婚活令嬢ロゼッタは、なによりお金を愛している!

鈴宮(すずみや)

文字の大きさ
34 / 49
【4章】大一番とロゼッタの真実

34.フローリアの欲しいもの

しおりを挟む
 ロゼッタはトゥバルトに連れられ、二階へと移動した。南側の角部屋の前に到着すると、トゥバルトが目配せをしてくる。


「フローリア、少しいいかな」


 ノックをしてから、トゥバルトがそう声をかけた。すぐに「お父様?」と舌足らずな返事が聞こえてくる。ロゼッタは密かに深呼吸をした。


「お父様が隣の国に行っていたときのお土産を渡していなかっただろう?」

「お土産?」


 ややして部屋の扉がゆっくり開く。現れた小さな女の子に、ロゼッタは瞳を輝かせた。


(なんて愛らしいの……!)


 父親譲りの赤い髪と、雪のように真っ白な肌。大きな瞳は宝石のように輝いているし、フリルやレースがふんだんにあしらわれたドレスがとてもよく似合っている。フローリアはさながら人形のようだった。


「……誰?」


 と、フローリアが怪訝な声を上げる。ロゼッタはハッと我に返った。


「お父様のお友達だよ。ロゼッタ嬢というんだ」

「ロゼッタ嬢? お友達?」


 警戒心をあらわに、フローリアはドアの後ろに半分隠れてしまう。ロゼッタはフローリアの目線の高さにかがむと、そっと目を細めた。


「はじめまして、フローリア様。わたくしはロゼッタというの。仲良くしていただけると嬉しいんだけど」

「……はじめまして」


 事前に予想をしていたものの、ロゼッタの存在は受け入れ難いらしい。


(当然よね)


 ロゼッタは苦笑を漏らしつつ、胸にそっと手を当てた。


「フローリア、そういう態度はよくないよ」

「トゥバルト様、わたくしは構いませんわ。お願いですから、フローリア様を咎めないでください」

「しかし……」


 ロゼッタがトゥバルトを見つめる。いつになく真剣なその表情にたじろぎつつ、トゥバルトは「わかったよ」と返事をした。


「お土産って?」


 と、どうやら部屋の中に入ることは許されたようで、フローリアはドアをそっと開けて、二人を迎え入れてくれる。


「ああ、喜んでくれるといいのだが」


 トゥバルトがそう言うと、後ろに控えていた使用人たちが大きな箱をフローリアの部屋へと運び込む。フローリアは特に驚くでもなく、その様子を受け入れていた。普段からこうしてたくさん贈り物をされることに慣れているのだろう。


(羨ましい)


 密かにそんなことを思いつつ、ロゼッタはトゥバルトと一緒にフローリアの部屋に入る。ソファに向かい合って座ると、早速お土産の開封がはじまった。


「これは?」

「綺麗だろう? これは、隣国でたくさん採れる宝石だよ」


 フローリアの髪色によく似た真っ赤な宝石のブローチ。これを身に着けると自分が別の誰かに変身できるのではないか――そんな乙女心と幼女心をおおいにあおる愛らしいデザインではあるが、お値段の方はちっとも可愛くない。ロゼッタの給金一年分がポンと飛ぶような代物である。


「ふぅん……」


 フローリアはしばらくブローチを手にとって眺めていたが、やがてそれをテーブルの上にぞんざいに置くと「次は?」と尋ねてきた。

 トゥバルトはそういった反応に慣れているらしく、笑顔で別の包みを開ける。
 ピンクのドレスにエナメル素材のピカピカの靴、大きなリボンが真ん中にあしらわれたバッグに、隣国で流行っている人形やお菓子等など――けれど、フローリアは特に喜ぶ様子なく、淡々と土産物もとい貢物を受け取っていた。


(わたくしなら飛び跳ねて喜ぶのに)


 トゥバルトと一緒に土産物を選んでいたロゼッタは、これらの品物にどれだけお金がかかっているかを知っている。愛情=お金という価値観を持つロゼッタには、トゥバルトがどれほどフローリアを大切に思っているか、愛しているかをわかっていた。


(けれど、フローリア様が求めているものはお金じゃないのよね)


 そう思いながら、ロゼッタは思わず笑ってしまう。
 お金を求めずにいられるなんて、なんて羨ましいのだろう。持っている人間だからこそ、そんなふうに思えるのだ。ロゼッタにはきっと、一生縁のない話だろう。

