一から百まで

渡辺 佐倉

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別にスポーツとしての格闘技をバカになんかしていない。という建前は嘘だ。
実際下に見ていたから、百目鬼に勝負を吹っ掛ける事が出来た。

百目鬼の言動の事はとりあえず置いておけば、俺は相当な馬鹿野郎なのだろう。

「悪い。」

道場に入れなくて当たり前だ。目先の事に気を取られすぎだった。

「別に、気にしてない。」

その言葉を吐き捨てる様に言われたと思ってしまうのは、自分のしたことが後ろめたいからだろうか。

百目鬼は何も言わない俺を見て、それから息を飲む。

別にただちょっとショックだっただけだ。
泣いてもいないし、表情にもそれほど出ていない筈だ。

それなのに百目鬼は変な顔をして、それから大きく息を吐いた。
幻滅してくれたら楽だろうなと思う。

俺の事なんか嫌になって、最初の話通りもう関わり合いにならない。
そっちの方が幾分か楽なのかもしれない。

けれど、百目鬼が言ったのは先ほどの話を蒸し返す様な内容だった。

「三年の大会が終わったら、必ず再戦するから。」

百目鬼の申し出を、今更断るのも野暮すぎるし、だからといって再戦の約束を喜べるような気分じゃない。

「ありがとうな。」

何とか絞りだした言葉が百目鬼にどう伝わったかは分からない。
けれど、百目鬼が嬉しそうに笑うのを見て、ほっとしてしまった。



「練習を見に行っていいか?」

まだ、全く百目鬼の言う、愚かしい言葉に慣れていた訳では無いころ。
けれど、一緒にランニングをする感覚はもう普通のものになってしまっていた。

相変わらず道場には入れてはもらえない。
型の訓練は道場の外で毎日欠かしてはいないけれど、どうしようもない。

謝り続けてはいるし、自分の愚かしさも分かっているつもりだ。

けれどどうしようもない。最近はそれほど、その事に対していら立ちも無い。

だから、という訳ではないが、普段の百目鬼の柔道を見てみたくなったのだ。

「は?」

百目鬼は変な声を出してこちらを見ている。

別に柔道に興味を持ったっていいだろう。
俺が関節技が使える事は、百目鬼自体知っている筈だ。

「……別にいいが。」

もごもごと百目鬼が返す。彼は時々耳が赤くなる癖があるようだった。

昼休みの風は気持ちがいい。けれど、もう少ししたらこの場所も夏の暑さでいられたものじゃなくなるのだろう。
別の場所を探すか、それとも教室でと考えたところで、何故こいつと一緒に食べることを前提にしているんだろうと愕然とした。
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