一から百まで

渡辺 佐倉

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その日の夜、電話が百目鬼からあった。
声を聞いたらもう駄目だった。

性行為までしているのに。何もかもきちんと理解できていたはずなのに。声を聞いた瞬間駄目だった。

好きが、あふれて、あふれて。

思わず自分で笑っちゃう位、声が聞けただけで嬉しいのだ。

「何してた?」

百目鬼に聞かれる。
声まで甘い気がする。

「筋トレ。」とそっけなく答えるけれど、甘ったるい気持ちがじわりと広がる。

だけど、やっぱり「会いたい」とか「寂しい」とかいうのは柄じゃない気がして「強くなって来いよ。」と言った。

今度は電話口の向こうで百目鬼が嬉しそうに笑った声がした。

もう完全に消えてしまった百目鬼の噛み跡をなぞる様に自分の首元をなぞる。
もう消えた筈なのに甘く疼く様な気がする。

合宿が終わったらと言いかけてやめた。
その後は大会まで部活が続く。それ以外の話をすべきじゃないじゃないと思った。

自分の気持ちに百目鬼を付き合わせる訳にはいかない。
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