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1章 旅立ちと始まり

1-25 余計なことは、叩き潰される

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‥‥‥魔物から採れる素材というのは、色々な使い道があるため売れるものになる。

 さらに言えば、その用途によっては高額で取引ができるものもあり、超高級な素材が獲得できる魔物を狙って狩る冒険者もいるのだ。

 とは言え、そうやすやすとそんな獲物に巡り合う機会なんてものはない。そもそもの話、そんな高い魔物ほど馬鹿みたいに強い事があり、大抵の場合返り討ちにあって命を落としてしまう者もいるのだ。


「だが、あれは国滅ぼしの魔物というが…‥‥見た感じ、そんな恐ろしそうにも見えねぇな」
「だからこそ、狩れる可能性が高けぇんだ」

 魔物たちと戦闘をしつつ、ちらっと目を向けてみるのはハクロの姿。

 ナイトメアアラクネと言う国滅ぼしの魔物らしいが、物騒な話しとは裏腹に、見た目的にそんなものには見えないだろう。

 いや、それどころかどこかぽややんっと天然のような、本当に野生で生きてきたのかと思うような部分も見えなくもないのだが、それはそれで好都合。

 下の方に蜘蛛の体があったとしても、綺麗な女の部分があればいい。いざとなれば切り離してしまうだけでも、十分価値があるだろう。

 それに、仮に命を落としたとしてもそれはそれで魔物の素材として解体すればいい話しだと思ったのだ。


「‥‥‥ダンジョン内の探索で、ごたごたするだろう」
「そのどさくさに紛れて、奇襲をかけてしまえ。いくら強力な魔物だとしても、しょせん女一人だからな」

 くけけけ、くはははっと薄気味悪い笑いを浮かべ、悪だくみをしていた冒険者のゲスッソとゾックス。

 この二人は実力はあるのだが、採取依頼でのごまかしなどの依頼のいい加減さ等によってランクを上げることなく、万年Dランクの座にいるものたちだったが、その生活も飽きてきた。

 いっそ冒険者をやめて、他のよく絡む仲間たちと共に盗賊団でも結成しようかとしていたそんな中‥‥‥彼らは、偶然にもその獲物を目にしたのである。


 大きな蜘蛛の身体は置いておくとして、まず目に入るのは美しい女性の身体。

 出るところ引き締まるところはしっかりしており、彼らの好みとしては髪が長い方が良かったが、それでも艶があり、美しい顔立ちをしている。

 このまま剥製として飾っても非常に価値があるような、そんな獲物‥‥‥‥国から通達が出ていた、下手にちょっかいをかけるべきではない魔物だとしても、手にしたくなったのだ。

 そう、例えで言うならば駄目と言われたことをやらかし、行くなと言われた場所に入り込むような、盛大に真逆の行動をやらかす悪ガキの様なもの。

 そんな思考を持ったまま欲望と直結して動いているような輩が、彼等だったのだ。




 そして今回、偶然にもダンジョンの破壊の依頼が出たことで、他の冒険者に混ざってダンジョンに入り込み、狙いを定めた獲物のを目で追い続けていた。

 例え人目に付くようなところにいようが、混戦しやすいダンジョンの中ならばどさくさに紛れてやってしまっても分かりにくいかもしれない。

 いや、命を奪うのももったいないのだが…‥‥ならば、狙うのであれば、その保有者の方をやれば良いだろう。

 聞いた話では、あのまだ夜の大人の世界も知らなそうなガキが、あの綺麗な女の持ち主だという事。

 その持ち主がいなくなれば、当然行く先を無くすだろうし‥‥‥うまいこと引き込めれば良し、できなければ闇討ちをして無理やり男を教えてしまえば良いだけの話なのだ。



 そんな荒唐無稽な、現実が見えていないような夢物語だったとしても、彼らは今しか見えていない。

 自分達にとって都合の悪い事はどうにかなるという事でごまかし、見て見ぬふりを行う。そんな腐った根性を持っていたからこそ、万年Dランクだったのかもしれない。


 とにもかくにも、隙を伺いながら動いていたが、どうやらここにきて都合の良いことにより場が混沌としそうな状況になってきたようだ。

【グラグラァァァァ!!】
【シュルルルル!!】

 ブラッディボックスという、宝箱の姿をした魔物が魔法を放ってくるが、ハクロが素早く回避を行いながら、相手の得意な遠距離戦を逃れる目的で、近接とまではいかずとも中距離戦で相手をするために糸球に棘を作り、モーニングスターのようにして扱って攻撃を行っている。

 他の冒険者たちはコアの破壊やブラッディボックスへの応戦、ダンジョンから出てくる他の魔物を押しとどめるなど分担している状況だが、それぞれ自分の役割の方に意識を集中している状態。