 けれど、そんなロゼッタだからこそ、わかることもある。


「もうおわり?」


 フローリアの反応を見ながら困ったように笑うトゥバルトを見つめつつ、ロゼッタは静かに身を乗り出した。


「フローリア様、実はもう一つだけトゥバルト様と一緒に用意をしたお土産がございますの」


 ロゼッタはそう言って、自身の手帳から細長い紙をいくつか取り出した。


「なにこれ」

「押し花の栞です。花は隣国への道すがら立ち寄った街で一輪ずつ、摘んだり買ったりしたものなの」

「へぇ……」


 それらは決して高価な花ではなく、道すがら見つけた野花だったり、花屋で見つけた愛らしい一輪といったもので、旅先でロゼッタの目に留まっただけの花々だ。
 元々はフローリアにあげるために準備をしたわけではなく、旅の思い出になんとなく集めたものだったが、トゥバルトのお土産がお気に召さなかったときのために、こうして持参をしたのである。


「すっごく綺麗だね」


 と、フローリアがポツリと言う。本日一番の好反応に、ロゼッタとトゥバルトは顔を見合わせた。


「気に入っていただけました?」

「うん。あのね、あたし、こういうの好きだよ」


 フローリアはそう言って、栞を手にとって眺めている。ロゼッタは思わずガッツポーズを浮かべそうになった。


「――あたしもお父様と一緒に行きたかったな」

「……フローリア!」


 トゥバルトはフローリアの元に駆け寄ると、フローリアを思いきり抱きしめる。


「寂しい思いをさせてすまなかった」

「……うん。寂しかった。あたしもお父様と一緒にお花を摘みたい」

「ああ、行こう。今度は一緒に。お父様と花を摘もう」


 フローリアがトゥバルトの肩に顔を埋める。ロゼッタはそっと視線をそらした。


『ロゼッタ、寂しい思いをさせてすまなかった』

(――そうか。あの男は、わたくしにこういう反応を求めていたのね)


 遠い昔に封印したはずの記憶が蘇ってくる。
 視界の端に積まれたたくさんの贈り物たち。けれど、ロゼッタに渡されたのは金の全くかかっていない押し花の栞一つきりだった。

 ロゼッタは栞を一つ手にとって、自虐的な笑みを浮かべる。

 忌まわしい記憶のはずなのに、どうしてこんなものを用意してしまったんだろう? 考えながら、悔しさや悲しさで涙がじわりと滲んでくる。


「ロゼッタ様も、ありがとう」


 と、フローリアがロゼッタの側にやってきて、とびきりの笑顔を見せてくれる。


「――どういたしまして」


 必死に笑顔を取り繕ったものの、ロゼッタの手のひらに爪が強く食い込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】レイハート公爵夫人の時戻し

風見ゆうみ
恋愛
公爵夫人である母が亡くなったのは、私、ソラリアが二歳になり、妹のソレイユが生まれてすぐのことだ。だから、母の記憶はないに等しい。 そんな母が私宛に残していたものがあった。 青色の押し花付きの白い封筒に入った便箋が三枚。 一枚目には【愛するソラリアへ】三枚目に【母より】それ以外、何も書かれていなかった。 父の死後、女性は爵位を継ぐことができないため、私は公爵代理として、領民のために尽くした。 十九歳になった私は、婚約者に婿入りしてもらい、彼に公爵の爵位を継いでもらった。幸せな日々が続くかと思ったが、彼との子供を授かったとわかった数日後、私は夫と実の妹に殺されてしまう。 けれど、気がついた時には、ちょうど一年前になる初夜の晩に戻っており、空白だったはずの母からの手紙が読めるようになっていた。 殺されたことで羊の形をした使い魔が見えるようになっただけでなく『時戻しの魔法』を使えるようになった私は、爵位を取り返し、妹と夫を家から追い出すことに決める。だが、気弱な夫は「ソラリアを愛している。別れたくない」と泣くばかりで、離婚を認めてくれず――。

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

白い結婚は終わりました。――崩れない家を築くまで

しおしお
恋愛
「干渉しないでくださいませ。その代わり、私も干渉いたしません」 崩れかけた侯爵家に嫁いだ私は、夫と“白い結婚”を結んだ。 助けない。口を出さない。責任は当主が負う――それが条件。 焦りと慢心から無謀な契約を重ね、家を傾かせていく夫。 私は隣に立ちながら、ただ見ているだけ。 放置された結果、彼は初めて自分の判断と向き合うことになる。 そして―― 一度崩れかけた侯爵家は、「選び直す力」を手に入れた。 無理な拡張はしない。 甘い条件には飛びつかない。 不利な契約は、きっぱり拒絶する。 やがてその姿勢は王宮にも波及し、 高利契約に歪められた制度そのものを立て直すことに――。 ざまあは派手ではない。 けれど確実。 焦らせた者も、慢心した者も、 気づけば“選ばれない側”になっている。 これは、干渉しない約束から始まる静かな逆転劇。 そして、白い結婚を終え、信頼で立つ家へと変わっていく物語。 隣に立つという選択こそが、最大のざまあでした。

処理中です...