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恋した相手4

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 呪いの力が正しい魔法の力に変わったのが魔法使いである夜露には見えた。
 野茨の頬の色に赤みがある。
 夜露が慌てて彼の胸に手を置くと、心臓の鼓動が伝わってくる。

 彼の時間が再び動き出したのが夜露にもわかった。
 野茨が瞼を開ける。夜露に向かって微笑みかける。
「なんて言って愛の告白をしてくれたのか、わからないのは残念だね」
 そう野茨が言った。
 それから「僕も、愛してる」と夜露に向かって伝えた。
 夜露の瞳からは、ポロポロと涙がこぼれ落ちていく。
 金色に光ったバラがサラサラと砕け散った。
「ああ、そこらじゅう怪我だらけじゃないか」
 野茨が夜露が棘で刺されていたところについた血をみて、心配そうに声をかける。
 夜露はそんなことはどうでも良かった。
 ただ、野茨の呪いがとけてよかったという気持ち以外なにも無かった。
 こんな傷なんてどうでもいいじゃないか。
 ずっと、永遠に野茨が目覚めなかったらどうしようと思っていたのだ。
 彼の呪いが解けなかったら自分はどうしたらとずっと思っていた。
「茨の魔法が、彼を離そうとしなかったの」
 夜露の代わりに紅玉が野茨に向かってそう言った。
 野茨は逡巡した後「ああ、多分夜露に貰った祝福だね」と言って、そっと夜露の傷を愛おしいものを撫でるように触れた。

『あなたの愛する人があなたから遠ざかりませんように』

 夜露が野茨と塔で初めてあった日に、彼のためにかけた言葉を野茨が言う。
 いつか呪いが形になってしまった時に、彼の大切な人が彼の近くにいてくれる様に願った言葉だ。
 ケーキのお守りで叶えた小さな小さな祝福が夜露を離さなかったと野茨は言っている。 こんな風に発動する祝福だとかけた夜露自身思ってはいなかった。
 離れないというのは、そういう意味でかけたのではない。
「夜露、俺の呪いをといてくれてありがとう」
 この優しい人は夜露を愛していると言った。
 夜露が拙い愛を伝えたから呪いがとけたのだと教えてくれている。
 涙は止まりそうに無い。
 体が熱い。
 ぽろぽろと涙をこぼしながら夜露は野茨を見た。
 自分が嫌われ者の魔法使いだと忘れたわけでも無い。
 けれど、あまりにも野茨が優しく笑うので思わず夜露は彼に抱きついてしまった。
 野茨は夜露をしっかりと抱きしめ返した。

「本当は、少しだけ怖かったんだ」
 抱きしめながら野茨は夜露にしか聞こえない声で言った。
「僕の方が年下だし、あなたはこの国を恨んでいても仕方がなくて、そんなあなたが僕の愛に応えてくれるとは思わなかった」
 野茨の心臓の鼓動が触れ合った夜露にも響いている。
 早鐘を打つようになる心臓の音が心地よい。
「別に、誰のことも恨んでなんかいませんよ。
ただ、野茨にすべてを押し付けてしまったことだけが申し訳なくて……」
 夜露が申し訳なさそうに言う。
 野茨はもう子供ではない。
 ただ呪いを押し付けられただけの哀れな子供ではないので、そういう風に言わないで欲しい。
 野茨も夜露の魔法の加護を受けていた一人なのだから別に被害者という訳じゃないのだ。
「あなたのくれるものなら何でもうれしいですよ。
言ったでしょう。『本望』だって」
 野茨はそう言って、夜露の背中を撫でた。
 そして、自分の想い人はやはり優しい人なのだと思った。
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