67 / 106
第2章:少年期後編~青年期へ
62話 身の上話、蜘蛛の上話
しおりを挟む
SIDEエル
…誘われて、出現した巨大な蜘蛛のモンスター。
襲われるかとも思っていたのだが…なんと、ハクロの兄だったことが判明し、争いは起きずともお互いに何がどうなっているのか驚いて、状況は硬直状態になっていた。
そのため、まずは、どういう相手なのか確認させてもらうために鑑定魔法を使用して情報を得てみることにした。
「『鑑定』っと」
―――――
種族名:「メガマグナムスパイダー」
名前:無し
性別:オス
「メガマグナムスパイダー」
ショットスパイダーが進化した先に存在する蜘蛛のモンスターの一種。
体が大きくなり、重量が増加したために身軽な動きはできなくなってしまったが、その代わりに重量を活かした突進攻撃やのしかかり攻撃など、肉体の頑丈さも利用した攻撃を行う。
一見、単純に巨大化しただけの蜘蛛にも見えなくもないのだが、その体毛は針金のように鋭く硬くなっており、タフさはトロールやオークにも負けず劣らずのものになっている。
蜘蛛のモンスターゆえに糸を生み出すことは可能だが、細い糸は生み出せなくなっており、ものすごくぶっとく、重量感にあふれたものになっているため、振り回してこん棒のように扱えるようにもなっている。
見た目の凶悪さとは裏腹に、意外にも穏やかな性質を持っているため、何か馬鹿な事をしでかして激怒させた人以外での被害報告は少ない。
また、毒に対しての耐性も有しており、その毛自体が弱めの毒の鎧になって守っているとも言われている。
―――――
思った以上に凶悪そうなものにはなっているが、性質としてはむやみやたらに荒ぶるようなものでもなかったらしい。
実際に今、戦闘は起きておらず…確認している間に、ハクロとの再会トークを行っているようだった。
「ギャギャギャギャギャギャ!!ギャギャギャギャギャギャ!!」
「なるほどなるほど、653番目のお兄様は最近旅をしているんですか。え?冒険者たちに襲われてしまったことがあったけれども、全部しばき倒してきたと…」
目の前で久しぶりの再会なのか、楽しそうに話し合う兄妹の様子は良いのだが、見た目の違いが大きすぎて、本当に血縁者なのか疑いたくはなるだろう。
モンスターが成長すると、元は同じ種類でも全く違う種族へ変化していくという話はあると耳にしたことはあったが、その実例が目の前にあるのかもしれない。
「なぁ、ハクロ。そのモンスターってハクロの兄なのか?」
「あ、はいそうですよ。こちらは私のお兄様で、家族の中では653番目に生まれた蜘蛛です。昔は運動神経抜群の人だったんですよねぇ」
「ギャ、ギャギャ?」
「え?この人間は何だって?えっと、そういえば初めてですね。あの襲撃で散って以来なのでこれまで連絡が取れていませんでしたが…こちら、私が獲得した将来の伴侶のエルです」
「ギャギ!?」
ハクロのその言葉に、メガマグナムスパイダーは驚いたような声を上げ、エルの方を向いてまじまじと見る。
自身が知らぬ間に、妹が伴侶を得ていたという情報に度肝を抜かれたのだろう。
そのままじっと見つつも、どこか納得したようなそぶりを見せ、こちらに前足を出してきた。
「ギャギャ、ギャギャギャ」
「妹をどうぞ、よろしくお願いします。と言ってますよ」
「あ、普通に握手を求めていたのか。どうも、こちらも彼女と付き合っています。えっと、この場合お義兄さんといえばいいでしょうか?」
なんか思った以上に紳士的と言うか、凶悪性の無さそうなモンスターであったが、ハクロの兄ということは、自分にとっては義理の兄というべき立場になるのかもしれない。
家系図の中で思いっきり巨大な蜘蛛がいるのはどうなのかと思ったが…ああ、うん、タマモやカトレア、ミモザがいる時点で今更か。
