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奇跡
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「どこにも持っていく必要はないよ」
土地神様は言った。
「だけど、最後までできれば俺と一緒にいて欲しい」
彼がそう言うので頷く。
「こっちだよ」
社殿を土地神様が突っ切って、外に出る。
外は雨が振り始めていた。
シトシトと振り続ける雨は、土地神様にも僕にも降り注ぐ。
手の先が冷たい気がする。
和服はじっとりと水を含んで重くなっている。
土地神様の表情は先程よりもさらに青白い。
濡れた黒髪も美しいと思った。
まだ、彼は美しいはずだ。
「これから何が起きるんですか?」
「何も起こさないためにやるんだよ」
だから、何もおきない。
自分に言い聞かせるように彼は言った。
僕ももう気がついている。
だんだん彼のことを神様というより対等な生きものとみなしていることを。
それがおそらく、神様としての力を失いつつあるという意味であることを。
「それじゃあ、だれも気が付かないし、誰にも感謝されない」
「そうだね」
俺は、些末なことに力を使いすぎて神ではなくなった愚かな生きものということに多分なる。
土地神様は普段何もしない。
いることで大きな安定をもたらすという。
その中の誰か一人が貧しいとか病気だとか、そういう事で消耗はしないものなのだろう。
土地を治める者として彼は愚かなのだろうか。
彼がどんな厄災のある未来を察知してしまったのか。
それは僕にはわからない。
けれど、それはあんまりな気がした。
美しい、故郷の海のような色の瞳がじわじわと陰っていく。
雨は降り続いている。
僕と彼に等しく雨が降り注いでいる。
雷鳴が轟く。
何度も、何度も。
それで子供の頃のことを少し思い出した。
僕の地元にも土地神様はいた。
水害から僕たちを守った話を聞いたことがある。
まるで、その時と同じに見える。
彼の瞳の色は濁った紫色になっていた。
倒れ込んでいく、その人を抱きしめるように手を伸ばした。
「俺のツバメ。君が無事で良かった」
彼はそう言うと完全に崩れ落ちるように倒れた。
この人が何を言いたかったのか分からなかった。
慌てて、人を呼ぶ。
雇用主にも電話をかけ、何人かで社殿に彼を運んだ。
もう、だれも彼をみてもうっとりとはしていなかったし、乱雑な扱いをされていることには気がついていた。
雇用主は一時間もしないうちにあらわれた。
美しい女性を連れて。
皆がうっとりとその方のことを見ているのが分かる。
この人が新しい土地神様だと悟る。
本当に彼は神様ではなくなってしまったのだ。
まるで彼がいないものの様に話が進んでいく。
僕の仕事は期間満了で終了。
それだけみたいだ。
最初から彼がいないものとして進んでいく話に不快感が湧き上がる。
土地神様が彼に近づく。
彼が瞼を開ける。
「些末なものにばかりかまけるからそういうことになる」
土地神様が嘲笑う。
「せっかく美しかったのにねえ」
「彼はまだ美しいです!」
「どこが? 体もボロボロ大神さまから賜った装飾品も何もない。
それのどこが美しい?」
土地神様がこちらを見る。
僕は彼の一番美しい部分を知っている。
雨に打たれながら見た奇跡をちゃんと知っている。
「彼は、ここが一番美しいのです!」
自分の胸をバンと叩きながら言う。
「彼ほど心優しい人を僕は知らない」
神様に失礼なことを言ってしまっただろうかと思う。
ふふ、ふふふと存外機嫌の良さそうな声が土地神様からする。
「大神様からの伝言じゃ。
修行のし直しだとさ」
彼が驚いた様に新しい土地神様を見ている。
「そうか。俺は消滅するもんだと思ってた」
彼の言葉に驚いて「どこか具合が悪いところでもあるんですか!」と僕が聞くと彼は「いや。神格がなくなってしまっただけだ」と言って笑った。
土地神様は言った。
「だけど、最後までできれば俺と一緒にいて欲しい」
彼がそう言うので頷く。
「こっちだよ」
社殿を土地神様が突っ切って、外に出る。
外は雨が振り始めていた。
シトシトと振り続ける雨は、土地神様にも僕にも降り注ぐ。
手の先が冷たい気がする。
和服はじっとりと水を含んで重くなっている。
土地神様の表情は先程よりもさらに青白い。
濡れた黒髪も美しいと思った。
まだ、彼は美しいはずだ。
「これから何が起きるんですか?」
「何も起こさないためにやるんだよ」
だから、何もおきない。
自分に言い聞かせるように彼は言った。
僕ももう気がついている。
だんだん彼のことを神様というより対等な生きものとみなしていることを。
それがおそらく、神様としての力を失いつつあるという意味であることを。
「それじゃあ、だれも気が付かないし、誰にも感謝されない」
「そうだね」
俺は、些末なことに力を使いすぎて神ではなくなった愚かな生きものということに多分なる。
土地神様は普段何もしない。
いることで大きな安定をもたらすという。
その中の誰か一人が貧しいとか病気だとか、そういう事で消耗はしないものなのだろう。
土地を治める者として彼は愚かなのだろうか。
彼がどんな厄災のある未来を察知してしまったのか。
それは僕にはわからない。
けれど、それはあんまりな気がした。
美しい、故郷の海のような色の瞳がじわじわと陰っていく。
雨は降り続いている。
僕と彼に等しく雨が降り注いでいる。
雷鳴が轟く。
何度も、何度も。
それで子供の頃のことを少し思い出した。
僕の地元にも土地神様はいた。
水害から僕たちを守った話を聞いたことがある。
まるで、その時と同じに見える。
彼の瞳の色は濁った紫色になっていた。
倒れ込んでいく、その人を抱きしめるように手を伸ばした。
「俺のツバメ。君が無事で良かった」
彼はそう言うと完全に崩れ落ちるように倒れた。
この人が何を言いたかったのか分からなかった。
慌てて、人を呼ぶ。
雇用主にも電話をかけ、何人かで社殿に彼を運んだ。
もう、だれも彼をみてもうっとりとはしていなかったし、乱雑な扱いをされていることには気がついていた。
雇用主は一時間もしないうちにあらわれた。
美しい女性を連れて。
皆がうっとりとその方のことを見ているのが分かる。
この人が新しい土地神様だと悟る。
本当に彼は神様ではなくなってしまったのだ。
まるで彼がいないものの様に話が進んでいく。
僕の仕事は期間満了で終了。
それだけみたいだ。
最初から彼がいないものとして進んでいく話に不快感が湧き上がる。
土地神様が彼に近づく。
彼が瞼を開ける。
「些末なものにばかりかまけるからそういうことになる」
土地神様が嘲笑う。
「せっかく美しかったのにねえ」
「彼はまだ美しいです!」
「どこが? 体もボロボロ大神さまから賜った装飾品も何もない。
それのどこが美しい?」
土地神様がこちらを見る。
僕は彼の一番美しい部分を知っている。
雨に打たれながら見た奇跡をちゃんと知っている。
「彼は、ここが一番美しいのです!」
自分の胸をバンと叩きながら言う。
「彼ほど心優しい人を僕は知らない」
神様に失礼なことを言ってしまっただろうかと思う。
ふふ、ふふふと存外機嫌の良さそうな声が土地神様からする。
「大神様からの伝言じゃ。
修行のし直しだとさ」
彼が驚いた様に新しい土地神様を見ている。
「そうか。俺は消滅するもんだと思ってた」
彼の言葉に驚いて「どこか具合が悪いところでもあるんですか!」と僕が聞くと彼は「いや。神格がなくなってしまっただけだ」と言って笑った。
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