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エピソード1 -勘違いに気づかず、何もかもがうまくいかない1日になるでしょう。-
scene2 〔 ユキ 〕
しおりを挟む地球に生存する人間は大きく2つに分けられる。分類方法は簡単、ズバリ『待ち合わせ時間よりも前に待ち合わせ場所に着く者』と『待ち合わせ時間に家を出る者』だ。
因みに彼は前者であり、後者の輩とは一生分かり合うことはないだろうと思われる。しかし───
約束の時間を過ぎ、はや二分。一向に待ち人がやってくる気配はない。『かなり癖があるやつらしい』と聞いていたため、一応下調べはしてきたものの、相手が来ないのでは話にならない。
今までもは駅での待ち合わせは何度か行ったことがあるが、これからメンバーとして一緒に活動していく自分を待たせる者にはロクなやつがいなかった。先行きが不安である。
もしや、駅で迷っているのだろうか。
改札口の出てすぐのベンチに座っている、紺色のパーカーのフードを目深に被った男と伝えたはずだが、同じような特徴を持った者など駅にはたくさんいるのかもしれない。
もう少し目立つ格好をしてくるべきだったな──
高橋ユキは軽く舌を打った。
いけない、いけない。人間関係は第一印象が大切なのだ。今のような行動をこれからチームメイトになる者に見られた暁には『短気で面倒臭い輩』というレッテルを貼られることになる。
ユ○クロで購入したパーカー、どこにでもありそうなジーンズ、100均で手に入れたお徳用十四枚入りのマスク、どこから見ても健全で一般的な男子高校生だ。
ユキはもう一度腕時計を確認した。あれから既に三分が経過している。
待ち人についてわかっていることは、とあるサイトで『梅小路』と名乗っていることと、ショートカットだということぐらいだ。広い駅でその程度の情報を便りに人探しをすること自体が無謀だといってしまえばそれまでなのだが、やはりそれらしき人は一向に現れない。これは一旦本人にメールを送って確認をとってみようか。そう思い、ポケットからスマホを取り出したその時───
「すみませーん」
後ろから声をかけられ、イヤホンを外す。そこに立っていたのは、世界地図を片手に、荷物でパンパンになったリュックを背負い、明らかに時代遅れなオーバーオールに身を包んだ、高校生とおぼしき人物だった。
──誰だ、このダサ女は...
「あっ、あの、駅から出るにはどうすれば良いんですか?」
女は少し大袈裟に首を傾げて真ん丸い目を瞬きした。
駅から出る?そんなの聞くまでもなく出口があるではないか。
そこのエスカレーターに乗れば出口がありますけど、と後方を指差そうとして嫌な予感が脳裏を過った。
ま、まさかこいつが...。
そんな訳がない、と必死に信じ込もうとする一方で、『これだけの人が駅にいるにも拘らず、ただ単に出口の場所を知りたいだけの人がこのいかにもコミュ障っぽい男に話しかけるとは考え難い』という冷静な考えをもつ自分がいる。それに『かなり癖があるやつらしい』というあいつの言葉...
ユキは慌ててスマホのメールを開き、それを掲げて目の前にいる田舎っ子と見比べた。メールの文面はかなり今どきの高校生を思わせるが、目の前にいる女は駅からの出方も知らない超非常識な輩だ。
ショートカットという点は共通しているが、切れ長の瞳はほぼ対照的と言える。
──どうすれば良いものか...。
頭を抱えていると、ふと彼女の首からぶら下がっている鍵が目に留まった。と、同時に浮かんだのは『新しく買った鍵型のブレスレット、お気に入り♡』というメールの文面。
鍵型のブレスレット...というよりはただの家の鍵にしか見えない。
しかし、ブレスレットにせよ家の鍵にせよ、首からぶら下げている人はかなり少数派だろう。となると、認めたくはないがこいつがチームメイトになるやつということだろうか。いや、これは十中八九間違いないと見ていい。『思ってたのと違う感』は否めないが現実なのだ。
しかし、ユキはこんなときに名案を思い付いてしまった。
この時点でまだこの田舎風女は駅の出口を聞いてきただけだ。つまり、ここで出口を教えさえすれば、ここでおさらばできる可能性もある。もともと今日は単なる顔合わせ程度だっだのだから、こいつも待ち人が来ないとわかれば諦めて帰ってくれるだろう。うん、我ながらに名案だ、これでいこう。
しかし──
ユキのなかで天使がささやく。
このまま別れてしまってもいいの?待ち合わせをすっぽかすなんてあなたの道理に反するわ。しかも、すぐに諦めて帰ってくれたらいいけれど、ずっと来るはずのないあなたを待ち続けるかもしれないのよ。そんなのかわいそうだわ。
それに彼女をよく見てごらんなさい。オーバーオールにガタガタの前髪は少しダサいけど、意外と整った顔立ちをしているじゃない。ここでお別れなんてもったいないわ。
──ならどうすれば...
しかし、じっくり検討する時間は無かった。彼女が待ち人と無関係だったとしたら恐ろしいほどのタイムロスになるが、チームメイトなのだとしたら、こんな挙動不審とも言える行動をとるわけにはいかない。それに、天使の言う通りこのまま待たせるのもかわいそうな気もする。
腹は括った。
「じゃあ、この近くにカフェがあるから、そこでお茶でも。」
優しく微笑んだユキは重い腰を上げたのだった。もうどうにでもなれ。
そんなユキは知らない。二人がベンチを去った2分後、ギターを抱えたショートカットの今どき女子校生がやって来たことを。
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