婚活令嬢ロゼッタは、なによりお金を愛している!

鈴宮(すずみや)

文字の大きさ
12 / 49
【2章】婚活令嬢、攻略開始

12.セリーナの提案

しおりを挟む
 ウィルバートとのデートから一晩、ロゼッタは文机に向かっていた。

(化粧はブラウン系に、前髪はおろさず分けてみるのがいいかしら? ドレスはもっとフリルが少ないもので、Aラインのものは卒業、色合いも寒色系にしてみて……)


 頭の中でひとりごとをつぶやきつつ、ロゼッタはガラスペンを走らせる。分厚い冊子にこれでもかというほどぎっしり書き込まれた文字は『打倒 ウィルバート』の目標のため、どんなことをすればいいかを箇条書きにしたものだ。


「ロゼッタ」


 ウィルバートを落とすためには、一分一秒だって無駄にしてはならない。セリーナに呼ばれるまで仕事はないし、こういった隙間時間を有効活用しなければならない。


(声のトーンはもっと落とすべきかしら? 口調もあまり令嬢っぽくない感じにしてみるとか? 話題の方向性は間違っていないと思うのだけど、もっといろんな分野に精通しなければ。そのためには)

「ロゼッタってば」


 肩をポンポンと軽く叩かれ、ロゼッタはようやく我に返る。


「まあ、殿下。お呼びでしたか? すぐに気づかず申し訳ございません」

「別にいいけど、暇だから話し相手になってほしかっただけだし。それにしてもすごい集中力ね。一体なにを書いていたの?」


 セリーナはそう言って、ロゼッタの手元を覗き込む。それから、すぐに苦笑いを浮かべた。


「相変わらず研究熱心ね。そんなに可愛いのに、まだ磨き足りないの?」

「殿下ったら、美貌だけでは男性の心を射止めることはできませんのよ? とびきりの幸せを得たければ、それに見合う努力をしませんと」

「……わたくし思うのだけど、ロゼッタのその努力、男性の心を射止めるためじゃなく、金儲けのために使ったほうがよほどいいのではないかしら?」


 真面目な表情でつぶやくセリーナに、ロゼッタはきょとんと目を丸くする。


「わたくしが? 自分でお金儲けを?」

「そう。だって、これだけお金への熱意に溢れているんだもの。自分で事業を起こしたら、それこそ死にものぐるいで勉強をするだろうし、真剣に取り組むだろうと思うのよ。それを男性を捕まえるためだけに使うなんて、なんだかもったいない気がして」


 セリーナの言葉に、ロゼッタはふふっと小さく笑う。


「殿下ったら、わたくしは豪華絢爛、悠々自適な生活を送りたいのです。あくせく働きたいわけではございませんのよ? ですから、努力の方向性を変えるだなんて、とてもとても……」


 そう返事をしつつ、ロゼッタの心が少しだけ揺れる。もしもロゼッタ自身が金儲けに走ったら、いったいどんな結果が得られるだろう――なんて、絶対にありえないとロゼッタは首を横に振る。


「それにしても、ここに書いてある内容はなんだかロゼッタらしくないわね。トレードマークのピンクを捨てるなんて、いったいどんな心境の変化?」


 セリーナがそっと首を傾げる。


「それは……」


 返事をしようと口を開くと、ウィルバートの茶目っ気たっぷりな笑顔が思い浮かぶ。


『そう? 俺はすごくいい気分だよ。ロゼッタ嬢は本当に可愛いね』

「――言いたくありませんわ」


 ロゼッタは唇を尖らせつつ、ふいとそっぽを向いた。


「あらあら。珍しいこともあるものね。なんでも嬉々として教えてくれるあなたが……よほど悔しいことでもあったのかしら? お相手はまあまあ年上の男性でしょう? 違う?」

「――黙秘いたしますわ」


 眉間にシワを寄せるロゼッタに、セリーナはクスクスと笑い声をあげた。


「ロゼッタったらわかりやすい。本当に可愛いわね」


 その瞬間、ロゼッタはハッと目を見開く。それから頬を真っ赤に染め、ほんのりとうつむいた。


「わたくしったら……こういうところをなおさなければいけませんのに」

「なるほどねぇ。それで外側から整えようとしているってわけか。まあ、いいんじゃない? わたくし的にはロゼッタにはやっぱりピンクが似合うと思うけど。そのために、わざわざ髪まで染めてるんでしょう?」


 そう言ってセリーナはロゼッタの髪にそっと触れる。ロゼッタは思わず目を丸くした。


「まあ……! 気づいていらっしゃいましたの?」

「当然。元の髪の色は金色かしら? それも似合うとは思うけど」


 ドヤ顔で笑うセリーナに、ロゼッタは観念したように両手をあげた。


「さすがは殿下。素晴らしい慧眼です。本当に驚きましたわ」

「まあ、王族だし、それが仕事みたいなものですから? ねえ、悩みがあるならわたくしが聞いてあげるわよ。色恋沙汰って、わたくしには縁遠い――絶対経験できないことでしょう? ロゼッタの話を聞いたら、まるで自分が恋愛しているみたいに思えて楽しいのよね」