まともな人間が少ないのだが、そんなのこのメンツになっている時点でいうまでもなかったと、気にしないことにした。
そもそも、653番目の兄とか言っているし…最低でも600以上の義理の兄とか姉ができるのは、確定してしまった未来だろう。
ただ、話を聞くとどうやらもともといた群れが襲撃されてばらばらになったという話もあり、全員の消息が分かっているわけではないので、全員と会うことはたぶん何かもしれない。
…とりあえず軽く挨拶をかわしつつ、俺たちはさすがに蜘蛛語を学んでいるわけでもないので、メガマグナムスパイダー、略してメガスパさんの話を、ハクロに翻訳してもらいつつ聞くことにした。
かくかくしかじかくもくもと話を聞いてみると、この義兄さんはあちこちを放浪しており、各地に散らばった兄妹に出会っては近況を聞くのを趣味にしているらしい。
ハクロたちは元々同じ蜘蛛のモンスターの子供であったのだが、色々あってバラバラになってしまい、生き別れてしまったそうなのだ。
まぁ、大体何番目で生まれたのかということである程度の区別もつけているらしいが…実は正確な数は不明で、とりあえず数え切れる分だけでの区別になっているらしい。
現在把握しているだけで1000体はいるらしいが…どれだけ多いのやら。
「ギャギャギャ、ギャギャ」
「『兄弟たちがどの様に生きていくのかは別に気にしていない。この世は全て強いものが弱い奴を食べ、生き残っていくしかない』」
「ギャ、ギャギャギャギャ、ギャギャギャ、ギャギャギャ!」
「『だが、血を分けた家族でもあるので、こうやって各地を放浪し、全ての兄、弟、妹、姉たちの安否を確認しつつ近況を聞いて回る旅を続けて、知見を広めつつ家族の居場所を確認しているのである!!』と、言っていますよ」
「その『ギャ』にどれだけの意味があるんだよ」
というか、どうやって翻訳しているの?兄妹の仲だから、進化して種族が変わっても通じるのか?
疑問を抱きつつも、エルたちはハクロの兄の話に耳を傾けた。
野を越えて、山を越え、海を渡り、氷の大地を進み、火山をめぐり、生き別れた兄弟姉妹の消息を確認する旅路はかなり波乱万丈であり、ちょっとした冒険談になっているようだ。
「ギャギャギャ、ギャギャァァ」
「『でも、さすがにモンスターである上にこの見た目だからか、時たま人間に襲われることもあった。まぁ、全員撃退したので今日まで無事で生きているがな』…撃退しているんですか」
「命を奪ったりとかは?」
「ギャギャギ。ギャ、ギャギャギャギャギャギャ」
「『そこまではやらぬ。命を奪うのは趣味ではないのだが、一応襲撃されたら襲ってくる覚悟があるものと見なして挑み返し、悪意があればそれ相応のことも施した』。お兄様、群れの中でもけんか強かったですもんね。でも、どのような事をしたのですか?」
「ギャギャギャ、ギャギャギャギャ」
「え?…えー…うわぁ。これ翻訳しません。ちょっと、怖いです」
「何を話したんだよ?」
ハクロ兄の言葉に、なぜかハクロがものすごいドン引きしていた。
何をやったのか気になったが、どうも訳すのは嫌な内容らしい。
「えっと‥‥‥エル、世の中には聞かないほうが良いという事がありますが、知りたいですか?」
「あー…その様子からなんとなく察したよ。やめておくよ」
ハクロの表情を見るだけで、どれだけやばいのかが良く分かるからね。触らぬ神に祟りなし、やばい蜘蛛の話は耳にしないほうが良いだろう。
そうこうしている間に、ちょっと話が盛り上がっていたようで、気が付けば日が暮れ始めていた。
「あ、そろそろ寮に戻らないといけないい時間だな」
「そう言えば確かにそうですね。時間かけ過ぎましたし、そろそろ帰らないといけないのですが…653番目の兄様はどうしますか?」
俺たちははこのまま帰還すればいいのだが、このハクロの兄はどうするのだろうか?
