スローライフは、この手で掴み取りたい!! ~でも騒動は、押しかけて来るらしい~

志位斗 茂家波

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第1章:幼少期~少年期前編

13話 入学前に、まずはしっかりと確認も

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SIDEエル

 短くも長くも、どちらにも感じ取れる数日間の馬車の旅路も終わり、ようやくエルたちは目的地へとたどり着いた。
 都市マストリアに建築され、ここで教育を受ける者たちが集められる場所‥‥‥転生物だと学園とかが王道だが、名称になぜか学校の名が付く教育施設、「スクライド学校」である。
 おそらくは、過去に他の転生者が関わって名称がそう定められたのだろうか。いや、それでも学園の方が割とよく聞く方なので、違うのかもしれない。

 まぁ、そんなどうでもいい事は考えずに、今は到着後の行動の方に意識を移さなければいけないだろう。
 周辺の町や村から、通う年齢になった子供たちが集められているわけだが、当然到着時期が場所によってある程度ズレたりもするため、到着早々に入学式が行われることはない。
 少々待つ必要があるそうなのだが‥‥幸いというべきか、僕らの方が道中の賊やそもそも辺境の地だったから遠いのもあり、到着した順番としては遅い方だったらしい。
 ゆえに、時間としてそこまで待つようなこともないらしく、入学式は明日開催のタイミングだったようだ。
 でも、それまでに一旦、荷物を置いたりするために、振り分けられた寮へ入らないといけないのであった。
 遠い場所の生徒も考慮して、基本的に休暇を除けば寮で過ごせる全寮制というのはいいけれどね。小遣い稼ぎのバイトなども認められており、ちょっと校則としては厳しいわけでもないらしい。
 ただし、違反事項などをやらかせば当然処罰もありうるようで、最悪の場合教育の機会を放棄することになるのだとか‥‥‥勉強をしたくない人はそれはそれでありかもしれないが、そんな中途半端な状態で放り出されたら、前世以上に厳しいことになるのは間違いないだろう。


 とにもかくにも、終点で馬車の御者のお爺さんとは別れ、指定された受付場へ向かう。
 寮に入るためには、受付の方でしっかり入寮する生徒かどうか、何を持ってきたかなどの確認のために本人の手による確認作業を行わねばならないそうだ。
 なお、本来であればもうちょっと簡素に済ませられるものもあるらしいが、僕場合だとモンスターでもあるハクロが一緒にいるため、ちょっと手続きが多くなるのだ。

「『覗き見防止処理』に『盗聴防止処理』、あとは『自動迎撃装置の設置許可』…モンスターも一緒に入るにはある程度の防犯対策も強化することをしないといけないんだね」
「色々とありますね。他の人に奪われたりすることや、わざと暴走させるような事例があったせいだという説明も混じってますよ」
「過去に何があったのか…それはそれで気になるな」

 とりあえず、事前にどういう手続きがあるのか馬車の中で学校の入寮手続きに関しての説明資料も実は貰っており、しっかり目を通しておいたのでそんなに手間取ることはない。
 生徒の方からやってほしいことなどもチェックする必要があるが、モンスターがいる事を先に通達しておくと学校の方でも先にやってくれていることもあるようで、その不備の確認をする程度で済むところもあるらしい。

 それにしても、先ほどから他の入寮手続きを行っている生徒やここで受付をしている人たちからの視線が、ちょっと気になるところだ。 
 モンスターでもあるが、一応、ハクロは俺の保護者的な存在扱いで来ているのだけれども、やはりその容姿は目立ってしまうところがあるらしい。

