12 / 36
【2章】伯爵家執事レヴィの場合
1.喜怒哀楽を忘れた少年
しおりを挟む
一体何が起こっているのか――――俄には信じられなかった。
無理矢理に引かれた手の痛み、あまりにも必死な瞳が垣間見え、押し当てられた唇の熱に瞠目する。
今日、私の世界で一番大切な人――――アリスお嬢様の婚約が決まった。
けれど今、私はお嬢様にキスをされている。
***
レヴィは物心ついた頃から孤児院で生活をしていた。
最初からそうだったのかは分からない。
けれど、彼の最初の記憶は、孤児院の扉の前で泣き叫んでいる己の姿だった。
そこから十三歳になるまでの間、レヴィは淡々と毎日を過ごしていた。
まだ子供だというのに喜怒哀楽を失い、どんなことに対しても感情を抱かない。そうすることで己を守っていた――――そう気づいたのは、割と最近のことだ。
けれど、そんな彼に転機が訪れた。
領主が孤児院の視察にやってきたのだ。
そのとき出会ったのが、彼にとっていちばん大切な存在である、領主の娘アリスだった。
5歳のアリスは、レヴィから見ればものすごく恵まれていて、ともすれば恨みの対象になりえた。
自分たちとは比べ物にならないほど清潔で、鮮やかな色の布で作られたドレス、毎日洗われているであろう光り輝く美しい髪の毛。レースのリボンに、ピカピカに磨かれた靴。艷やかな肌にふっくらとした頬を見るに、お腹を空かした経験など一度もないのだろうと予想がつく。
(――――いや、僕には関係ない)
欲しがったところで、羨んだところで手に入るわけではない。嫌味を言って何になる? 虚しくなるだけだ。自分が嫌いになるだけだ。
見るな。考えるな。
心を揺らすな。
レヴィは部屋に引きこもり、アリスの存在を頭から消し去ろうと努力する。
「こんにちは、お兄さん」
けれど、そんなレヴィのもとにアリスはやってきた。人懐っこいとびきりの笑顔を浮かべて。
レヴィは一瞬だけアリスの方を向き、それからそっと視線を逸らす。
見えない。聞こえない。
相手をしなければ、アリスはすぐにここから居なくなるだろう。そう思っていたのだが。
「お兄さんもあっちで一緒に遊ぼう!」
アリスはちっともめげなかった。レヴィの側に駆け寄って、ニコニコと楽しげに笑っている。
「触らないでください。汚いので」
アリスは薄汚れたレヴィの手を握ろうとした。だからレヴィはパッと身を翻し、彼女のことを睨んでしまう。
幼い子を相手に申し訳ないと思わないでもない。だが、彼女を汚したとあとで怒られるよりはマシだろう――――そんなふうに言い訳をする。
「え? アリス汚い?」
どうやらアリスは、彼女自身が汚れていると言われたものと受け取ったらしい。己の手のひらを見つめながら、瞳をパチクリさせている。
レヴィは首を横に振り、「あなたのことじゃありません」と口にする。
「お兄さんはとっても綺麗だよ?」
「いいえ、お嬢様。僕はとても汚れています」
「え~~? 綺麗なのに。それに、汚れているならお水で洗えば良いんじゃない?」
「いいえ。僕たちはお嬢様と違って、いつでも好きなときに水が使えるわけじゃないんですよ」
「そうなの? 知らなかった」
年齢も価値観も違えば、常識も異なる。
アリスとの会話はまるで、異世界の住人と話をしているかのようだった。
おそらくはアリスも同じ気持ちに違いない。自分と話をしたところで全く楽しいはずがない。
何の憂いもなく育った5歳の子供など欲望の塊。自分のことしか考える必要はなく、他人のことなどお構いなし。常に面白いことだけを追い求めている生き物だ。
けれどレヴィはそうと分かっていながら、好奇心旺盛なアリスに問われるがまま、色んなことを話していた。
自分たちが置かれている境遇、日々の暮らし、どんなことを考えながら生きているのか、待ち受けている将来――――そういったことを話して聞かせた。
そして、言葉にすることによってはじめて、自分がどれだけこの生活を苦痛に思っているのか、レヴィは知ることになった。
(不満なんてないと思っていたのにな)
押し殺していた感情が、感覚が一気に押し寄せてくる。
気づいたらレヴィの瞳は涙で潤み、胸がざわざわと動いていた。
嬉しいのか、悲しいのか。怒っているのか、はたまた楽しいと思っているか定かではない。
けれどこの時、レヴィは失っていた心を取り戻したかのように思えた。
「遊ぼう、お兄さん!」
結局、アリスに説得される形で、レヴィは他の孤児たちの輪に入り、彼女と一緒に遊んだ。