そう思い問いかけてみたが、その心配はないらしい。
「ギャ、ギャギャギャギャギャ」
「『この地は、一時の休憩場。少し離れた場所に、仮の巣があるからそこで宿泊している。ついでにだが、先ほどから放置されているあの者たちの処分もやっておこうか?』と言ってますよ」
「あ、忘れていた」
ハクロの兄の言葉に、エルたちは思い出した。
先ほどの追跡してきて、このハクロの兄を仕向けようとしていた襲撃者たちが、とらえてからずっと放置したままだったことを。
逃げられないようにしておいたのだが…それはつまり、トイレなんかにも行けなかったようで、うっかり長話をし過ぎたせいでトイレに行けなかった者もいたようで、地獄の苦しみを味わっていたり既に終わった者もいるみたいだ。
でも、のんびり平穏に暮らしたい俺達に対して、ハクロの兄を仕掛けようとしたことに関しては許せるものではないな…
「というかなんで、ハクロの兄さんを釣るようなことができたんだろうか?」
「ギャギャギャ、ギャ」
「『数日前から見られている気配がしていたが、どうやら利用するためにうかがっていたらしい。仮の宿泊場所だが、縄張りにもしていたので、異常があればすぐに駆け付けるようにしていたのだ。そこをおそらくは、利用されたのだろうな』と言ってますね」
利用するつもりが、まさかの血縁者ということでまったく役に立つことはなかったということか。
俺たちも戦闘することもなかったのでよかったが…お互いに気が付かなければ危険な状況になっていた可能性もあるし、しっかり反省してもらいたいところだ。
「一応、どこから仕向けられてきたのか聞くために、数日後に動けないようにしてから適当に都市周辺で放り出していいので、好きな分だけ、そっちで処分お願いいたしますね、お義兄さん」
「ギャギャギャ!」
ぐっと指を立てるかのように足を曲げるハクロの兄。
中々良い人、いやモンスターのようで、ノリも悪くはない。
必要な分だけあればいいので、多少減らしても問題はないのだが…あの襲撃者たちをどのように処分するのだろうか?
ただ、一つだけ言えるのは、あのモンスターにとっての妹とその婿と仲間たちを傷つけようと企んだ輩には容赦しなかったらしい。
数日後に見回りをしていた衛兵たちに発見されたが、命はあれども悲惨な状態で見つかったのは言うまでもない。
―――――――――――――――
SIDEハクロ
「それにしても、今日はまさか久し振りに兄に会えるとは思っていなかったですねぇ」
エルが寮へ戻り、ハクロたちも家へ戻って夕食も食べ、風呂にも入り、もうそろそろ寝つく準備をしていたが、ハクロはややテンションが高くなっていた。
今日、久しぶりに彼女の兄たちの中にいる653番目の兄に会えたので、嬉しいのである。
バラバラに過ごして消息が不明だったが、まさか本日、そのうちの一体である兄に会えるとは思ってもいなかったのだ。
成長し、見た目も互いに物凄く変わってしまったとはいえ、血を分けた兄妹ゆえに再会できたのは心の底から嬉しいところがある。
それでも、兄の話を聞くと、いくつかの兄や姉、弟、妹などは未だに足取りがつかめず、中にはやらかして討伐されたらしい話も聞いて悲しい気持ちになるところもあったが…仕方がない事であろう。
野生の生活と言うのは、厳しいものだと理会しているからだ。ハクロ自身、運よく人と過ごせるようになったことで今日まで生きているが、人との触れ合いがなければどうなっていたのかはわからない。
それでも、失われた命を考えると悲しくも思えるので、冥福を祈るのであった。
「さてと、そろそろ寝ますかね」
ハンモックを吊るし、その上に乗るハクロ。
普通のベッドだと体の構造的に眠りにくいので、お手製のハンモックで寝ているのだが…そこでふと、彼女はある事を思いついた。
今日はエルが冒険者として動いたがゆえに皆はそれなりに疲れ、熟睡するはずである。
あの追跡者たちとかも兄に引き渡したので処分されるだろうし、よこしてきた者たちもそろそろ人員が不足して、やってくるようなことはすぐにないはず。
