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1章 旅立ちと始まり
1-58 混ぜるな危険という言葉も、あるようで
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―――混ぜてはいけないものというのは、この世の中にはいくつも存在している。
そして今、この場にはその混ぜてはいけない二つの群れが対峙し合っていた。
片や、体から採れる素材は余すところがなく色々と汎用性が高いのだが、それに見合わぬ代償を持つ様な二足歩行を行う巨大豚こと『オーク』とまとめて呼ばれる魔物たち。
片や、その繁殖力は一匹見かけたら、30匹はいると呼ばれる虫系の魔物‥‥それを上回るほどの増殖力を誇りつつ、種類も環境によって多種多様になる『スライム』と呼ばれる魔物たち。
その両者は今、とある草原でお互いに出くわし、にらみ合っていた。
お互い肉や食感が良いことを理解しており、どちらも喰らいあう気はあるだろう。
だが、そうなれば共倒れになることも理解しており、動き出すことが出来ていなかった。
食べたい。しかし、動き出せばお互いにとって有益ではない。
ならばどちらかが先に隙を見せるようなことになれば、その一瞬の間に全力を出すことで共倒れを防ぎ、どちらかだけが良き乗ることが出来るという事も理解していた。
風が吹き、草木が揺れ、それでも彼らの狙う相手は変わらない。
油断をしないように、それでいて相手の隙を見逃さないように微動だにしない。
数と食欲はお互いに対応であり、隙が生じたその時こそが最後になるのだろう。
緊迫した空気が流れ、探り合うしかなかった…‥‥だが、その間こそ考えることに十分な時間を与え、第三者が介入する大きな機会にもなる。
その第三者にとってはどちらも都合よく利用したいが、より強い方を使いたい。
後片付けの面やその他目的を果たすために利用しやすい方を選ぶことにして‥‥‥探り合っていたその時間、僅かな間とは言え判断をすぐに下し、選択した。
ヒュッ!ブスッ!!
【スラァァァン!?】
【【【ブモォォォォォォォォウ!!】】】
第三者による介入が起こり、彼らが飛ばした針がにらみ合っていた群れの内、一体のスライムに直撃し内部を貫通する。
スライムにとっては大した攻撃ではなかったのだが、緊迫していた状況だったからこそ、突然冷や水を浴びせられたかのような衝撃を感じ取ってしまう。
そのせいで思わず声を上げ‥‥‥生じさせてはいけないはずの隙を、この状況の中で見せてしまった。
スライムたちは己の失敗を悟ったが、時すでに遅し。
このほんのわずかな驚愕の叫びをあげて後悔している間に、オークたちが隙をつくように動き、一斉に襲い掛かり、飛びつき、掴みかかり、喰らい始めたのだ。
慌てて反撃の手を出そうとしても、隙を突かれた時点で一気に数の優位性を失い、みるみる間に数を減らして蹂躙されていく。
ガブムシャズルズルとかまれ啜られ吸いだされ、スライムたちはどんどん数を減らし、反撃の手段を摘み取られてしまい、あっというまに喰われゆく。
その勢いはまるで相手がただの水のようにがぶ飲みして飲み干していくようなものであり、ものの数分もしないうちに決着がつき…‥‥その場にスライムの残骸すら残すことなく、たらふく飯を食べて腹の膨れたオークたちしか残らなかった。
だが、それで終わりではない。お腹いっぱいになったところで、彼等にはまだ欲望があるのだから。
むしろ、一つの欲望を満たし事に寄り、より別の欲を満たしたいという欲求が本能的に強まり、物理的には満たされたというのに、欲望の飢餓感を覚える。
飢餓を抑えるために欲望を満たすために探り、己の敏感な耳と鼻をフルに稼働させて逃すまいと思いつつ周囲の状況を確認する。
‥‥‥そして、すぐに彼らは見つけ出してしまった。己の欲望を満たせるかもしれない異性の香りを感じ取って。
違う種族の、そして魔物としての格としてはあちらが上であり、通常であればむしろ避けていただろう。