 その事も事前に情報が伝わっているのもあってか、通常のモンスターを入れる手続きに加えて、普通の防犯事項の強化版みたいなものも手続きに加わっていた。
 何やら盗撮やら下着泥棒などが出る可能性もしっかり考慮されているらしく、出来る限りの処置が僕たちの部屋になる寮室に施されている様子だ。ここまでばっちりやってもらうと、手間をかけたようでちょっとだけ申しわけない気にもなるだろう。
‥‥‥しかし、寮室に関しての事前作業チェックの中に、『防水処理』とかは分かるけど、『防爆処理』って何?爆発すること前提ってことなの?
 あ、これモンスター云々関係なく、基本的な防犯事項の中に入っている…いやいやいや、こんなものが標準搭載できる寮って何なのか。過去に誰か爆発物でも持ち込んでやらかしたのだろうか。


 少々ツッコミどころが多かったとはいえ、なんとか手続きを終えた。
 その後は普通に寮の渡されたカギと合う寮室へ向かえば良いだけなのだが、向かっている間にも周囲から視線がかなり感じられた。
 ハクロに向けられているのは羨望や憧れ、多少の色欲などの欲望の視線のようなのはまだ良いだろう。
 でも、僕の方にはひしひしとかなり痛い嫉妬の視線が突き刺さっているようにも感じられる。
 うん、多分これ、彼女がきれいな女性の容姿も持っているから、それが原因なんだろうなぁと確信が持ててしまう。まだ10歳なのに、今からこの視線の雨あられの洗礼とは…この先、大丈夫かなぁ?


 不安も抱えつつも、寮へと入り、与えられた鍵で寮室に入る。
 基本的に一人一室か、あるいは少々事情を組み込んで複数人が入れる大部屋タイプなどがあるらしいが、僕等の場合は2人部屋タイプの寮室のようだ。

「ここが、今日から僕らが生活する場所だ!」
「思った以上に広いですね!」

 ハクロのサイズも考慮されてか、2人部屋の中でもちょっと大きめのものらしい。
 室内は、まだ荷物がそんなに持ち込んできていないので、シンプルに最初から用意されている勉強机に、空の本棚、寝るためのベッドに着替えを入れるクローゼットぐらいしかないようだ。
 ご飯とかは食堂があるのでそこで食べられるし、お風呂も寮にあるらしい。だからこそ、シンプルな造りなのは納得かもしれない。
 
 ただし、入寮したてはほぼすべての部屋がきれいだとしても、中には趣味での部屋を改装や、生活習慣による整理生徒難が出来ない人も出るようで、聞いた話では大体の場合、整理整頓された生活な部屋の人から、散らかりまくって魔境と化す部屋と二極化しやすいらしい。

 ちょっと一休みのつもりでベッドに腰をかけると、ハクロの方は意気揚々と天井に巣を張り始めた。
 ハンモック上の寝床を素早く作製し、彼女の上半身部分の背の高さなども考慮して作っているようだけど‥‥あっという間に立派なアラクネの手による蜘蛛の巣が上の方に張り巡らされる。
 ちょっと大きめの部屋ゆえに、実家の方の天井よりも立派かもしれない。でもこれ、二極化の散らかりまくった末路みたいにも見えなくもないし、何かごまかせないかな?

「気にしないほうが、良いかもなぁ…さてと、明日が入学式らしいけど、その前に寮内や周辺の面白そうな場所などがないか、見て回ってみようか」
「そうしましょう。面白そうなところ、あると良いですね」


 やっぱり、こういう新しい環境ではちょっとドキドキとした探検気分になってしまうのは、子どもとしての心があるせいなのだろうか。前世からの年齢を足すとそこそこありそうだが、精神面はどうしてもこっちで引っ張られてしまうところもあるようだ。
 とにもかくにも、まずはこの寮での決まり事や暗黙の了解などの説明をかたっぱしに出会った人たちに聞いて回ってみることにした。
 コミュニケーション技術に関して言えば、並の上程度だが、ハクロが横にいると、彼女の問いかけに答えてくれる人の方が多いのでそこまで情報を探ることは難しくもない。
 ハニートラップに受け取られかねんが…そんな気はないので、安心してほしい。