 セリーナはうっとりとした表情で微笑みつつ、ロゼッタをじっと見つめる。


「……残念ながら、わたくしが恋をしている相手はお金ですわ。殿下が望むお話はできないかと……」

「そうだろうけど! それでも、自由に相手を選ぶことができるのって羨ましいのよね」


 どこか寂し気な表情のセリーナに、ロゼッタはほんのりと胸が痛む。
 王族であるセリーナは自分の意思で伴侶を選ぶことができない。政略、国力のため、いずれは父親が選んだ相手と結婚をせねばならないのだ。ロゼッタの話を聞いて、疑似恋愛を楽しみたいと思うのに無理はない。ロゼッタはそっと目を伏せた。


「そうですわね……わたくし、これまではお相手の候補になりそうな男性を見つけること、縁を作ることに躍起になっておりましたの。幸いなことに、最近になってようやくターゲットを絞り込むことができまして。けれど、仲を深めようと思うとなかなか難しいのです。どこまで踏み込んでいいのか、どんなアプローチをすればいいのか迷ってまして」

「なるほどなるほど。これまでとは違うフェーズに来ているってわけか」


 ロゼッタがうなずく。セリーナはそっと首を傾げた。


「だったら、うちのお兄様を利用してみたら?」

「え?」


 思わぬ発言に、ロゼッタはギョッと目を丸くする。


「お兄様って……もしかしてクローヴィス殿下ですか?」

「それ以外に誰がいるのよ。ほら、以前お兄様と『一緒に食事をする』って約束してしまったでしょう? あれから毎日『ロゼッタはいつ時間がとれるのか』ってしつこくって。適当に誤魔化していたんだけど、いつまでもこのままってわけにはいかないし。これを機に男を転がす練習台として利用してみたらいいんじゃないかと思うのよ」

「セリーナ殿下……」


 相手は仮にも王族で、しかもロゼッタに想いを寄せているというのに、利用などしていいものなのだろうか? けれど、そう提案するセリーナの表情は活き活きと輝いており、喜びに満ちていて。


「――楽しんでいらっしゃいますね?」

「バレた? いいじゃない? お兄様はロゼッタと食事をするっていう願いが叶うし、あなたは経験値があげられる。わたくしはわたくしで面白いしで、誰も損しないんだもの」


 こんなふうに開き直られてしまってはどうしようもない。ロゼッタは「そうですね」とこたえざるをえなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】レイハート公爵夫人の時戻し

風見ゆうみ
恋愛
公爵夫人である母が亡くなったのは、私、ソラリアが二歳になり、妹のソレイユが生まれてすぐのことだ。だから、母の記憶はないに等しい。 そんな母が私宛に残していたものがあった。 青色の押し花付きの白い封筒に入った便箋が三枚。 一枚目には【愛するソラリアへ】三枚目に【母より】それ以外、何も書かれていなかった。 父の死後、女性は爵位を継ぐことができないため、私は公爵代理として、領民のために尽くした。 十九歳になった私は、婚約者に婿入りしてもらい、彼に公爵の爵位を継いでもらった。幸せな日々が続くかと思ったが、彼との子供を授かったとわかった数日後、私は夫と実の妹に殺されてしまう。 けれど、気がついた時には、ちょうど一年前になる初夜の晩に戻っており、空白だったはずの母からの手紙が読めるようになっていた。 殺されたことで羊の形をした使い魔が見えるようになっただけでなく『時戻しの魔法』を使えるようになった私は、爵位を取り返し、妹と夫を家から追い出すことに決める。だが、気弱な夫は「ソラリアを愛している。別れたくない」と泣くばかりで、離婚を認めてくれず――。

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

白い結婚は終わりました。――崩れない家を築くまで

しおしお
恋愛
「干渉しないでくださいませ。その代わり、私も干渉いたしません」 崩れかけた侯爵家に嫁いだ私は、夫と“白い結婚”を結んだ。 助けない。口を出さない。責任は当主が負う――それが条件。 焦りと慢心から無謀な契約を重ね、家を傾かせていく夫。 私は隣に立ちながら、ただ見ているだけ。 放置された結果、彼は初めて自分の判断と向き合うことになる。 そして―― 一度崩れかけた侯爵家は、「選び直す力」を手に入れた。 無理な拡張はしない。 甘い条件には飛びつかない。 不利な契約は、きっぱり拒絶する。 やがてその姿勢は王宮にも波及し、 高利契約に歪められた制度そのものを立て直すことに――。 ざまあは派手ではない。 けれど確実。 焦らせた者も、慢心した者も、 気づけば“選ばれない側”になっている。 これは、干渉しない約束から始まる静かな逆転劇。 そして、白い結婚を終え、信頼で立つ家へと変わっていく物語。 隣に立つという選択こそが、最大のざまあでした。

処理中です...