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春間近、でも頭春は来ないで欲しい
#262 気が合いそうかもデス
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SIDEシアン
‥‥‥娘たちを連れての、首都観光二日目。
首都内では王位継承のための選挙についての話題が多く出ており、行き交う人々からも度の王子がどの課題に挑み、現在の進行状態についての話が聞こえてくる。
「兄姉様たちのうわさ話を聞く身内としては、複雑な心境ですわね…‥‥全員達成されると、わたくしが王位継承権に復活させられてしまいますわ」
「まぁ、今のところまだ達成し切ってはないようだけどね」
【むしろ、被害が大きく出ているようですが‥‥‥】
建物倒壊、ヤンデレ惨劇、味覚崩壊…‥‥聞いているだけでも、色々とヤヴァイ事ばかり。
でもそれらも笑い話で済む当たり、この国の人達のメンタルってとんでもなく強いよなぁ…‥‥いやまぁ、怪物騒動もあったというのに、本当にへこたれない国民性はすごい。
【ふみゅ~】
「みー」
っと、ヒルドとオルトリンデたちは、昨日で十分暴れたのか、今日はちょっと大人しい‥‥‥と思っていたが…‥‥
【ふみゅ?ふみゅ~♪】
「ヒルド、ちょっと張り付かないの!!ここ一応店の前!」
「みー!みー!」
【あわわわ!!そっちは大穴の建設工事中の場所ですよーーーー!!】
【ふみゅふみゅー!!】
「みーみーみ!!」
「二人とも待つにょー!!それ、そこの店の商品なのに勝手に持っていかないによー!!」
【ふみゅ~ふみゅー!】
「みーーーーーーーー!」
「ちょっとなんか被害出てますわよ!?その眩しい頭の人達に早く隠すためのものを返してあげるのですわ!!」
すぐに好奇心旺盛さが表れ始め、隙あらば勝手に動きまわり、初日と変わらない忙しさがすぐに戻ってきてしまった。
というか、子どもの行動力と体力凄いな…‥‥糸で張り付くわ、翼で飛ぶわ、協力して合体技を編み出すわ‥‥‥我が娘たち、末恐ろしく育ちそうで、親としては良い事なのか悪い事なのか、ちょっと複雑である。
なお、この好奇心旺盛すぎる動きを抑制するために、紐を付けるとか、シスターズをそれぞれに付けるとか考えていたが…‥‥ちょっと無理っぽい。
ひもであれば抜け出すか、切ったりするし、シスターズであれば振り切る可能性もある。
というか、そもそも人込みがある中でそれは目立ちすぎるからなぁ‥‥‥いやまぁ、この時点ですでに相当目立っているとは思うから、何をいまさらという感じはするけどね。
何にしても、元気いっぱいな娘たち。
初日の疲労はどこへやら、僕等も大慌てで何とか迷子にならないようにしたり、危険ものに触れたりしないようにてんやわんやと追われるのであった。
うん、どうしようこの娘たち。まだ外へ出るのは早かっただろうか…‥‥
――――――――――――――――――
SIDE???
シアンたちが娘たちにてんやわんやと追われているころ、首都内のとある喫茶店で。二人はその騒がしさに気が付いていた。
「次期王の座に就く奴は誰か、庶民たちの賭け事とやらで予想している中で、ちょっと騒がしいなぁ‥」
「仕方がない事でございます、坊ちゃま。ですが、わが国の商人たちのオークション会場などに比べればマシでございましょう?」
「‥‥‥ああ、うん。それもそうだったか。あっちの方が100倍以上はうるさいからなぁ」
好々爺のようで居ながら、びしっとスーツを決める老年の男性の言葉に、遠い目をして答える青年。
彼らはこのボラーン王国の友好国の一つ、カルパッチョ商国の第3王子と執事、トパーズ・ザ・カルパッチョとセバスジャンである。
王国ではなく商国であるのに、王子と名が付くのは、その国は商人たちが作りあげた国であり、その国の創始者である商人が王とされ、それでも商人中心であることは変わりがないからである。
今回、ボラーン王国での大規模選挙の行事を聞き、商国からは王がこの国の次期王になるものに会いに来ているのだが、そのついでにトパーズはここへ来たのである。
