2 / 30
1章
再会
しおりを挟む
夜。
なじみのオーナーに楽しんでいきなと笑われながらクラブの扉を開けると、EDMの重低音が俺の鼓膜を揺らした。ホールの真ん中では、20人ほどの客が思い思いに踊っている。
そんな客たちに背を向けるように、バーカウンターでは男たちが気に入った女に酒を振る舞いながら、どうやって持ち帰ろうかと算段を立てているのが見える。
(ここは相変わらずだな)
「さてと、とりあえず酒でも飲むか」
俺はドアをくぐり、踊る客たちを見ながらゆっくりとした足取りでバーカウンターへ向かった。
店内に入った時から感じていた、女たちのさながら獲物を見つけた虎のようなぎらぎらとした目と劣等感の含んだ男たちの目を頬に感じながらカウンターに向かうと、見慣れた背中が見えた。
ポンッ
「よお、久しぶりだな」
「あれ、大じゃん!おひさ~」
「ヨウ君その人誰ぇ?」
「俺のお友達やで~!悪いけど久々に会うさかい、ちょっと席外してもええか?」
「いいよ~じゃあ私その間踊っちゃお~」
ふらりと立ち上がった女は、こちらにちらりと視線を向けるとヒラヒラと手を振りながらダンスフロアに向かって行った。酔っぱらっているのか時折ミニスカートから下着をちらりと覗かせる後ろ姿を見ながら、隣の男はニヤリと笑った。
「黒のレースとは、やっぱり見た目通りえっろい女やで・・・あれは今夜お持ち帰りできそうやな」
「相変わらずだな、洋輔。お前がいるとは思わなかったわ」
「俺も大ちゃんに会えるとは思ってなかったで!」
ニカリと笑う男は洋輔といい、大学時代の同じゼミであり俺がクラブに行くようになった原因でもある。洋輔はゼミの中でもひときわ目立つグループにいつもいて、いつもニコニコと笑っているような男だった。そんな洋輔とはある一件で仲が良くなり、それ以来俺たちはよくつるむようになったのだ。
「それにしても、就職した途端パタリと来なくなってもうたから、俺寂しかったんやで」
「早朝出勤に接客。動物の体調が悪くなれば帰りは遅くなる、そんな感じだったからな。クラブに顔を出す元気もねぇよ」
「水族館って意外と大変なんやね」
「まあ、生き物の命を預かってる身だからそれは覚悟の上だけどな。最近やっと慣れてきたからまだましだ」
「慣れてきて時間が出来たから女捕まえようかって?大ちゃんも隅におけんなぁ~」
「茶化すなよ。お前は外資系の会社だったよな。どうなんだそっちは?」
「んー・・・まあ、大変やけど週一はここにきて発散しとるよ」
「お前も人のこと言えねぇじゃねえか」
「ほんまにね~」
ケタケタと笑いながらテキーラをくっと飲み干すと、洋輔はこちらをじっと見つめてきた。
「ほんで、久々に来たと思ったら香水まで変えて気合十分って感じやな」
「・・・似合ってないか?」
そう。俺は昼間に合ったあのいけ好かない男から買った香水を振っていた。
ほかに付ける香水もなかったし、何より、この爽やかな甘さが今まで浸かっていたシュピルナーとは正反対なせいか使ってみたくて仕方なかったのだ。
(あの男は気にいらなかったが、香りはよかったし・・・物に罪はないしな)
「似合っとると思うで。前のは男臭い感じやったけど、なんというか気品がある?っちゅう感じやな。」
「ならよかった」
「それに女受けもよさそうやで」
ニヤリと笑った洋輔が俺の後ろを顎で指す。ちらりと後ろを見ると、こちらを見ていた女と目が合った。
バチッ
途端に顔を真っ赤にさせ慌てる女はただ酒に酔っただけではなさそうだ。
「ホントだな」
