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初めて夏目に、彼の自宅以外の場所を指定された。
といっても、それは多分嫌がらせ以外のなにものでも無かったのかもしれない。
場所は、ラブホテル近くのコンビニの前。
それは海音が何処かの誰かとの写真を撮られたラブホテルの近くだ。
悪趣味だ。
ワザとじゃなければ大した偶然だと思った。
◆
待ち合わせ場所のコンビニの外で、時間ちょうどに待っていると夏目は少しばかり遅れて現れた。
脅している側と脅されている側、当たり前なのかも知れないけれど謝罪も何も無い。
「いくぞ。」
夏目はそれだけ言うともう、歩き始めてしまう。
挨拶すらない。仕方なく、後を追いかける。
そこはラブホテルが点在している場所だった。
初めて立ち入る場所だ。だから、後を付いて行く事だけに集中してしまっていたのがいけなかった。
前を誰かが横切るのに気がつけなかった。
その二人連れと目が合う。
俺と似た顔が驚いた表情でこちらを見ている。
慌てて夏目を見ると、夏目も驚愕の表情で双子の兄弟を見ていた。
海音が引きつった笑顔で「空音きぐうだね。」と俺に声をかける。
約束の時間通り夏目が来ていれば、こんな風に海音と出くわしてしまうことなんて無かった。
辛かったけれど、海音のフリを続けることができた。
「……双子なのか。」
静かな、抑揚が全く無い声だった。
「アンタ、夏目だろ?同じ学校の筈なのにそんな事も知らないのか?」
何か思うところがあったのだろうか、海音がまるで挑発するみたいに返す。
夏目は舌打ちを一回しただけで返事はしなかった。
「……どういうことだ?」
もしかしたら気がついてしまったかもしれない。
いぶかしげにこちらを見る夏目の瞳は戸惑いがあるように見える。
夏目に会うときの格好はいつも、海音がそろいで買ったものや勝手に拝借したものが多い。
今日のブレスレットだって勝手に海音のものを借りてきてしまったのに片割れはその事に触れもしない。
夏目も海音も、二人とも何も言わないけれど、多分俺に対して違和感しかないのだろう。
事実今の自分には嘘しかないのだ。
「海音、もういいかい?」
海音と一緒にいた30代前半に見える男が声をかける。
海音に恋人がいるかは聞いた事がなかった。だから、いま横にいる男が恋人かは知らない。
海音の隣にいた男はこちらをちらりと見ただけで何も聞かなかった。
けれど、いまの優しげな声だけで親しい仲だという事が分かる。
「ああ、うん。空音、じゃあ……。」
ずっと気まずそうだった海音は男と一緒に何処かへ行ってしまった。
まあ、残された俺と夏目の方が気まずい雰囲気だとは思う。
とてもじゃないが、セックスをする状況じゃない。それは夏目も同じみたいでもう一度舌打ちをすると「俺の家に行くぞ。」と低い声で言った。
◆
夏目のアパートに戻ってからも最初は二人とも無言だった。
俺もどう切り出したらいいのか分からなかったし、夏目も何から聞いたらいいのか困っている様に見えた。
自分から、きちんと説明すべきことなのだろう。
けれど、何から話したらいいのかが分からない。
そもそもの発端は、俺が勝手に夏目の事を好きになってしまったからなのだ。
最初から説明はしたくは無かった。
どうせ自分が海音ではないと分かったら、あの写真の人間ではないと分かってしまったらもはやばれているも同然なのかもしれないけれど、それでも自分からは言い出せなかった。
「……弟、だか兄貴だか知らないが、兄弟をかばいたかったのか?」
夏目は聞く。
なんて答えるのが正解だろうか。海音は写真をちらつかされても、多分それをばら撒かれても自分でなんとでもできるだろう。
それを知っていて、あえて夏目の脅しにのったのだ。これは俺の我侭だった。
なのに、最後まで勝手に辛くなって、勝手にこの関係を終わりにしようとしている。
それを知らない夏目は、こちらを窺う様に聞いてくる。
確かに禄でもない関係だった。けれど、海音をかばうためだと嘘をつける程度の気持ちな訳でもない。
「そもそも、俺があの写真に写ってないってすぐに分かっちゃうんですね。」
