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一生の中で知られたくない黒歴史。

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 親戚のおばさんが言ってた。

 部屋の中で天井の四隅を見てはいけない。

 四番目の隅にこの世のものでは無いものが居るから。



 親戚のおばちゃんが夏休みに泊まりに来て小学生の僕を怖がらせようと話してくれた怖い話。

 大人になってもたまに思い出す。

 何気に嘘だと思っても天井の四隅を順番に見たりはしない。

 怖いからじゃなく、ただただ、何となくね。


 恥ずかしい話。


 お尻をやっちゃった。
 まさかの痔だ。


 朝寝坊して家を出ようとした時、よりによって便意がね~。

 最大圧力で噴出したら…。

 お尻の穴がビリっと裂けた。


 それで恥ずかしながら肛門科にお世話となり今現在手術の為に入院中。


 毎度ながらの便意はこれまで通りに訪れる訳でその度に地獄の痛みと出血。

 早く手術して完治させたい!させねば!


 病室は4人部屋、話題はそれ系。。話したくも無い会話。

 この病院食事が酷い。

 3食全てにサザエのつぼ焼きが出る。

 しかも、デカイ。

 しかも、2個。

 看護師が必ずサザエの腹わた部分も残さず食べたかチェックする。

 拷問だ。


 何故食べなきゃいけないか聞くと。

 血を増やす為だと。

 そりゃ毎日、鮮血しとりますが貧血になる程では無いのだけどね。

 囚われの身では従うしか無い。


 我慢、我慢、多分一生分以上ののサザエのつぼ焼きを喰わされるから退院したら死ぬまで喰うものか!

 と決意を毎食時にする。


 慢性の痔のおっさんが窓際に陣取っている。

 ここで大将風吹かせてもね~とは思いながら有難い病院ライフ法を色々ご指南頂く。


 新人の看護師が来ると注射の練習で採血をさせてあげると若い看護師と仲良くなれるとか。

 凄く凄く仲良くなると当直の時には夜中に遊びに来てくれる。

 も~うおじ様干枯らびちゃう!

 と羨ましいと全く思わない話を色々としてくれる。


 僕の入院も1週間の予定。

 ちょうど盆休みが重なり仕事への影響も無いし。

 色々とここのライフも楽しませて貰うよ。


 2日目の晩、大将おっさんの言う通り新人看護師が遊びに来た。

 少し羨ましいな。

 朝からテンション高い大将おっさん。


 3日目から盆休みと重なった。

 サザエのつぼ焼きが3個になった。

 お盆特別セールか…。

 冗談じゃ無いよ!

 もうそんなに喰えない。


 朝、大将おっさんの顔色が青い。

 おっさん採血させすぎじゃないかい!


 4日目の晩、また新人看護師が遊びに来ている。

 ハイハイと毛布を被り眠る。

 真夜中、月明かりで窓が照らされる中、大将おっさんのベッドの横に人影。

 また来てるのか!

 咳払いしてやる。

 人影がフワッと消える。

 えええええええ、出口側の僕の前を通った気配は無かった。

 まだ、部屋に居る。

 気配を感じる。

 ベッドの下に潜ったか?

 どの新人看護師が夜中に来てるのか顔が見てやりたくなった。

 下を覗く。

 居ない。


 うーん、おっさんの布団の中か~。

 明日は手術日だから興奮でどうせ眠れないので徹底的に捜索だ!

 おっさんのベッドまで行って布団を捲る。

 居ない


 でも気配はするんだよ。


 何の気なしに天井の四隅を順繰りに見てしまった。

 1隅目。

 2隅目。

 3隅目。

 4隅目~なんだなんなんだあれは!

 隅にへばり付いている人の様な人影。

 月明かりが雲間を抜けて4隅目を照らす。

 口から長い舌を垂らした白髪の老婆が此方を睨んでいる。


 目線が合ったまま動けなくなった。


 シュルシュルと舌が伸びてきて僕の耳の穴に侵入してくる。

 ジュルジュルと何かが吸われる音が鼓膜の内側から聞こえる。


 朝、当直の看護師が病室巡回に来て悲鳴をあげる。


 僕が頭を乾燥イチジクのように干枯らびさせて倒れている。

 そして大将おっさんも真っ青な身体で事切れていた。


 古株の婦長が病室の入り口で呟く。


「今年の盆は血が足らなかったようだね~、全て吸い尽くすとはね、サザエのつぼ焼き4個にしときゃ良かった」
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