「ほんまに大ちゃんは罪な男やで。むすっと立ってても様になっとるし、今日は楽しめそうやないか~。俺も負けられへんな」
「洋輔も頑張れよ。さっきの女を狙ってるんだろ?」
「まあな。絶対今日お持ち帰りしたるんや!」
息まく洋輔に軽く手を振ると、俺はさっき目のあった女にゆっくりと近づいた。
女は俺が近づいているのが分かると、あからさまに頬を染めて慌て始めた。
黒のオフショルのトップスと足の細さを見せつけるようなスキニージーンズ。そしてクラブに慣れてなさそうなあの表情。
俺は心の中でこれからの展開を考えながら女の前で止まると、普段あまり使わない表情筋を総動員してニコリと笑った。
「俺と一緒に遊ばない?」
一瞬戸惑った様子の女だったが、恥ずかしそうにコクリと頷くと俺の服の袖をそっと掴んだ。
(今夜は楽しめそうだ)
一時間後。俺はクラブからほど近いラブホテルで女を抱いていた。
「んッはあっ!」
「あっ待って私もう・・・ッ」
パンパンと肌を打ち付ける音と粘りのある水音。そして女の嬌声が部屋に響き渡る。
「ああっ!」
ふわり
(この匂い・・・)
俺の下で喘ぐ女を見ていると、ふいに自分から香る香水に気を取られた。そして昼間に合った不愛想な男の顔と猫のような黄金の瞳を思い出した。
その瞬間。俺の下半身がぐっと熱を持ったのを感じた。
「ッ・・・」
「えっちょっ・・・大きいッ」
「ッ・・・いくッ」
「んああッ!」
「なんであいつの事思い出したんだ・・・」
そろそろ日付が変わろうとしている夜道には人の姿はなく、俺は薄ぼんやりと道を照らす蛍光灯の下を信じられない思いで歩いていた。
「しかも男の顔を思い出しながらイクなんて最悪だ・・・」
「俺はホモじゃねえぞ」
「くそっ、これも全部この香水のせいだ。帰ったら速攻捨ててやる」
俺はそう息巻くと家の扉を開けた。
ギイィ
俺が住む家は共有住宅、いわゆるシェアハウスだ。
水族館の就職が決まったのと同時に実家を出ることを決心した俺は、水族館からも近場であまり家賃の高くないところを探していた。そんな時、このシェアハウスを不動産屋から教えてもらったのだ。
(共同生活って言っても共有部分はリビングだけだし、光熱費込みで4万って言われたら断る理由もなかったんだよな)
(どうせ帰って寝るだけだし安いことに越したことはなかったしな)
玄関扉を開けると、リビングのドアから光が漏れていた。
(誰かいるのか?)
ガチャッ
リビングを開けると、ソファに座ってテレビを見ていた男が振り返った。
「あれ柳瀬君、今帰りだったんだ」
「ただいまっす。八代さんも今帰りですか?」
「そうそう。お客さんが飛び込みで入ってきちゃってね」
「へえ、美容師も大変なんですね」
現在は4人がこのシェアハウスで暮らしているのだが、俺がこの1か月会ったのはオーナー兼住人の日向さんとこの八代さんだけ。後の1人は店に寝泊まりが多いらしく一度も顔を合わせていない。
八代さんは渋谷で美容師をしているらしく、たまに雑誌に載るほど有名な美容師らしい。全国から八代さんにカットしてほしいと店に来るらしく、いつも忙しそうに出かけていくのを見かける。
「柳瀬君もしかして遊んできた?首に跡ついてるよ」
「げっ付けんなって言ったのに」
「若いね~。いいな、俺ももう少し若かったら仕事帰りにデートするんだけど」
「八代さん今年で30でしたっけ?そろそろ彼女さんと結婚の話とか将来の話とかしないんですか?」
「彼女ねぇ・・・」
八代さんには10年も気合っている恋人がいるらしく、たまに休日になるとデートに行く姿を見かける。
