位の災害を防いだのだ。

この街を守るためのものだったのだろう。

「君が言ってくれたこと嬉しかった」

そう言って彼は僕の胸元に触れる。

この人の優しさが美しいと思ったのは本当だ。


「キスしてもいい?」

僕の手のひらをとって、そこに口づけを落としながら聞くのは反則だと思う。
そういうところは相変わらずなのかと思って、その我儘な基質が甘えのようで、酷く嬉しく感じた。

* * *

「これからどうしようかな」

居場所がなくなってしまったと言って、彼は笑った。


「僕の地元は楽園と呼ばれる島なんです」

暖かくて、穏やかでいいところですよ。
海の色が昔のあなたの瞳の色みたいで綺麗なんです。

そう言ってから、彼の瞳を見る。
少し濁った紫色の瞳と目が合う。

「僕は今の色のほうが好きですけど」

今度は彼は、僕の唇にキスをした。

もう金色の文様の無い手が僕の頭に添えられる。

くちゅりと湿った音がする。
それの熱が彼がふつうに生きているって実感させられて、無性に泣きたいみたいな気分になる。


「南の島か。ついていってもいい?」

彼が僕に聞く。

「勿論です」

僕が答えると、彼は嬉しそうに笑った。
その笑顔は見惚れてしまうくらい美しいと思った。


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