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婚姻無効
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「どうやってここに入ってきた!?」
オリヴァーが叫ぶ。
この人は怒鳴ったりしすぎだと思う。
けれど、一応ここは伯爵家の屋敷だ。
魔法による結界がはられている筈だ。
魔法の使えない私には仕組みは分からないけれど、この屋敷が建てられた時に同時に機械が設置されているらしい。
「ああ、本当にもう魔法使いとしての素養は何ものこってないんだねえ」
私の耳をふさいでいた手を外してセオがそう言った。
貴族相手とは思えない気軽な口ぶりに驚いてしまった。
「君の家の結界装置、まともに作動して無いよ」
低級の魔法使いでも自由に出入り可能だろうね。
そう言うと「やっぱり、あの通知をして正解だったみたいだね」と笑った。
「マーガレット、やはりお前の差し金か!!」
私に向かって指をさしてオリヴァーが言った。
「違うにきまってるだろう? そんな事もわからないのか?」
セオの声が一気に低くなった。
状況が分からない。
私はセオの方に振り返って「どういうことなんですか?」と聞いた。
「ああ、僕はこの度魔導伯を叙爵されてね。仕事の一環で各家門に始祖の力が受け継がれているか調べたんだよ。
それでこうしてこの家にはもう何の力も残ってはいないって気が付いたのさ」
「嘘よ!!」
嘘よ、嘘よ、嘘よ。
義姉はそう繰り返し呟くように言っている。
「嘘じゃないさ。
ああ、でも、君の子供にはほんの少しだけ魔法の力が視えるね」
「じゃあっ……!!」
「でも、それは単純に君の元旦那さんの力が遺伝しただけかもしれないだろう?」
セオはそう言うと「まあ、僕はどちらでもいいんだけど」と付け加えた。
「……お前の条件は?」
オリヴァーが静かにセオにそう言った。
「条件? ふふ、面白いことを言うね。
僕の欲しい宝はこの家を取り潰しても手に入れられる」
セオがそう言うと、「まさか、その女が宝だとでも」とオリヴァーが返した。
それからオリヴァーは馬鹿にするように笑った。
「そいつは少し頭の回転が速いだけの単なるこざかしい女だぞ」
まあ、そういう評価だろう。
一応家政を取り仕切っていたことは評価されていたのかと少しだけ驚く。
「口を慎めよ」
セオの口調が一気にきついものになった。
別に怒らなくてもいいのに、こういう風に言われるのはいつもの事だ。
「離縁、してやろうか?」
オリヴァーが言った。
その表情は気持ち悪い笑みを浮かべている。
私の事をとても見下した笑みだ。
「いや、違うな。婚姻無効を宣言してやる。
それがお前の宝に一番傷がつかない」
その代わり、下卑た笑みをオリヴァーが浮かべた。
ふう。とセオがため息をついた。
「……エリザの子を伯爵当主としてその後見人となり伯爵家を存続させる。
それが僕に任された権限で出来る最大の譲歩だよ」
セオがそう言うと、婚姻無効の届け出を取り出した。
契約魔法が練り込まれているそれは、すぐに準備できるものではない。
オリヴァーも思わず舌打ちしていた。
「じゃあ、ここにサインを」
オリヴァーはこちらを睨みつけて、それからサインをした。
その瞬間私とオリヴァーは夫婦ではなくなった。
元々夫婦だったのか怪しい関係ではあったけれど、それでも体の奥底にあった嫌な重りのようなものが無くなった気がした。
「じゃあ、行こうか」
セオが私に手をのばした。
実家に怒られてしまうだろうかと思ったけれど、何故かどうでもいいような気持だった。
「ああ、ちなみに――」
セオがオリヴァーを見て言った。
「結婚式の時に、周りの高位貴族から随分大げさに祝われただろう。
羨ましがられたんじゃないかな? 僕は参加して無いから知らないけど」
オリヴァーは思い当たる節があるらしくその言葉に反応していた。
「羨ましがられるのには理由があるんだけど知ってるかい」