いつも以上に気合を入れてセットしている八代さんを見ているとずいぶんと大事にしているのだと思っていたが、意外と淡白な関係らしい。
「そんな話は出ないかなぁ」
「八代さんが話してくれるのを待ってるんじゃないんですか?」
「うーん、そんな感じはしないけどなぁ。あっ、柳瀬君の彼女とはどうなの?やっぱりそんな話出る?」
「あ、俺彼女じゃないっす」
「おっと、柳瀬君意外と悪い男だったのか」
「彼女とか作る気ないですね。付き合ったとしても、こっちが何もしなかったら「気の利かない男」って呼ばれる し、自分が一番じゃないと怒るし。そういうの疲れるんすよ」
「なるほど、確かに分からなくもないけどね。でも、それも合わせて愛しいって思うのが彼女じゃないの?」
「それに・・・本当に好きかなんて分かんないっすよ」
(人は簡単に騙すから)
「まあまあ、いつか柳瀬君にも分かる時が来るよ」
「そうですかね」
俺たちがそんな話をしていると、ふいにリビングの扉があいた。
「八代、お前風呂場の洗面台で髪染めるのやめろ。店で染めてこい」
「えー!店だとお客さんが出待ちしてるから嫌なんだよ」
「お前な・・・ん?お前は昼間の・・・」
そこには昼間会った香水店の男が立っていた。
店の制服は脱いだのか、Tシャツに短パンとラフな姿だったが、ブロンドの髪と不機嫌そうな顔は間違えようがない。
「な、何でここに!」
「あれ?柳瀬君、悠貴と知り合いだったの?」
「今日俺の店に来たんだよ。場違いにも俺の店に、な」
「へえ、柳瀬君から香水の香りがすると思ったら悠貴のショップの香水だったのか。いい匂いだと思ったんだよ」
「当たり前だ。俺が調香してるんだぞ?」
「あ、あの八代さん。この人って・・・」
「あっそうか。柳瀬君初めましてだよね」
そう言うと、八代さんは男の横に立つとにっこりと笑った。
「昼間も会ったから分かってると思うけど、この人はパヒュームショップ「リュクス」の店長、星川 悠貴。そしてこのシェアハウスの3人目の住人だよ」
「悠貴。この子は柳瀬 大地君な。一か月前からここに住んでるんだ。お前めったに帰らないから知らないのも無理もないな」
「は、初めまして・・・」
「こいつがここに住んでるだと?」
そう言うと香水店の男、もといい星川さんは俺をじろりと睨むとフンッと鼻を鳴らした。
「・・・ここに帰ってくるのがもっと少なくなりそうだな」
「あ゛?」
「まあまあ落ち着いて、こいつ言い方はキツイけどいい奴だから。ちょーっとプライドが高くて俺様で我儘だけど」
「それのどこがいいやつなんですか!」
「悠貴は店で寝泊まりしてるからたまにしか帰ってこないし、あんまり会う機会はないかもしれないけどさ。この家では喧嘩はNGだから仲良くするんだぞ。ってことで握手!」
そう言うと八代さんは俺の手と星川さんの手を無理矢理繋げた。
ガシッ
(前に行ってた店で寝泊まりしてるってこの人の事だったのか)
「よ、よろしくです」
「・・・ハァ」
星川さんはため息をつきながら手を離すと、八代さんのTシャツで手を拭いた。
「汚れた」
「俺、汚くないです!」
「女の匂い付けた男が汚くないわけないだろ。早く風呂入れ。お前臭いぞ」
「おーさすが悠貴。調香師だけあって鼻がいいな」
「~~~っ!風呂、入ってきます!」
「しっかり洗って来いよ、隅々まで、な」
「分かってますよ!」
ザアアア・・・
《お前臭いぞ》
スンスン
「やっぱり臭くねぇ・・・よな?」
(あの人と絶対仲良くなれるわけない!)
