小夜啼鳥は二度歌う

渡辺 佐倉

文字の大きさ
6 / 10

きもち

今日の授業が全部終わって、王様が迎えに来る。
合同以外の授業は別々に受けているため、わざわざ待っていなくてもいいのに、彼は必ず俺の事を迎えに来ていた。
自分の授業があるはずなのにいつも普通に教室の外で待っている。

「小夜啼鳥、帰ろうか。」

いつもの様に王様が言う。
それに頷くと、王様は歩き始めた。

帰り途中で、神子とその伴侶がキスをしているのを見た。
人前でそんなことをという気持ちが無かった訳じゃないけれど、視線が逸らせなかった。
実際、周りの人たちも彼ら二人を見ているみたいだった。

ぼんやりと眺めてしまいながら、横にいるはずの王様の事を思い出して慌てて彼の顔を見る。
王様はまるで興味なさげにしていた。一時期パートナーだったのが無かったかの様に王様は神子に興味を示すことは無い。

向こうも気まずいのか、わざわざ声をかけてくることもないし、居ないも同然としてお互いに学園生活を送っている様に見えた。

だから、わざわざその事に触れようとは思わない。

「行きましょうか?」

俺が王様に言うと、王様は不思議そうにこちらを見る。あまりにも神子に興味の無い様子なので、逆にこちらが不思議に思ってしまう。

けれど、それ以上考えることはできなかった。

唇を離した神子のパートナーが、何故か一直線にこちらに向かってきてしまったからだ。
慌てて後を追いかけた来た神子とばっちりと目があってしまう。

気まずくて目をそらすと、彼のパートナーは満面の笑みを浮かべて「なんでいつもすぐに帰っちゃうんだよ。」と話しかけた。

そこで初めてこの神族の男が王様と同じクラスなのだということに気が付いた。
考えてみれば当たり前だ。
成績別に分けられているクラスで、留学生とはいえ神族の男が王様と別のクラスになることはあり得ないのだ。

多分俺の知らないところで何度も王様とこの男は会話を交わしているのだろう。

「“僕の神子”も君とのことは気にしてないし、僕が学園に来る前の話だろう?
僕は君と友達になりたいし、君のパートナーも紹介して欲しいな。」

明るい声だった。少なくとも俺と神子の気まずさには全く釣り合わない明るさに思えた。思わずもう一度、神子を見ると彼はうつ向いている。

これがいつもの事なのか分からないけれど、少なくとも神子にとっては歓迎しない事なのだろうということが分かった。
俺にも分かるのに何故恋人であるこの人には分からないのだろう。