追いかけっこをしたり、土いじりをしたり、絵を描いたり――――普段ならば『くだらない』と吐き捨てる行動だが、幼い頃にそういった遊びをしていなかったせいだろうか? 案外楽しく感じられた。
これまで捨ててきた何かを拾い集めているかのような、そんな奇妙な感覚。レヴィは楽しそうに笑うアリスを見ながら、こっそりと微笑んだ。
けれど、彼女との時間はいつまでも続くわけではない。その日はあっという間に日が暮れてしまった。
レヴィは孤児院の皆と施設の前に並び、アリスたちを見送る。
(楽しかったな……)
これが楽しいという感覚なのだと、レヴィには分かった。
それから今、去りゆくアリスを見つめながら自分が抱いている感情が『寂しい』『悲しい』というものだということも。
「お父様、私まだ帰りたくない!」
そんな最中、アリスが駄々をこねはじめた。彼女の父親である伯爵は困ったように笑いながら、娘の頭をそっと撫でる。
「アリスがそんなことを言うなんて珍しいね。そんなにここが楽しかったのかい?」
「うん! 私、もっとレヴィと一緒に居たい。だから家には帰らない!」
アリスはそう言って、レヴィの元に駆け寄った。足元に感じる温かな温もり。思わぬことに困惑しつつ、レヴィはアリスを呆然と見下ろした。
「お嬢様……」
伯爵や院長の視線がこちらに向いている。レヴィはそっと身を屈めた。
「レヴィはいつでもここに居ます。どうかまた、遊びにいらしてください」
「えぇ……? でも……」
アリスは明らかに不満そうだった。子供というのは守られることのない約束に対して敏感な生き物である。
「大丈夫。また一緒に遊びに来よう」
不安そうに表情を曇らせるアリスに向かって、伯爵は力強く頷いた。言質を取ったことでようやくアリスは諦め、帰りの馬車に乗り込む。
「レヴィ、またね! また絶対遊んでね!」
太陽のように輝く満面の笑み。レヴィは眩しげに目を細めた。
馬車が段々と遠ざかっていく。アリスは窓から顔を出し、こちらに向かってずっと手を振り続けている。
聞こえないと分かっていながら、レヴィは「ええ」と返事をした。
無理矢理に引かれた手の痛み、あまりにも必死な瞳が垣間見え、押し当てられた唇の熱に瞠目する。
今日、私の世界で一番大切な人――――アリスお嬢様の婚約が決まった。
けれど今、私はお嬢様にキスをされている。
***
レヴィは物心ついた頃から孤児院で生活をしていた。
最初からそうだったのかは分からない。
けれど、彼の最初の記憶は、孤児院の扉の前で泣き叫んでいる己の姿だった。
そこから十三歳になるまでの間、レヴィは淡々と毎日を過ごしていた。
まだ子供だというのに喜怒哀楽を失い、どんなことに対しても感情を抱かない。そうすることで己を守っていた――――そう気づいたのは、割と最近のことだ。
けれど、そんな彼に転機が訪れた。
領主が孤児院の視察にやってきたのだ。
そのとき出会ったのが、彼にとっていちばん大切な存在である、領主の娘アリスだった。
5歳のアリスは、レヴィから見ればものすごく恵まれていて、ともすれば恨みの対象になりえた。
自分たちとは比べ物にならないほど清潔で、鮮やかな色の布で作られたドレス、毎日洗われているであろう光り輝く美しい髪の毛。レースのリボンに、ピカピカに磨かれた靴。艷やかな肌にふっくらとした頬を見るに、お腹を空かした経験など一度もないのだろうと予想がつく。
(――――いや、僕には関係ない)
欲しがったところで、羨んだところで手に入るわけではない。嫌味を言って何になる? 虚しくなるだけだ。自分が嫌いになるだけだ。
見るな。考えるな。
心を揺らすな。
レヴィは部屋に引きこもり、アリスの存在を頭から消し去ろうと努力する。
「こんにちは、お兄さん」
けれど、そんなレヴィのもとにアリスはやってきた。人懐っこいとびきりの笑顔を浮かべて。
レヴィは一瞬だけアリスの方を向き、それからそっと視線を逸らす。
見えない。聞こえない。
相手をしなければ、アリスはすぐにここから居なくなるだろう。そう思っていたのだが。
「お兄さんもあっちで一緒に遊ぼう!」
アリスはちっともめげなかった。レヴィの側に駆け寄って、ニコニコと楽しげに笑っている。
「触らないでください。汚いので」
アリスは薄汚れたレヴィの手を握ろうとした。だからレヴィはパッと身を翻し、彼女のことを睨んでしまう。
