余りものの本の虫令嬢が王子の花嫁になるまで

渡辺 佐倉

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よそ様の婚約破棄

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「エレオノーラ。貴様と婚約破棄をする!!」

ダンスホールに響く声に思わず、そちらを見てしまう。
必ず参加するように言われて仕方がなく参加している学園の卒業パーティ。

その最中にそんな事を叫んでいるのはこの国の第二王子だ。

王子の目の前にいるのが、婚約者であるはずの公爵令嬢なのだろう。

貴族年鑑というものは正式には発行されていないが、家庭教師の間で使われている似たようなものがある。
それは読んだことがあった。

その家門についてや領地について、それから姻戚関係が記されている。

けれどそこには細かな顔についての挿絵は入っていないため顔までは知らない。

この会場にいる人間のほとんどが私には誰だか分からない。
勿論服装や、物腰や髪の毛の色等と本で得た知識を元に個人を特定するのはそれほど難しくはない。
けれど、それはその人が誰だかを知っている事には含まれない。

彼女、ヴィオラが知っているのは建国祭に家族で参加した時に壇上にいた王族位なものだ。


その王族が騒いでいる。
今まで読んだ、どんなマナーブックにもそのようなマナーは書かれていなかった。

だからこれは私以外にとっても奇異な行動なのだろう。

渦中の王子様とその横でうっとりとしなだれかかっている令嬢とそれをその後ろから見つめている数人の令息にとっては違う事なのかもしれないけれど。


公爵令嬢のエレオノーラは綺麗な淑女の礼をしたのち「かしこまりました」と言ってその場を立ち去った。

王家の婚約がこんなにも簡単に破棄できるものなのだろうか。
周りがざわついている。

でも、簡単にできるものだとしてもそうでなかったとしてもヴィオラには関係ないだろうと思った。
それが大きな間違いだと知るのはそれから二週間が過ぎた頃の事だった。

* * *

ヴィオラはその日も屋敷の書斎で本を読んでいた。

本の虫、なんて面と向かって侯爵家の令嬢に言う人間はいないけれど、彼女はまさにそういったたぐいの人間だった。
食事をするよりも本を読んでいる方が楽しかったし、おしゃれのために時間をとるよりも本を読んでいる方がいい。

幸い侯爵家には嫡男がいたし、ヴィオラには姉もいる。

だから侯爵家の令嬢といっても比較的自由にできていた。
それをいいことに、ヴィオラは毎日毎日、ただひたすら本ばかり読んでいた。

それは、物語に始まって歴史書、経済書、そして魔導書まで。
手当たり次第に何でも読む。

兄はあきれ顔をするときはあったけれど、ヴィオラはそれをあまり気にしてはいなかった。

彼女の髪の毛は平凡な鼠色の髪、ぼやけたようなラベンダー色の瞳。
平民の中にいれば珍しいとされる色かもしれないけれど、貴族の中ではごく普通のありふれた色で目鼻立ちもそれほどはっきりとしていない。

令嬢として自分自身に家門以外のそれほどの価値は元々無い。
最低限の立ち居振舞いは家庭教師から教わっていた。

だから、別に自分が本の虫でもいいではないか。
そんな風に思っていた。

婚約者がいまだいない。というのもどちらでもよかった。
高齢貴族の後妻になるしかないと陰口を言われたこともあるけれど、ヴィオラにとって結婚相手の年齢や立場はとてもどうでもいいことだった。

婚姻後も本を読み続けられるかどうか。

彼女にとってはそれだけが大切なことだったから。


だから、社交の場で囁かれる噂は何も興味が無かったし、学園の卒業パーティで発生した婚約破棄騒動もどうでもよかった。
卒業パーティの後、父親である侯爵に呼び出されて状況の報告だけはしたがそれだけだった。

その後、第二王子の婚約者だった公爵令嬢エレオノーラが第一王子の婚約者の令嬢と二人で隣国に行き、隣国の王太子達に見初められた。
という噂なのか本当なのかもわからない話を聞いたような気はしたけれど、どちらにせよヴィオラには関係ないと彼女は思っていた。


そのため、宮殿よりの書状を見つめながら苦虫を噛み潰した様な顔でヴィオラを見る父の言っている意味が分からなかった。

「お父様。もう一度お聞きしてもよろしいでしょうか?」

侯爵は眉根に皺を寄せてもう一度同じ言葉を繰り返した。

「ヴィオラ。第一王子の婚約者に内定した」

何度聞いても、正直ちょっと意味が分からなかった。
けれど、父が持っている宮殿からの書状に押されている印は本物だし、
それを留めていた、封蝋のデザインも王宮の正規のデザインだ。

どちらも官吏のための入門書で見たことのあるものと同じで、本当に王宮からの決定なのだと直ぐに察した。
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