目的は、その新しく王になるであろう者と知己になっておき、後々商国との付き合いで良い方向へ進めらるように、陰から見るためだ。
「しかしながら、本当は兄たちがここへ来るべきなんだがなぁ‥‥‥というか、それが分かっているのになぜ父上は連れてこなかったのだろうか?」
「まだまだ教育不足であると判断したからでございましょう。先日もこの国で友好を確かめるための使節団をお送りした際に第1,2王子様方、やらかしたと聞きました」
「ああ、互に次期王の座を狙ってけなそうとして、結果として評価を落としたからな…‥‥どろどろとした模様を見つつ、裏から操るのも良いが、その余波で出てこれなくなるのはつまらないなぁ」
セバスジャンの返答に、トパーズはつまらなさそうに溜息を吐く。
このボラーン王国は、王族同士で王位を押し付け合っていると聞くが、商国は通常の国のように、王位争いが起きている。
第1,2,3王子と3王子で成り立つのだが、現状この第1,2王子が争っており、第3王子であるトパーズは争いに加わりつつも、そのドロドロ模様を見て楽しんでいるだけなのだ。
まぁ、彼自身王になっても良いとは思うが、それまでの争いを見たいがゆえに、今もなおそんなに目立たぬように、なおかつ兄たちの争いぶりを静かに傍観させてもらっているのだ。
「何にしても、兄二人もできればこの国のように、押し付け合うようになればちょっとは静かだろうが‥‥‥それだと面白くないな」
「でしたら、坊ちゃまが王になればいいでしょう。それでありつつ、第1,2王子を家臣にして、今度は権力争いでもさせればよろしいのでは?」
「嫌だ。面倒くさい。王になればそれこそ仕向けらるだろうが…‥‥上の立場で見るよりも、下から見ていたほうが面白いのだよ」
「はぁ、今一つわかりませんが、そうなのでございましょうか」
セバスジャンは呆れたように言いつつも、この仕えている主には慣れており、そう答える。
「まぁ、最近坊ちゃま目当ての刺客たちが送られてきてますので、このおいぼれにとってはいい運動になりますがね」
「そういうものか?」
「そういうものでございましょう」
ずずっとお茶を飲み、こんっとコップを机の上に置く。
「そう言えば、ふと思い出したが‥‥‥この国、今の選挙だと第1~5王子と第1王女で王位継承を決めるようだが、この第2王女の方は何だ?確か、特に不可もなく優秀だったともきくが‥‥‥王位継承復活とは?」
「ああ、そう言えばまだ坊ちゃまには知らせてませんでしたね。この爺やの落ち度でございました」
「いや、うっかりであればそれで良いが…‥‥その理由は把握しているのか?」
「はい」
そしてカクカクシカジカと、トパーズはセバスジャンから説明を聞いた。
「‥‥‥なるほど、魔王の元へ嫁いだか。今代の魔王の噂程度なら聞いていたが、そのようなことになっていたとはな」
「まぁ、中立の魔王らしいですが…‥‥我が国では第1,2王子方が自然と敵意を向けているようでございます」
「何故だ?まだ関わりもないはずだが」
「どうも第2王女様に懸想をしていたようでございまして、要は逆恨みでございますな」
「流石にあの兄たちが懸想しても、無理じゃないか?国内不人気争いでも上位陣だったはずだ」
「まぁ、それでも権力に群がるアリたちがたかって、どうにかしている現状でございますからなぁ‥‥‥」
何にしても、この話を聞きトパーズはふと思った。
「あれ?となると、この選挙で魔王の元に嫁いだ第2王女の継承権が仮に復活すれば、その魔王も出されるのでは?」
「国を貰えそうな点はいいかもしれませんが、こういう中立の者は権力を持つことを嫌がるそうでございますからなぁ。まぁ、何もないという事は、案外黙認しつつ、成らないように裏工作でもしている可能性がございますね」
「そういうものか」
「だって坊ちゃまも似たような者でしょう?王位に就くよりも、傍観している方が面白いというのであれば、特に変わりはないでしょう」
「‥‥‥うん、まぁ何も言えないな。でもそう考えると、その魔王とは話してみたいな‥‥‥なんか気が合いそうだ」
セバスジャンの言葉に、トパーズはくすりと笑ってそう答えた。
【ふみゅ~!ふみゅ~!】
【ちょっと待ってくださーい!!その先はダメですよー!】