幼い子を相手に申し訳ないと思わないでもない。だが、彼女を汚したとあとで怒られるよりはマシだろう――――そんなふうに言い訳をする。
「え? アリス汚い?」
どうやらアリスは、彼女自身が汚れていると言われたものと受け取ったらしい。己の手のひらを見つめながら、瞳をパチクリさせている。
レヴィは首を横に振り、「あなたのことじゃありません」と口にする。
「お兄さんはとっても綺麗だよ?」
「いいえ、お嬢様。僕はとても汚れています」
「え~~? 綺麗なのに。それに、汚れているならお水で洗えば良いんじゃない?」
「いいえ。僕たちはお嬢様と違って、いつでも好きなときに水が使えるわけじゃないんですよ」
「そうなの? 知らなかった」
年齢も価値観も違えば、常識も異なる。
アリスとの会話はまるで、異世界の住人と話をしているかのようだった。
おそらくはアリスも同じ気持ちに違いない。自分と話をしたところで全く楽しいはずがない。
何の憂いもなく育った5歳の子供など欲望の塊。自分のことしか考える必要はなく、他人のことなどお構いなし。常に面白いことだけを追い求めている生き物だ。
けれどレヴィはそうと分かっていながら、好奇心旺盛なアリスに問われるがまま、色んなことを話していた。
自分たちが置かれている境遇、日々の暮らし、どんなことを考えながら生きているのか、待ち受けている将来――――そういったことを話して聞かせた。
そして、言葉にすることによってはじめて、自分がどれだけこの生活を苦痛に思っているのか、レヴィは知ることになった。
(不満なんてないと思っていたのにな)
押し殺していた感情が、感覚が一気に押し寄せてくる。
気づいたらレヴィの瞳は涙で潤み、胸がざわざわと動いていた。
嬉しいのか、悲しいのか。怒っているのか、はたまた楽しいと思っているか定かではない。
けれどこの時、レヴィは失っていた心を取り戻したかのように思えた。
「遊ぼう、お兄さん!」
結局、アリスに説得される形で、レヴィは他の孤児たちの輪に入り、彼女と一緒に遊んだ。
追いかけっこをしたり、土いじりをしたり、絵を描いたり――――普段ならば『くだらない』と吐き捨てる行動だが、幼い頃にそういった遊びをしていなかったせいだろうか? 案外楽しく感じられた。
これまで捨ててきた何かを拾い集めているかのような、そんな奇妙な感覚。レヴィは楽しそうに笑うアリスを見ながら、こっそりと微笑んだ。
けれど、彼女との時間はいつまでも続くわけではない。その日はあっという間に日が暮れてしまった。
レヴィは孤児院の皆と施設の前に並び、アリスたちを見送る。
(楽しかったな……)
これが楽しいという感覚なのだと、レヴィには分かった。
それから今、去りゆくアリスを見つめながら自分が抱いている感情が『寂しい』『悲しい』というものだということも。
「お父様、私まだ帰りたくない!」
そんな最中、アリスが駄々をこねはじめた。彼女の父親である伯爵は困ったように笑いながら、娘の頭をそっと撫でる。
「アリスがそんなことを言うなんて珍しいね。そんなにここが楽しかったのかい?」
「うん! 私、もっとレヴィと一緒に居たい。だから家には帰らない!」
アリスはそう言って、レヴィの元に駆け寄った。足元に感じる温かな温もり。思わぬことに困惑しつつ、レヴィはアリスを呆然と見下ろした。
「お嬢様……」
伯爵や院長の視線がこちらに向いている。レヴィはそっと身を屈めた。
「レヴィはいつでもここに居ます。どうかまた、遊びにいらしてください」
「えぇ……? でも……」
アリスは明らかに不満そうだった。子供というのは守られることのない約束に対して敏感な生き物である。
「大丈夫。また一緒に遊びに来よう」
不安そうに表情を曇らせるアリスに向かって、伯爵は力強く頷いた。言質を取ったことでようやくアリスは諦め、帰りの馬車に乗り込む。
「レヴィ、またね! また絶対遊んでね!」
太陽のように輝く満面の笑み。レヴィは眩しげに目を細めた。
馬車が段々と遠ざかっていく。アリスは窓から顔を出し、こちらに向かってずっと手を振り続けている。
聞こえないと分かっていながら、レヴィは「ええ」と返事をした。
0
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王子様への置き手紙
あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる