婚約破棄されたなら俺にもチャンスがあるって事だよな、と幼馴染に言われて

渡辺 佐倉

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幼いころの記憶

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 お茶会だったのか、それとも両親の付き合いだったのかもおぼえていないけれど、そこがとても綺麗な庭園だったという事だけはちゃんと覚えている。


 綺麗なお花畑のある庭園の片隅で、彼は、私に跪いてプロポーズの真似事をしてくれた。


 本物の指輪も何もない子供同士のままごとだったけれど、彼はその時だけは私の王子様だった。


 彼にとって、それは女の子のおままごとに付き合っているだけだったのかもしれない。
 けれど、それは私にとってとても大切な瞬間だった。


 幼馴染の瞳のグリーンが私を見上げている。

 そっと手差し出すと、庭園のゼラニウムで作った小さな指輪をはめてくれる。


 私が瞳を輝かせると、幼馴染が優し気に笑った。
 二歳年上の彼は、私にとって兄の様な存在でもあった。

「姫君、ダンスを……」

 立ち上がった彼が私に手をのばす。

 ダンスパーティにまだ行ったことのない私は、大人の見よう見まねで彼の手の上に自分の手を乗せた。


 夢のような時間だった。


 この瞬間がずっと続けばいいのにと思ったし、ずっと同じように彼が言ってくれるものだと信じていた。




 それが、子供の持つ幻想だって事はもうちゃんと知っている。


◇◆◇

 魔法に才のあるものは、それを専門に学ぶ。その学園に入ることは幼いころ魔法を発現させることができた時点で決まっていた。

 貴族に生まれた私の将来がほとんど親に決められてしまっていると知ったのはもうずっと前だ。

 婚約をすることになったと興奮気味に父に知らされたのは、まだ幼いころだった。


 この国の第二王子、アンリ様との婚約。


 それは明らかな政略結婚だった。
 王族が忠臣である貴族とより絆を強固にする。その象徴としての結婚。

 父は自分の勢力が大きくなることをとても喜んでいるように思えた。


 自分の気持ちを言ったことがあるか、は覚えていない。


 どちらにしても、私が個人の感情で断れるような話でもない。


 それに王子さまは、悪い人ではなかった。
 穏やかに、貴族の礼節を守ってくださる。そういう人だった。


 だから、仕方がない。そう思っていた。


 私たちの事をを祝福する言葉ばかりを昔は聞いた気がする。
 妬む声はあったのかもしれないけれど、面と向かって反対する人は誰もいなかった。


 当たり前だ。そういうものとして話が進んでいたのだから。
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