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エピソード1 -勘違いに気づかず、何もかもがうまくいかない1日になるでしょう。-
scene1 〔 子梅 〕
しおりを挟む地球に生存する人間は大きく2つに分けられる。分類方法は簡単、ズバリ『都会人』と『田舎っ子』だ。
「大都会東京、ついに上陸だ────!!!」
そして彼女───本田子梅は圧倒的後者に分類される生粋のド田舎っ子である。
改札口を埋め尽くすSuica陣に圧倒されること10分、無事切符を改札機に通した子梅は大きく伸びをした。
思い返せば村を出て実に二十時間、色々な苦労と感動に満ちたドラマがあった。
島を出るフェリーに乗り遅れ、波止場で待つこと五時間。その日に港を出る船はもうないと知り、失意に明け暮れていた時、船に乗せてくれたのは顔も名前も知らない漁師だった。
本当にありがとう。
そしてまたあるときは、新幹線が真逆の方面に向かっていると知り、絶望した。そんなわけで中国地方からスタートしたヒッチハイクの旅。半日以上かけて新幹線に乗れる駅を見つけ、ついにたどり着いた大都会、東京。
荷物でパンパンになったリュックサックを背負い、オーバーオールに身を包んだ子梅はこれまでの長い長い道のりを思いだし、思わずハンカチを目のところで押さえた。
この度重なる苦労はやがて映画化され、全米が感動の涙に包まれてもおかしくないような代物だが、その全貌はまたいつか機会があれば順を追って紹介することにしよう。
それにしても──
「ここどこだろ?」
新幹線に乗ってきたのだからどこかの駅であることは間違いないはずなのだが、持ち前の方向音痴と土地勘の無さに阻まれて周りが全く見えていない。それ以前にここは駅なのだろうか。
子梅の馴染み島に駅などと言うものはなく、バス停と言えば、野良猫たちの憩いの場であり、二年ほど前の枯れ葉で覆われた床は、三日に一本やってくる隣町行きのバスが通る度にカサカサと揺れてやけに怪しげなバスのタイヤが軋む音が響く、そんな場所だ。
島には町が二つしかないため無論、時刻表などというものはない。波止場へ向かうバス中にも人影は一切無かった。
それに比べてここは──
まぁ良い。まずはこの駅から出るのが先だ。出口が複数個あるのは多少気になるが、今かまうものではないのだろう。
馴染みの村ならポツポツと建っている民家の戸を叩けば村の過半数を占めるお年寄りが出てきてくれるのだが、さすがの大都会東京といえど、その便利機能は搭載されていないだろう。
仕方ない。東京の人は冷たいとどこかの誰かが言っていたような気もするが、この際ものは試しだ。
駅を行く人は皆、忙しそうに子梅を追い越していく。声をかけたりしたら迷惑かもしれない。駅のど真ん中でパンパンのリュックを背負い、つっ立っている時点ですれ違う人々には多大な迷惑をかけているのだが、それに気づかない子梅はベンチの横で時間を確認している男に声をかけてみることにした。
「すみませーん」
イヤホンを外して顔をあげた途端のマスクの上からでも感じ取れるあからさまな『誰だこいつ』感に一瞬、人選ミスを感じたが構わず続ける。
「あっ、あの、駅から出るにはどうすれば良いんですか?」
「は? ──あぁ君が、なるほど。取り敢えず着いてきな。」
男は手に持っていたスマホを一瞥した後、仏頂面を無理にひきつらせてそう言った。(──それが彼なりの笑顔だと分かるのにかなりの時間を要したことは彼には秘密である。)
「じゃあ、この近くにカフェがあるから、そこでお茶でも。」
ん?
微妙な風の吹き回しに戸惑ったのも束の間、男は既に腰を上げていた。となれば当然、良い意味で裏切られた期待に任せて男についていくことにしたのだった。
彼女は気づかなかった、これが東京での新生活の大きな転機となることを。
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