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【4章】大一番とロゼッタの真実
34.フローリアの欲しいもの
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ロゼッタはトゥバルトに連れられ、二階へと移動した。南側の角部屋の前に到着すると、トゥバルトが目配せをしてくる。
「フローリア、少しいいかな」
ノックをしてから、トゥバルトがそう声をかけた。すぐに「お父様?」と舌足らずな返事が聞こえてくる。ロゼッタは密かに深呼吸をした。
「お父様が隣の国に行っていたときのお土産を渡していなかっただろう?」
「お土産?」
ややして部屋の扉がゆっくり開く。現れた小さな女の子に、ロゼッタは瞳を輝かせた。
(なんて愛らしいの……!)
父親譲りの赤い髪と、雪のように真っ白な肌。大きな瞳は宝石のように輝いているし、フリルやレースがふんだんにあしらわれたドレスがとてもよく似合っている。フローリアはさながら人形のようだった。
「……誰?」
と、フローリアが怪訝な声を上げる。ロゼッタはハッと我に返った。
「お父様のお友達だよ。ロゼッタ嬢というんだ」
「ロゼッタ嬢? お友達?」
警戒心をあらわに、フローリアはドアの後ろに半分隠れてしまう。ロゼッタはフローリアの目線の高さにかがむと、そっと目を細めた。
「はじめまして、フローリア様。わたくしはロゼッタというの。仲良くしていただけると嬉しいんだけど」
「……はじめまして」
事前に予想をしていたものの、ロゼッタの存在は受け入れ難いらしい。
(当然よね)
ロゼッタは苦笑を漏らしつつ、胸にそっと手を当てた。
「フローリア、そういう態度はよくないよ」
「トゥバルト様、わたくしは構いませんわ。お願いですから、フローリア様を咎めないでください」
「しかし……」
ロゼッタがトゥバルトを見つめる。いつになく真剣なその表情にたじろぎつつ、トゥバルトは「わかったよ」と返事をした。
「お土産って?」
と、どうやら部屋の中に入ることは許されたようで、フローリアはドアをそっと開けて、二人を迎え入れてくれる。
「ああ、喜んでくれるといいのだが」
トゥバルトがそう言うと、後ろに控えていた使用人たちが大きな箱をフローリアの部屋へと運び込む。フローリアは特に驚くでもなく、その様子を受け入れていた。普段からこうしてたくさん贈り物をされることに慣れているのだろう。
(羨ましい)
密かにそんなことを思いつつ、ロゼッタはトゥバルトと一緒にフローリアの部屋に入る。ソファに向かい合って座ると、早速お土産の開封がはじまった。
「これは?」
「綺麗だろう? これは、隣国でたくさん採れる宝石だよ」
フローリアの髪色によく似た真っ赤な宝石のブローチ。これを身に着けると自分が別の誰かに変身できるのではないか――そんな乙女心と幼女心をおおいにあおる愛らしいデザインではあるが、お値段の方はちっとも可愛くない。ロゼッタの給金一年分がポンと飛ぶような代物である。
「ふぅん……」
フローリアはしばらくブローチを手にとって眺めていたが、やがてそれをテーブルの上にぞんざいに置くと「次は?」と尋ねてきた。
トゥバルトはそういった反応に慣れているらしく、笑顔で別の包みを開ける。
ピンクのドレスにエナメル素材のピカピカの靴、大きなリボンが真ん中にあしらわれたバッグに、隣国で流行っている人形やお菓子等など――けれど、フローリアは特に喜ぶ様子なく、淡々と土産物もとい貢物を受け取っていた。
(わたくしなら飛び跳ねて喜ぶのに)
トゥバルトと一緒に土産物を選んでいたロゼッタは、これらの品物にどれだけお金がかかっているかを知っている。愛情=お金という価値観を持つロゼッタには、トゥバルトがどれほどフローリアを大切に思っているか、愛しているかをわかっていた。
(けれど、フローリア様が求めているものはお金じゃないのよね)
そう思いながら、ロゼッタは思わず笑ってしまう。
お金を求めずにいられるなんて、なんて羨ましいのだろう。持っている人間だからこそ、そんなふうに思えるのだ。ロゼッタにはきっと、一生縁のない話だろう。
けれど、そんなロゼッタだからこそ、わかることもある。
「もうおわり?」