「初めまして。君も歌を唄うんだってね。」

何故か俺に話かけられる。
それから王様の顔をみて親し気に言う。

「“僕の神子”の歌声を君も聞いたんでしょ。
なら、この子の歌も聞かせてもらってもいいだろう?」

聞いても何にもならない。
別に俺は歌が上手い訳でも、特別な歌声がある訳でもないのだ。

親し気に差し出された手は挨拶の印なのだろう。
けれどその手は、王様が振り払った。

「小鳥が俺の為以外に、歌う訳が無いだろ。」

始め王様が何に対してそんなに苛烈な反応を示しているのか理解できなかった。
そんな風なはっきりとした言い方自体、彼はほとんどすることは無かったのだ。


事実目の前の二人も驚いている様に見えた。

「やめようよ。王様だって困ってる。」

神子が神族の男に声をかけた。
明らかに困惑している神子と、すぐにあっけらかんとした表情に戻った神族。あまりに対照的で、思っていた恋人像と違いすぎて驚く。

けれど、彼が歌うなというのであれば歌うことは無い。
別に誰かに聞かせられるような何かでは無いのだ。


それに気が立っているこの人を見るのが嫌で帰りましょうと声をかけるつもりで唇を動かした。

「駄目だよ。」

王様が俺の口元を自分の手のひらで覆った。
思わず王様の顔を見ると表情は硬い。けれど俺の視線に気が付いたのかいつもみたいに表情が緩む。

「俺以外に求められても、声を聞かせちゃだ駄目だよ。」

言い含められるように言われる。彼は相変わらず何かを勘違いしているのかもしれないと思うけれど、彼がそれを望むならと頷いた。

王様は俺の口をふさいでいた手をはなす。
それから、満足げに微笑むと目の前の二人を無視して俺を抱き上げる。

「手乗りっていっても案外難しいものだな。」

ぽつりとそんなことを言う王様に、やっぱり何か勘違いしているんじゃないかと思った。




王様は俺を担いだまま二人の部屋まで戻ってしまった。
その間俺は一言もしゃべらなかったし王様は元々それほど口数が多い方ではない。

そのまま王様のベッドまで一直線に進んでそこに降ろされる。


それの意味が分からないほど無垢ではない。
けれど、嬉しいと頬を赤らめて伝えられるほど素直にもなれなかった。

「小夜啼鳥は俺のものだから。」

だから、他の人の為に歌っては駄目だ。そう言いながら王様は俺に口付けをした。
当たり前の様にぬるりと口内に入ってくる舌は歯列を撫でた後、俺の舌に絡まる。

まるで先ほどの二人のキスの記憶を上書きするように貪られて、息も上手くできない。
王様が唇を離した時にはゼイゼイと肩で息をしてしまっていた。

自分に覆いかぶさって、器用にシャツを脱がし始めている王様を見て思わず少し前の言葉を思い出す。

「それって、独占欲ってやつですか?」


普段であれば思ったとしても口に出さなかったであろう言葉が音になって出てしまう。
王様の手が一瞬止まって、ああ、失敗したと思った。

けれど、無視されるかため息をつかれるかだと信じていた。

「そうだね。そうかもしれないな。」

返ってきた言葉が肯定で、驚く。

愛されている。という実感はあった。
だけど、それでもこんな風に言われるとは思っていなかったのだ。

「ああうん。そうだ。他の人間には絶対に渡したくはないな。」

止まっていた手が最後のボタンをはずした。

王様はいつも俺の体中に唇を落とす。
そのくすぐったい様な行為に馬鹿みたいに興奮して声が出そうになる。

脇腹に口付けされてそのまま舐められる。

自分の口から出るはしたない嬌声が嫌だった。
思わず歯を食いしばると、王様に唇を撫でられる。

「小夜啼鳥 、声をきかせてくれないか?」

歌を唄うこととは違う。
いつだって、王様が俺を男だと改めて認識してしまうのが怖いのだ。

王様が同性愛者だと聞いたことは無い。
だから、盛り上がっている空気が、それを思い出して萎えてしまうんじゃないかと思うと声はなるべく聞かせたくは無かった。

けれど、王様は困ったみたいに笑ってから、彼の起立を俺の中に突き立てた。
喉の奥で悲鳴みたいな喘ぎ声がしたけれど、自分の両の手で口をふさいだのでそれほど大きな声は出なかった。

「いっぱい、啼いて?」

王様はそう言うと、自分の手で俺の手をベッドに押し付けた。

はあはあという王様の吐息が耳元に吹きかかってそれだけで感じてしまう。

がつっと音がするくらい穿たれて、思わずのけぞる。悲鳴のような嬌声をあげてしまってその声にさらに興奮している自分が嫌だ。

「いい声。もっと沢山啼せてあげるから。」

男のくぐもった声のそれなのに、快楽の涙で滲んだ視界の真ん中にある王様の顔は満足げな表情だ。

「気持ちいい?」

王様に聞かれて肯定も否定もできない。

王様返事が無いことを気にした様子も無く。
中をかき混ぜる。

「中も、気持ちいってしてるね。」

口からもれてしまうはしたない嬌声と、王様を受け入れて歓喜して吸い付いてしまう内側も、何もかも分かられてしまっている。

ぶわりと涙がにじむ。

「小鳥は本当にかわいいな。」

吐息交じりに言われて、思わず「好き」と意味のある言葉を出してしまう。
王様の俺を縫い付ける手に力が込められた気がした。

滅茶苦茶に抽挿を繰り返されて、目の前がチカチカするみたいな快感にただひたすら喘がされる。

王様が中で吐精したのを感じたのとほぼ同時に自分も出してしまっているのが分かった。


「王様……。」

自分の声がほぼかれかけていて思わず笑ってしまいそうになる。
声がかれるまで抱かれていたという事実をどう受け止めていいのか分からない。

けれど王様は相変わらずニコニコと上機嫌でこちらを見ている。

「ああ、今日はもう歌えないかもしれないな。」

それなのに、俺の髪の毛を撫でる手は優しい。
眠くなってしまって、目を閉じかけると「おやすみ、小夜啼鳥。」と囁かれた。

その声は自分の声なんかよりよっぽと蠱惑的で先ほどまでの行為を思い出して、ぞくりとしてしまった。
けれど、睡魔には勝てず目を閉じると、密やかにいつも俺の歌っている王様お気に入りの曲の鼻歌が聞こえた気がした。



