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後編
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‥‥‥そしていくつかの歳月が流れ、ある日を境に、ジャックはこの森から巣立っていった。
「ししょーのために、悪い人間たちだけを全部消し炭へと変えるために向かいますねー!!お土産話、楽しみにして‥‥‥それと、帰ったらちょっと、話したいこともあるので待っててくださいねー!!」
元気にそう手を振りながら、去っていったあの子のことが、三年が経過した今でもはっきりと思い出せる。
うん、少なくとも当初の目的がややズレているとはいえ果たせるのであれば、良いだろう。巣立つまでの間に、魔の森中の魔物たちが全てかりつくされ、普通の森になったことに関しては目をそらしたい。
そう、あそこでかつてそびえていた山も消し飛ばされて平地になり、かつてあった湖は更に大穴が開いて底が見えなくなり、いつぞやか大空に穴をあけてヤヴァイ化け物が流れ込んできたところは何とか修復が済んで、綺麗な青空になっている。
いや本当に、ジャック、あの子はやらかしたなぁ…あの力がもしも、私に向けれられていたら、存在が無くなっていたかもしれない。
でも、こうやって無事に生きている今がすごいありがたいことが分かったので、命のありがたみに感謝するしかない。
ついでに、人間全部殲滅するとやることが無くなってしまって破壊の限りを尽くす気しかしないので、少々いい人間…いるのかは分からないが、悪人限定で消し飛ばすように教育に力を入れた。どうせ、アント系の門sヌターのようにナマケアントを駆逐してもまた出てくるようなことが言えるだろうから、悪人を一掃しても合た生れるだろう。
そのループにいつか気が付くかもしれないが、それでも悪人の供給がやまないのであれば世界にその力が向けられることはないだろうから英断かもしれない。
「それにしても、やっぱり時間がかかるのか、それとももうとっくの前に…‥‥いえ、そう簡単に、あの子がやられるはずがないわね」
風の噂では、人間共の中には異世界から勇者を呼びだしたりして魔物を狩らせ、役目が終われば葬り去ってしまうという方法もあると聞く。
ジャックは魔物ではないが、もしも彼の強さに人間共が怯えまくり、勇者とやらを呼びだして対抗してもおかしくはないのだが‥‥‥あの子がそうやすやすと終わるわけがない。
むしろ、何をどうしたらあの子が負けるのか、教えてほしいほどである。世界を終わらせかねない子ど作った罪は、どこか心の中に罪悪感を生み出すのだ。
それでも、こうやって物凄く平和というか、何も無い三年間が過ぎているのだが‥‥‥あの子と過ごした日々を思うと、今のこの平和が味気が無い。
そう、いつもいつも何かやらかして、大変だった毎日が物凄く恋しく…もならないわね。寂しくは思うけれども、ちょっと解放された気分がある。
「でも、やっぱり少し、寂しいのかしら…‥‥人間共を殺戮しても、あの子だけは帰ってきてほしいと思うのかしらね?」
始めはただの思い付きで育てた赤子に過ぎなかったのに、共に過ごした日々が長かったせいなのか、私もちょっとはほだされているのかもしれない。
色々と大変だったとはいえ、楽しかったと言えば本当のことだし…‥‥ええ、拾った赤子だけれども、何時しか愛おしい子になっていたのだろう。
そう思いつつ、いつ帰ってきてもいいように、私は帰りを待っていた。
あの子が大好きだった肉料理なんかも、狩りつくしてしまった今ではちょっと手に入れにくくもあるが、帆損している分があるので問題もない。
人間の成長にどのぐらいのものがあるのか分からないが、それでも帰宅したら楽にできるように、変えの着替えなども用意しておく。
「さてと、今日も来なかったようだけれども…‥‥それでもいつか帰ってくるはずだろう。数が多いならすぐに終わるわけもないしね」
まだまだ時間もかかるかもしれないが、それでもいつかは達成するだろう。
そう考えると待ち遠しくもなりつつ、そろそろ日が沈んで暗くなってくるので眠ろうとしていた‥‥‥その時だった。