フローリアの反応を見ながら困ったように笑うトゥバルトを見つめつつ、ロゼッタは静かに身を乗り出した。
「フローリア様、実はもう一つだけトゥバルト様と一緒に用意をしたお土産がございますの」
ロゼッタはそう言って、自身の手帳から細長い紙をいくつか取り出した。
「なにこれ」
「押し花の栞です。花は隣国への道すがら立ち寄った街で一輪ずつ、摘んだり買ったりしたものなの」
「へぇ……」
それらは決して高価な花ではなく、道すがら見つけた野花だったり、花屋で見つけた愛らしい一輪といったもので、旅先でロゼッタの目に留まっただけの花々だ。
元々はフローリアにあげるために準備をしたわけではなく、旅の思い出になんとなく集めたものだったが、トゥバルトのお土産がお気に召さなかったときのために、こうして持参をしたのである。
「すっごく綺麗だね」
と、フローリアがポツリと言う。本日一番の好反応に、ロゼッタとトゥバルトは顔を見合わせた。
「気に入っていただけました?」
「うん。あのね、あたし、こういうの好きだよ」
フローリアはそう言って、栞を手にとって眺めている。ロゼッタは思わずガッツポーズを浮かべそうになった。
「――あたしもお父様と一緒に行きたかったな」
「……フローリア!」
トゥバルトはフローリアの元に駆け寄ると、フローリアを思いきり抱きしめる。
「寂しい思いをさせてすまなかった」
「……うん。寂しかった。あたしもお父様と一緒にお花を摘みたい」
「ああ、行こう。今度は一緒に。お父様と花を摘もう」
フローリアがトゥバルトの肩に顔を埋める。ロゼッタはそっと視線をそらした。
『ロゼッタ、寂しい思いをさせてすまなかった』
(――そうか。あの男は、わたくしにこういう反応を求めていたのね)
遠い昔に封印したはずの記憶が蘇ってくる。
視界の端に積まれたたくさんの贈り物たち。けれど、ロゼッタに渡されたのは金の全くかかっていない押し花の栞一つきりだった。
ロゼッタは栞を一つ手にとって、自虐的な笑みを浮かべる。
忌まわしい記憶のはずなのに、どうしてこんなものを用意してしまったんだろう? 考えながら、悔しさや悲しさで涙がじわりと滲んでくる。
「ロゼッタ様も、ありがとう」
と、フローリアがロゼッタの側にやってきて、とびきりの笑顔を見せてくれる。
「――どういたしまして」
必死に笑顔を取り繕ったものの、ロゼッタの手のひらに爪が強く食い込んだ。
「フローリア、少しいいかな」
ノックをしてから、トゥバルトがそう声をかけた。すぐに「お父様?」と舌足らずな返事が聞こえてくる。ロゼッタは密かに深呼吸をした。
「お父様が隣の国に行っていたときのお土産を渡していなかっただろう?」
「お土産?」
ややして部屋の扉がゆっくり開く。現れた小さな女の子に、ロゼッタは瞳を輝かせた。
(なんて愛らしいの……!)
父親譲りの赤い髪と、雪のように真っ白な肌。大きな瞳は宝石のように輝いているし、フリルやレースがふんだんにあしらわれたドレスがとてもよく似合っている。フローリアはさながら人形のようだった。
「……誰?」
と、フローリアが怪訝な声を上げる。ロゼッタはハッと我に返った。
「お父様のお友達だよ。ロゼッタ嬢というんだ」
「ロゼッタ嬢? お友達?」
警戒心をあらわに、フローリアはドアの後ろに半分隠れてしまう。ロゼッタはフローリアの目線の高さにかがむと、そっと目を細めた。
「はじめまして、フローリア様。わたくしはロゼッタというの。仲良くしていただけると嬉しいんだけど」
「……はじめまして」
事前に予想をしていたものの、ロゼッタの存在は受け入れ難いらしい。
(当然よね)
ロゼッタは苦笑を漏らしつつ、胸にそっと手を当てた。
「フローリア、そういう態度はよくないよ」
「トゥバルト様、わたくしは構いませんわ。お願いですから、フローリア様を咎めないでください」
「しかし……」
ロゼッタがトゥバルトを見つめる。いつになく真剣なその表情にたじろぎつつ、トゥバルトは「わかったよ」と返事をした。
「お土産って?」
と、どうやら部屋の中に入ることは許されたようで、フローリアはドアをそっと開けて、二人を迎え入れてくれる。
「ああ、喜んでくれるといいのだが」
トゥバルトがそう言うと、後ろに控えていた使用人たちが大きな箱をフローリアの部屋へと運び込む。フローリアは特に驚くでもなく、その様子を受け入れていた。普段からこうしてたくさん贈り物をされることに慣れているのだろう。
