婚活令嬢ロゼッタは、なによりお金を愛している!

鈴宮(すずみや)

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【4章】大一番とロゼッタの真実

32.クロエのアプローチ

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 隣国から帰国して二日目、ロゼッタはとある場所へ向かっていた。手には宝石の埋め込まれた上品なタイピンが握られている。王太子の補佐官であるライノアへのお土産だ。


(あの人、せっかく素材がいいのだから、こういうもので着飾ることを覚えさせないと)


 隣国でライノアに似たタイプのバルデマーという文官と会ってから、ロゼッタは以前よりも強くそう思うようになっていた。

 おそらく、ライノアに足りないのはもっと上に行こうという野心や上昇志向だ。それさえあれば、彼は大きく変わることができる。文官として出世をすることも可能だろうし、かなりの資産家になることができるだろう。

 ライノア自身は現状維持で構わないと思っているようだが、それではもったいないし、もどかしいとロゼッタは思う。磨いて光るものならば、とことん磨くべきだ。もちろん、ロゼッタが好きなのは磨き抜かれた宝石――つまり、既に金持ちになった後の男性たちなのだが。


(あら)


 と、王太子の執務室に向かう道すがら、ロゼッタはふと足を止めた。回廊の柱の側で目的の人物――ライノアを見つけたからだ。


「ライノア様……」


 と声をかけかけて、ロゼッタはやめた。ライノアの向かいに、誰かがいることに気づいたからだ。雰囲気からして取り込み中、というわけではなさそうだが、今声をかけるのは得策ではない。


(いったい誰とお話をしているのかしら?)


 ロゼッタがそっと様子をうかがう。すると、そこにいたのはクロエだった。


「ライノア様のお話って、本当にすごく面白いです」


 次いで、クスクスとクロエの楽しそうな声が聞こえてくる。ロゼッタは思わずドキッとしてしまった。


(クロエったら、いつの間にかライノア様へのアプローチを進めていたのね)


 隣国へ行く前は、二人の仲が進展している様子はなかった。おそらくは、ロゼッタがいない間にクロエが猛アプローチをかけていたのだろう。

 以前クロエは、ライノアの家で匿ってもらった際に『結構本気』だと言っていたものの、ロゼッタは少しだけ信じられなかった。心のどこかで、クロエは自分と同じ価値観を持っているから、恋愛感情を軸に動かないだろうと思っていたのだ。

 けれど今、クロエはロゼッタとは違う道を進もうとしている。お金ではなく恋愛感情を優先して結婚を――幸せになろうとしているのだ。


(あんなにたくさん一緒に夜会に出席したのに)


 クロエと二人で、お金の話をするのが大好きだった。男性の品定めをしながら、自分の将来の生活を夢見ることが楽しかった。
 けれど、そう思っていたのはロゼッタだけで、クロエは違っていたのかもしれない。


「そんなことを言ってくださるのはクロエ嬢だけです。ロゼッタ嬢ならきっと『あなたのお話はつまらない』と吐き捨てるでしょうし、もっと~すべきだと説教を食らうでしょうから」


 と、なぜか話題が自分のことになり、ロゼッタは思わずドキッとする。こんなところでロゼッタを引き合いに出さなくてもいいではないか、と。


「ロゼッタはお金がなにより大事な人ですもの。話がまったく面白くない億万長者の話でも、ロゼッタからすれば『最高に面白い』って評価になるので、気にしなくて大丈夫ですよ」

(そうですけど! そうですけども……!)


 聞いていてあまりいい気はしない。ついこの間まで、クロエも自分と思っていたからこそ、そう感じるのかもしれないが、なんだか自分を使ってライノアへのポイント稼ぎをされているようだ。

 ――いや、それでも構わないと思いつつ、ロゼッタは唇を尖らせる。

 使えるものはなんでも使え、というのがロゼッタのポリシーだ。ロゼッタが逆の立場なら、クロエと同じことをしただろう。それで攻略対象者からの評価があがるなら、友情なんて二の次三の次でいい。


(でも……)

「そうですね」


 と、ライノアが笑う。


「あの人はそういう女性です」


 ライノアがそう言うのを聞きながら、ロゼッタはなぜだか泣きたくなった。
 とても優しい表情、声だった。まるで自分が受け入れてもらえたような――そのままでいいと言ってもらえたような気がした。ライノアとロゼッタの価値観は決して相容れない。絶対にわかりあえないと思っていたのに。


「わ、私はロゼッタとは違って、ライノア様みたいな男性が理想ですし、素敵だと思います」


 ふと、クロエが身を乗り出した。ライノアの腕にそっとボディタッチをし、潤んだ瞳で彼をじっと見つめている。――どうやら本気でライノアを落とすつもりのようだ。ロゼッタは知らず知らずのうちにゴクリと息を呑んだ。


(ライノア様はなんて返事をするのかしら?)


 これまでライノアは、クロエから褒められてもサラリとお礼を言うだけだった。けれど、ここまであけすけにアプローチをされたら、さすがにクロエの意図がわかるだろう。……いや、これまでも気づいていて、躱していただけの可能性もあるのだが。


「――僕はあなたの理想の男性ではない、なりえないと思いますよ」


 ややしてライノアがこたえる。クロエの表情がくもったのがわかった。


「そんなことないです」

「……いえ、僕は現状を変える気がない、いわばやる気のない男ですし、爵位もなければ大したお金もありません。僕程度の男はそのへんに山程転がっていますし、クロエ嬢の時間がもったいありませんよ」


 やんわりとした拒絶の言葉。けれど、脈はないとはっきりわかる。


「私の時間をどう使うかは、私が決めます。だから、ライノア様と過ごすこの時間は、もったいなくなんかありません。私にとってはすごく貴重で、幸せな時間なんです」

(クロエ……)


 なんて健気なんだろう。いつのまに、こんなにも気持ちが育っていたとは、さすがのロゼッタも思わなかった。


「そうですか」


 ライノアがそう返事をする。
 ロゼッタは彼のために用意したお土産をちらりと見た後、踵を返した。


(ライノア様にお土産を渡すのはやめにしましょう)


 それがいい――そう思いつつも、ロゼッタは少しだけ胸がモヤモヤするのだった。
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