「後は私のねどこに、ちょっと寝やすくなる香を焚、」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
――――――――――――――――――
「ふんふふん~♪ししょーのために、悪人狩りもだいぶできてきたなぁ」
‥‥‥とある国の町中にて、ジャックは鼻歌を歌いながら歩いていた。
ししょーに学んだ通り、最初は全人類の殲滅も考えていたが、世の中には悪人という人間もいるらしい。
そこで、人間の中に紛れて生活して学び、どのようなものを悪人というのかしっかりと確認して、その力を振るっていた。
最近は少々血生臭い事も多かったが、的確にできているだろう。
私腹を肥やし、欲望を満足させるためだけに重税をかけたり、人から奪いつくして枯渇させ、名誉を穢し己のものにしようと蠢く悪人たちは、思いのほか数が多い。
狩っても狩ってもキリがないような気がするが、それでも着実に滅ぼすことが出来ているだろう。
そして本日は、この国で彼は殲滅活動を行う予定を持っていた。
何でもかんでも、この国で最近勇者召喚とやらが行われたそうで、何やら悪人たちが己の身を守るための用心棒として召喚したようだが見事に裏切られ、悪人たちにとって代わって勇者たちが悪事を働いているらしい。
異世界召喚よるチートとか言う力で暴力を振るい、完全にまっくろくろすけな事しかしていないようだ。
何にしても、それはもう勇者ではなくただの悪人という事で、殲滅するためにこの国の王城へ向かっていたが‥‥‥そんな中で、ふと彼はある事に気が付いた。
「ん?この風に乗って漂う香りは…‥‥ししょー?」
全ての悪人を殲滅しきるまで、まだ戻るつもりはなかったのだが、この国の近くに故郷の森がある。
ししょーとすごした場所であり、近くともまだ帰るわけにはいかないと思っていたが‥‥‥距離がさほど離れていないのであれば、ししょーがなんらかの用事でここに来てもおかしくはないだろう。
でも、ししょーは森から出る事をしなかったし、この香りは以前、ししょーが心労で寝にくいとか言っていたので、寝やすくなるように調合した眠りのお香の香り。こんな町中で使うことも無いはずだ。
それでも何かが気になって、彼は足を早める。
嫌な予感がだんだん強く出てきて、駆け抜ける速度が加速し、疾風となって先へ行く。
王城へ辿り着いたが、その速さを門番たちが見ぬくことも無く、容易く侵入する。
念のために警戒しながら奥へ進むと、事前調査で見取り図を確認していたので分かったが、王の間とやらから漂ってくる香り。
溶け込むように入り込んでみれば、そこには異世界から呼ばれてこの国の愚政を引きついた勇者とその仲間たちらしいっものがおり‥‥‥その中心には、ししょーがいた。
ただし、悪党を成敗するような姿ではない。
それどころか、勇者共に好き勝手しつくされたようで、その体は引きちぎられており、人に近い部分のみを残され…‥‥何が起きたのか、人間の中で悪人を調べ学んでいた彼は、直ぐに察してしまうのであった‥‥‥
「あ、あ、あ、…‥‥ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
――――――――――――――――――
‥‥‥パチパチと、音が聞こえる。
そう思い、私が目を覚ますと空が暗くなっており、近くで焚火が燃えているのか火の明かりがちょっと見えた。
野宿していただろうか?いや、そうではなかったはず。
「確か私は家で、香を焚こうとして‥‥‥あれ?何を‥‥‥」
思い出そうとしたが、ずきんっと鈍く頭が痛み、何が起きたのか思い出せない。
それにどういう訳か、意識があるというのに体の自由が利かず、感覚が無い。
「‥あ、ししょー、起きましたか?」
「‥‥ジャック?」
っと、声が聞こえたが、ちょっとその姿が見えない。
でも、間違いない。ずっと一緒にいたのだから、声を聞き間違えることも無い。ちょっと大人になったのか、人間にある声変わりもあるようだが、それでも彼なのは間違いないだろう。
「ジャック、どうしてあなたが一緒に、いえ、そもそもこの状況はどうなっているの?」