 ならば、今ここでやるしかないだろう。下手をやらかせば不味いが、状況的にはここが一番いいだろう。

「強敵との相手だから、油断もある‥‥‥やるぞ、ゾックス」
「ああ、やってやろうじゃないかゲスッソ」





…‥‥戦局を見ると、本当は依頼達成がなされた瞬間を狙った方がいいのかもしれない。

 あるいは、この戦闘を終えて全員が街へ戻り、各々が宿場に泊る中後を付けて夜襲をかけたほうがいいかもしれない。

 けれども、そんな事も考えることはできず、今できる部分だけしか彼らは見えていない。

 ゆえに、気が付かなかったのだ。愚かな行動が己の身に返ってきてしまうことを。



 ブラッディボックスとの戦闘の中、動く中でハクロとその主のガキはお互い邪魔にならないためにか、離れて交互に攻撃をしているところが見える。

 そして他の冒険者たちも混じっていることで、常に視認し合える状況ではなく…‥‥ここならば、やれるはずだ。


「爆発の魔道具‥‥‥天井に、設置済みっと」

 ブラッディボックスへ攻撃する中で、石や矢が投げつけられ、中には爆発する瓶なども使い、ほいほい道具が飛び交っていたりもする。

 その中でどさくさに紛れて天井に爆発物を狙ってくっ付けることは容易で、あとは丁度いい位置に来たところで爆発させられるように狙いを定めるだけだ。

 一歩、まだ足りない。

 二歩、惜しい、右へ動かれて意味がない。

 三歩‥‥‥ああ、今しかない。

「はぁっ!!」

 戦闘の中、動きを予測し、天井に仕掛けた爆発物へ矢を放ち、直撃させる。

 するとボッガァァァンっとそこそこの爆発を起こし、天井の一部が落盤し‥‥‥その下には、冒険者やブラッディボックス、ハクロがいる場所であり、そこに降り注ぐ。

「うぉぉぉ!?何だ!!」
「どこの馬鹿だ!!狙いを外して上に当てやがった!!」
【グラグラァァァァ!!】
【シュルルルル!!】

 洞窟上のダンジョンゆえに、落ちてくる岩や土片を割けるように動くも、土ぼこりが一気に巻き上がり、視界不良の状態となる。

 一時的なもので晴れればすぐに戦闘が再開されるだろうが、それでも目を奪って逃れるだけの時間稼ぎは出来た。

 そしてついでに言えば、彼らはどこに誰がいるのかを見ており‥‥‥落盤したその瞬間、どう逃げたのか位置を把握していた。

 狙い通りであれば、今ここに避けてきたのはガキの方。

 そしてゾックスの方にはハクロがいるはずであり、お互いに背後は取っている。

((もらったぁぁぁぁ!!))

 片や武器で命を奪うチャンスを、もう片や効くかは完全に不明だが、それでも通常扱うよりも桁違いの薬を使用するチャンスを得る。

 これで狩れなかったらただの馬鹿だぜと思いつつ、勝利を確認したのだが‥‥‥‥生憎ながら、本物の馬鹿だったがゆえに答えはもう出てしまっていた。


ゴッスゥ!!
「…‥‥ほ、へげ?」


‥‥‥ガキの頭を打ち砕いた音ではない。

 いや、それどころかやったという感触は手元には無く、あるのはただ何か大事なものが失われたかのような喪失感と共に、遅れて激痛がやって来る。

「ぎ、ぎひぃ、」

 このまま断末魔を叫べれば、どれだけ楽だったのだろうか。

 しかし、その願いはむなしくも破られるかのように口に爆発で転がっていた土塊を突っ込まれ、叫ぶこともできずに一気に息苦しくなる。


バァァァァァン!!

 視界が反転したかと思えば、叫ぶ間もなく続けて背中に激痛がやって来る。

 どうやら投げ飛ばされたようだが、この位置は非常に不味い。

 なぜならここは、さっき視界が確認できていた状態の時に、見ていた一つが来るであろう場所であり…‥‥ちょうど今回参戦してたガタイの良すぎる冒険者が脚を…‥‥

ぐしゃっつ

「うおっ!?なんか変な感じのものを潰し‥‥‥って、ゲスッソ!?わりぃ、お前の玉踏んじまった!!」

 そんな言葉が聞こえたような気がするのだが、もはや聞くだけの意識はない。

 狙い定めた最高の瞬間だったはずが、たった今男としての人生を終了させられる最悪の末路を迎えてしまったからだ。

「ぎょぇす!?」
【シュル!!】

 そして最後に残った意識が拾い上げたのは、もう片方のゾックスの小さな悲鳴。

 どうやら向こうは向こうで失敗したようだが、こちらよりはまだ軽いようで…‥‥ああ、ひでぇ結末だ‥‥‥





…‥‥悪しき企みを持って動いていた者たちは、手のひらの上で踊っていただけにすぎず、戦闘の中静かに戦闘不能扱いで運ばれていった。

 そんな悲劇が起きようとも日常茶飯事だというように他の冒険者たちが対して驚くこともなく、土煙も晴れたところで再び戦闘を再開するのであった…‥‥

【シュル、シュルルル】
「わかっているって。変な視線を向けていた奴らが勝手に自滅しただけだし、今は目の前のブラッディボックスへ意識を向けよう」


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