俺は星川さんへの怒りを洗い流すように乱暴に髪を洗いながら、改めてそう確信したのだった。
なじみのオーナーに楽しんでいきなと笑われながらクラブの扉を開けると、EDMの重低音が俺の鼓膜を揺らした。ホールの真ん中では、20人ほどの客が思い思いに踊っている。
そんな客たちに背を向けるように、バーカウンターでは男たちが気に入った女に酒を振る舞いながら、どうやって持ち帰ろうかと算段を立てているのが見える。
(ここは相変わらずだな)
「さてと、とりあえず酒でも飲むか」
俺はドアをくぐり、踊る客たちを見ながらゆっくりとした足取りでバーカウンターへ向かった。
店内に入った時から感じていた、女たちのさながら獲物を見つけた虎のようなぎらぎらとした目と劣等感の含んだ男たちの目を頬に感じながらカウンターに向かうと、見慣れた背中が見えた。
ポンッ
「よお、久しぶりだな」
「あれ、大じゃん!おひさ~」
「ヨウ君その人誰ぇ?」
「俺のお友達やで~!悪いけど久々に会うさかい、ちょっと席外してもええか?」
「いいよ~じゃあ私その間踊っちゃお~」
ふらりと立ち上がった女は、こちらにちらりと視線を向けるとヒラヒラと手を振りながらダンスフロアに向かって行った。酔っぱらっているのか時折ミニスカートから下着をちらりと覗かせる後ろ姿を見ながら、隣の男はニヤリと笑った。
「黒のレースとは、やっぱり見た目通りえっろい女やで・・・あれは今夜お持ち帰りできそうやな」
「相変わらずだな、洋輔。お前がいるとは思わなかったわ」
「俺も大ちゃんに会えるとは思ってなかったで!」
ニカリと笑う男は洋輔といい、大学時代の同じゼミであり俺がクラブに行くようになった原因でもある。洋輔はゼミの中でもひときわ目立つグループにいつもいて、いつもニコニコと笑っているような男だった。そんな洋輔とはある一件で仲が良くなり、それ以来俺たちはよくつるむようになったのだ。
「それにしても、就職した途端パタリと来なくなってもうたから、俺寂しかったんやで」
「早朝出勤に接客。動物の体調が悪くなれば帰りは遅くなる、そんな感じだったからな。クラブに顔を出す元気もねぇよ」
「水族館って意外と大変なんやね」
「まあ、生き物の命を預かってる身だからそれは覚悟の上だけどな。最近やっと慣れてきたからまだましだ」
「慣れてきて時間が出来たから女捕まえようかって?大ちゃんも隅におけんなぁ~」
「茶化すなよ。お前は外資系の会社だったよな。どうなんだそっちは?」
「んー・・・まあ、大変やけど週一はここにきて発散しとるよ」
「お前も人のこと言えねぇじゃねえか」
「ほんまにね~」
ケタケタと笑いながらテキーラをくっと飲み干すと、洋輔はこちらをじっと見つめてきた。
「ほんで、久々に来たと思ったら香水まで変えて気合十分って感じやな」
「・・・似合ってないか?」
そう。俺は昼間に合ったあのいけ好かない男から買った香水を振っていた。
ほかに付ける香水もなかったし、何より、この爽やかな甘さが今まで浸かっていたシュピルナーとは正反対なせいか使ってみたくて仕方なかったのだ。
(あの男は気にいらなかったが、香りはよかったし・・・物に罪はないしな)
「似合っとると思うで。前のは男臭い感じやったけど、なんというか気品がある?っちゅう感じやな。」
「ならよかった」
「それに女受けもよさそうやで」
ニヤリと笑った洋輔が俺の後ろを顎で指す。ちらりと後ろを見ると、こちらを見ていた女と目が合った。
バチッ
途端に顔を真っ赤にさせ慌てる女はただ酒に酔っただけではなさそうだ。
「ホントだな」