「大丈夫ですよ、ししょー。全部終わってます。だからこうやって帰って来ているんですよ」
「‥‥‥そうか」
ほんの一瞬だけ、何か冷たい感情があったような気がするが、この子は嘘をつかないだろうしそうだろうと覆う。
褒めようと思い、撫でるために手を伸ばしたいが、生憎動かない。
「何でだろう、体に力が入らないや」
「当り前ですよししょー、寝起きで意識だけ起きてても、体ってそう簡単に動かないですもん」
「そうだっけ?」
「そうですよ」
‥‥‥分からない。はっきりとしないが、記憶がいまいち思い出せない部分もあるせいで、納得することにする。
いや、今までいろいろあったものも無くなったような気がするのだが、この子のやらかしざまを忘れようと思う部分が多すぎたせいで、必要なものも抜けてしまったのではないだろうか?その可能性が非常にあり過ぎて、ちょっと不安になる。
「それはそうとししょー、まだ暗いですから、ゆっくりやすんで‥‥‥いえ、せっかく帰ったので、眠るまでちょっとだけお土産話を聞いてくれませんか?」
「土産話か‥‥‥うん、お願いするわ」
不安を抱いても切りが無いし、今は彼が帰ってきたのであれば、出立の時に言っていたお土産話を聞く約束を果たしてあげよう。
そう言えば、もう一つ何か話したいとも言っていたが‥‥‥ああ、それはまた、起きた時で良いかも。
このお土産話が、彼の旅路が詰まっていて面白く、寝付くまでの‥‥‥
――――――――――――――――――
‥‥‥お土産話も終えたころには、ししょーは寝付いていた。
伝えたかった言葉もあったけれども、それは今、果たせるものではないので我慢する。
だってししょーはもう、この世界では起きないのだから。
全てを消し去り、もう間もなく崩壊するこの世界。
そんな僅かなひと時の間だけ、嫌な記憶を全て消し去って、このお土産話で少しでも楽しんでもらうためにつないだ数少ない時間を使ったのだから。
「‥‥‥ししょー、安心してください。伝えたかったお話は、来世で果たせるようにしてますから」
道中で悪人を討伐しまくり、出会った人やそれ以外の者たちとの中で、様々な力を身に付けた。
けれども、完全に生き返らせるすべはなかったので、ほんのちょっとだけ話せるようにしても、意味がない。
だからこそ、ほんの少しでもいいから縁をつなぎ、次へ託す。
「もうその時には、ししょーはここの記憶も何もないでしょう。自分もおそらくは、縁が繋がっていても、この記憶も何もないでしょう」
「でもね、ししょー‥‥‥それでも僕は、貴女と一緒になると思いますよ」
森の中で、過ごした輝いていた日々。
ししょーに褒められたい、もっと強くなりたいと一生懸命にしていた中で、抱いたこの思い。
でも、まだまだ未熟だからと思って、全てを終えるまで伝えることを我慢していたが…‥‥ああ、それでもやっぱり、抑えきれないのかもしれない。
世界のすべてが失せ、消え失せるだけの運命。
けれどもその魂は、また違う世界へ流れ着き、新しい命になるだろう。
道中で知り合った様々な存在からもその話を聞き、少々難しいが融通を少しきかせてもらうようにしたので、どのぐらいかかるかは分からないが、再びつながるはずである。
「ししょー、来世、いえ、本当はもっと先になるかもしれませんが、約束しましょう」
流すことを忘れていた涙が頬を突足り、寝付くようにしているししょーの顔にちょっとかかる。
美しく、気高く、強く、それでいてどこかで抜けつつ、苦労もして、そして大事な人。
「でも、ししょーの返事も必要なので…‥‥その言葉も、聞かせてください。
「約束です。いつか僕がししょーとまた出会い、そして…‥‥」
―――大好きだと、伝えられたら返事をしてください。
ししょーのことが、ずっと、ずっと…‥‥好きでしたから。
――――――――――――――――――
‥‥‥その世界は、そうして終わりを迎えた。
数多く世界は存在しており、その一つが失われたとしても、気にするような輩はいないだろう。
いつしかその失われた世界すらも、誰の記憶からも失われてしまう。