……という事は。
「‥‥‥エルを独り占めできるかも」
その考えを思いつき、すぐにハクロは動き出す。
皆が寝静まったことを耳を立てて音を聞いて確認し、そっと宿を抜け出す彼女。
皆でエルを共有できているとはいえ‥‥‥やっぱり独占したくなる時があるのだ。
と言うか、昔からエルの側にいたのはハクロであり、一番傍にいたいという心もある。
ニヤリと笑みを浮かべながら、月夜の中、ハクロはエルの元へ向かうのであった‥‥‥‥。
…誘われて、出現した巨大な蜘蛛のモンスター。
襲われるかとも思っていたのだが…なんと、ハクロの兄だったことが判明し、争いは起きずともお互いに何がどうなっているのか驚いて、状況は硬直状態になっていた。
そのため、まずは、どういう相手なのか確認させてもらうために鑑定魔法を使用して情報を得てみることにした。
「『鑑定』っと」
―――――
種族名:「メガマグナムスパイダー」
名前:無し
性別:オス
「メガマグナムスパイダー」
ショットスパイダーが進化した先に存在する蜘蛛のモンスターの一種。
体が大きくなり、重量が増加したために身軽な動きはできなくなってしまったが、その代わりに重量を活かした突進攻撃やのしかかり攻撃など、肉体の頑丈さも利用した攻撃を行う。
一見、単純に巨大化しただけの蜘蛛にも見えなくもないのだが、その体毛は針金のように鋭く硬くなっており、タフさはトロールやオークにも負けず劣らずのものになっている。
蜘蛛のモンスターゆえに糸を生み出すことは可能だが、細い糸は生み出せなくなっており、ものすごくぶっとく、重量感にあふれたものになっているため、振り回してこん棒のように扱えるようにもなっている。
見た目の凶悪さとは裏腹に、意外にも穏やかな性質を持っているため、何か馬鹿な事をしでかして激怒させた人以外での被害報告は少ない。
また、毒に対しての耐性も有しており、その毛自体が弱めの毒の鎧になって守っているとも言われている。
―――――
思った以上に凶悪そうなものにはなっているが、性質としてはむやみやたらに荒ぶるようなものでもなかったらしい。
実際に今、戦闘は起きておらず…確認している間に、ハクロとの再会トークを行っているようだった。
「ギャギャギャギャギャギャ!!ギャギャギャギャギャギャ!!」
「なるほどなるほど、653番目のお兄様は最近旅をしているんですか。え?冒険者たちに襲われてしまったことがあったけれども、全部しばき倒してきたと…」
目の前で久しぶりの再会なのか、楽しそうに話し合う兄妹の様子は良いのだが、見た目の違いが大きすぎて、本当に血縁者なのか疑いたくはなるだろう。
モンスターが成長すると、元は同じ種類でも全く違う種族へ変化していくという話はあると耳にしたことはあったが、その実例が目の前にあるのかもしれない。
「なぁ、ハクロ。そのモンスターってハクロの兄なのか?」
「あ、はいそうですよ。こちらは私のお兄様で、家族の中では653番目に生まれた蜘蛛です。昔は運動神経抜群の人だったんですよねぇ」
「ギャ、ギャギャ?」
「え?この人間は何だって?えっと、そういえば初めてですね。あの襲撃で散って以来なのでこれまで連絡が取れていませんでしたが…こちら、私が獲得した将来の伴侶のエルです」
「ギャギ!?」
ハクロのその言葉に、メガマグナムスパイダーは驚いたような声を上げ、エルの方を向いてまじまじと見る。
自身が知らぬ間に、妹が伴侶を得ていたという情報に度肝を抜かれたのだろう。
そのままじっと見つつも、どこか納得したようなそぶりを見せ、こちらに前足を出してきた。
「ギャギャ、ギャギャギャ」
「妹をどうぞ、よろしくお願いします。と言ってますよ」
「あ、普通に握手を求めていたのか。どうも、こちらも彼女と付き合っています。えっと、この場合お義兄さんといえばいいでしょうか?」
なんか思った以上に紳士的と言うか、凶悪性の無さそうなモンスターであったが、ハクロの兄ということは、自分にとっては義理の兄というべき立場になるのかもしれない。