お題:王様が独占欲を抱く話(R18)
感想 1

あなたにおすすめの小説

​呪われた王子様がモフモフの仔犬になって、僕の膝の上を占領しています〜正体を知らずに可愛がっていたら、元の姿に戻った途端に押し倒されました〜

メープル
BL
​人里離れた静かな森で、ひっそりと暮らす薬草学者のユキ。 彼がある日拾ったのは、呪いで仔犬の姿に変えられた軍神王子・ディートリヒだった。 ​「シロ」と名付け、膝の上を占領させるほど可愛がっていた森での穏やかな日々。 だが、呪いが解け、元の姿に戻った途端、その「仔犬」は豹変した――。 ​「俺の飼い主はお前だけだ」 ​傲慢な王子の顔と、寂しがり屋な仔犬の顔。二つの顔に翻弄されながら、その深い執着に溺れていく。

追放された魔力ゼロの偽聖者、四体の神獣と冷徹な氷の国王に拾われて溺愛され、幸せな王配になりました

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ青年カインは、額に聖者の痣を持って生まれた。 しかし、王宮の水晶で魔力を計測した結果は「ゼロ」。 偽聖者の烙印を押され、彼はすべてを奪われて雪降る山脈へと追放されてしまう。 凍える雪の中で命を落としかけたカインを救ったのは、白銀の毛並みを持つ巨大な神獣と、隣国エルトリアの若き国王ライアスだった。 「俺の傍にずっといろ。客としてではなく、王配として」 氷のように冷徹なはずのライアスは、カインが持つ前世の知識と温かな人柄に強く惹かれ、彼のためなら国法すら変えるほどの異常な執着と溺愛を見せ始める。 さらに、白狐、黒狼、水獺、白熊といった最強の高位神獣たちまでが次々とカインに懐き、気がつけば毎日のようにもふもふの毛並みに埋もれる生活に。 一方、カインを追放し、他者の魔力を搾取する偽聖女を崇めた祖国は、やがて取り返しのつかない破滅の危機を迎えていた。 だが、カインにもう未練はない。 これは、理由もなく捨てられた青年が、新しい居場所で神獣たちと一国の王に深く愛され、やがて真の幸せを手に入れるまでの物語。

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

縁結びオメガと不遇のアルファ

くま
BL
お見合い相手に必ず運命の相手が現れ破談になる柊弥生、いつしか縁結びオメガと揶揄されるようになり、山のようなお見合いを押しつけられる弥生、そんな折、中学の同級生で今は有名会社のエリート、藤宮暁アルファが泣きついてきた。何でも、この度結婚することになったオメガ女性の元婚約者の女になって欲しいと。無神経な事を言ってきた暁を一昨日来やがれと追い返すも、なんと、次のお見合い相手はそのアルファ男性だった。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

最悪の婚姻から始まるただ一つの愛

統子
BL
最悪の婚姻だった。 皇太子の正室として迎えられながら、 与えられたのは祝福ではなく、冷たい部屋と拒絶だけ。 触れられることすら恐ろしく、 ただ静かに時間が過ぎるのを待つしかなかった。 けれど—— 差し出された手は、思っていたものとは違っていた。 無理に触れない。 急がない。 ただ、こちらの様子を確かめるように、少しずつ距離を縮めてくる。 気づけば、隣に座ることが当たり前になり、 言葉を交わす時間が、夜の習慣になっていた。 触れられるたびに怖さは消え、 代わりに残るのは、離れがたい温もり。 これは、最悪の婚姻から始まった関係が、 やがて“ただ一人”へと変わっていく物語。 望まれなかったはずのはじまりが、 いつしか、何よりも大切なものになるまでの—— 静かで、優しい、溺れるような愛の記録。

神子は再召喚される

田舎
BL
??×神子(召喚者)。 平凡な学生だった有田満は突然異世界に召喚されてしまう。そこでは軟禁に近い地獄のような生活を送り苦痛を強いられる日々だった。 そして平和になり元の世界に戻ったというのに―――― …。 受けはかなり可哀そうです。