でも、その約束はきっと、いつの日か果たされて‥‥‥‥
「ししょーのために、悪い人間たちだけを全部消し炭へと変えるために向かいますねー!!お土産話、楽しみにして‥‥‥それと、帰ったらちょっと、話したいこともあるので待っててくださいねー!!」
元気にそう手を振りながら、去っていったあの子のことが、三年が経過した今でもはっきりと思い出せる。
うん、少なくとも当初の目的がややズレているとはいえ果たせるのであれば、良いだろう。巣立つまでの間に、魔の森中の魔物たちが全てかりつくされ、普通の森になったことに関しては目をそらしたい。
そう、あそこでかつてそびえていた山も消し飛ばされて平地になり、かつてあった湖は更に大穴が開いて底が見えなくなり、いつぞやか大空に穴をあけてヤヴァイ化け物が流れ込んできたところは何とか修復が済んで、綺麗な青空になっている。
いや本当に、ジャック、あの子はやらかしたなぁ…あの力がもしも、私に向けれられていたら、存在が無くなっていたかもしれない。
でも、こうやって無事に生きている今がすごいありがたいことが分かったので、命のありがたみに感謝するしかない。
ついでに、人間全部殲滅するとやることが無くなってしまって破壊の限りを尽くす気しかしないので、少々いい人間…いるのかは分からないが、悪人限定で消し飛ばすように教育に力を入れた。どうせ、アント系の門sヌターのようにナマケアントを駆逐してもまた出てくるようなことが言えるだろうから、悪人を一掃しても合た生れるだろう。
そのループにいつか気が付くかもしれないが、それでも悪人の供給がやまないのであれば世界にその力が向けられることはないだろうから英断かもしれない。
「それにしても、やっぱり時間がかかるのか、それとももうとっくの前に…‥‥いえ、そう簡単に、あの子がやられるはずがないわね」
風の噂では、人間共の中には異世界から勇者を呼びだしたりして魔物を狩らせ、役目が終われば葬り去ってしまうという方法もあると聞く。
ジャックは魔物ではないが、もしも彼の強さに人間共が怯えまくり、勇者とやらを呼びだして対抗してもおかしくはないのだが‥‥‥あの子がそうやすやすと終わるわけがない。
むしろ、何をどうしたらあの子が負けるのか、教えてほしいほどである。世界を終わらせかねない子ど作った罪は、どこか心の中に罪悪感を生み出すのだ。
それでも、こうやって物凄く平和というか、何も無い三年間が過ぎているのだが‥‥‥あの子と過ごした日々を思うと、今のこの平和が味気が無い。
そう、いつもいつも何かやらかして、大変だった毎日が物凄く恋しく…もならないわね。寂しくは思うけれども、ちょっと解放された気分がある。
「でも、やっぱり少し、寂しいのかしら…‥‥人間共を殺戮しても、あの子だけは帰ってきてほしいと思うのかしらね?」
始めはただの思い付きで育てた赤子に過ぎなかったのに、共に過ごした日々が長かったせいなのか、私もちょっとはほだされているのかもしれない。
色々と大変だったとはいえ、楽しかったと言えば本当のことだし…‥‥ええ、拾った赤子だけれども、何時しか愛おしい子になっていたのだろう。
そう思いつつ、いつ帰ってきてもいいように、私は帰りを待っていた。
あの子が大好きだった肉料理なんかも、狩りつくしてしまった今ではちょっと手に入れにくくもあるが、帆損している分があるので問題もない。
人間の成長にどのぐらいのものがあるのか分からないが、それでも帰宅したら楽にできるように、変えの着替えなども用意しておく。
「さてと、今日も来なかったようだけれども…‥‥それでもいつか帰ってくるはずだろう。数が多いならすぐに終わるわけもないしね」
まだまだ時間もかかるかもしれないが、それでもいつかは達成するだろう。
そう考えると待ち遠しくもなりつつ、そろそろ日が沈んで暗くなってくるので眠ろうとしていた‥‥‥その時だった。
「後は私のねどこに、ちょっと寝やすくなる香を焚、」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
