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エピソード1 -勘違いに気づかず、何もかもがうまくいかない1日になるでしょう。-
scene7 〔 ユキ 〕
しおりを挟む····なんなんだ、この図は。
『メンバー1人追加しときました‼』
そんなメールが来たときから嫌な予感がしていた。
鉄男という男も最初のメールからして究極の思い込み野郎に違いない。俺を勝手に学校でメンバーを見つけられない悲しい輩だと決めつけ、同じ境遇の者同士うんぬんと悟ったようなことを語っていた。
しかも趣味が筋トレだという。ドラムだって、ドラム缶を潰すことと勘違いしているんじゃないか。考えるだけで目眩がしてくる。
もうひとつ言わせてもらうと『余り組』とは何だろうか、俺達まさに余り組ですね‼と書いてあったが、そんな言葉は初めて聞いた。違う星の生き物だったらどうしよう、と一抹の不安が脳裏を過る。
そんな彼が見つけた仲間だ、期待はしてはいけないと思っていたのだが...
坂本龍馬。筋肉男の次は歴史オタクと言うのか。つくづく運のなさを感じる。ハンドルネームで人物像を決めつけるのもどうかとは思うが、正直なところ不安しかない。
しかし、せっかく貴重なメンバーをみつけてくれたのだ。この機会を逃したらまたメンバー探しはやり直し、バンド活動を始めるのもさらに先伸ばしになってしまう。
それに、ここまでしてくれた鉄男を、今さらメンバーからはずすというのもかわいそうな話である。
今思えば、ユキはここでも心の中の天使のせいで誤った選択をしているのだが、この時点でそのことに気づいているはずもないのだった。
『一時間ほど前にカフェに着きました。今どこにいますか?』
ユキは文面を確認し、送信した。宛名は鉄男となっている。もう一人のメンバーは鉄男の方から連絡をいれて連れてきてくれるそうだ。
しかし───
待ち合わせ時間からはや一時間。いっこうに一向に二人が現れるような気配はない。
なんなのだ、この図は。ユキは頭を抱えた。予定では今頃、すっかりメンバーと打ち解け、『じゃあ来週また改めて打ち合わせでも』などと言ってカフェをあとにしているはずだったのだから。
わかったことは、メンバーになるであろう二人はかなり時間にルーズどということ、そして店員の冷たい視線に耐え続け、コーヒー一杯で長居できる時間は一時間が限界だということだけだ。
『あとから二人来ます』と言って一人でテーブル席をキープし続ける客に店側も迷惑していることだろうが、わきを通る度に舌打ちをされ、あげくのはてに『メニューはここにございますが』などととわざとらしくメニュー表を差し出される客の気持ちも考えていただきたい。
きっと『フードを深く被った高校生』という名目でブラックリストに乗っていることだろう。このあともう一人メンバー候補に会う際に、ここを利用しようと目論んでいたのだが、この分だと無理そうである。最悪だ...
「───お客様?」
「は、はい」
「お連れ様がお見えになられたようです」
店員の声でふと我に返ったユキは入り口の方を一瞥し、『あとから二人来ます』と言ったことを後悔した。
一人目は身長190㎝近くありそうな巨人、恐らくこちらが剛力鉄男だろう。思っていた感じにおおよそ等しいが、はっきり言っておしゃれなカフェには似つかわしくない雰囲気だ。
そしてその後ろに隠れるように立っている小柄な男の子、中学生だろうか、髪の色が抜けてカールもかかっているので、女子と言われても納得できる。ハンドルネームのようなたくましい印象はどこからも感じられないが、彼が坂本龍馬ということだ。
身長も体重も二人合わせて2で割ると平均的な数値が出てくるのだろうが、何でこう....極端になってしまうんだろう。
「──お客様?」
「は、はい...」
言葉にならない絶望感がユキを包み込んだ。
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