文字の大きさ
大
中
小
6 / 33
2.全力で愛を叫ばせろ!
5.
トミーは財産を全て没収された上で、ダミアンの領地から追放された。ダミアン曰く『脱税された分を取り返しただけ』らしく、かなり寛大な処置なんだそうだ。
(あれで寛大? どんだけあくどい商売をしていたんだ、あの男は……)
先程トミーに聞かされた自慢話を思い返しつつ、あたしは思わず苦笑を漏らす。
まぁ、悪魔に目をつけられて、制裁を受けて、命が無事なだけマシなのかもしれないけど。
「本当は記憶を奪ってやっても良かったのだがな……ツテと商才さえあれば、商人は幾らでも再起が出来てしまうし」
ワイングラスを片手に、ダミアンはフッと小さく笑う。
「だけど、それをしなかったってことは、トミーにはまだ利用価値があるってことでしょう?」
「――――その通りだ。お前は中々に賢い女だな」
珍しく褒められた上、頭まで撫でられてしまい、あたしは思わず目を瞠った。
(何よ、ダミアンの奴。普段ツンツンしている分、急にデレられると対処に困るんだけど!)
何だか無性に気恥ずかしい。あたしはフイとそっぽを向いた。
「……そうでしょう? あたしって、中々に見どころがある女でしょう?」
「馬鹿者、調子に乗るな」
「痛っ!」
ダミアンがあたしの額をピンと弾く。尖った爪が当たってめちゃくちゃ痛い。
それにしても、薄々気づいてはいたけど間違いない。
この男、ドSだ。
人を痛めつけて、虐めて楽しむ、真性のサディスト。
まぁ、今のところあたしへの実害は殆ど無いし、良いのだけれど……。
「ときにアイナ。先程、トミーの頬に口づけまでしたのは、少々やりすぎではないか?」
「は? やりすぎ? だけど、本気を出せって言ったのはダミアンでしょう?」
何よ、それ。あたしだって本当はキスなんてしたくなかったし。
だけど、ダミアンが『愛に溺れさせろ』とか『全力で愛を叫ばせろ』とか言うからああしたわけで。
「しろ」
「は? 何を?」
「俺の頬にも口づけろ」
「は!?」
全く! 何を言い出すかと思えば、口づけろですって!? この男に!?
「なんであたしが」
「なんで、じゃない。元よりお前は俺のものだ。拒否権はない。しろ」
ダミアンはそう言うと、あたしを無理やり彼の膝の上に座らせた。
腹が立つほど美しい白い肌に、彫刻みたいに整った高い鼻。形の良い薄い唇を見下ろしてから、彼の明るい緑色の瞳を見つめる。
その瞬間、胸の奥が熱く疼くような感覚がして、あたしは静かに息を呑んだ。
「早くしろ」
「――――分かってるわよ」
心臓が高鳴る。さっきトミーにしたときみたいに冷静では居られない。
しっかりと、頬の位置を確認してから目を瞑る。それから勢いをつけて唇を下ろせば、柔らかな感覚があたしを包み込んだ。
「んっ……」
片手で腰を、もう片方の手で顔を固定されて、全身がビクとも動かない。
頬ってこんなに柔らかいもの? ――――なんて愚問ね。だってこれ、頬じゃないし。ワインの風味に酔ってしまいそう。
ちらりと瞳を開ければ、ダミアンと視線が絡み合った。
(何よ、悪魔のくせに)
唇も吐息も、あたしも見つめる眼差しも、めちゃくちゃ熱い。
「…………っ、もう良いでしょ!?」
放っておいたら、色々とエスカレートしてしまいそうだ。口を拭い、膝の上から滑り降り、あたしは思い切り踵を返す。
「アイナよ、頬への口づけがまだだぞ?」
「それ以上のことしたんだから良いでしょう? もう!」
ドS悪魔め。あたしで遊ぶのは止めてほしい。
ピシャリと扉を閉めてから、ズルズルとその場にしゃがみ込む。
(ホント、勘弁して)
ため息を一つ、あたしは自分の部屋へと戻った。
(あれで寛大? どんだけあくどい商売をしていたんだ、あの男は……)
先程トミーに聞かされた自慢話を思い返しつつ、あたしは思わず苦笑を漏らす。
まぁ、悪魔に目をつけられて、制裁を受けて、命が無事なだけマシなのかもしれないけど。
「本当は記憶を奪ってやっても良かったのだがな……ツテと商才さえあれば、商人は幾らでも再起が出来てしまうし」
ワイングラスを片手に、ダミアンはフッと小さく笑う。
「だけど、それをしなかったってことは、トミーにはまだ利用価値があるってことでしょう?」
「――――その通りだ。お前は中々に賢い女だな」
珍しく褒められた上、頭まで撫でられてしまい、あたしは思わず目を瞠った。
(何よ、ダミアンの奴。普段ツンツンしている分、急にデレられると対処に困るんだけど!)