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「ふんふふん~♪ししょーのために、悪人狩りもだいぶできてきたなぁ」
‥‥‥とある国の町中にて、ジャックは鼻歌を歌いながら歩いていた。
ししょーに学んだ通り、最初は全人類の殲滅も考えていたが、世の中には悪人という人間もいるらしい。
そこで、人間の中に紛れて生活して学び、どのようなものを悪人というのかしっかりと確認して、その力を振るっていた。
最近は少々血生臭い事も多かったが、的確にできているだろう。
私腹を肥やし、欲望を満足させるためだけに重税をかけたり、人から奪いつくして枯渇させ、名誉を穢し己のものにしようと蠢く悪人たちは、思いのほか数が多い。
狩っても狩ってもキリがないような気がするが、それでも着実に滅ぼすことが出来ているだろう。
そして本日は、この国で彼は殲滅活動を行う予定を持っていた。
何でもかんでも、この国で最近勇者召喚とやらが行われたそうで、何やら悪人たちが己の身を守るための用心棒として召喚したようだが見事に裏切られ、悪人たちにとって代わって勇者たちが悪事を働いているらしい。
異世界召喚よるチートとか言う力で暴力を振るい、完全にまっくろくろすけな事しかしていないようだ。
何にしても、それはもう勇者ではなくただの悪人という事で、殲滅するためにこの国の王城へ向かっていたが‥‥‥そんな中で、ふと彼はある事に気が付いた。
「ん?この風に乗って漂う香りは…‥‥ししょー?」
全ての悪人を殲滅しきるまで、まだ戻るつもりはなかったのだが、この国の近くに故郷の森がある。
ししょーとすごした場所であり、近くともまだ帰るわけにはいかないと思っていたが‥‥‥距離がさほど離れていないのであれば、ししょーがなんらかの用事でここに来てもおかしくはないだろう。
でも、ししょーは森から出る事をしなかったし、この香りは以前、ししょーが心労で寝にくいとか言っていたので、寝やすくなるように調合した眠りのお香の香り。こんな町中で使うことも無いはずだ。
それでも何かが気になって、彼は足を早める。
嫌な予感がだんだん強く出てきて、駆け抜ける速度が加速し、疾風となって先へ行く。
王城へ辿り着いたが、その速さを門番たちが見ぬくことも無く、容易く侵入する。
念のために警戒しながら奥へ進むと、事前調査で見取り図を確認していたので分かったが、王の間とやらから漂ってくる香り。
溶け込むように入り込んでみれば、そこには異世界から呼ばれてこの国の愚政を引きついた勇者とその仲間たちらしいっものがおり‥‥‥その中心には、ししょーがいた。
ただし、悪党を成敗するような姿ではない。
それどころか、勇者共に好き勝手しつくされたようで、その体は引きちぎられており、人に近い部分のみを残され…‥‥何が起きたのか、人間の中で悪人を調べ学んでいた彼は、直ぐに察してしまうのであった‥‥‥
「あ、あ、あ、…‥‥ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
――――――――――――――――――
‥‥‥パチパチと、音が聞こえる。
そう思い、私が目を覚ますと空が暗くなっており、近くで焚火が燃えているのか火の明かりがちょっと見えた。
野宿していただろうか?いや、そうではなかったはず。
「確か私は家で、香を焚こうとして‥‥‥あれ?何を‥‥‥」
思い出そうとしたが、ずきんっと鈍く頭が痛み、何が起きたのか思い出せない。
それにどういう訳か、意識があるというのに体の自由が利かず、感覚が無い。
「‥あ、ししょー、起きましたか?」
「‥‥ジャック?」
っと、声が聞こえたが、ちょっとその姿が見えない。
でも、間違いない。ずっと一緒にいたのだから、声を聞き間違えることも無い。ちょっと大人になったのか、人間にある声変わりもあるようだが、それでも彼なのは間違いないだろう。
「ジャック、どうしてあなたが一緒に、いえ、そもそもこの状況はどうなっているの?」
「大丈夫ですよ、ししょー。全部終わってます。だからこうやって帰って来ているんですよ」
「‥‥‥そうか」
ほんの一瞬だけ、何か冷たい感情があったような気がするが、この子は嘘をつかないだろうしそうだろうと覆う。