 何にしても色々と聞き込みまわっていると、様々な情報を得ることが出来た。
 まず、この一人一人に割り振られる寮室は、入学時から卒業時までほぼ階層や場所の変更はないらしい。でも、例えばその部屋をついうっかりで爆破したなんて事があったら、被害が出ないように移動させられたりもするそうである。「防爆」の項目が手続きにあったのは、その事もあったのは間違いないだろう。あと過去には、堂々とカジノみたいなことをやらかしていた生徒もいたようだが、退寮よりももっと根本的な精神からのお仕置きが必要という事で、えげつない部屋に挟まれた場所へ移動させられ、卒業時には悟りを開いた修行僧みたいになった人もいるらしい。

 次に、食事に関しては、寮の一階の大部屋部分に食堂があり、朝、昼、夜に解放され、ほぼ無料で食事できるそうだ。税金で賄われている部分もあるため、更に多く食べたければ普通に金を払えと言う部分もあるようで、中には食堂でバイトをしてレパートリーを増やそうとする人もいると聞いた。

 そして、風呂に関しては寮の別館に風呂場が設けられており、こちらは綺麗好きな人が良く利用することがあり、24時間営業状態にもなっているそうだ。
 男湯と女湯、その他ペット用の湯なども設けられているそうだが、ハクロはモンスターだけど、女湯に入っていいらしい。
 ただし、彼女はモンスターであるがゆえに、どうしてもモンスターに対して忌避感を示してしまうような人がいたりするので、互いに傷つかないようにという配慮も兼ねて、できるだけ一人で入るようにして欲しいという注意もいただいた。

「そこは残念です。でも、仕方がないですよね」

 ちょっとがっかりした様子のハクロ。そこはまぁ、多くの人が集まる場ならではのこそ、他の人に配慮する必要があるので納得しないといけないかもしれない。
 全員平等とかそういうきれいごともあるだろうが、どうしようもない事もある。

 だがしかし、この後に起こる事を彼女は予想していなかった。
 蜘蛛の身体も下の方にあるとはいえ、彼女自身が美女でもあるため、その美貌の秘訣を聞きたくなる女子たちが、何も見に纏わぬからこそお互いに親しみやすくなるであろう風呂の機会で、聞き込んでみようと押しかけて仲良くなることが出来るという事を。
 そして、モンスターであっても絶世の美女であれば、見る価値が宝石よりもあるということで、覗き見をしようと何人かの男性たちが必死の努力をして、捕まっていき、風呂場の防犯体制を向上させていくことを。

 美しいとは、罪であるという人もいるだろうが、今はまだ僕らも誰も彼も知らぬことであった。





 ひとまず、この後も寮内を散策し終え、食堂で夕食を取り、風呂を堪能したあと寝る時間となった。

「ふぅ、いよいよ明日入学式か」」

 ベッドに入り、横になってそうつぶやく。
 ここで色々と学ぶのはいいことなのだが、最終目標を忘れてはいけないだろう。
 楽しいのは良いけど、変に目を付けられると厄介なので、できるだけ普通に過ごしたい。 
 そう、将来は、絶対にスローライフを心に決めているのだから。

 その時には、ハクロも一緒にいてくれると嬉しい。彼女は家族であり、大事な人でもあるのだから。
 ふと、明かりを消して少し慣れた夜目で上の方を見れば、ハクロはくぃぴっとすぐに寝ていた。

 寝つきよく、心配事もないように穏やかに寝ているようで、過去の抱きしめ事件もあったことでしっかりと防止対策の糸なども張り巡らされている様子。
 安心できる場所ゆえに気を許しまくり、緩みまくっているその姿に微笑ましく想いつつ、僕も眠ることにする。
 何も考えず、今はただゆっくりと寝るために‥‥‥



