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第三章

なぜここにいるんですか?

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 翌朝、十時。私は朝ご飯を食べるとすぐに部屋に篭った。
 子供染みているとは思うが、これくらいしないと分かってくれない。今までは何でもしたがってきたが、これだけは譲れないのだ。私は、恋愛結婚がいい。
「彩葉! 早く出てこないか!」
「あと少しで来ると言ってるだろう!」
 叫ぶ声が聞こえているが、私は無視を通すつもりだった。だけど、お母さんの声が聞こえて嫌な冷や汗が出た。
「町中の人が知ってるのよ……世間体も悪いし、ね? お願い、彩葉」
 どこまで自分勝手なんだ、町中って……どうせお母さんが主婦仲間に話したのだろうけど。まだ結婚するわけでもないのに、言うのよ!
 私は……っ
 そう心の中で言った時、スマホが鳴り響いた。そこには、【伊織さん】と表示されている。
「……もしもし、彩葉か?」
「うんっ伊織さん」
 伊織さんの声だ……一日離れていただけなのに懐かしくて、泣きそうになる。
「彩葉、待ってて。もうすぐ着くから」
 え? もうすぐ、着く……? 伊織さん、ここに向かってるの?
「話は後だ。だから待ってて」
「えっ、ちょっと……伊織さん?」
 何が何だかわからないまま、電話が切られた音が耳に響く。この家に向かってるなら、下に降りよう……そう思ってなぜか伊織さんが可愛いと言ってくれた服を着て下に降りた。すると、ちょうどお見合い相手がやってきてしまった。
「おお! やっと降りてきたか!」
「初めまして、彩葉さん。私は佐久間と申します」
 そこにはお父さんの好きそうな系統の男性が立っていた。いかにも真面目そうで、堅物そうな男性……私の苦手なタイプだ。


 ***

「婚約破棄されたのは残念でしたね……僕はそれでも構いません」
 お父さんと佐久間さん、佐久間さん両親は二人だけで話を進めていて何も言えなくなる。
「彩葉、どうだ。彼、いい青年だろう」
「あはは、そうですね。私はタイプではないんですが」
「な、何を言ってんだ! 佐久間くんに失礼だろう?」
「私は佐久間さんとは結婚できません」
 本当に、伊織さんはやって来るのかな……私実家の場所教えたかな。
「それはなぜ?」
「私は……私には、好きな人ができました。その人は婚約破棄されて傷ついた私を助けてくれた人です」
「……本当にその人のことが好きなんですね」
 うん、好き。
 そういえば、なんで伊織さんはここにやってくるのだろう。やっぱり雇い妻が必要なんだろうか。
「そんなの許さんぞ! 第一、東京の男なんぞ信頼できん――」
 そうお父さんが感情的になって来た時、インターホンが鳴った。玄関から「こんにちわ」と毎日聞いていた低い声が聞こえた。
 お母さんが立ち上がり、玄関へ行ってしまった。伊織さんだ……そう思った時、客間にスーツをしっかり着た彼が立っていた。
「伊織さん……何でいるんですか?」
「さっき連絡しただろう? もうすぐ着くって」
「確かにそうだけど……」
 そうだけど、本当にここに来るとは……。
「何なんだっ、君は」
「申し遅れました。東京のさくらファミリー総合病院の医師をしております葛木伊織と申します」
「お医者さま……?」
「ええ。彩葉さんとは一緒に仕事をしていました」
 伊織さんは営業スマイル全開の表情だ。私の両親がいるからなのかな……? 
「それで何のようだ」
「はい。私、今日は求婚しに来ました」
 ……え?
 伊織さんは私の方を向くと、片膝をつき花束を私に差し出す。
「藤本彩葉さん、君は俺の女神です。癒しです。俺と結婚してください……俺は、君が好きだ。一緒に生きていきたい」
「……!? っ……」
「本当は東京で、プロポーズするつもりだった。だけど彩葉が勝手に帰っちゃうし焦ったよ」
 あれは、本当だったの? 前、好きだっていったのは。
「返事は?」
「伊織さん、お願いします。私を――」
「待て待て!」
 ……ここはハッピーエンド、といきたいとこだけど。空気読めないのがお父さんだ。
「そんなこと、許せると思ってるのか!?」
「私は、伊織さんが好きなの!」
「佐久間さんに失礼だろ!?」
 ギャァギャァと二人で言い合っていると、佐久間さんのご両親が口を開いた。
「めちゃくちゃ素敵じゃないですか、娘さんのこと女神だなんて!」
「いや、でも……」
「僕も好き同士両思いなら、引き裂くことは出来ません。こんなロマンチックなシーンも見させていただいて、こちらも幸せな気分になりました。ね、父さん」
 佐久間さんは、佐久間さんのお父さんにも振った。
「えぇ、そうだな。とても素敵で、感動しました。こんな熱いプロポーズ……本当にいい場面に立ち合わせて貰いました」
 何故か三人とも、私たちをニヤニヤして見てくる。
「お義父さま、お義母さま」
「な、なんだっ」
「絶対に幸せにします。悲しい思いはさせません」


「……もう、帰っちゃうの?」
「はい、明日は午後から仕事なので」
 ――無事、結婚の許しをもらえた私と伊織さんは夕飯をご馳走になり帰ることになった。
「それに、彩葉さんとの時間が欲しいので」
 そうはっきりと言うと、お母さんはキャッキャ言っていて「次は赤ちゃんの報告待ってるわね!」なんてテンション高めに言っているし……
「それでは失礼します」
「じゃあ、お父さんお母さん。また来るね……佐久間さんも本当に申し訳ありません」
「いいのよ~ふふっ」
「そう言えば、ホテルどこに泊まるの?」
 そうだよ、ホテルはどうするんだろう……。
「駅前にあるホテルクリスタル京都に予約しました」
「えぇ!? クリスタル?」
 ホテルクリスタル京都は、この辺じゃ高級ホテルって有名で一度は泊まりたいナンバーワンだよ。
「はい、何か変かな」
「伊織さん、そのホテルすっごい高いよ」
「あー……そうだね。でも、俺お金持ってるし使わなきゃだよ。あんまり使わないし、使うのは彩葉のためがいい」
 えぇ……なんだか、伊織さん甘い。前から甘かったけど、なんだか好き好きアピールされてる気がする。
 そして、実家から出ると伊織さんのマイカーがあってそれに乗り込んだ。

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