婚約破棄されたなら俺にもチャンスがあるって事だよな、と幼馴染に言われて

渡辺 佐倉

文字の大きさ
8 / 10

婚約破棄されたなら

しおりを挟む
はあ、とリヒトは息を吐きだした。

「ねえ、覚えてる?」


私に向かって昔の様な口調で話しかけられて、ドキリとする。

足元に綺麗な魔方陣が浮かびあがる。
それがリヒトの魔法だと気が付くのは一瞬だった。

彼が、変人と呼ばれても、それでも学園に通えていて、家族からも注意すらされない理由を私はよく知っている。


有り余る魔法の才能。

許嫁を作ることを頑なに拒否しても、学園での言動も何もかも許される天賦の才。
彼は彼自身を切り札にできる。

誰かとの関係を手札にしなければならない私と違って、彼は、自分の能力を手札にできる貴族なのだ。


彼が覚えてる? と聞いたとき最初に思い浮かんだのは、幼い時のごっこ遊びでのプロポーズだった。
けれどそのことかしら、と聞き返すのは違ったときに恥ずかしすぎるのでできない。

「クラリス、君が婚約破棄されたって聞いたときの俺の気持ち、分かる?」

突然変わってしまった話に思わずきょとんとしてしまう。

何故今それを聞くのかの意味がよく分からない。
ふふっ、と面白そうにリヒトが笑う。

「婚約破棄されたなら俺にもチャンスがあるって事だよな」

面白そうに笑うリヒトを見てはいるけれど、事態を上手く理解できない。

この人は何を言っているのだろう。
まるで私のために許嫁も作らず一人でいたみたいな言い方だ。

「あの時の約束を果たそうか」

リヒトがこちらをじっと見つめる。

「……ゼラニウムの思い出」

ぽつりと呟いた言葉にリヒトはさらに双眸を緩める。

とても、とても嬉しそうに彼は「覚えていたんだね」と言った。それから、「じゃあその続きも覚えているかい?」と言った。

この話に続きはあったかしら。

何か、忘れてしまっていることがあるかのようにリヒトに言われるて首を傾げた。

じわじわと顔が熱い。
この人も同じ思い出をずっと心に持っていたことの喜びとそれから気恥ずかしさと自分の想い。
それが重なって頬が紅潮してしまっている気がする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

契約通り婚約破棄いたしましょう。

satomi
恋愛
契約を重んじるナーヴ家の長女、エレンシア。王太子妃教育を受けていましたが、ある日突然に「ちゃんとした恋愛がしたい」といいだした王太子。王太子とは契約をきちんとしておきます。内容は、 『王太子アレクシス=ダイナブの恋愛を認める。ただし、下記の事案が認められた場合には直ちに婚約破棄とする。  ・恋愛相手がアレクシス王太子の子を身ごもった場合  ・エレンシア=ナーヴを王太子の恋愛相手が侮辱した場合  ・エレンシア=ナーヴが王太子の恋愛相手により心、若しくは体が傷つけられた場合  ・アレクシス王太子が恋愛相手をエレンシア=ナーヴよりも重用した場合    』 です。王太子殿下はよりにもよってエレンシアのモノをなんでも欲しがる義妹に目をつけられたようです。ご愁傷様。 相手が身内だろうとも契約は契約です。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』

鷹 綾
恋愛
「女性の胸には愛と希望が詰まっている。大きい方がいいに決まっている」 ――そう公言し、婚約者であるマルティナを堂々と切り捨てた王太子オスカー。 理由はただ一つ。「理想の女性像に合わない」から。 あまりにも愚かで、あまりにも軽薄。 マルティナは怒りも泣きもせず、静かに身を引くことを選ぶ。 「国内の人間を、これ以上巻き込むべきではありません」 それは諫言であり、同時に――予告だった。 彼女が去った王都では、次第に“判断できる人間”が消えていく。 調整役を失い、声の大きな者に振り回され、国政は静かに、しかし確実に崩壊へ向かっていった。 一方、王都を離れたマルティナは、名も肩書きも出さず、 「誰かに依存しない仕組み」を築き始める。 戻らない。 復縁しない。 選ばれなかった人生を、自分で選び直すために。 これは、 愚かな王太子が壊した国と、 “何も壊さずに離れた令嬢”の物語。 静かで冷静な、痛快ざまぁ×知性派ヒロイン譚。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

今さら泣きついても遅いので、どうかお静かに。

有賀冬馬
恋愛
「平民のくせに」「トロくて邪魔だ」──そう言われ続けてきた王宮の雑用係。地味で目立たない私のことなんて、誰も気にかけなかった。 特に伯爵令嬢のルナは、私の幸せを邪魔することばかり考えていた。 けれど、ある夜、怪我をした青年を助けたことで、私の運命は大きく動き出す。 彼の正体は、なんとこの国の若き国王陛下! 「君は私の光だ」と、陛下は私を誰よりも大切にしてくれる。 私を虐げ、利用した貴族たちは、今、悔し涙を流している。

カナリア姫の婚約破棄

里見知美
恋愛
「レニー・フローレスとの婚約をここに破棄する!」 登場するや否や、拡声魔道具を使用して第三王子のフランシス・コロネルが婚約破棄の意思を声明した。 レニー・フローレスは『カナリア姫』との二つ名を持つ音楽家で有名なフローレス侯爵家の長女で、彼女自身も歌にバイオリン、ヴィオラ、ピアノにハープとさまざまな楽器を使いこなす歌姫だ。少々ふくよかではあるが、カナリア色の巻毛にけぶるような長いまつ毛、瑞々しい唇が独身男性を虜にした。鳩胸にたわわな二つの山も視線を集め、清楚な中にも女性らしさを身につけ背筋を伸ばして佇むその姿は、まさに王子妃として相応しいと誰もが思っていたのだが。 どうやら婚約者である第三王子は違ったらしい。 この婚約破棄から、国は存亡の危機に陥っていくのだが。 ※他サイトでも投稿しています。

処理中です...