追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!

鈴宮(すずみや)

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行方不明と国外追放(3)

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(ずっとただものじゃないって思っていたけれど)


 なるほど、色んなことに合点がいった。
 帰る場所を失ったという話なのに、屋敷に引き取られた頃から、誰よりも礼儀作法が完璧だったこと。そんじょそこらの家庭教師より、余程色んな知識をヘレナに教えることができたこと。人間離れした家事、人事、領地管理能力に、隠しきれない高貴なオーラ。全ては彼が幼少期に王子として培ったものだったのだろう。


「驚かないのですか?」


 恐る恐るといった様子でレイが尋ねる。彼にとって一番怖いのは、ヘレナの反応だった。ヘレナは首を小さく横に振ると、穏やかに目を細めた。


「驚いていないわけじゃないけど、元々レイは王子様っぽいなぁって思うことも多かったし。納得したというか、感心したというか」

「……そうですか」


 レイはそう口にしつつ、ホッと胸を撫でおろす。


「それにしても、どうして突然居なくなってしまったんですか? レイモンド様が行方不明になって、僕達がどれ程心配したことか! 国を挙げて捜索が行われたのに……」

「国を挙げて捜索ですか。……私を行方不明にしたのは正妃様なんですけどね」

「正妃様が?」


 そう言ってニックは目を丸くする。ヘレナもレイの手を握りつつ、そっと顔を覗き込んだ。


「ええ。私がいると、息子であるイーサン様の玉座が危ぶまれると思ったのでしょう。
ある日突然馬車に載せられ、『二度と帰ってくるな』との伝言付きで隣国に置き去りにされました。まぁ、そうなるだろうと分かっていて、私も抵抗しなかったのですが」


 レイは平然とそう口にし、クイっと紅茶を飲む。


「そんな……ひどいわ! レイは何も悪いことをしていないのに!」


 言いながら、ヘレナの瞳に涙が浮かぶ。レイの気持ちを考えると、胸がズキズキと痛み、苦しくなった。レイは小さく笑いつつ、ヘレナの手を握り返す。


「追放とはそういうものですよ。けれど、ありがとうございます。お嬢様にそう言っていただけるだけで、心が救われます」


 レイはそう言って笑うが、ヘレナは未だ納得がいかない。

 ヘレナはストラスベストに追放された時、途方もない気持ちに陥った。行く当てもなく、頼れる人もおらず、どうやって生きて行こうと――――これから生きて行けるのだろうかと、そう思った。
 そんな時、ヘレナの前にレイが現れた。レイが居たからヘレナは救われた。もしも彼があそこに居なかったら、ヘレナは絶望に呑み込まれていただろう。


「そんなに泣かないでください。お嬢様の顔が腫れてしまいますよ?
第一、私は正妃様に感謝しているのです」


 レイはヘレナの涙を拭いつつ、穏やかに微笑む。


「感謝? 一体、どうして?」

「あの頃は、兄との王太子争いが激化していて、すごく居心地が悪かったのです。私自身に王位を継ぐ意思は無くとも、周りはそうじゃありませんでしたから。下手をすれば、本格的な内紛に陥る可能性だってありました。ですから、そうなる前に争いの火種を取り除いてくださった――――そう考えれば、正妃様の行いは正当化されても良いと思うのです」

「だけど……だけどレイは行く当てもなく、一人っきりで国外に置き去りにされたんでしょう? やっぱりわたしは納得できないわ。レイが……レイがあまりにも気の毒で――――――」


「いいえ、お嬢様。彼女のお陰で、私はお嬢様に出会えました」


 レイはそう言って笑みを浮かべた。今にも涙が零れ落ちそうな、幸せそうな笑みだった。ヘレナの心が大きく震える。レイはヘレナの背を撫でつつ、更に目を細めた。


「お嬢様が私を見つけて下さった。居場所を与えてくださいましたから、私は辛くも悲しくもありませんでした。お嬢様の笑顔を見る度に幸せで、もっと笑顔が見たいと――――あなたのために生きて行きたいと、心から思ったのです」


 ヘレナの目からボロボロと涙が零れ落ちる。レイはそっと、ヘレナのことを抱き締めた。互いの温もりが心を優しく包み込む。
 どのぐらい経っただろうか、


「あ……あの~~~~~~」


 と躊躇いがちな声が応接室に響く。見れば、赤面したニックが目を逸らしつつ、小さく手を挙げていた。


「あぁ、まだいらっしゃったのですか?」


 レイはそう口にして、呆れたように笑うのだった。
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