夢見るベータは犯されたい

楽川楽

文字の大きさ
1 / 2

しおりを挟む
『ぃやっ、なんで……僕には恋人が!』
『すまないっ、でももう無理だッ』
『あっ! いやっ、ぃやあぁあっ!』

 俺の目の前で、小柄で可愛らしい男の子が逞しく美しい男に押し倒され、服を剥ぎ取られた。

『なんて良い香りなんだッ、たまらない!』
『あんっ! あぁあんっ!』

 気付けば男の子はあられもない格好をして喘いでいる。

『はぁあんっ! あぁぁあん! おくぅぅ! もっとおくにいれて種付けしてぇえ!』

 初めこそ嫌がっていた男の子は、しかし今では自身の足で美丈夫の腰を固定し、自ら進んで腰を振っていた。

『あ゛ッ、あ゛ッ、あぁあん!』

 空中で揺れる男の子の足。
 ゆさゆさと揺れる体に合わせてたつ粘着質な音。
 小さく細い体を壊さんばかりに揺さぶる美丈夫の、獣のような荒い息。……に混じる大きなため息。

「新一、またコレ観てんの?」

 いつの間にか背後に立っていた男が声をかけてきたが、いつものことなので俺は振り向かない。

「何回観ても良いもんは良い」

 ああ、俺も犯されたい。
 思うだけでなく何度も口にしてきたその言葉は冗談でもなんでもなく、紛れもない本心だった。

 第二の性への性差別は祖父母の時代では随分と悲惨なものだったらしいが、今ではほとんど無いに等しい。希少だなんだと言われていたその存在も、ベータとあまり変わらなくなって来ている。それこそ血液型に等しい。
 確かにオメガのヒートは大変らしいし、アルファとオメガのフェロモン事故や性犯罪が無くなったかと言われると困る。中にはフィクションをノンフィクションだと頭の中ですり替えてしまう輩も現れる。
 だが今はとても副作用の少ない上質な抑制剤が市販で簡単に手に入るし、なによりそれぞれの特徴的な容姿に皆夢中になっている。
 芸能界のイケメン美女俳優のトップは大概がアルファかオメガで、地味だけど味のある役者や脇役になんとかベータが食い込むくらい。
 下品な話だがアダルトビデオにも影響していて、昔は性差別だなんだと言われていたオメガ凌辱モノも、今となっては大人気の分野となっている。先ほど俺が鑑賞していたものも例に漏れずそうで、お宝の一つである。
 過去のオメガの虐げられ方を授業で学んでも、いまいちピンと来ないのは現在の彼らの躍進的な活躍と、その加護欲をそそる容姿につきる。だがそこで強く生まれているのがベータの劣等感だ。

「こんなの観ても、何の役にもたたなくない? だって新一はベータなんだから」

 そう、コレだ。
 ベータには何もない、何もないのだ。フェロモンも無ければ、一目で心を惹きつけるような容姿で生まれることも稀。男性でありながら子供を成せる体も持たないし、なにより『運命』がない。
 アルファとオメガには本当に『運命』が存在していて、たびたび不倫や離婚騒動に発展するが世間は寛容だ。
 ───ああ、運命なら仕方ない。運命相手には敵わない。だって、神様が決めたんだから。
 そう言って全てを納得させられる。悲惨なのは捨てられた相手で、尚且つそれがベータだった時だ。
 運命を自分で決めなければいけないベータは惹きつけ惹きつけられるフェロモンも無いから、自身で愛情と魅力を持続させなければならないし、万が一愛した相手がアルファやオメガだったらその時点で……地獄の様な苦しみを覚悟しなければならないのだから。

「アルファのお前には分からんだろうな、俺の気持ちは」

 堪らなく憧れる。なりふり構わず誰かに欲されるその情熱にも、身も世もなく呑み込まれるその快楽にも。
 画面の向こうの男の子も、嫌だ嫌だと言いながらも恋人がいる身でありながら強く求められる快楽に抗えなかった。それは、アルファの強いフェロモンに当てられたから。

「フェロモンがどんな匂いかも気になるし、それで発情する破廉恥さにもドキドキするし。好きな人がいるはずなのに抗えない性欲に流される背徳感と、その先の凄まじい快楽の果てとかホントたまらんの!」
「新一がド変態なのはよく分かった。でも取り敢えず学校行こうよ。それ、朝から観るものでも語るものでもないと思う」

