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1章 旅立ちと始まり

1-43 コケコケシカジカ、事情を聴いて

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【コケコケェ‥‥‥】
「おーい、生きているか?」

 きゅるるるぅっと目を回し、ぐったりと倒れているチキンハーピー。

 あの爆発で生き延びていたのは良いのだが、どうやらかなり効いたようである。

 本来であれば、このままとどめを刺した方が良いのかもしれないが、話している内容で何か気になったのでちょっと事情を聴いて見ようと思ったのである。

 周囲の魔物たちに警戒しつつ接近を防ぐために罠も張りながら待っていると、どうやら目を覚ましたようだ。

【コケ‥‥‥コケケ!?】

 囲まれている状況に気が付いたのか、飛び起きるチキンハーピー。

「落ちついて!!敵意は無いから!!」
【シュルルル!!】
【グラグラァ!!】

 全員で声を掛けると、どうやら気持ちは伝わったようで大人しくなった。

【コケ?コケケェ?】
「うん、大丈夫だよ。そっちから襲ってこないなら、僕等の方も攻撃する意味がない。何か事情があるみたいだから話を聞きたいだけなんだよ」
【コケケ?】
「人が魔物の言葉をわかるかって?いやまぁ、何となくで分かるのもあるけど」
【私、訳セルヨ】
【‥‥‥コケェ】

 ある程度は何故かなんとなくで分かるし、細かい部分を聞きたかったからハクロに訳してもらうこともできるのだ。

 こういう時に、魔物と人の言葉を話せる仲間がいるのは心強く、チキンハーピーの方も理解を示してくれたようで、コケコケシカジカと話してくれた。



「‥‥‥なるほど。強さの証明とかこだわっていたのは、群れのリーダーになるためなのか」
【コケェ】

 話を聞いてみれば、どうやらきちんとした事情が存在していた。

 このチキンハーピーが本来住んでいたのは、ココからさらに下の階層の13~14階層辺り。

 そこで同種の魔物と群れで暮らしていたのだが、あるとき別の魔物に恋をして迫り、番になろうとしていたのだとか。

 だがしかし、同種の魔物ならばいざ知らず、まったく違う種族の魔物を群れに入れてこようとしたことでほかのチキンハーピーが猛反発。

 引き込むためにはリーダーの許可が必要なのだが、その群れのリーダーが一番反発しているどころか、このチキンハーピーに恋をしていたようで迫ってきており、物凄く嫌になったらしい。

 そこで思い切って自身がリーダーになってしまえば良いという事で、全員を叩き伏せられるほどの強さを獲得するために上の階層に上って来たのだとか。

「それなら普通、下の階層に移動して修行した方が良いんじゃないか?」
【コケコケ】
【人間、魔物ヨリ強イコトアル。ダカラ何人カノ首ヲモッテクレバ十分証明ニナルト思ッタ、ダッテ】
「いや、物騒な証明方法だなぁ‥‥‥」

 魔物としての強さを見せるならば、ダンジョンの構造上下の方が強い魔物が多いので、そちらを倒せればリーダーとしてふさわしい強さの証明を見せることはできる。

 だが、その魔物たちすら倒すような人間たちの姿は見ているので、だったらその人間を狩って持ち帰れば良いと判断し、わざわざ探すために上に来たようなのだ。

 普通に殴り合いでもして勝てばいいような気もしなくはないが、一対一で挑まない相手もいるようで、強くても数の暴力で来られるのはきつかったので、こっちの方法を取ったらしいが‥‥‥その結果が、今に至るって訳である。

【コケ、コケケケ】
「でも、敗北したからもう諦めたい。ここで煮るなり焼き鳥にするなり好きにしろって…‥‥いやいやいや、そこまでやる気はないからね?」

 

 とにもかくにも事情を聴いてしまった以上、戦う気も起きない。

 むしろ同情するというか、下剋上をするために強さの証明を求めてやって来たその勢いの良さに感嘆を覚える程だろう。

「ところでその番になりたい違う種の魔物、置いてきてよかったの?別種を入れる事を許さない群れだと、君がいない間に都合よく消されそうな気がするんだけど」
【コケ!!】
【強イカラ大丈夫、ダッテ。コノ武器モソノ魔物カラ、借リタケド、ムシロナイホウガ強イッテ】
「この戻ってくる魔道具の斧か?」

 武器無しで強い魔物とはこれいかに。

 結構大きな斧をこのチキンハーピーも使いこなしていたようだが、どうやらその相手になっている魔物の方がより使いこなしているが、無い方が強い‥‥‥なんかとんでもない相手を番にしようとしているようで、目の前のチキンハーピーの豪胆さに驚かされる。

「だったらその魔物自身がリーダになるようにすればよかったのに」
【コケコケコケェ】
「強いけど、優しいからちょっと無理ってことか。その長が非常にやばい奴なのかなぁ」

 異種族を許さない群れという事は、その長も確実にチキンハーピーなのは間違いない。

 もしくは進化しているとか…‥‥うーん、これ厄介事な香りもするかも。強すぎる魔物がダンジョンにいると、ダンジョン探索に支障が出るからギルドで討伐依頼が出ることになるかもしれない。

 そう考えると群れごとの殲滅の可能性もあるが‥‥‥話を聞いたらなんか巻き添えにしたくないし、その長だけどうにかした方が良いかもな。

「…‥‥いっそ、一芝居うつか?ねぇ、僕らがその群れに連れてこられたら証明になるかな?魔物より強い人間がいることを認識しているなら、人間の僕を連れて行けばいいかもよ?」
【コケ?コケコケ】
「迷惑じゃないかって?大丈夫大丈夫。いざとなれば逃げればいいしね」

 素早い動きは脅威だったが、それは正々堂々と真正面から戦った時の話。

 こちとら罠も色々と仕掛けられるし、先に入り込む前に仕込んでおくことが出来るのであれば、いくらでもやりよいうはあるのだ。

「その代わり、無事に事が済めばその斧くれないかな?ダンジョンに来たのに何も収穫が無いとつまらないし‥‥‥あ、でも君のじゃなくてその番になりたい相手のものだったけ?」
【コケ、コケコケケ】
【説得スルカラ、大丈夫ダッテ】
【コケェ】
「なら、話は成立だね」

 どうやらまだまだ終わらぬダンジョン道中は、ちょっとした群れの事情に突っ込むことになりそうであった‥‥‥


【トコロデ、他ニ目的アルヨネ?】
「10階層が当初の目的だけど、やっぱりちょっとだけ先行きたくなったんだよね…‥‥」

…‥‥なお、もしも万が一どうしようもない状態だったら、全力逃亡する用意もしている。
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