写真は暗がりで撮っていた様に見えた。相手は先ほどのサラリーマンなのだろうけれど、それでも海音を見ればすぐに俺じゃないと分かってしまうのだ。
その位俺と海音は違う。
普通は見間違えたりしない。
俺によほどの興味がない限り。
夏目が最初から、それだという事は分かっていた。
「双子だと知っていたら。」
「……最初から俺の事は相手にしないでしょうね。」
思わず嫌味な言葉が出てしまった。
別に夏目を責めるつもりはないし、そんな権利もあるとは思えなかった。
でも事実だった。
夏目は俺のことなんか知らないし、俺のことを相手にもしない。
そんな事は自分自身ちゃんと分かっている。
「騙していて、済みませんでした。」
多分ずっと続けられる様な関係ではなかったし、体だけでいいやと思えるほど割り切れてもいない。
自分から終止符を打つつもりは無かったけれど、他の方法は思い浮かばなかった。
「別に海音をかばった訳じゃないですが、できれば彼のことを脅さないで欲しいです。」
そんな事は俺が口出しできる事じゃないし、海音としても余計なおせっかいだろう。
だけど、そんなんじゃない事だけは伝えておきたかったのだ。
じゃあ、なんでとはもう夏目は聞かなかった。
「本当に済みませんでした。」
まずい。そう思った時にはもう涙がこぼれていた。
普段泣くことはあまり無い。
だから、涙の止め方がよく分からない。
どうしようもないし、馬鹿みたいだって自分でも思う。
ただ、二人とも無言になってしまって、俺は頭を下げるとそのまま夏目の部屋を出た。
家に帰って、そのまま自分の部屋に直行した。
海音の事情も聞きたくなかったし、自分の事情を話したくなかったのでそのままほとんど部屋にこもりきりだった。
深夜、音で海音が帰ってきたのが分かった。
それでも、何も話したくは無かった。
翌朝起きると思ったより瞼は腫れていなかった。海音は映画で泣いても瞼が腫れてしまっていたのにこんなところは違うのかと思う。
早めに家を出て学校の図書室で始業を待った。
明らかに逃げだと自分でも分かっているけれど無理だった。
といっても、それは多分嫌がらせ以外のなにものでも無かったのかもしれない。
場所は、ラブホテル近くのコンビニの前。
それは海音が何処かの誰かとの写真を撮られたラブホテルの近くだ。
悪趣味だ。
ワザとじゃなければ大した偶然だと思った。
◆
待ち合わせ場所のコンビニの外で、時間ちょうどに待っていると夏目は少しばかり遅れて現れた。
脅している側と脅されている側、当たり前なのかも知れないけれど謝罪も何も無い。
「いくぞ。」
夏目はそれだけ言うともう、歩き始めてしまう。
挨拶すらない。仕方なく、後を追いかける。
そこはラブホテルが点在している場所だった。
初めて立ち入る場所だ。だから、後を付いて行く事だけに集中してしまっていたのがいけなかった。
前を誰かが横切るのに気がつけなかった。
その二人連れと目が合う。
俺と似た顔が驚いた表情でこちらを見ている。
慌てて夏目を見ると、夏目も驚愕の表情で双子の兄弟を見ていた。
海音が引きつった笑顔で「空音きぐうだね。」と俺に声をかける。
約束の時間通り夏目が来ていれば、こんな風に海音と出くわしてしまうことなんて無かった。
辛かったけれど、海音のフリを続けることができた。
「……双子なのか。」
静かな、抑揚が全く無い声だった。
「アンタ、夏目だろ?同じ学校の筈なのにそんな事も知らないのか?」
何か思うところがあったのだろうか、海音がまるで挑発するみたいに返す。
夏目は舌打ちを一回しただけで返事はしなかった。
「……どういうことだ?」
もしかしたら気がついてしまったかもしれない。
いぶかしげにこちらを見る夏目の瞳は戸惑いがあるように見える。
夏目に会うときの格好はいつも、海音がそろいで買ったものや勝手に拝借したものが多い。
今日のブレスレットだって勝手に海音のものを借りてきてしまったのに片割れはその事に触れもしない。
夏目も海音も、二人とも何も言わないけれど、多分俺に対して違和感しかないのだろう。
事実今の自分には嘘しかないのだ。
「海音、もういいかい?」