「ん?」
っと、そろそろ喫茶店を出ようとしている中で、騒がしい声が聞こえてきた。
先ほどから何かあったような感じはしたが、その元凶が近くにいるらしい。
「おや、どうも騒ぎの原因が近づいてきたようでございます」
「どれどれ、せっかくだから拝見させてもらおうか」
立ち上がり、人込みの中を紛れすすむ二人。
そして、その声の主たちを彼らは見た。
【ふみゅ~♪ふみゅ~♪】
【ああ、もう。なんでこうもあちこちいくのですか!】
【ふみゅぅ?】
【‥‥‥首をかしげてもダメですってば!】
そこにいたのは、母娘らしい二人組。
だがしかし、その容姿は人ならざるもの。
されども‥‥‥‥
【ふみゅ~♪】
【あああああ!!ちょっと待ちなさーい!】
「…‥‥ほぅ、この歳になって、珍しいものをみましたな」
「‥‥‥爺や、あの者たちは何だ?」
「見た目的には、おそらくアラクネの親子でございましょう。冷酷、残虐などの話を聞きましたが‥‥‥あれはおそらく亜種で、誰かの使い魔の可能性がございます。その証が付いておりましたが‥‥‥」
「‥‥‥」
今見た光景を見て、あっけにとられつつも問いかけるトパーズに、セバスジャンはそう答える。
下半身が蜘蛛であり、その容姿は人以上に美しい者をみて驚愕しているのだろうなぁっとセバスジャンは思った。
無理もない、高齢で欲も薄い彼も、若ければあの親子に声をかけ、仲良くしたいとつい思ってしまうほど、絵になる二人だったのだ。
「美しかった…‥‥」
「ええ、そうでございます。眼福とは、まさにこの事でございましょう」
「いや、それもそうだが…‥‥爺や、あのでかい方というか、母親のようなアラクネは誰かの使い魔だよな?」
「証があるので、そうかと。子供の方は、まだわかりませんが‥‥‥ああ、ですが使い魔として欲してもおそらくだめでございましょう。ああいうのはきちんと手許に置いておきたいでございましょう」
「ん?いや、あの親の方が欲しいのではない。むしろ、私が欲しいのは‥‥‥あの小さい、娘の方だ」
「ほぅ?坊ちゃま、まさかロリコンに?」
「違う!!そうではない!!」
セバスジャンの言葉に、トパーズは慌ててそう答えた。
「あの娘、まだ小さいようだが、それでも将来は大きくなるだろう。いや、小さい大きいの話ではなく‥‥‥わたしは今!あの娘に一目惚れをした!!」
「‥‥‥はい?」
トパーズの堂々とした言葉に、セバスジャンはあっけにとられた。
「えっと、坊ちゃま。なぜそれが一目惚れと…‥‥」
「いいや、間違いない!!男としての本能は告げてくるのだ!!あれはぜひとも将来妻に欲しい!!」
「ですが、そう相手が了承してくれるかどうかは」
「それはわからん!!というかそもそも、どこの誰それということもまだわからぬ!!けれども、あの娘を妻として迎え入れたい!!」
「は、はぁ」
トパーズの熱弁に、セバスジャンは置いて行かれる。
それと同時に、物凄く珍しいものを見たような気がした。
幼少期から仕えていた王子。
第3王子という立場上、継承権も低く、周囲からもそう言い感じには扱われていないがゆえに、躍動感もなく、人生をつまらなそうにしていた。
王位継承争いでさえも暇つぶしのように出ており、最近はその争いで楽しみを見つけていたと思っていた王子が…‥‥今、まともに心から欲するような言葉を出したのだ。
「さっそく、彼女達の身元を捜すぞ!!主がいるならば、何としてでもあの娘の方を我が嫁にできるように願い出るのだ!!」
「そ、そうでございますか。では、できるだけ確認を急がせましょう」
「出来るだけではない!!限界を尽くせ!!あの娘をみて心を打たれたが、下手をすれば今この国にいる父上にも入って、むしろあの性欲大魔神の手にかけられてしまう可能性もある!!だからこそ、出来る限りではなく、それ以上の尽力を尽くすのだぁぁぁぁ!!」
トパーズはそう吠え、セバスジャンが言うよりも早く後を付けるために動き出し、セバスジャンも慌てて追いかけるように動き出す。
‥‥‥恋の執念とやらは、凄まじいようだ。
それでも、毎日をくだらなさそうにしていた王子にとっては、良い事なのかもしれない。
