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一難去ってもなぜこうも来るのか

#152 縁の下の力持ちもいるのデス

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SIDEシアン

 家族が付いてきたという事で、珍しくやる気100%となったポチの疾走は見事なものであった。

 風のように駆け抜け、邪魔な障害物は飛び越え、盗賊とかが出て来たとしても気にせずふっ飛ばしていく。


 2,3時間はかかると予想していたが、30分ほどで僕らは首都ボラーンに到着したのであった。


「でも、フェンリル一家はすぐに別の場所へ駆け抜けていったけれど、帰りまでに戻って来るかな?」
「大丈夫なはずデス。人目につかない場所へ移動したようですし、いざという時の避難場所として、移動用箱庭を渡しているので問題はないでしょウ」

 
 ひとまずは、今夜の宿の確保をしたいところだが…‥‥どうやらフィーアの方で先にやっていたらしく、指定された宿へ向かって見れば、既に宿泊手続きは行われていた。

 ワゼ経由で到着した連絡を送ると、どうやら1時間後にミスティア王女たちが一旦来るらしい。


「それまで暇だけど、どうしようかな?以前訪れた冒険者ギルドの方に顔を出すってのもあるけど…‥」
【私たちは登録してませんよね】

 魔法屋として僕らは魔法ギルドに登録はしているが、生憎冒険者として冒険者ギルドに登録はしていない。

 ここの冒険者ギルドには、以前の依頼で出向き、模擬戦を行ったとは言え、行く義務は特にないのだ。

「冒険者ギルド長のデルタリアンさんに挨拶ぐらいはしておくべきかなぁ?」

 まぁ、先にミスティアたちが来てからの方が良いかという事で、とりあえずはゆったりとそれまでリラックスして待つことにしたのであった。



―――――――――――――――――――――
SIDE首都ボラーン所属HWG地下支部


……シアンたちが首都へ到着した丁度その頃、首都ボラーンの地下に作られた施設にて、集まっている者達がいた。


「‥‥‥本当か?この都市にあのお方が?」
「ああ、間違いない。目撃証言もあるし、都市アルバス本部のHWGからも連絡が来た」
「なるほど、親善試合の観戦ためとあるな…‥‥」

 報告を受け、心が躍る者たち。

 彼らは以前、シアンたちがこの都市へ訪れた際にハクロの美しさに当てられ、ファンクラブを結成した者たち。

 都市アルバスにあるHWGと連携を結んでいたのだが、この度とある国で密かに根を張る事に成功し、組織拡大のために統合され、支部HWGとなっていたのだ。

 ただ、残念ながら首都へはそうそうハクロが訪れる事が無かったために、送られてくるHWG製の写真集や模型などでしか見る事が出来なかったのだが、本日は待望の生ハクロガやって来たのである。

 これに彼らは歓喜し、親善試合の観戦の目的があると知ると否や、親善試合の開催に心から感謝した。


「ああ、この事に我々は感謝するだろう。何しろ普段は生で見る機会もないし、こうやって来てくれるだけでも非常にありがたいのだ」
「席はどこを取るのか調べたほうが良いだろう。試合の観戦も楽しみにしていたが、我々としては、彼女を目に焼き付けるまたとない機会だ!!」
「既に会員たち全員に通達している。明日にはどこの席なのか判明するだろう」
「しかし…‥‥3つの懸念が心配されるな」
「どうした、支部長?」

 ハクロをこの目で焼き付ける事が出来ると、意気揚々としていた者たちの中で、この支部の支部長を任された人物の言葉に、彼らは疑問を投げかけた。

「まず一つにだが…‥‥この支部で急な連絡でもこれだけ集まっただろう?散らばっているメンバーたちがこの情報を知った時に、彼女の姿を見れそうな席を確保するのが目に見えているのだが‥‥‥そこがすごい争奪戦となりえないか?」
「うっ、言われてみればそうだな‥‥‥」
「ならば、情報を限定するか?」
「いや、それはダメだろう。我々は誰もが立場は違えど、彼女の幸せを祈りつつ、その美貌をしっかりと記憶する者たちである。その権利を剥奪せずに、皆で平等な立場で関わるべきだからな」