「ほんまに大ちゃんは罪な男やで。むすっと立ってても様になっとるし、今日は楽しめそうやないか~。俺も負けられへんな」
「洋輔も頑張れよ。さっきの女を狙ってるんだろ?」
「まあな。絶対今日お持ち帰りしたるんや!」
息まく洋輔に軽く手を振ると、俺はさっき目のあった女にゆっくりと近づいた。
女は俺が近づいているのが分かると、あからさまに頬を染めて慌て始めた。
黒のオフショルのトップスと足の細さを見せつけるようなスキニージーンズ。そしてクラブに慣れてなさそうなあの表情。
俺は心の中でこれからの展開を考えながら女の前で止まると、普段あまり使わない表情筋を総動員してニコリと笑った。
「俺と一緒に遊ばない?」
一瞬戸惑った様子の女だったが、恥ずかしそうにコクリと頷くと俺の服の袖をそっと掴んだ。
(今夜は楽しめそうだ)
一時間後。俺はクラブからほど近いラブホテルで女を抱いていた。
「んッはあっ!」
「あっ待って私もう・・・ッ」
パンパンと肌を打ち付ける音と粘りのある水音。そして女の嬌声が部屋に響き渡る。
「ああっ!」
ふわり
(この匂い・・・)
俺の下で喘ぐ女を見ていると、ふいに自分から香る香水に気を取られた。そして昼間に合った不愛想な男の顔と猫のような黄金の瞳を思い出した。
その瞬間。俺の下半身がぐっと熱を持ったのを感じた。
「ッ・・・」
「えっちょっ・・・大きいッ」
「ッ・・・いくッ」
「んああッ!」
「なんであいつの事思い出したんだ・・・」
そろそろ日付が変わろうとしている夜道には人の姿はなく、俺は薄ぼんやりと道を照らす蛍光灯の下を信じられない思いで歩いていた。
「しかも男の顔を思い出しながらイクなんて最悪だ・・・」
「俺はホモじゃねえぞ」
「くそっ、これも全部この香水のせいだ。帰ったら速攻捨ててやる」
俺はそう息巻くと家の扉を開けた。
ギイィ
俺が住む家は共有住宅、いわゆるシェアハウスだ。
水族館の就職が決まったのと同時に実家を出ることを決心した俺は、水族館からも近場であまり家賃の高くないところを探していた。そんな時、このシェアハウスを不動産屋から教えてもらったのだ。
(共同生活って言っても共有部分はリビングだけだし、光熱費込みで4万って言われたら断る理由もなかったんだよな)
(どうせ帰って寝るだけだし安いことに越したことはなかったしな)
玄関扉を開けると、リビングのドアから光が漏れていた。
(誰かいるのか?)
ガチャッ
リビングを開けると、ソファに座ってテレビを見ていた男が振り返った。
「あれ柳瀬君、今帰りだったんだ」
「ただいまっす。八代さんも今帰りですか?」
「そうそう。お客さんが飛び込みで入ってきちゃってね」
「へえ、美容師も大変なんですね」
現在は4人がこのシェアハウスで暮らしているのだが、俺がこの1か月会ったのはオーナー兼住人の日向さんとこの八代さんだけ。後の1人は店に寝泊まりが多いらしく一度も顔を合わせていない。
八代さんは渋谷で美容師をしているらしく、たまに雑誌に載るほど有名な美容師らしい。全国から八代さんにカットしてほしいと店に来るらしく、いつも忙しそうに出かけていくのを見かける。
「柳瀬君もしかして遊んできた?首に跡ついてるよ」
「げっ付けんなって言ったのに」
「若いね~。いいな、俺ももう少し若かったら仕事帰りにデートするんだけど」
「八代さん今年で30でしたっけ?そろそろ彼女さんと結婚の話とか将来の話とかしないんですか?」
「彼女ねぇ・・・」
八代さんには10年も気合っている恋人がいるらしく、たまに休日になるとデートに行く姿を見かける。
いつも以上に気合を入れてセットしている八代さんを見ているとずいぶんと大事にしているのだと思っていたが、意外と淡白な関係らしい。