そう考えると、今こうして生きがいを見つけたかのように、はきはきしている王子に、セバスジャンは人知れず笑みを浮かべるのであった…‥‥
‥‥‥娘たちを連れての、首都観光二日目。
首都内では王位継承のための選挙についての話題が多く出ており、行き交う人々からも度の王子がどの課題に挑み、現在の進行状態についての話が聞こえてくる。
「兄姉様たちのうわさ話を聞く身内としては、複雑な心境ですわね…‥‥全員達成されると、わたくしが王位継承権に復活させられてしまいますわ」
「まぁ、今のところまだ達成し切ってはないようだけどね」
【むしろ、被害が大きく出ているようですが‥‥‥】
建物倒壊、ヤンデレ惨劇、味覚崩壊…‥‥聞いているだけでも、色々とヤヴァイ事ばかり。
でもそれらも笑い話で済む当たり、この国の人達のメンタルってとんでもなく強いよなぁ…‥‥いやまぁ、怪物騒動もあったというのに、本当にへこたれない国民性はすごい。
【ふみゅ~】
「みー」
っと、ヒルドとオルトリンデたちは、昨日で十分暴れたのか、今日はちょっと大人しい‥‥‥と思っていたが…‥‥
【ふみゅ?ふみゅ~♪】
「ヒルド、ちょっと張り付かないの!!ここ一応店の前!」
「みー!みー!」
【あわわわ!!そっちは大穴の建設工事中の場所ですよーーーー!!】
【ふみゅふみゅー!!】
「みーみーみ!!」
「二人とも待つにょー!!それ、そこの店の商品なのに勝手に持っていかないによー!!」
【ふみゅ~ふみゅー!】
「みーーーーーーーー!」
「ちょっとなんか被害出てますわよ!?その眩しい頭の人達に早く隠すためのものを返してあげるのですわ!!」
すぐに好奇心旺盛さが表れ始め、隙あらば勝手に動きまわり、初日と変わらない忙しさがすぐに戻ってきてしまった。
というか、子どもの行動力と体力凄いな…‥‥糸で張り付くわ、翼で飛ぶわ、協力して合体技を編み出すわ‥‥‥我が娘たち、末恐ろしく育ちそうで、親としては良い事なのか悪い事なのか、ちょっと複雑である。
なお、この好奇心旺盛すぎる動きを抑制するために、紐を付けるとか、シスターズをそれぞれに付けるとか考えていたが…‥‥ちょっと無理っぽい。
ひもであれば抜け出すか、切ったりするし、シスターズであれば振り切る可能性もある。
というか、そもそも人込みがある中でそれは目立ちすぎるからなぁ‥‥‥いやまぁ、この時点ですでに相当目立っているとは思うから、何をいまさらという感じはするけどね。
何にしても、元気いっぱいな娘たち。
初日の疲労はどこへやら、僕等も大慌てで何とか迷子にならないようにしたり、危険ものに触れたりしないようにてんやわんやと追われるのであった。
うん、どうしようこの娘たち。まだ外へ出るのは早かっただろうか…‥‥
――――――――――――――――――
SIDE???
シアンたちが娘たちにてんやわんやと追われているころ、首都内のとある喫茶店で。二人はその騒がしさに気が付いていた。
「次期王の座に就く奴は誰か、庶民たちの賭け事とやらで予想している中で、ちょっと騒がしいなぁ‥」
「仕方がない事でございます、坊ちゃま。ですが、わが国の商人たちのオークション会場などに比べればマシでございましょう?」
「‥‥‥ああ、うん。それもそうだったか。あっちの方が100倍以上はうるさいからなぁ」
好々爺のようで居ながら、びしっとスーツを決める老年の男性の言葉に、遠い目をして答える青年。
彼らはこのボラーン王国の友好国の一つ、カルパッチョ商国の第3王子と執事、トパーズ・ザ・カルパッチョとセバスジャンである。
王国ではなく商国であるのに、王子と名が付くのは、その国は商人たちが作りあげた国であり、その国の創始者である商人が王とされ、それでも商人中心であることは変わりがないからである。
今回、ボラーン王国での大規模選挙の行事を聞き、商国からは王がこの国の次期王になるものに会いに来ているのだが、そのついでにトパーズはここへ来たのである。
目的は、その新しく王になるであろう者と知己になっておき、後々商国との付き合いで良い方向へ進めらるように、陰から見るためだ。
「しかしながら、本当は兄たちがここへ来るべきなんだがなぁ‥‥‥というか、それが分かっているのになぜ父上は連れてこなかったのだろうか?」
