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第1章

◇追放されました

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『あなたは今日から護国聖女よ。ミシュリーヌ』
 今から三年前、私ミシュリーヌ・アルザイドは先代聖女に任命されこの国で名誉職とも言われる護国聖女となった。護国聖女とは、聖魔法に長けていて治癒や浄化はもちろんのこと国中に大きい結界を張ったり解毒をしたりできる聖女のことをいう。
 護国聖女になり三年、私は毎日の日課であるお祈りを教会にて今日も行おうと準備をしていると「おい」と男性の嫌いな声が聞こえてきた。
「……レーリス王太子殿下、どうされたんですか?」
「大事な話があるから来たんだよ。それ以外でくるわけ無いだろ」
 レーリス・モリス王太子殿下はこの国の王太子殿下で私の婚約者だ。護国聖女と王太子は結婚するのが習わしで私もその習わし通りに婚約し春には結婚予定だ。
「そうですか、用件はなんでしょう?」
 私はレーリス殿下に問いかける。ふと彼の横を見ると、そこには見覚えのある令嬢が殿下の腕に自分の腕を絡ませていた。
「ミシュリーヌ・アルザイド。お前との婚約を破棄させてもらう! 俺は、このリリィと婚約する!」
 リリィというのは私の父方の従姉妹であるリリアンヌだった。
「はぁ……そうですか。畏まりました。国王陛下は了承されていることなのでしょうか?」
 この婚約は聖女を後世に残すという目的もあるし、それに王命により交わされたものだ。はい、破棄しまーすというだけでは婚約破棄は無理なのだ。国王陛下が了承すれば別の話だが……
「父上は、今公務でいないから了承はされていない! だが、真実を言えばリリィを認めてもらえるに違いない!」
「真実、ですか?」
「お前は、聖女の力があるリリィを押し退け聖女見習いになり母上を誑かして護国聖女にまで登りついたんだろう!」
 え……? リリィに聖魔法が、あるの?
 初耳だわ……
「私は王妃殿下であり大聖女様に任命されただけのことです。自ら護国聖女になったわけじゃ――」
「口答えをするな! 王族を騙した罪でお前は国外追放にする!」
 国外追放ねぇ……この王太子がやりそうなことだ。バカだもんな、この人。
 この人何も知らないんだな、と改めて思う。それを思ったのは私だけではないはずだけど、王太子に逆らうわけにはいかないからみんな話さない。
 だって、護国聖女って大聖女が任命しないとなれないんだもの……まぁ、いいか。このバカ王子とお別れできるのなら!
「承知いたしました。すぐに出ていきますね」
 こんなにすぐ了承するなんて思わなかったからかなぜか悔しそうだ。どうせ、泣いて縋ると思ったんでしょうけど。
 私は護国聖女しか着ることのできないローブを脱ぎ、カーテシーをしてこの場から立ち去った。


 ***


 私は教会を出ると、自分が住んでいる部屋に一旦帰った。出て行くにしても荷物をまとめなくてはいけない。
「こうなってもいいように荷物はまとめておいたんだけどねぇ」
 少し膨らんでいるカバンを持ち外に出るとそこには教皇が待っていた。
「ミミ様、先ほどはお守りできませんで申し訳ありませんでした。本当に出て行かれるのですか?」
「えぇ、殿下にそう言われてしまったもの。出て行くしかないわ。教皇にはとてもお世話になったのにこんな形で去ることになってしまってごめんなさいね」
「そんなミシュリーヌ様、頭をあげてください。あなたが悪いのではありません。ですが、これからどちらにいかれるんですか?」
「そうですね――」
 どこにいきましょう、と言いかけた時言葉を遮られる。遮った主は、今まで護衛をしてくれていた騎士様だ。
「お迎えに参りました、これからあなたを国外にお連れします」
「そうなのね、ありがとう」
 そう言えば私は教皇様に挨拶をすると、彼らに付いて住み慣れたこの場所から出ることになった。
 騎士様に連れられ馬車に乗る。彼らは何を思っているのかわからないが、いつもと同様黙っている。王太子に何を言われたのかわからないが、戸惑っているように思える。
「聖女様」
「もう聖女じゃないわよ、そうね……罪人というところかしら?」
「……っそんな! 聖女様は聖女様です。今まで助けていただいたのに、俺は何もできなくて申し訳ありません」
 彼は頭を下げる。騎士団の中でもエリートと呼ばれる彼は、去年結婚して先月には子供が産まれたと言っていた。家族がいるんだもの当然だ。ここで反論したら、王太子に何をされるかわかったもんじゃない。
「いいのよ。あなたも元気で奥さんと仲良く暮らすのよ」
「ありがとうございますっ……俺、一生ミシュリーヌ様のこと忘れませんから」
「ふふ、ありがとう」
 走っていた馬車が止まり御者が「つきました」と言えば馬車の扉が開く。そこには森が広がっていた、真っ黒な森が。
「ミシュリーヌ様、本当に行ってしまうのですか」
「もちろん。これくらいの森、私には大丈夫。だからあなたは帰りなさい」
「はい、ではお元気で」
 騎士と御者は私を置いて王宮へと去っていった。馬車が見えなくなると私は森の奥へと足を入れた。そして自らが張っていた結界を全て解くと私は国境をこえた。
 生まれ育ったモリス王国から、隣国のケイトン大国へ。
 これは理不尽に追い出された聖女が隣国で幸せになる物語――
  
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