海音と一緒にいた30代前半に見える男が声をかける。
海音に恋人がいるかは聞いた事がなかった。だから、いま横にいる男が恋人かは知らない。
海音の隣にいた男はこちらをちらりと見ただけで何も聞かなかった。
けれど、いまの優しげな声だけで親しい仲だという事が分かる。
「ああ、うん。空音、じゃあ……。」
ずっと気まずそうだった海音は男と一緒に何処かへ行ってしまった。
まあ、残された俺と夏目の方が気まずい雰囲気だとは思う。
とてもじゃないが、セックスをする状況じゃない。それは夏目も同じみたいでもう一度舌打ちをすると「俺の家に行くぞ。」と低い声で言った。
◆
夏目のアパートに戻ってからも最初は二人とも無言だった。
俺もどう切り出したらいいのか分からなかったし、夏目も何から聞いたらいいのか困っている様に見えた。
自分から、きちんと説明すべきことなのだろう。
けれど、何から話したらいいのかが分からない。
そもそもの発端は、俺が勝手に夏目の事を好きになってしまったからなのだ。
最初から説明はしたくは無かった。
どうせ自分が海音ではないと分かったら、あの写真の人間ではないと分かってしまったらもはやばれているも同然なのかもしれないけれど、それでも自分からは言い出せなかった。
「……弟、だか兄貴だか知らないが、兄弟をかばいたかったのか?」
夏目は聞く。
なんて答えるのが正解だろうか。海音は写真をちらつかされても、多分それをばら撒かれても自分でなんとでもできるだろう。
それを知っていて、あえて夏目の脅しにのったのだ。これは俺の我侭だった。
なのに、最後まで勝手に辛くなって、勝手にこの関係を終わりにしようとしている。
それを知らない夏目は、こちらを窺う様に聞いてくる。
確かに禄でもない関係だった。けれど、海音をかばうためだと嘘をつける程度の気持ちな訳でもない。
「そもそも、俺があの写真に写ってないってすぐに分かっちゃうんですね。」
写真は暗がりで撮っていた様に見えた。相手は先ほどのサラリーマンなのだろうけれど、それでも海音を見ればすぐに俺じゃないと分かってしまうのだ。
その位俺と海音は違う。
普通は見間違えたりしない。
俺によほどの興味がない限り。
夏目が最初から、それだという事は分かっていた。
「双子だと知っていたら。」
「……最初から俺の事は相手にしないでしょうね。」
思わず嫌味な言葉が出てしまった。
別に夏目を責めるつもりはないし、そんな権利もあるとは思えなかった。
でも事実だった。
夏目は俺のことなんか知らないし、俺のことを相手にもしない。
そんな事は自分自身ちゃんと分かっている。
「騙していて、済みませんでした。」
多分ずっと続けられる様な関係ではなかったし、体だけでいいやと思えるほど割り切れてもいない。
自分から終止符を打つつもりは無かったけれど、他の方法は思い浮かばなかった。
「別に海音をかばった訳じゃないですが、できれば彼のことを脅さないで欲しいです。」
そんな事は俺が口出しできる事じゃないし、海音としても余計なおせっかいだろう。
だけど、そんなんじゃない事だけは伝えておきたかったのだ。
じゃあ、なんでとはもう夏目は聞かなかった。
「本当に済みませんでした。」
まずい。そう思った時にはもう涙がこぼれていた。
普段泣くことはあまり無い。
だから、涙の止め方がよく分からない。
どうしようもないし、馬鹿みたいだって自分でも思う。
ただ、二人とも無言になってしまって、俺は頭を下げるとそのまま夏目の部屋を出た。
家に帰って、そのまま自分の部屋に直行した。
海音の事情も聞きたくなかったし、自分の事情を話したくなかったのでそのままほとんど部屋にこもりきりだった。
深夜、音で海音が帰ってきたのが分かった。
それでも、何も話したくは無かった。
翌朝起きると思ったより瞼は腫れていなかった。海音は映画で泣いても瞼が腫れてしまっていたのにこんなところは違うのかと思う。
早めに家を出て学校の図書室で始業を待った。
明らかに逃げだと自分でも分かっているけれど無理だった。
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