家系図の中で思いっきり巨大な蜘蛛がいるのはどうなのかと思ったが…ああ、うん、タマモやカトレア、ミモザがいる時点で今更か。
まともな人間が少ないのだが、そんなのこのメンツになっている時点でいうまでもなかったと、気にしないことにした。
そもそも、653番目の兄とか言っているし…最低でも600以上の義理の兄とか姉ができるのは、確定してしまった未来だろう。
ただ、話を聞くとどうやらもともといた群れが襲撃されてばらばらになったという話もあり、全員の消息が分かっているわけではないので、全員と会うことはたぶん何かもしれない。
…とりあえず軽く挨拶をかわしつつ、俺たちはさすがに蜘蛛語を学んでいるわけでもないので、メガマグナムスパイダー、略してメガスパさんの話を、ハクロに翻訳してもらいつつ聞くことにした。
かくかくしかじかくもくもと話を聞いてみると、この義兄さんはあちこちを放浪しており、各地に散らばった兄妹に出会っては近況を聞くのを趣味にしているらしい。
ハクロたちは元々同じ蜘蛛のモンスターの子供であったのだが、色々あってバラバラになってしまい、生き別れてしまったそうなのだ。
まぁ、大体何番目で生まれたのかということである程度の区別もつけているらしいが…実は正確な数は不明で、とりあえず数え切れる分だけでの区別になっているらしい。
現在把握しているだけで1000体はいるらしいが…どれだけ多いのやら。
「ギャギャギャ、ギャギャ」
「『兄弟たちがどの様に生きていくのかは別に気にしていない。この世は全て強いものが弱い奴を食べ、生き残っていくしかない』」
「ギャ、ギャギャギャギャ、ギャギャギャ、ギャギャギャ!」
「『だが、血を分けた家族でもあるので、こうやって各地を放浪し、全ての兄、弟、妹、姉たちの安否を確認しつつ近況を聞いて回る旅を続けて、知見を広めつつ家族の居場所を確認しているのである!!』と、言っていますよ」
「その『ギャ』にどれだけの意味があるんだよ」
というか、どうやって翻訳しているの?兄妹の仲だから、進化して種族が変わっても通じるのか?
疑問を抱きつつも、エルたちはハクロの兄の話に耳を傾けた。
野を越えて、山を越え、海を渡り、氷の大地を進み、火山をめぐり、生き別れた兄弟姉妹の消息を確認する旅路はかなり波乱万丈であり、ちょっとした冒険談になっているようだ。
「ギャギャギャ、ギャギャァァ」
「『でも、さすがにモンスターである上にこの見た目だからか、時たま人間に襲われることもあった。まぁ、全員撃退したので今日まで無事で生きているがな』…撃退しているんですか」
「命を奪ったりとかは?」
「ギャギャギ。ギャ、ギャギャギャギャギャギャ」
「『そこまではやらぬ。命を奪うのは趣味ではないのだが、一応襲撃されたら襲ってくる覚悟があるものと見なして挑み返し、悪意があればそれ相応のことも施した』。お兄様、群れの中でもけんか強かったですもんね。でも、どのような事をしたのですか?」
「ギャギャギャ、ギャギャギャギャ」
「え?…えー…うわぁ。これ翻訳しません。ちょっと、怖いです」
「何を話したんだよ?」
ハクロ兄の言葉に、なぜかハクロがものすごいドン引きしていた。
何をやったのか気になったが、どうも訳すのは嫌な内容らしい。
「えっと‥‥‥エル、世の中には聞かないほうが良いという事がありますが、知りたいですか?」
「あー…その様子からなんとなく察したよ。やめておくよ」
ハクロの表情を見るだけで、どれだけやばいのかが良く分かるからね。触らぬ神に祟りなし、やばい蜘蛛の話は耳にしないほうが良いだろう。
そうこうしている間に、ちょっと話が盛り上がっていたようで、気が付けば日が暮れ始めていた。
「あ、そろそろ寮に戻らないといけないい時間だな」
「そう言えば確かにそうですね。時間かけ過ぎましたし、そろそろ帰らないといけないのですが…653番目の兄様はどうしますか?」
俺たちははこのまま帰還すればいいのだが、このハクロの兄はどうするのだろうか?
