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1章 旅立ちと始まり

1-06 軽めに情報を得つつ

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……襲われていた馬車も助け、人命が失われるようなことはなかった。

 ただし、何故か腹痛を起こしている賊たちに関しては尊厳が…‥‥いや、悪行を成している時点で考えなくてもいいのだろう。

「ついでにこの後、ウオルッカの町に付くからな。そこで引き渡し、しっかりと賞金を搾り取って、雇い主の方にダメージを与えなければな」
「この賊たち、雇われている人たちなんですか?」
「そうだ。我々の商会を目の敵にしているところがあるが、その一つだとすでに判明している。大方、ここで商品をすべて台無しにして納期に間に合わせなくして信頼を失わせるつもりだったかもしれないが、雇った代金やこの後に起こるであろう事を考えると、相当な痛手を盛大に返せるだろうなぁ」

 くっくっくと笑い、ちょっと悪い笑みを浮かべるコメツクボ商会の商会長ドラムスさん。

 どうもこの手の嫌がらせには慣れているらしいが、それでもやり返せるなら倍返しを心に決めているらしい。恐ろしい気もするが、狙った人たちの自業自得だと思うと何とも言えない。

「せっかくだ。まだまだテストしていないものの実験台になってもらうとするか」
「具体的には?」
性癖改善薬ロリコン製造薬あたりを食事に盛ろうかと。毒薬ではないが、社会的に抹殺は可能だ」

…‥‥悪人じゃないはずだよね?なんか極悪人に見えてきそうなんだけど。森の外にいる人って、こんなに怖い人が多いのだろうか。



 

 とにもかくにも僕らは今、襲撃されていた地点の後片付けをしつつ、一旦馬車の休憩という事で話し合う場を設けられ、お互いに情報交換を行っていた。

 どうやらもうちょっと先に町があったようで、この馬車はそこに向かっていたらしい。

「それにしても、魔障の森から君たちは来たのか‥‥‥そこで過ごしていたとは。そのお爺さんどう考えてもただ者では無いだろう」
「そんなに言われるほどでしょうか?爺ちゃんは確かに大蛇を蝶結びにしたり、大きな亀を砕いたりしてましたけど、普段の様子は普通の爺ちゃんでしたもん」
「ああ、間違いない。魔障の森は冒険者ランクSでも近寄ることがない、危険な場所だからな。開拓しようとすればかなり凶悪な魔物があふれ出す地として恐れられているのだ。というか、普通のお年寄りのかたが出来て良い事ではないからな?亡くなっていなければぜひとも話をして見たかったものだ‥‥‥」

 ドラムスさんに聞くと、あの魔障の森は本来人の住めるような地ではないようだ。

 だからこそ、僕と爺ちゃんがあの森で十数年過ごしていても誰も訪れることはなく、魔物たちが周囲を蠢いていたのだろう。

「何にしても、大体の事情は分かった。そのお爺さんの遺言で外の世界を見て回れ、というものか。ふむ、孫の成長を願い、広い世界を見てもらおうという想いが伝わるようだ。ただ、その爺さんでもそこの蜘蛛を仲間にするとは思わなかっただろうなぁ」
【シュル?】

 目を向けられたことに対して、何なのと言いたげな感じに首をかしげるハクロ。

「そんなにハクロって、とんでもない魔物なのでしょうか?」
「とんでもないも何も、まずそもそも人と一緒に歩めるようなものじゃないぞ。ダークネスタラテクトは好戦的であり、人もしっかり捕食対象にしているからな。目撃談があれば、高ランクの冒険者が慌てて討伐するために出向くが、決して安い犠牲で済むことはない」

 ハクロの種族はダークネスタラテクトというもののようだが、相当物騒な魔物として伝わっているようだ。

 そりゃまぁ、他にいた護衛の冒険者とか言う人たちが少し遠巻きに見るはずだよ。

 ものすっごいびくびくしているというか、恐怖と興味のはざまにいる様な表情をしているからね。

「それなのに、一つの強力な魔物相手に協力して仲良くなるとは本当にどうなっているのやら。人を喰らうような魔物なのだがなぁ」
【シュル、シュルルル】
「え?人を食べたことはない?」
【シュル】
「人食経験なしとは、これはこれで貴重なのか‥‥‥いや待て、なんで通じているんだ」
「なんとなく?」
【シュルルルル】
「なるほど、何となく身振り手振りで伝わる・・・・・か?」

 色々と突っ込みたいところはあるのだろうが、ひとまず今はそこまで深追いはしないようだ。

 探るにしても分からないことが多いので、ゆっくりと理解していく時間が必要なのだろう。

「それはそうと、旅をするのであればこの馬車で行く次の町で、冒険者登録をしておくのをおすすめしておくぞ」
「登録?」

 話を聞くと、どうやら冒険者とは職業の一種のようで、時として護衛をしたり、素材を採取したり、はたまたは何処か見知らぬ地の開拓に出向いたりと色々やる職業を総括しているようなものらしい。

 その職業登録をしておけば、あちこちで手軽に稼ぎやすくもあり、旅の資金稼ぎなどにもなるのだとか。

「なるほど…そんなものがあるんですね」
「ああ。良ければ町まで一緒に来てくれないか?いや、そうしたほうが良いだろう」

 そう言いながらドラムスさんはハクロの方にも目を向ける。

 おそらく、このまま普通にハクロと一緒に街に行っても騒ぎになることが分かるからこそ、誘ってくれたのであろう。

 であれば、せっかくの人との出会いだしここは何かの縁と思って甘えたほうが良いかもしれない。

「分かりました。ハクロも良いよね?」
【シュルル!】

 大丈夫だというようにハクロも頷き、僕らは商会の人達と一緒に向かうことにしたのであった‥‥‥



「それとここからは少し商売の話になるが、良ければタラテクトの糸を少し売ってくれないだろうか?ダークネスタラテクトの糸は入手に難があり過ぎるが、その分価値は高い。もちろん、見合った金額を渡そう」
「実はそれが目的じゃないですかね?」
【シュルシュルル】
「ははは。商売人たるもの、いついかなる時も商売の隙を逃してはいけないのだ!!そう、商売の神と言われる方の残した『○○の嗜み~商売編~』の語録を厳かにしないためにもな」

 どんな神だそれは。いや、○○編と言っている時点で商売以外の方にも色々あるな。
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