 そう言って冷たい目を向ける高校からの友人───祥二は、アルファであることに異存ない美しい容姿をしていた。

 サラリと揺れる少し長めの髪は榛色で、それに合わせて肌の色から何からめっぽう色素が薄い。
 瞳の色に関して言えば、紅茶の中に様々なフルーツを浮かべたような不思議で魅惑的な色をしている。その瞳を髪と同じ色のふさふさな長いまつ毛が囲んでいて、瞬き一つで風が起きそうだ。
 これだけ言えば女性的とも取れるが、更に祥二の容姿で目を引く特徴がその肉体である。
 百八十をゆうに越す長身で、広い肩幅、細身に見えるが意外と細マッチョのボディは嫌でも雄味の強い色気が滲み出ているから、女性と間違えられたことは一度もないようだった。

「ほら、早く行こうよ。今日の一限、必修なんだから」

 呆れ顔でもう一度溜め息をつく祥二を見て、俺も心の中で大きな溜め息をついた。事態は意外に深刻だったのだ。
 後に、あんな行動に移すほどに……。



 最初は自分でも単なる憧れだと思っていた。でもその感情は日に日に強くなり更にはしっかりと性欲へと直結してしまった。今では毎日自分がオメガとして凌辱される夢を見ている始末。
 あの強引で無理矢理に性を暴かれる瞬間に、堪らなく興奮してしまう。かといってベータに対しての凌辱ものでは急速に欲が萎んでしまう。
 あくまでも【アルファのフェロモンに興奮するオメガ】に意味があるのだ。

 誰にだって性癖の一つや二つはあるだろう。だが問題なのは、最近本気で誰かに犯されたいと思い始めてしまっていることだ。
 ただ犯されたいわけじゃない。アルファのフェロモンによって、オメガとして犯されたい。でも自分はベータでしかなく、残念ながらフェロモンを出すことは愚か相手のフェロモンだって感じられない。
 そうして悶々としたものが大きく膨らみつづけついに夢精し始めたある日、俺は唐突にそれに出会ってしまった。

「フェロモン香水……?」
「はい! 以前から多くの方にご要望いただいておりました、オメガ性を擬似体験できる香水が本日より発売いたしました♡」

 可愛らしい小柄な女性の掌に置かれた、ピンクのハート形の香水瓶。

「え、ぇ……え、マジですか」
「はぁい! 実験では本当にアルファの方がオメガフェロモンだと間違えたという報告も上がっております♡ 香りは3種類からお選びいただけますが、お試しいかがですかぁ?」
「えっ! あ、じゃあサッパリ系で」

 渡されたサンプルの香りを鼻腔に吸い込むと、驚くほど胸が熱くなった。これが……これが俺がずっと憧れていたオメガのフェロモンなのか……!
 一瞬俺を憐れんだ目で見下す祥二が頭を過ぎる。が、

「これ、一つください」
「ありがとうございますー♡」

 散々憧れて来た感情に人間の三代欲求が乗っかってしまえば、その購買意欲に打ち勝つことはできなかった。
 そうしてオメガのフェロモン香水を購入してから数日後のこと。

「なんか新一、ここのところ様子おかしくない?」

 ついに祥二に聞かれた。

「最近ずっと、心ここに在らずって感じ。なんかあった?」
「はっ、へっ!? べ、別にそんなことないけど!?」
「……ふーん」

 この吸い込まれそうな美しい瞳でジっと見られると、いつだって全てを洗いざらい話してしまいう。
 祥二とは高校で出会ってからずっと仲良くて、ついには同じ大学を目指すまでの仲になったし、一緒に暮らしてはいないものの殆んどの時間互いの家に入り浸って共に過ごしている。
 よく俺は突拍子もないことを言ったりやったりするが、祥二はいつも「新一は馬鹿だなぁ」と言って呆れてはいるが、見放すことはなかった。まさに親友だ。
 やはり、親友には話してしまおうか……。一瞬隠し事をしている罪悪感に苛まれるが、今回ばかりは正直に言えなかった。
 言えるわけがないじゃないか。まさかその内、フェロモン香水を纏ってアルファに犯されにいくつもりです……だなんて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腹を隠さず舌も出す

梅したら
BL
「後悔はしてるんだよ。これでもね」 幼馴染の佐田はいつも同じことを言う。 ポメガバースという体質の俺は、疲れてポメラニアンに変化したところ、この男に飼われてしまった。 ===== ヤンデレ×ポメガバース 悲壮感はあんまりないです 他サイトにも掲載

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

αとβじゃ番えない

庄野 一吹
BL
社交界を牽引する3つの家。2つの家の跡取り達は美しいαだが、残る1つの家の長男は悲しいほどに平凡だった。第二の性で分類されるこの世界で、平凡とはβであることを示す。 愛を囁く二人のαと、やめてほしい平凡の話。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

Original drug

佐治尚実
BL
ある薬を愛しい恋人の翔祐に服用させた医薬品会社に勤める一条は、この日を数年間も待ち望んでいた。 翔祐(しょうすけ) 一条との家に軟禁されている 平凡 一条の恋人 敬語 一条(いちじょう) 医薬品会社の執行役員 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

処理中です...