 席に関しての情報は後で物凄い争奪戦があると予想されたので、とりあえず今は保留にされた。

 
「そして2つ目にだが‥‥‥彼女の美しさがちょっと不味いかもしれない」
「というと?」
「今回の親善試合、相手の国はヴェールヌイ騎士王国の騎士たちだ。騎士道をつらぬき、真面目に、それでいて不正を許さないものたちではあるのだが、彼らに女性に対する免疫はあるのだろうか?」
「はぁ?」
「いや、つまり簡単に言うのであれば、彼女がここへ来た目的が観戦であるならば、観客席に座る事になるだろう?となると、戦闘している騎士たちは観客席を見る事が出来るが、その時に彼女の美しさに一目ボレをしてしまえば…‥‥」
「恋は盲目と言うが、黙々過ぎて試合に手が付かなくなり、影響が出る可能性があるのか!!」
「そういうことだ」

 いくら騎士たちとは言え、流石に色ボケになるとは言い難いが、無いともいえない。

 試合が手つかずになってしまう恐れもあり、そうなってしまうと色々と面倒なのだ。


 また、何かの間違いで恋の暴走でも起こしてしまえば、それこそ目も当てられないような悲惨さが待ち受けているかもしれないのである。

「いや、それは大丈夫だろう」

 と、そこで会員の一人がそう口に出した。

「何か根拠でもあるのか?」
「ああ。騎士王国とは言え、何も男だらけではない。きちんと女性騎士団という物も設立されており、そのあたりの免疫は形成されているはずだ。情報によれば、今回の親善試合にも女性騎士は出るらしいからな」
「なるほど、となればその懸念は払しょく可能か…‥‥」

 問題になら無さそうではあるが、万が一の可能性も考え、油断はできない。


「そして3つ目の事なのだが‥‥‥少々きな臭い話しとなる」
「と言うと、例の話か?」
「ああ、騎士王国は清廉潔白で大したお家騒動とかもないと思われていたが‥‥‥」

 ヴェールヌイ騎士王国の国王ボンドルア及び、その他王族たちも清廉潔白で人望が厚い。

 騎士たちも腐敗を許さず、きちんと国に忠誠を誓う者たちばかりなのだが‥‥‥‥それも完璧ではないのが、人の悲しい性質なのであろうか。


「貴族の一部はやりたいことがしにくい状態に不満を抱いているようでな。その状態を嘆く中で、彼らにある者たちが接触したそうだ」
「その者たちは…‥‥もしや」
「ああ、旧アヴァロ法国の残党だろう」

・・・ヴェールヌイ騎士王国は今でこそ徹底した腐敗除去をやろうとしている国ではあるが、その国の前の状態…‥アヴァロ法国と呼ばれていた時代には腐敗していた。

 騎士たちの手によって一新され、駆逐されていたと思われていたが…‥‥近年、その残党と思われる、腐敗の時代を懐かしみ、取り戻そうと企む者たちが動き始めているそうなのだ。


「神聖国とも違い、アヴァロ法国はいわば徹底した差別主義もある。騎士王国では騎士道を重んじる者であればモンスターであろうとも雇用することをするが、そいつらの場合はモンスターは完全なる邪悪なものとして、排除する対象にしているらしい」
「とすると、親善試合中に仕掛けて来て国の関係を危うくさせようとする可能性もあるが‥‥‥‥彼女の美しさを見て、むしろ排除する優先対象と判断し、攻撃を仕掛けてくる可能性があるのか」
「ああ、間違いないだろうな」

 そうなってしまえば、もう二度とその美しさはこの世に見る事が出来なくなってしまう。

 無事だとしても、襲撃を受ければ表に立たなくなる可能性もあり‥‥‥‥そうなってしまえば、この組織としても多大なる損害となってしまうのだ。


「出来るだけ警戒しつつ、彼女へ襲撃するような輩がいないか確認しておけ。当日は徹底した監視体制を敷きつつ、望むのであれば被害0の何もない事が良いのだが、最悪でも被害を最小限にできるようにしなければな!」
「そう、すべては」
「「「あの美しい者を守るために!!」」」


 心を一致させ、叫ぶ者たち。

 水面下での静かなる戦いも今、始まろうとしているのであった‥‥‥‥

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