追放された付与術士、別の職業に就く

志位斗 茂家波

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転職手続きです:レーラ

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……ギルディ達に追放された後、私はすぐに冒険者たちの集うギルドにて、冒険者を辞める手続きを始めた。


「あら?レーラさん、ギルディさんたちは?」
「ああ、もう私とは来ないわ。だって私パーティを追放されたもの」
「え?」


 ギルドの受付場にて、親しい友人仲のようであった受付嬢のミンに尋ねられたので答えると、彼女は目を丸くした。


「うそ!?レーラさんパーティを追放されたの!?」
「ミン!!声が大きいわよ!!」

 そこまで驚くような事だったのか、彼女が大声を出したので私は慌てて彼女の口をふさいだ。

 ふと周囲を見渡せば、今の彼女の声を聞いていた人たちも驚いたような表情をしていた。


「うっそぅ、あのSランク間近のやつから‥‥‥それって大丈夫なの?」
「大丈夫なわけないでしょう」

 高ランク冒険者パーティから追放されたという事は、何か問題を起こしたかもしれないと疑われることがある。

 そのせいで、他のパーティに新たに加入したくとも、できない場合があるのだ。


……まぁ、今日は別の目的があるので、問題ないけれどね。


「それじゃどうするのレーラさん。新しく、他のパーティに入る気?」
「いえ、そんなことはしないわ。と言うか、私は転職する気なの」
「え?付与術士から何か別のものにでしょうか?」
「違うわ。冒険者を辞めて、まともなところへ就職するの」

「‥‥はい?」


 その言葉に、再度ミンは目を丸くした。

「えっと、冒険者を辞めるという事は、もうここには来ないの?」
「ええ、そうよ。今さら別のパーティに入るのも気まずいしね」


 そもそも、冒険者と言うのはモンスターや盗賊の討伐などを中心とするようなことが多く、下手すれば命を落としかねないこともある危ない職業だ。

 弱い相手ならいざ知らず、実力差を顧みずに出向いて返り討ちに会う人も、私は見てきた。


 金を稼ぐのであれば、大金を見込める、ハイリスクハイリターンではあるのだが‥‥‥こんな生活には疲れたのだ。


「ええ、でもレーラさんの付与術はかなり腕前が良いのにもったいないですよ!」
「そう?効果はないようにしか思えないんだけど……」

 はっきり言って、ギルディ達も効果が見えないとか文句を言う時があったが、私自身もたまに疑いたくもなる。

 きちんとかかっているはずなのだが…‥‥まぁ、信用が無いのであれば、使う意味もない。


「うう、決心が強そうね‥‥‥‥仕方が無いです。ではレーラさんの冒険者登録解除手続きを行いますので、今から渡す書類に色々と書いてください」
「わかったわ」


 そう言うと、机からミンはある程度の量がある書類を渡してきた。

 「やめます、これで終わり」となればいいのだが、一度登録解除すると、再び登録する際に手続きが面倒である。

 再登録時に実力が落ちていたりするのに、元のランクになっておきたいとかいうような奴らもいて、色々と面倒なので、この手続きの多さを利用して辞めるのを留める目的があるそうだが‥‥‥まぁ、決意したし意味もない。



「でも、レーラさん、ひとつ質問良いでしょうか?」
「何かしら?」
「転職とおっしゃいましたが、何処か働きに向かう宛があるのでしょうか?」
「ええ、これよ」


 ミンに尋ねられ、私はその宛の根拠となる物を取りだした。


「就職応募用紙…‥‥いや、なんか胡散臭いような気がするんですが」
「どこがかしら?」
「必要事項に『付与術士、もしくは経験者』などがあるのでレーラさんは条件に当てはまるのですが‥‥‥これは何の職業なのか、はっきりと書かれていないのが物凄く胡散臭いです」

 まぁ、確かに「就職応募用紙」と書かれ、必要事項、選考場所しか書かれていないし、何の職業なのか見当がつかない。

 期限も時に無く、年中受け付けているようなものだけど、ただのいたずらで出されたものにしては精巧すぎるし……


「実はこれね、ある人からもらったのよ」
「ある人ですか?」






……数日前、少々討伐依頼で手間取っていた際に、なにやら助太刀が入った。

 メイド服を着た人と、その小さくしたような少女たちが一瞬でレーラたちが手間取っていた相手を一瞬で蹴散らしまくった光景に驚愕しすぎて、他の面々はぽかんと口を開けた。



 そんな中で、すぐに復帰したレーラの元へ、その者たちの一人、小さ少女がレーラに気が付き、ちょっと何かを考える様な仕草をした後に、この応募用紙を渡してくれたのだ。


「その時に言われたのよね、『今の職場に不満があれば、ぜひどうぞ』って」
「えっと‥‥‥数日前と言えば、ブラックベーアの群れの討伐ですね。え?それを蹴散らしたって‥‥‥S間近なパーティで手間取っていた相手を蹴散らしている時点でその方々の方がすごいんですが」
「それもメイド服を着た人たちよ。多分、何処かの隠密部隊とかの可能性はあるのだけれども…‥‥誘われて興味を持ったのよねぇ」


 その時から、少しばかり転職を考えていたのだ。

 いてもいなくても分からないような付与術士として働くよりも、こういう誘われた職場に向かって見たほうが良いのではないかと。


「うーん、そんな実力を持った者たちがいるほうが色々とおかしいような気もしますが‥‥‥まぁ、大丈夫ですかね?」


 そう言い、ようやく手続きが終わり、レーラは冒険者登録が無くなった。


 これで晴れて無職となり、この応募用紙に書かれている場所へ彼女は向かう。


……不安も少々あるが、自分の存在意義のようなものを得られたら、それでいいのかもしれない。

 万が一、嘘で何もなかったとしても、他の職業に就く努力をすればいい。

 前向きに、レーラは考えて、ギルドから出て行くのであった‥‥‥‥
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