何だか無性に気恥ずかしい。あたしはフイとそっぽを向いた。
「……そうでしょう? あたしって、中々に見どころがある女でしょう?」
「馬鹿者、調子に乗るな」
「痛っ!」
ダミアンがあたしの額をピンと弾く。尖った爪が当たってめちゃくちゃ痛い。
それにしても、薄々気づいてはいたけど間違いない。
この男、ドSだ。
人を痛めつけて、虐めて楽しむ、真性のサディスト。
まぁ、今のところあたしへの実害は殆ど無いし、良いのだけれど……。
「ときにアイナ。先程、トミーの頬に口づけまでしたのは、少々やりすぎではないか?」
「は? やりすぎ? だけど、本気を出せって言ったのはダミアンでしょう?」
何よ、それ。あたしだって本当はキスなんてしたくなかったし。
だけど、ダミアンが『愛に溺れさせろ』とか『全力で愛を叫ばせろ』とか言うからああしたわけで。
「しろ」
「は? 何を?」
「俺の頬にも口づけろ」
「は!?」
全く! 何を言い出すかと思えば、口づけろですって!? この男に!?
「なんであたしが」
「なんで、じゃない。元よりお前は俺のものだ。拒否権はない。しろ」
ダミアンはそう言うと、あたしを無理やり彼の膝の上に座らせた。
腹が立つほど美しい白い肌に、彫刻みたいに整った高い鼻。形の良い薄い唇を見下ろしてから、彼の明るい緑色の瞳を見つめる。
その瞬間、胸の奥が熱く疼くような感覚がして、あたしは静かに息を呑んだ。
「早くしろ」
「――――分かってるわよ」
心臓が高鳴る。さっきトミーにしたときみたいに冷静では居られない。
しっかりと、頬の位置を確認してから目を瞑る。それから勢いをつけて唇を下ろせば、柔らかな感覚があたしを包み込んだ。
「んっ……」
片手で腰を、もう片方の手で顔を固定されて、全身がビクとも動かない。
頬ってこんなに柔らかいもの? ――――なんて愚問ね。だってこれ、頬じゃないし。ワインの風味に酔ってしまいそう。
ちらりと瞳を開ければ、ダミアンと視線が絡み合った。
(何よ、悪魔のくせに)
唇も吐息も、あたしも見つめる眼差しも、めちゃくちゃ熱い。
「…………っ、もう良いでしょ!?」
放っておいたら、色々とエスカレートしてしまいそうだ。口を拭い、膝の上から滑り降り、あたしは思い切り踵を返す。
「アイナよ、頬への口づけがまだだぞ?」
「それ以上のことしたんだから良いでしょう? もう!」
ドS悪魔め。あたしで遊ぶのは止めてほしい。
ピシャリと扉を閉めてから、ズルズルとその場にしゃがみ込む。
(ホント、勘弁して)
ため息を一つ、あたしは自分の部屋へと戻った。
感想 8
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢の置き土産
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。
「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
お飾りの私と怖そうな隣国の王子様
お飾りの婚約者だった。
だって、私とあの人が出会う前からあの人には好きな人がいた。
その人は隣国の王女様で、昔から二人はお互いを思い合っているように見えた。
「エディス、今すぐ婚約を破棄してくれ」
そう言ってきた王子様は真剣そのもので、拒否は許さないと目がそう訴えていた。
いつかこの日が来るとは思っていた。
思い合っている二人が両思いになる日が来ればいつの日か、と。
思いが叶った彼に祝いの言葉と、破棄を受け入れるような発言をしたけれど、もう私には用はないと彼は一切私を見ることなどなく、部屋を出て行ってしまった。
そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!
やっぱりあなたは無理でした
愛する婚約者とその恋人に嵌められ、断罪された挙句惨めに捨てられた侯爵令嬢フローリア・コーラル。
修道院に向かう途中で不遇の死を遂げた彼女は願った、もう一度人生をやり直したいと―― 目覚めた時彼女の時間は半年前に巻き戻っていた。
今度こそ第一王子ジュリアンの心を取り戻し「愛する人から愛される」というささやかな願いを叶えたいと奮闘するフローリアだが、半年後フローリアが断罪されたあの日が再び訪れてしまう。
同じ光景、同じ台詞、何もかもが同じ……でもたった一つだけ違っていることがあって!?
※「小説家になろう」さまにも掲載中
良くある事でしょう。
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。
若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。
けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
婚約者に好きな人ができたらしい
【本編全3話+番外編】
シャノン・ルビーレッド伯爵令嬢は、リュカ・アメジスト侯爵令息と婚約を結んでいた。
ある日、シャノンは、婚約者がニーナ・ペリドット男爵令嬢に懸想しているという噂を耳にする。
シャノンは断罪を回避するため、リュカとの婚約を円満に解消しようとするが――。
※ エブリスタに習作として掲載したものを改稿した作品です。
※ 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。