「そんな話は出ないかなぁ」
「八代さんが話してくれるのを待ってるんじゃないんですか?」
「うーん、そんな感じはしないけどなぁ。あっ、柳瀬君の彼女とはどうなの?やっぱりそんな話出る?」
「あ、俺彼女じゃないっす」
「おっと、柳瀬君意外と悪い男だったのか」
「彼女とか作る気ないですね。付き合ったとしても、こっちが何もしなかったら「気の利かない男」って呼ばれる し、自分が一番じゃないと怒るし。そういうの疲れるんすよ」
「なるほど、確かに分からなくもないけどね。でも、それも合わせて愛しいって思うのが彼女じゃないの?」
「それに・・・本当に好きかなんて分かんないっすよ」
(人は簡単に騙すから)
「まあまあ、いつか柳瀬君にも分かる時が来るよ」
「そうですかね」
俺たちがそんな話をしていると、ふいにリビングの扉があいた。
「八代、お前風呂場の洗面台で髪染めるのやめろ。店で染めてこい」
「えー!店だとお客さんが出待ちしてるから嫌なんだよ」
「お前な・・・ん?お前は昼間の・・・」
そこには昼間会った香水店の男が立っていた。
店の制服は脱いだのか、Tシャツに短パンとラフな姿だったが、ブロンドの髪と不機嫌そうな顔は間違えようがない。
「な、何でここに!」
「あれ?柳瀬君、悠貴と知り合いだったの?」
「今日俺の店に来たんだよ。場違いにも俺の店に、な」
「へえ、柳瀬君から香水の香りがすると思ったら悠貴のショップの香水だったのか。いい匂いだと思ったんだよ」
「当たり前だ。俺が調香してるんだぞ?」
「あ、あの八代さん。この人って・・・」
「あっそうか。柳瀬君初めましてだよね」
そう言うと、八代さんは男の横に立つとにっこりと笑った。
「昼間も会ったから分かってると思うけど、この人はパヒュームショップ「リュクス」の店長、星川 悠貴。そしてこのシェアハウスの3人目の住人だよ」
「悠貴。この子は柳瀬 大地君な。一か月前からここに住んでるんだ。お前めったに帰らないから知らないのも無理もないな」
「は、初めまして・・・」
「こいつがここに住んでるだと?」
そう言うと香水店の男、もといい星川さんは俺をじろりと睨むとフンッと鼻を鳴らした。
「・・・ここに帰ってくるのがもっと少なくなりそうだな」
「あ゛?」
「まあまあ落ち着いて、こいつ言い方はキツイけどいい奴だから。ちょーっとプライドが高くて俺様で我儘だけど」
「それのどこがいいやつなんですか!」
「悠貴は店で寝泊まりしてるからたまにしか帰ってこないし、あんまり会う機会はないかもしれないけどさ。この家では喧嘩はNGだから仲良くするんだぞ。ってことで握手!」
そう言うと八代さんは俺の手と星川さんの手を無理矢理繋げた。
ガシッ
(前に行ってた店で寝泊まりしてるってこの人の事だったのか)
「よ、よろしくです」
「・・・ハァ」
星川さんはため息をつきながら手を離すと、八代さんのTシャツで手を拭いた。
「汚れた」
「俺、汚くないです!」
「女の匂い付けた男が汚くないわけないだろ。早く風呂入れ。お前臭いぞ」
「おーさすが悠貴。調香師だけあって鼻がいいな」
「~~~っ!風呂、入ってきます!」
「しっかり洗って来いよ、隅々まで、な」
「分かってますよ!」
ザアアア・・・
《お前臭いぞ》
スンスン
「やっぱり臭くねぇ・・・よな?」
(あの人と絶対仲良くなれるわけない!)
俺は星川さんへの怒りを洗い流すように乱暴に髪を洗いながら、改めてそう確信したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる