俺が思ってたバンドLIFEはこんなはずじゃなかった!

さくもも

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エピソード1 -勘違いに気づかず、何もかもがうまくいかない1日になるでしょう。-

scene9 〔 子梅 〕

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 カフェに来てから約三十分が経過した。
 目の前では、相変わらずユキが彼女との出会いについて幸せそうに語っている。彼女がデートに遅刻してきてどーだこーだと文句を垂れているが、どうせ最終的には『そんなあいつがやっぱ好き』的なノロケ話といったところだろう。
 まったく、しょうがない奴だ。こっちが本気で聞いているとでも思っているのだろうか。
 一方の鉄男は、期間限定ウルトラフルーツパフェスペシャルのメガ盛りをもくもくと口に運んでいる。はじめは喜んでパフェを運んでいた店員も、3回目あたりから化け物をみるような目で『お、同じのをもうひとつ...ですか?』
 一体いつになったら駅から出れるのだろうか?

 子梅は気分転換に備え付けのバルコニーに出た。無論、熱弁を続けるパーカー男とパフェのおかわり5杯目をジュースのように飲み干す筋肉男は気付く素振りも見せない。それはそれで何か悲しい。
 新鮮な空気を吸った子梅はパンパンに膨らんだリュックの中から丁寧に丸められたポスターを取り出した。『アマチュアバンドコンクールファイナリストの彼らがついにワンマンライブ実現!』という文字。
 彼女はポスターに描かれた文字と柄をじっくりと眺め、ニンマリと片頬を上げた。


 説明しよう。
 子梅が15年間暮らしてきた村、というのはいわゆる過疎地域である。そのため、若者が都会へ出ていくことはあっても、都会から人がやってくるということは極めて少ない。成人した若者たちは皆、職を求めて都会へ旅立ち、村には六十歳を過ぎたお年寄りばかりが残ってしまうため、子供も増えず、典型的な限界集落の完成である。
 子梅の村の人口も十年前と比べると約七割ほどまで減ってしまった。このままではこの村は廃村になってしまう、そう考えた村長が打ち立てた対策はこうだ。
 義務教育を終え、中学を卒業した少年少女を憧れの東京に送り出す。無論費用は全額村の負担だ。
 しかし、彼らにはひとつ条件が課せられている。それは、学業を終えたら、何かしらの成果と人材をもって絶対帰村することだ。自営業で成功しそうな友達、介護福祉に興味のある青年団体、何でもよい。結婚して子供を連れて帰ってくるのでもよい。

 中学校を卒業したばかりの子供が東京なんて危険ではないのか?と思うかもしれないが、村を出たものは3~7年間皆、郊外で暮らしている訳であり、3分も歩けば同様の経緯で暮らす村民がいるほどなので、ほとんど防犯対策をしていない限界集落で暮らすよりもある意味安全なのである。

 無論、この政策は今年から始まったわけではなく、偉大なる先輩方も憧れの地、東京で地元のPRに勤め、結果を残して村へと帰ってきている。

 しかし、いつしか課された条件を忘れ、そのまま連絡が途絶えてしまった住人少なくない。よって村の人口は村長の考えていたようには伸びず、ついには今年、高校生は子梅一人となってしまったのだ。
 高校生と言えど、やはり一人暮らしとなれば思いは変わるもの、やはり都会に出てしまえば村に帰ってくることはないのではないか。

 村人からそう指摘を受け、政策中止に傾きかけていた村長に直談判を持ちかけたのは、他でもない、子梅だった。
 新しい人材と技術を村へ持ち帰り、絶対に限界集落の建て直しに尽力する───村長にその熱い胸の内を語り尽くしたのである!
 表向きは。

 実は彼女には今、村の建て直しうんぬんよりも500倍力を注いでいるものがある。それがアマチュアバンドコンクールだ。
 とある動画サイトでは、バンド活動を行っている素人が集い、一年に一度コンクールを開催している。出展しているのはお世辞にも有名とは言えないマイナーバンドばかりだが、みごとグランプリに輝けば、ワンマンライブの枠を掴むことができる。
 そんな目標に向け、努力する彼らに、一目で感激し、田舎にいながらも翌日には名古屋で行われるコンテストのライブを予約していた。
 それからというもの、子梅はコンテストについての情報を片っ端から集め、イラストを見つけてはコピーし、特製のファイルやらうちわを作ったし、もちろん応援歌も作った。
 しかし子梅の愛はそれだけに留まらず、ついに東京に出て彼らへ声援を送りたいという気持ちが爆発した、という訳なのである。
 ちなみにこの子梅の行動をヲタクと言う輩を彼女が許すことは皆無である。

 しかし、東京に来たからといってすぐに彼らに会えるわけではない。サイト自体がそこまで有名ではなく、特に活動が知られている訳ではない素人ばかり、ただ闇雲に探し回っていても見つけられる可能性は皆無だろう。子梅がその事に気づいたのは、カフェに着いて約三十分が経過した、今なのであった。

「どうすればいいものか...」
バルコニーからカフェの室内に戻ると、ユキと鉄男が何やら話しているのが聞こえた。
「おい、本当にこんな女でいいのか?俺が目指してたアマチュアバンドコンクールにこんなド素人のメンバーがいるバンドは参加してなかったぞ??」
アマチュアバンドコンクール⁉なぜユキの口からその言葉が出てきたのだ⁉


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