「まだまだ教育不足であると判断したからでございましょう。先日もこの国で友好を確かめるための使節団をお送りした際に第1,2王子様方、やらかしたと聞きました」
「ああ、互に次期王の座を狙ってけなそうとして、結果として評価を落としたからな…‥‥どろどろとした模様を見つつ、裏から操るのも良いが、その余波で出てこれなくなるのはつまらないなぁ」
セバスジャンの返答に、トパーズはつまらなさそうに溜息を吐く。
このボラーン王国は、王族同士で王位を押し付け合っていると聞くが、商国は通常の国のように、王位争いが起きている。
第1,2,3王子と3王子で成り立つのだが、現状この第1,2王子が争っており、第3王子であるトパーズは争いに加わりつつも、そのドロドロ模様を見て楽しんでいるだけなのだ。
まぁ、彼自身王になっても良いとは思うが、それまでの争いを見たいがゆえに、今もなおそんなに目立たぬように、なおかつ兄たちの争いぶりを静かに傍観させてもらっているのだ。
「何にしても、兄二人もできればこの国のように、押し付け合うようになればちょっとは静かだろうが‥‥‥それだと面白くないな」
「でしたら、坊ちゃまが王になればいいでしょう。それでありつつ、第1,2王子を家臣にして、今度は権力争いでもさせればよろしいのでは?」
「嫌だ。面倒くさい。王になればそれこそ仕向けらるだろうが…‥‥上の立場で見るよりも、下から見ていたほうが面白いのだよ」
「はぁ、今一つわかりませんが、そうなのでございましょうか」
セバスジャンは呆れたように言いつつも、この仕えている主には慣れており、そう答える。
「まぁ、最近坊ちゃま目当ての刺客たちが送られてきてますので、このおいぼれにとってはいい運動になりますがね」
「そういうものか?」
「そういうものでございましょう」
ずずっとお茶を飲み、こんっとコップを机の上に置く。
「そう言えば、ふと思い出したが‥‥‥この国、今の選挙だと第1~5王子と第1王女で王位継承を決めるようだが、この第2王女の方は何だ?確か、特に不可もなく優秀だったともきくが‥‥‥王位継承復活とは?」
「ああ、そう言えばまだ坊ちゃまには知らせてませんでしたね。この爺やの落ち度でございました」
「いや、うっかりであればそれで良いが…‥‥その理由は把握しているのか?」
「はい」
そしてカクカクシカジカと、トパーズはセバスジャンから説明を聞いた。
「‥‥‥なるほど、魔王の元へ嫁いだか。今代の魔王の噂程度なら聞いていたが、そのようなことになっていたとはな」
「まぁ、中立の魔王らしいですが…‥‥我が国では第1,2王子方が自然と敵意を向けているようでございます」
「何故だ?まだ関わりもないはずだが」
「どうも第2王女様に懸想をしていたようでございまして、要は逆恨みでございますな」
「流石にあの兄たちが懸想しても、無理じゃないか?国内不人気争いでも上位陣だったはずだ」
「まぁ、それでも権力に群がるアリたちがたかって、どうにかしている現状でございますからなぁ‥‥‥」
何にしても、この話を聞きトパーズはふと思った。
「あれ?となると、この選挙で魔王の元に嫁いだ第2王女の継承権が仮に復活すれば、その魔王も出されるのでは?」
「国を貰えそうな点はいいかもしれませんが、こういう中立の者は権力を持つことを嫌がるそうでございますからなぁ。まぁ、何もないという事は、案外黙認しつつ、成らないように裏工作でもしている可能性がございますね」
「そういうものか」
「だって坊ちゃまも似たような者でしょう?王位に就くよりも、傍観している方が面白いというのであれば、特に変わりはないでしょう」
「‥‥‥うん、まぁ何も言えないな。でもそう考えると、その魔王とは話してみたいな‥‥‥なんか気が合いそうだ」
セバスジャンの言葉に、トパーズはくすりと笑ってそう答えた。
【ふみゅ~!ふみゅ~!】
【ちょっと待ってくださーい!!その先はダメですよー!】
「ん?」
っと、そろそろ喫茶店を出ようとしている中で、騒がしい声が聞こえてきた。
先ほどから何かあったような感じはしたが、その元凶が近くにいるらしい。
「おや、どうも騒ぎの原因が近づいてきたようでございます」