――彼らは彼女の実家の財力を羨ましがっていたんじゃない。
彼女の特別な力を羨ましがっていたんだよ。
オリヴァーが叫ぶ。
この人は怒鳴ったりしすぎだと思う。
けれど、一応ここは伯爵家の屋敷だ。
魔法による結界がはられている筈だ。
魔法の使えない私には仕組みは分からないけれど、この屋敷が建てられた時に同時に機械が設置されているらしい。
「ああ、本当にもう魔法使いとしての素養は何ものこってないんだねえ」
私の耳をふさいでいた手を外してセオがそう言った。
貴族相手とは思えない気軽な口ぶりに驚いてしまった。
「君の家の結界装置、まともに作動して無いよ」
低級の魔法使いでも自由に出入り可能だろうね。
そう言うと「やっぱり、あの通知をして正解だったみたいだね」と笑った。
「マーガレット、やはりお前の差し金か!!」
私に向かって指をさしてオリヴァーが言った。
「違うにきまってるだろう? そんな事もわからないのか?」
セオの声が一気に低くなった。
状況が分からない。
私はセオの方に振り返って「どういうことなんですか?」と聞いた。
「ああ、僕はこの度魔導伯を叙爵されてね。仕事の一環で各家門に始祖の力が受け継がれているか調べたんだよ。
それでこうしてこの家にはもう何の力も残ってはいないって気が付いたのさ」
「嘘よ!!」
嘘よ、嘘よ、嘘よ。
義姉はそう繰り返し呟くように言っている。
「嘘じゃないさ。
ああ、でも、君の子供にはほんの少しだけ魔法の力が視えるね」
「じゃあっ……!!」
「でも、それは単純に君の元旦那さんの力が遺伝しただけかもしれないだろう?」
セオはそう言うと「まあ、僕はどちらでもいいんだけど」と付け加えた。
「……お前の条件は?」
オリヴァーが静かにセオにそう言った。
「条件? ふふ、面白いことを言うね。
僕の欲しい宝はこの家を取り潰しても手に入れられる」
セオがそう言うと、「まさか、その女が宝だとでも」とオリヴァーが返した。
それからオリヴァーは馬鹿にするように笑った。
「そいつは少し頭の回転が速いだけの単なるこざかしい女だぞ」
まあ、そういう評価だろう。
一応家政を取り仕切っていたことは評価されていたのかと少しだけ驚く。
「口を慎めよ」
セオの口調が一気にきついものになった。
別に怒らなくてもいいのに、こういう風に言われるのはいつもの事だ。
「離縁、してやろうか?」
オリヴァーが言った。
その表情は気持ち悪い笑みを浮かべている。
私の事をとても見下した笑みだ。
「いや、違うな。婚姻無効を宣言してやる。
それがお前の宝に一番傷がつかない」
その代わり、下卑た笑みをオリヴァーが浮かべた。
ふう。とセオがため息をついた。
「……エリザの子を伯爵当主としてその後見人となり伯爵家を存続させる。
それが僕に任された権限で出来る最大の譲歩だよ」
セオがそう言うと、婚姻無効の届け出を取り出した。
契約魔法が練り込まれているそれは、すぐに準備できるものではない。
オリヴァーも思わず舌打ちしていた。
「じゃあ、ここにサインを」
オリヴァーはこちらを睨みつけて、それからサインをした。
その瞬間私とオリヴァーは夫婦ではなくなった。
元々夫婦だったのか怪しい関係ではあったけれど、それでも体の奥底にあった嫌な重りのようなものが無くなった気がした。
「じゃあ、行こうか」
セオが私に手をのばした。
実家に怒られてしまうだろうかと思ったけれど、何故かどうでもいいような気持だった。
「ああ、ちなみに――」
セオがオリヴァーを見て言った。
「結婚式の時に、周りの高位貴族から随分大げさに祝われただろう。
羨ましがられたんじゃないかな? 僕は参加して無いから知らないけど」
オリヴァーは思い当たる節があるらしくその言葉に反応していた。
「羨ましがられるのには理由があるんだけど知ってるかい」
――彼らは彼女の実家の財力を羨ましがっていたんじゃない。
彼女の特別な力を羨ましがっていたんだよ。
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