褒めようと思い、撫でるために手を伸ばしたいが、生憎動かない。
「何でだろう、体に力が入らないや」
「当り前ですよししょー、寝起きで意識だけ起きてても、体ってそう簡単に動かないですもん」
「そうだっけ?」
「そうですよ」
‥‥‥分からない。はっきりとしないが、記憶がいまいち思い出せない部分もあるせいで、納得することにする。
いや、今までいろいろあったものも無くなったような気がするのだが、この子のやらかしざまを忘れようと思う部分が多すぎたせいで、必要なものも抜けてしまったのではないだろうか?その可能性が非常にあり過ぎて、ちょっと不安になる。
「それはそうとししょー、まだ暗いですから、ゆっくりやすんで‥‥‥いえ、せっかく帰ったので、眠るまでちょっとだけお土産話を聞いてくれませんか?」
「土産話か‥‥‥うん、お願いするわ」
不安を抱いても切りが無いし、今は彼が帰ってきたのであれば、出立の時に言っていたお土産話を聞く約束を果たしてあげよう。
そう言えば、もう一つ何か話したいとも言っていたが‥‥‥ああ、それはまた、起きた時で良いかも。
このお土産話が、彼の旅路が詰まっていて面白く、寝付くまでの‥‥‥
――――――――――――――――――
‥‥‥お土産話も終えたころには、ししょーは寝付いていた。
伝えたかった言葉もあったけれども、それは今、果たせるものではないので我慢する。
だってししょーはもう、この世界では起きないのだから。
全てを消し去り、もう間もなく崩壊するこの世界。
そんな僅かなひと時の間だけ、嫌な記憶を全て消し去って、このお土産話で少しでも楽しんでもらうためにつないだ数少ない時間を使ったのだから。
「‥‥‥ししょー、安心してください。伝えたかったお話は、来世で果たせるようにしてますから」
道中で悪人を討伐しまくり、出会った人やそれ以外の者たちとの中で、様々な力を身に付けた。
けれども、完全に生き返らせるすべはなかったので、ほんのちょっとだけ話せるようにしても、意味がない。
だからこそ、ほんの少しでもいいから縁をつなぎ、次へ託す。
「もうその時には、ししょーはここの記憶も何もないでしょう。自分もおそらくは、縁が繋がっていても、この記憶も何もないでしょう」
「でもね、ししょー‥‥‥それでも僕は、貴女と一緒になると思いますよ」
森の中で、過ごした輝いていた日々。
ししょーに褒められたい、もっと強くなりたいと一生懸命にしていた中で、抱いたこの思い。
でも、まだまだ未熟だからと思って、全てを終えるまで伝えることを我慢していたが…‥‥ああ、それでもやっぱり、抑えきれないのかもしれない。
世界のすべてが失せ、消え失せるだけの運命。
けれどもその魂は、また違う世界へ流れ着き、新しい命になるだろう。
道中で知り合った様々な存在からもその話を聞き、少々難しいが融通を少しきかせてもらうようにしたので、どのぐらいかかるかは分からないが、再びつながるはずである。
「ししょー、来世、いえ、本当はもっと先になるかもしれませんが、約束しましょう」
流すことを忘れていた涙が頬を突足り、寝付くようにしているししょーの顔にちょっとかかる。
美しく、気高く、強く、それでいてどこかで抜けつつ、苦労もして、そして大事な人。
「でも、ししょーの返事も必要なので…‥‥その言葉も、聞かせてください。
「約束です。いつか僕がししょーとまた出会い、そして…‥‥」
―――大好きだと、伝えられたら返事をしてください。
ししょーのことが、ずっと、ずっと…‥‥好きでしたから。
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‥‥‥その世界は、そうして終わりを迎えた。
数多く世界は存在しており、その一つが失われたとしても、気にするような輩はいないだろう。
いつしかその失われた世界すらも、誰の記憶からも失われてしまう。
でも、その約束はきっと、いつの日か果たされて‥‥‥‥
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