そう思い問いかけてみたが、その心配はないらしい。
「ギャ、ギャギャギャギャギャ」
「『この地は、一時の休憩場。少し離れた場所に、仮の巣があるからそこで宿泊している。ついでにだが、先ほどから放置されているあの者たちの処分もやっておこうか?』と言ってますよ」
「あ、忘れていた」
ハクロの兄の言葉に、エルたちは思い出した。
先ほどの追跡してきて、このハクロの兄を仕向けようとしていた襲撃者たちが、とらえてからずっと放置したままだったことを。
逃げられないようにしておいたのだが…それはつまり、トイレなんかにも行けなかったようで、うっかり長話をし過ぎたせいでトイレに行けなかった者もいたようで、地獄の苦しみを味わっていたり既に終わった者もいるみたいだ。
でも、のんびり平穏に暮らしたい俺達に対して、ハクロの兄を仕掛けようとしたことに関しては許せるものではないな…
「というかなんで、ハクロの兄さんを釣るようなことができたんだろうか?」
「ギャギャギャ、ギャ」
「『数日前から見られている気配がしていたが、どうやら利用するためにうかがっていたらしい。仮の宿泊場所だが、縄張りにもしていたので、異常があればすぐに駆け付けるようにしていたのだ。そこをおそらくは、利用されたのだろうな』と言ってますね」
利用するつもりが、まさかの血縁者ということでまったく役に立つことはなかったということか。
俺たちも戦闘することもなかったのでよかったが…お互いに気が付かなければ危険な状況になっていた可能性もあるし、しっかり反省してもらいたいところだ。
「一応、どこから仕向けられてきたのか聞くために、数日後に動けないようにしてから適当に都市周辺で放り出していいので、好きな分だけ、そっちで処分お願いいたしますね、お義兄さん」
「ギャギャギャ!」
ぐっと指を立てるかのように足を曲げるハクロの兄。
中々良い人、いやモンスターのようで、ノリも悪くはない。
必要な分だけあればいいので、多少減らしても問題はないのだが…あの襲撃者たちをどのように処分するのだろうか?
ただ、一つだけ言えるのは、あのモンスターにとっての妹とその婿と仲間たちを傷つけようと企んだ輩には容赦しなかったらしい。
数日後に見回りをしていた衛兵たちに発見されたが、命はあれども悲惨な状態で見つかったのは言うまでもない。
―――――――――――――――
SIDEハクロ
「それにしても、今日はまさか久し振りに兄に会えるとは思っていなかったですねぇ」
エルが寮へ戻り、ハクロたちも家へ戻って夕食も食べ、風呂にも入り、もうそろそろ寝つく準備をしていたが、ハクロはややテンションが高くなっていた。
今日、久しぶりに彼女の兄たちの中にいる653番目の兄に会えたので、嬉しいのである。
バラバラに過ごして消息が不明だったが、まさか本日、そのうちの一体である兄に会えるとは思ってもいなかったのだ。
成長し、見た目も互いに物凄く変わってしまったとはいえ、血を分けた兄妹ゆえに再会できたのは心の底から嬉しいところがある。
それでも、兄の話を聞くと、いくつかの兄や姉、弟、妹などは未だに足取りがつかめず、中にはやらかして討伐されたらしい話も聞いて悲しい気持ちになるところもあったが…仕方がない事であろう。
野生の生活と言うのは、厳しいものだと理会しているからだ。ハクロ自身、運よく人と過ごせるようになったことで今日まで生きているが、人との触れ合いがなければどうなっていたのかはわからない。
それでも、失われた命を考えると悲しくも思えるので、冥福を祈るのであった。
「さてと、そろそろ寝ますかね」
ハンモックを吊るし、その上に乗るハクロ。
普通のベッドだと体の構造的に眠りにくいので、お手製のハンモックで寝ているのだが…そこでふと、彼女はある事を思いついた。
今日はエルが冒険者として動いたがゆえに皆はそれなりに疲れ、熟睡するはずである。
あの追跡者たちとかも兄に引き渡したので処分されるだろうし、よこしてきた者たちもそろそろ人員が不足して、やってくるようなことはすぐにないはず。
……という事は。
「‥‥‥エルを独り占めできるかも」
その考えを思いつき、すぐにハクロは動き出す。
皆が寝静まったことを耳を立てて音を聞いて確認し、そっと宿を抜け出す彼女。
皆でエルを共有できているとはいえ‥‥‥やっぱり独占したくなる時があるのだ。
と言うか、昔からエルの側にいたのはハクロであり、一番傍にいたいという心もある。
ニヤリと笑みを浮かべながら、月夜の中、ハクロはエルの元へ向かうのであった‥‥‥‥。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる