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壱、
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永久(とこしえ)の夏に、貴女はもういない。だからこそ生じる、儚げな海のようなめくるめく輝き。閃光を放ちながらやって来た夜になると思い出すことがあるのだけれど、それはとても恐ろしいものだから記憶に留めることが出来ないままなのだ。何か恐ろしいものに遭遇したような気がしているのだから当然であるとも云うことも出来るのだけれどもそのことが思い出せないというのは少し奇妙な話でもあるし不気味でもあるし厭になるのだがそれでも僕はその出来事について考えてしまうし思い出そうとしてしまうのだ。そのことは僕にとってあまり好ましいことでは無いように思うがしかしどうしても気になってしまうのだ。何故そんなにも気になって仕方が無いのかと云えばおそらくそれは僕の意識の奥深くにあるものがそれを強く求めているからであると考えることが出来るのではないだろうか。それ程までにその出来事に強い執着を持っているということになるのであろうか。そうだとすればこれはなかなか異常なことだと云わなければなるまい。何しろその出来事についての自分の感情やら想い出やらが一切無いというのにも拘らず僕はそれをひどく恐れていて切実に必要としているということらしいからだ。こんな風に書いてみるとまるで自分が幽霊のような存在になってしまったみたいだが勿論僕自身は正真正銘生きている生身の人間だし死んだ経験など一度も無いのであるがどうしたことか自分に関することについてはいくら思い出そうと試みても何も浮かんではこない上にそのことを疑問にも思わず平然と生活を送っているようだ。確かに僕はこの世のありとあらゆる事物に関心を抱いてはいないのだがそれにしても自分自身のことに関してはあまりに無関心すぎるのではないかと思わないでもない。たとえば先程の文章にしても本当に自分で書いたものであるかどうか定かでは無くて本当は誰かが書いたものを勝手に読んでいるのではないかという疑念さえ抱いているくらいだ。もしこれが他人によって書かれたものだとしたらいったいどのような内容のものなのか非常に興味があるところだ。まあ仮にそのようなことがあったとしても今の僕にとってはそれが誰の手によるものであろうと関係の無いことであるわけだが。そもそも僕の書いているものは僕以外の人間が読むことを全く想定していないものであるはずだからたとえ第三者によって書かれた文章であっても他の人間の目に触れることはないはずでありそれはやはり僕自身の言葉であるということになりそうであるとは云えそうなると今度は僕の頭の中でどんな言葉がどのようにして紡ぎ出されているのかといった事柄に関しての説明が困難となってくるわけで結局のところ誰にも分からないのではないかと思うのだ。少なくとも現時点では僕には分かる筈がないのであってそれはそれで大変興味深いことのように思える。つまり僕自身についてもまた不明な部分が多々あるということである。僕は僕自身についてはある程度知っているつもりであるのだがそれは全くの誤解であるという可能性も否定出来ない。僕はもっと知りたいと思っているし出来るならば知ることが出来れば良いなと考えている。例えば今こうして考えていることも実は僕の意思に基づいて行われている行為ではなくて何か目に見えない大きな力によって強制的に行われているのだとしたら如何なものだろうか。そう考えると今まで信じていた世界が全て嘘っぱちであったかのように感じられて来るではないか。尤もそれは全て想像上のお話で実際に起きているかどうかは別問題だと云うことはもちろん分かっているが、そうでも考えておかないとやってられない気分にさせられると云うだけの話だ。ところで最近気づいたことなのだが、僕は時々夢を見ることがある。それもかなり頻繁に見る方だと思う。夢の内容自体は至って平凡なもので、起きた時にはその内容をほとんど覚えていない。大抵の場合目覚めてからしばらくすると忘れてしまい、思い出すこともなくなる。しかしたまに妙に印象に残っている夢もあって、そういう夢に限って後になってから何度も繰り返し思い出すものだから夢の内容を反すうしていると頭の芯から次第に熱を帯びてきたようで次第にぼーっとしてきて気が付いた時には既に手遅れになっている場合が多いようなのだ。夢の内容はさも当然のことであったといわんばかりの調子でさらりと説明してあることが多いのでおそらく夢の方はちゃんと考えて描写してあったに違い無いと思う。しかし現実の方がそんな風にはならないのだから不思議なものだ。僕はその夢を思い返そうとする度にひどく恐ろしくなる。それは何故だと云うにまず僕にとっての夢は、現実とは異なるものであり、決して交じり合うことの無いものであったはずだからである。そして夢の中では、夢から覚めるということが起こる可能性など少しも考慮されていなかったように思う。それは果たして正しいことであったのか間違っていたことであるのかよく分からないがとにかく僕は夢を見続けた。見続けている間はずっとそのことを気にしていなかったようだが一度目が覚めてしまえば気になって仕方が無い。何故ならそこにはいつも悪夢ばかりが含まれていたからである。それは僕の身に起こる出来事だったり過去の出来事であったり未来の光景であったりしたのだがそれらは僕の意識下にあって常に鮮明に浮かび上がっていたわけではない。むしろほとんど消えかかっていたと云っても過言ではない。ただ時折ふとした拍子に再び浮かび上がることがある。しかもそれらの出来事はどれもこれも僕の記憶には残っていないものである。僕はそれらを懐かしみあるいは恐れたりするのだがその時の感覚だけは今もなお鮮やかに思い返すことが出来るのである。こんなことはおかしいと思われるかもしれないのだが実際そうだとすれば一体何が原因で起こっているのかということについて述べておくべきであろう。
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