(羨ましい)
密かにそんなことを思いつつ、ロゼッタはトゥバルトと一緒にフローリアの部屋に入る。ソファに向かい合って座ると、早速お土産の開封がはじまった。
「これは?」
「綺麗だろう? これは、隣国でたくさん採れる宝石だよ」
フローリアの髪色によく似た真っ赤な宝石のブローチ。これを身に着けると自分が別の誰かに変身できるのではないか――そんな乙女心と幼女心をおおいにあおる愛らしいデザインではあるが、お値段の方はちっとも可愛くない。ロゼッタの給金一年分がポンと飛ぶような代物である。
「ふぅん……」
フローリアはしばらくブローチを手にとって眺めていたが、やがてそれをテーブルの上にぞんざいに置くと「次は?」と尋ねてきた。
トゥバルトはそういった反応に慣れているらしく、笑顔で別の包みを開ける。
ピンクのドレスにエナメル素材のピカピカの靴、大きなリボンが真ん中にあしらわれたバッグに、隣国で流行っている人形やお菓子等など――けれど、フローリアは特に喜ぶ様子なく、淡々と土産物もとい貢物を受け取っていた。
(わたくしなら飛び跳ねて喜ぶのに)
トゥバルトと一緒に土産物を選んでいたロゼッタは、これらの品物にどれだけお金がかかっているかを知っている。愛情=お金という価値観を持つロゼッタには、トゥバルトがどれほどフローリアを大切に思っているか、愛しているかをわかっていた。
(けれど、フローリア様が求めているものはお金じゃないのよね)
そう思いながら、ロゼッタは思わず笑ってしまう。
お金を求めずにいられるなんて、なんて羨ましいのだろう。持っている人間だからこそ、そんなふうに思えるのだ。ロゼッタにはきっと、一生縁のない話だろう。
けれど、そんなロゼッタだからこそ、わかることもある。
「もうおわり?」
フローリアの反応を見ながら困ったように笑うトゥバルトを見つめつつ、ロゼッタは静かに身を乗り出した。
「フローリア様、実はもう一つだけトゥバルト様と一緒に用意をしたお土産がございますの」
ロゼッタはそう言って、自身の手帳から細長い紙をいくつか取り出した。
「なにこれ」
「押し花の栞です。花は隣国への道すがら立ち寄った街で一輪ずつ、摘んだり買ったりしたものなの」
「へぇ……」
それらは決して高価な花ではなく、道すがら見つけた野花だったり、花屋で見つけた愛らしい一輪といったもので、旅先でロゼッタの目に留まっただけの花々だ。
元々はフローリアにあげるために準備をしたわけではなく、旅の思い出になんとなく集めたものだったが、トゥバルトのお土産がお気に召さなかったときのために、こうして持参をしたのである。
「すっごく綺麗だね」
と、フローリアがポツリと言う。本日一番の好反応に、ロゼッタとトゥバルトは顔を見合わせた。
「気に入っていただけました?」
「うん。あのね、あたし、こういうの好きだよ」
フローリアはそう言って、栞を手にとって眺めている。ロゼッタは思わずガッツポーズを浮かべそうになった。
「――あたしもお父様と一緒に行きたかったな」
「……フローリア!」
トゥバルトはフローリアの元に駆け寄ると、フローリアを思いきり抱きしめる。
「寂しい思いをさせてすまなかった」
「……うん。寂しかった。あたしもお父様と一緒にお花を摘みたい」
「ああ、行こう。今度は一緒に。お父様と花を摘もう」
フローリアがトゥバルトの肩に顔を埋める。ロゼッタはそっと視線をそらした。
『ロゼッタ、寂しい思いをさせてすまなかった』
(――そうか。あの男は、わたくしにこういう反応を求めていたのね)
遠い昔に封印したはずの記憶が蘇ってくる。
視界の端に積まれたたくさんの贈り物たち。けれど、ロゼッタに渡されたのは金の全くかかっていない押し花の栞一つきりだった。
ロゼッタは栞を一つ手にとって、自虐的な笑みを浮かべる。
忌まわしい記憶のはずなのに、どうしてこんなものを用意してしまったんだろう? 考えながら、悔しさや悲しさで涙がじわりと滲んでくる。
「ロゼッタ様も、ありがとう」
と、フローリアがロゼッタの側にやってきて、とびきりの笑顔を見せてくれる。
「――どういたしまして」
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