繋がる指先

渡辺 佐倉

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すれ違ったり、寄り添ったり 2

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大地さんの返事を聞くのが怖くて、結局頭を下げると慌ててその場を逃げ出してしまった。

高校の頃から何も進歩していない。
言い訳すらしないで逃げ出して、多分完全に呆れられただろう。

「おい、置いていくなよ。」

前島に言われ振り返る。
息を切らせた前島がこちらを見ていた。

「まあ、逃げる理由も分かるけどな。
さっきの恋人の話って亘理の事じゃないかもしれないしな。」

周りからも不釣り合いだと思われているということだろう。
当たり前だ。

当たり前なのに、それなのに……。

「済みません。今日はこれで失礼します。」

とてもじゃないけれど、誰かと一緒に居る気分にはなれなかった。
なるべく何も考えないようにして家に帰って、それから毛布にくるまってただただじっとしていた。

相変わらずこんな時でも涙は出ない。

あの人からは、連絡は無かった。
多分それが答えなのだろう。

ぼんやりとしたままそれでも大学に行かなきゃと思う。

スマホを確認したけれど、着信はなくメッセージアプリに一件だけ新着メッセージがあった。
恐る恐る、アプリを起動してメッセージを確認すると。

『前島という男には気をつけるように』

とだけ絵文字と一緒に書かれていた。
話があるとか、どういう事か?と聞かれた訳じゃないので、まだ大丈夫なのかもしれない。

だけど、人に言えるような関係じゃないのは事実で、ふさわしい相手だと到底思えないことも事実だった。

後で気が付いたけれど、糸をドアノブにひっかける心の余裕すら無かった。


のろのろと大学へ行く。
ぼんやりと講義を受けて、それから兎に角家に帰ろうと思った。
とてもじゃないけれど友人と遊ぶような気分にはなれない。

顔色が悪いと友人に心配されたが、曖昧に笑っておくしかなかった。

無性にあの人に抱きしめて欲しかった。
だけど、電話をできるわけでも会いに行けるわけでもない。

「やあ。」

前島という男に会うのはこれで3度目だ。
初めてあった時を除いても2度目。

早々そんな偶然が起きる筈がない。
自分の糸に目を落とすと、数メートル先に無理矢理別の糸が歪に結わえてあった。

自分の糸を俺の糸に結び付けておいて、それをたどったのだろう。
俺の前にあらわれたのは別に偶然じゃない。

「まるで、運命みたいだね。」

思わず目を細める。
癖になっている、指から伸びる糸を撫でる動作をついしてしまった。

それがいけなかった。

「へえ、こんな風になっている糸は初めて見た。」

一度切ってしまった部分を触りながら言われ、嫌悪感に眉を顰める。

「まさか、糸が繋がってるから付き合ってるとか言わないよな。
それともあれか?元々繋がっていなかった糸を無理矢理つないだのか?」

そんな思い込みで恋人を選ぶことはするべきじゃない。強い口調で言われて思わずたじろいでしまう。

俺が、あの人じゃなきゃダメなのは、そんなのじゃない。
糸が無くても変わらなかったことはあの人が証明してくれた。

「そんなものは……。」

関係ない!そう叫ぼうとしたとき後ろから抱え込まれるようにして口を手でふさがれた。
嗅ぎ慣れたいつもの香水の匂いがした。

「羨ましいからって、俊介に否定させようとするなよ。」

大地さんが軽い声色で、けれどキツイ口調で言った。

「糸があろうが無かろうが、俺が俊介を手放す事は無いからあきらめろ。」

大地さんがどんな表情をしているかは分からない。けれど、俺の口を塞いでいた大地さんの手が首筋を撫でる。
思わずビクリと震えてしまう。

「それとも、これが運命の赤い糸の様なものだとお墨付きをくれるんだ?」

ゆらゆらと目の前であの人の手が揺れる。
小指から伸びた白い糸が揺れる。

多分、大地さんは怒っている。
睨みあう2人に大きく息を吸い込んでから口を開く。

「糸とかじゃないんです。
俺が、大地さんの事を勝手に好きになっただけだから。」

大地さんが後ろから俺の事を抱きしめる。

「そもそも、別にそんなに俊介の事好きじゃないだろ。
単に糸が繋がった同士が付き合ってるのが気にくわないだけだろお前。」

大地さんは抑揚の無い声で言う。

「そ、れは……。」
「俺が、俊介のことが好きで、それから俊介が俺のことが好きだから一緒にいる。
ただそれだけだ。」

大地さんの腕に力がこもった気がした。

涙が出そうになった。
何でここにいるんだろうとか、色々考えるけど、それよりもただ、この人がここにいることが嬉しかった。

「ッチ……。」

前島が舌打ちをした。

「そもそも、俊介はお前の事見て無かっただろ。」

ため息交じりで大地さんに言われ、前島は「大した自信だな。」と笑った。

「羨ましいのか、妬ましいのかなんなのか知らないけど、大した気持ちも無いのに、俊介にちょっかい出すんじゃねーよ。」

強い語気で言った言葉に周りの視線が集中した。
そこでようやく、ここが往来だったことを思い出す。

「ちょっ……、ここ外ですよ!」

慌てて離れようとするのに上手くいかない。
前にこんなことがあったが、あれは外の世界と隔離された学園でのことだ。

「俺は気にならないから。」

そういう訳で頑張っても無駄だよ。いつもの穏やかな話し方に戻った大地さんは前島に言った。
前島は大きくため息をついた後、何も言わずその場から立ち去った。

「……済みませんでした。」

忙しかったのに、迷惑をかけてしまった。昨日はまるで周りから前島とのデートのようだと思われてしまった。
それより、何より、この人に誤解させてしまってかもしれなくて、いらぬ手間を取らせてしまったことが申し訳なかった。

「えー、どうせ強引に付きまとわれたんでしょ。
大丈夫だよ。」

俺を抱きしめた腕を一度離した大地さんは、くるりと俺を自分の方へ向けて頭を撫でた。

「忙しくてあんまり会えなくて、ごめんな。」

甘やかな声は付き合い始めた頃とあまり変わらない。
俺が我儘になってしまっただけなのだ。慌てて首を横に振る。

「我慢しないで、いいから。」

もうちょっと会うようにしよう。それから良かったら会社にも遊びにきて。仲間に紹介したいし。
そう言ってあの人は笑った。

「……分かりました。」
「本当!楽しみにしてるな。
おっし、頑張って稼ぐからそうしたら一緒に暮そう。」

言われた言葉の意味を頭が理解するまでに、やや時間がかかってしまった。
だって、仕方が無いだろう。そんな風に思ってもらえているなんて知らなかったのだ。

いよいよ泣きそうになってしまった俺に

「とりあえず、今日は俺んち行こうか。」

そう言ってあの人は笑った。




お題:切→甘で受け狙いの男子現れて一波乱
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