「どれどれ、せっかくだから拝見させてもらおうか」
立ち上がり、人込みの中を紛れすすむ二人。
そして、その声の主たちを彼らは見た。
【ふみゅ~♪ふみゅ~♪】
【ああ、もう。なんでこうもあちこちいくのですか!】
【ふみゅぅ?】
【‥‥‥首をかしげてもダメですってば!】
そこにいたのは、母娘らしい二人組。
だがしかし、その容姿は人ならざるもの。
されども‥‥‥‥
【ふみゅ~♪】
【あああああ!!ちょっと待ちなさーい!】
「…‥‥ほぅ、この歳になって、珍しいものをみましたな」
「‥‥‥爺や、あの者たちは何だ?」
「見た目的には、おそらくアラクネの親子でございましょう。冷酷、残虐などの話を聞きましたが‥‥‥あれはおそらく亜種で、誰かの使い魔の可能性がございます。その証が付いておりましたが‥‥‥」
「‥‥‥」
今見た光景を見て、あっけにとられつつも問いかけるトパーズに、セバスジャンはそう答える。
下半身が蜘蛛であり、その容姿は人以上に美しい者をみて驚愕しているのだろうなぁっとセバスジャンは思った。
無理もない、高齢で欲も薄い彼も、若ければあの親子に声をかけ、仲良くしたいとつい思ってしまうほど、絵になる二人だったのだ。
「美しかった…‥‥」
「ええ、そうでございます。眼福とは、まさにこの事でございましょう」
「いや、それもそうだが…‥‥爺や、あのでかい方というか、母親のようなアラクネは誰かの使い魔だよな?」
「証があるので、そうかと。子供の方は、まだわかりませんが‥‥‥ああ、ですが使い魔として欲してもおそらくだめでございましょう。ああいうのはきちんと手許に置いておきたいでございましょう」
「ん?いや、あの親の方が欲しいのではない。むしろ、私が欲しいのは‥‥‥あの小さい、娘の方だ」
「ほぅ?坊ちゃま、まさかロリコンに?」
「違う!!そうではない!!」
セバスジャンの言葉に、トパーズは慌ててそう答えた。
「あの娘、まだ小さいようだが、それでも将来は大きくなるだろう。いや、小さい大きいの話ではなく‥‥‥わたしは今!あの娘に一目惚れをした!!」
「‥‥‥はい?」
トパーズの堂々とした言葉に、セバスジャンはあっけにとられた。
「えっと、坊ちゃま。なぜそれが一目惚れと…‥‥」
「いいや、間違いない!!男としての本能は告げてくるのだ!!あれはぜひとも将来妻に欲しい!!」
「ですが、そう相手が了承してくれるかどうかは」
「それはわからん!!というかそもそも、どこの誰それということもまだわからぬ!!けれども、あの娘を妻として迎え入れたい!!」
「は、はぁ」
トパーズの熱弁に、セバスジャンは置いて行かれる。
それと同時に、物凄く珍しいものを見たような気がした。
幼少期から仕えていた王子。
第3王子という立場上、継承権も低く、周囲からもそう言い感じには扱われていないがゆえに、躍動感もなく、人生をつまらなそうにしていた。
王位継承争いでさえも暇つぶしのように出ており、最近はその争いで楽しみを見つけていたと思っていた王子が…‥‥今、まともに心から欲するような言葉を出したのだ。
「さっそく、彼女達の身元を捜すぞ!!主がいるならば、何としてでもあの娘の方を我が嫁にできるように願い出るのだ!!」
「そ、そうでございますか。では、できるだけ確認を急がせましょう」
「出来るだけではない!!限界を尽くせ!!あの娘をみて心を打たれたが、下手をすれば今この国にいる父上にも入って、むしろあの性欲大魔神の手にかけられてしまう可能性もある!!だからこそ、出来る限りではなく、それ以上の尽力を尽くすのだぁぁぁぁ!!」
トパーズはそう吠え、セバスジャンが言うよりも早く後を付けるために動き出し、セバスジャンも慌てて追いかけるように動き出す。
‥‥‥恋の執念とやらは、凄まじいようだ。
それでも、毎日をくだらなさそうにしていた王子にとっては、良い事なのかもしれない。
そう考えると、今こうして生きがいを見つけたかのように、はきはきしている王子に、セバスジャンは人知れず笑みを浮かべるのであった…‥‥
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