俺が思ってたバンドLIFEはこんなはずじゃなかった!

さくもも

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エピソード1 -勘違いに気づかず、何もかもがうまくいかない1日になるでしょう。-

scene8 〔 ユキ 〕

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「──お客様?あの、こちらの方でよろしいですよね?」

やって来た二人の新メンバー、お盆と注文表を片手に困惑した表情で三人を交互に見る店員、絶望感を隠しきれないユキの四人の間には、実に微妙な空気が流れていた。

 さんざん待ったあげくにこんなやつらと待ち合わせしているのかと思われている、できることなら赤の他人のふりをしたいところだが、この距離まで来てしまった今、そういうわけにもいかない。
「や、やぁ、初めまして。僕が高橋ユキ...だよ。...取り敢えず場所を変えて話し合おうか。」

 こういう時は退散するに限るのだ。
 『貴様何帰ろうとしとんじゃ、せめてそこの巨人だけでも置いていけ‼』という視線を痛いほどに感じながら三人は店を出た。この周辺のすべての店のブラックリストに『高橋ユキ』という名前か綴られる日も、そう遠くはないのかもしれない。


 もうひとつ解ったことがある。腹筋男は置いといて、この坂本という少年、悪いやつではなさそうなのだが、ユキとかなり相性が悪いということだ。
 現在、場所を改め、パンケーキ専門店にて軽い顔合わせが行われている状況だ。
「は、初めまして。坂本竜麻です。一応ベースやってます...はい」
「さ、坂本くんっていうんだ。竜麻って、あの、その、かっこいい名前だね...」
「あ、どうも。坂本でいい...よ」
「じゃあ、坂本って呼ぶ...ね」

「......なんか食べます?」

...なんだ、この尋常じゃない気まずさは。
 すでに前の店でコーヒーを飲んでいるユキはメロンソーダ、それを知らない坂本はコーヒー、鉄男は期間限定ウルトラフルーツパフェスペシャルのメガ盛りを注文し、一通りの自己紹介を済ませた。
「で、どうします?今後の練習や打ち合わせは」
 いや、ちょっと今後の練習については考えさせてくれ。というかこのメンバーで活動していくことについてもちょっと考えさせてくれ───ユキがそう言おうとしたとき、
「来週あたりにここのパンケーキ屋で打ち合わせってことでいいんじゃないか?」
「そうですね」
 ちょ、ちょっと待ってくれ───
『LINE交換しときます?』『メールじゃ面倒だしそうするか』『じゃあ今度から連絡はLINEってことで』『本当に大丈夫なのか?』『.....多分』『でもまあ、大事なのは演奏経験ってもんだからな。』『き、きっと彼だっていつもはこんな草食系男子の鏡みたいなカッコしてるけど、ギターの腕前はそれなりにあるんですよ』『おぉ、そーなのか』
 坂本と鉄男の間で勝手に話が進められていく。
「じゃあ、よろしくな」
鉄男が突然握手を求めてきた。
 この右手を握ったらもうメンバーと認めたことになってしまう。直感的にそう感じ、苦笑いだけで済ませておこうと思ったのだが、その時には既に遅かった。
 彼の手の骨はいつの間にか鉄男の右手の中でボキボキと音をたてていたのだった。
「........。」


「次の予定があるので失礼します」
ユキはもう一人のメンバー候補と会うため、席を立つ。
 はっきり言って恐ろしいほどの尺の無駄遣いであった。これならまだ、泣く泣くカットになった鉄男の熱い熱い友情物語を原稿用紙300枚分に渡って書き連ねていた方が良かったのではないかと思うほどに。
 坂本が一応ついていくと言ってくれたが、必然的に鉄男もセットということだったので全力でお断りさせていただいた。
 せめてもう一人のメンバー候補だけでもまともなやつであってくれ...。ユキは普段信じもしない神様にこんな時だけ祈りを捧げて駅へ向かった。


 結果的に言えばユキの期待は完全に裏切られた。神様の嘲笑いが聞こえてくるようだ。
 以上がユキと子梅が出会う約1時間前の出来事である。

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