――――――――――――――――
SIDEハクロ

「‥‥‥んにゅ、寝ましたね」

 エルが寝付いたのを見計らい、ハクロはそっと体を起こした。
 実は彼女、気を緩ませまくって寝たふりをしており、エルが寝るまで待っていたのだ。
 その理由としては、野生化で暮らしていた時があったからこそ、感じ取れたあることに気が付き、エルにいらない心配をかけないようという想いがあったからだ。

 エルが熟睡していることを確認し、寝床から抜け出して部屋の窓から出て、近くにあった茂みを彼女は睨みつけた。
 その表情は普段の穏やかなハクロであればしない顔で、冷たい表情でかつ糸を手に取っていつでも使えるように臨戦態勢を取っていた。

「そこの茂みに潜んでいる方、出てきてください。出るのが無理ならば、理由を話してみてください。‥‥‥、私、感じ取ってましたよ?ここに来てから感じる視線に混ざって、他の者とは質が違うような視線が合ったことを。彼との生活で、何かしでかそうとされるのは嫌ですからね。何か目的があるならば素直に出てきてほしいですが‥‥‥無理なら、糸を引いて引きずり出しますよ」

 ハクロがそう問いかけると、茂みがかすかに揺れた。

 どうやらバレていたことに驚いたようだが、素直に出てくる気配もない。
 ならば、引きずり出すべきかと糸を出したが、無理に争うのもこの身ではない。

「‥‥‥監視など、私達に物理的に関わる手ではないのであれば、良いのですが、肯定ならば茂みを大きく揺らしてください」

 その言葉に応じるように、目の前の茂みがゆさゆさと先ほどよりも大きく揺れる。
 姿を見せたくもなく、争う気もない様子だとみなし、ハクロは言葉を続けた。

「監視にしても何にしてもエルに対して何か嫌がらせのようなものや、彼にとって苦痛に感じるようなことをしたら、私にとって一番大事な彼が失われるようなことがあれば、問答無用で人知れず、あなた方を葬り去りますからね」

 エルの前では見せないような、モンスターとしての冷酷無慈悲な目線を向け、ハクロはそう宣言する。

 そして、肯定するように再び茂みが再び揺れ、静まり返った。それと同時にそこにいた気配も失せ、去った様子である。

 
‥‥‥彼女は気が付いていた。何か、自分たちを見張っているような輩たちがいることを。
 エルに心配されぬように、愛しい人を守るために、己だけで解決を図ったのだが、幸いというかどうも敵対するような意思はなかったようだ。
 とはいえ、万が一という事も考えて釘を刺したので、これで迂闊に接触してきたり、嫌がらせをするようなことはないはずである。人の悪意というのは、モンスターである彼女は掴み切れない部分もあるのだが、今晩の方々に関しては、それはないと信じたい。
 そう思いつつ、コッソリとエルを起こさないように物音を立てずに窓から入り込み、自分の寝床へ入り込もうとして‥‥‥ふと、こんなことがあった中でも熟睡しているエルの顔を見て少しいたずら心が湧いた。

 起こさないように気を使いつつ、そっと寝ているエルを彼女は優しく抱きしめた。

「‥‥‥野生の中では、一人では得られなかった温かい暮らし。それを守るために、私は何時でも動きますよ。エル、貴方はここで安心して生活して良いのです。私があなたを守りますからね」

 そうつぶやき、加減を間違えないようにそっと優しく抱きしめつつ、エルのぬくもりをしっかりと味わった後、そのおでこにキスをした。
 そして、ハンモックに登り、自身の身体を入れて彼女は眠りにつくのであった。




‥‥‥しかし、翌日、寝相が悪かったハクロは再びエルのベッドの中へ潜り込んでしまった。
 以前の事例もあって仕掛けを施していたのだが、部屋のサイズが実家とは違うがゆえに不具合が起きてしまっており、正常に作動しなかった。
 そして、寝ぼけたがゆえにボキッとやらかしかけたので、ぐにゅっとされ、次の日からは寝る際の点検を欠かさないように、心に誓うのであった…‥‥


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