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朝寝坊(1)

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 カーテンの隙間から朝日が射し込む。柔らかく温かな光だった。ヘレナは微睡ながら、布団を頭上へ引き上げる。


(もう少し……もう少しだけ…………)


 お日様の光をたくさん浴びたふかふかのお布団は最高に気持ちが良く、いつまでも眠っていられそうな気がした。昨日までの疲れが身体から一気に溶け出していく。ヘレナはふふ、と笑いつつ布団を力いっぱい抱き締めた。


(……って、あれ?)


 ふと違和感を覚え、ヘレナは勢いよく起き上がる。


「おはようございます、お嬢様」


 その瞬間、まるでヘレナの起床時間を予想していたかの如く、レイが部屋へとやって来た。
 朝も早いというのに、レイの髪はきっちりと整えられ、シャツやズボンには皺ひとつ見当たらない。普通朝は何処かしら綻びがあるものだが、彼には一分の隙も見当たらなかった。


(なんというか……さすがレイね)


 いつ、何処に居ようと、彼がブレることは無い。そんなことを思いつつ、ヘレナの背筋がピンと伸びる。


「おはよう、レイ」


 ヘレナが笑うと、レイも穏やかに目を細めた。心臓に悪い、煌びやかな笑みだ。ドッドッと鳴り響く胸を押さえつつ、ヘレナはシーツで口元を覆い隠した。


「新しい寝台は如何でしょう? よく眠れましたか?」
 
「ええ、とても。もしかして寝すぎてしまったのでは、と思うぐらいには……」


 言いながらヘレナは小さく首を傾げる。レイはクスリと笑いつつ、流れるような所作でグラスに水を注いだ。


「そうですね……お嬢様はあれから丸二日、お休みになられていました。余程疲れが溜まっていらっしゃったのでしょう」

「……やっぱりそうなのね」


 ヘレナはそう言って頭を抱える。
 先程感じた違和感――――その理由がこれだった。狂った体内時計が一周回り、元に戻っていく様を自覚しつつ、ヘレナはふぅとため息を吐いた。


「あーーあ、ついにお祈りをサボっちゃったわ……まったく、ダメな聖女よね」


 自嘲的な笑みを漏らしつつ、ヘレナはそっと天を仰ぐ。
 幼い頃から、ヘレナは朝のお祈りを欠かしたことはなかった。毎朝、神への感謝と平和への祈りを捧げる――――それは国から聖女として扱われていたヘレナにとって、己の存在理由のそのものだった。


(こんなだから、国を追い出されちゃったのよね、わたし)


 心の中でそう呟きつつ、ヘレナの胸に鈍い痛みが走る。カルロスが『偽物』と疑うのも納得だ――――そう思っていると、レイがゆっくりと首を横に振った。
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