だがしかし、飢える欲望が恐怖心を凌駕し、自分達の欲望を満たすために彼らの原動力となり、恐怖や畏怖といった感情を見事に踏み倒して力と化していく。。
【ブモワァァァブモッォォォォォォ!!】
【【【ブモッスワァァァァァ!!】】】
スライムを喰らい、己の糧にしたオークたちはエネルギーを蓄え、発散するために雄たけびを上げて団結力を高め、動き出す。
欲望に蠢くのは人だけではない。魔物たちでさえも、欲望に忠実に従うのだ。その欲望の甘露のような甘さに負けてしまい、傀儡と化してしまう。
その欲を満たすためだけに犠牲もいとわず、自分達が満たされるために欲し、求めて蠢き始めてしまい、己の欲望に忠実なる下僕と化したオークの群れは、感じ取れる香りを頼りに向かい、一切の迷いなく先へ急ぐ。
欲望が原動力となると、人でも魔物でも、凄まじい力を発揮してしまうようであった‥‥‥
【【【ブモブモブモワォォォォォォォォォ!!】
そしてそんなオークたちの勢いを見て、介入した第三者たちは己の計画通りに動いたと安堵の息を吐く。
下手をしたらスライムたちのすぐ後に狙われたかもしれないのだが、幸いなことに彼らの欲望の目にかかるようなものではなかったようだ。
「‥‥‥それでも、やつらが狙うのは彼女だけだろうけど、あんなに大勢で向かって利益になるのだろうか」
「撃退される可能性もあるが‥‥‥欲望に飢えた獣というのは、そんな事もどうでもいいのだろう。満たされるのであればいいという思考は、人にもあるからな」
「我々の主が、時たまオークっぽいと言われることがあるが」
「「「あれを見ると、すごく納得してしまうよなぁ‥‥‥」」」
うんうんと同意して頷き合ってしまうが、彼らの主を知っている者たちが他にこの場にいれば、全員納得しただろう‥‥‥
そして今、この場にはその混ぜてはいけない二つの群れが対峙し合っていた。
片や、体から採れる素材は余すところがなく色々と汎用性が高いのだが、それに見合わぬ代償を持つ様な二足歩行を行う巨大豚こと『オーク』とまとめて呼ばれる魔物たち。
片や、その繁殖力は一匹見かけたら、30匹はいると呼ばれる虫系の魔物‥‥それを上回るほどの増殖力を誇りつつ、種類も環境によって多種多様になる『スライム』と呼ばれる魔物たち。
その両者は今、とある草原でお互いに出くわし、にらみ合っていた。
お互い肉や食感が良いことを理解しており、どちらも喰らいあう気はあるだろう。
だが、そうなれば共倒れになることも理解しており、動き出すことが出来ていなかった。
食べたい。しかし、動き出せばお互いにとって有益ではない。
ならばどちらかが先に隙を見せるようなことになれば、その一瞬の間に全力を出すことで共倒れを防ぎ、どちらかだけが良き乗ることが出来るという事も理解していた。
風が吹き、草木が揺れ、それでも彼らの狙う相手は変わらない。
油断をしないように、それでいて相手の隙を見逃さないように微動だにしない。
数と食欲はお互いに対応であり、隙が生じたその時こそが最後になるのだろう。
緊迫した空気が流れ、探り合うしかなかった…‥‥だが、その間こそ考えることに十分な時間を与え、第三者が介入する大きな機会にもなる。
その第三者にとってはどちらも都合よく利用したいが、より強い方を使いたい。
後片付けの面やその他目的を果たすために利用しやすい方を選ぶことにして‥‥‥探り合っていたその時間、僅かな間とは言え判断をすぐに下し、選択した。
ヒュッ!ブスッ!!
【スラァァァン!?】
【【【ブモォォォォォォォォウ!!】】】
第三者による介入が起こり、彼らが飛ばした針がにらみ合っていた群れの内、一体のスライムに直撃し内部を貫通する。
スライムにとっては大した攻撃ではなかったのだが、緊迫していた状況だったからこそ、突然冷や水を浴びせられたかのような衝撃を感じ取ってしまう。
そのせいで思わず声を上げ‥‥‥生じさせてはいけないはずの隙を、この状況の中で見せてしまった。
スライムたちは己の失敗を悟ったが、時すでに遅し。
このほんのわずかな驚愕の叫びをあげて後悔している間に、オークたちが隙をつくように動き、一斉に襲い掛かり、飛びつき、掴みかかり、喰らい始めたのだ。
慌てて反撃の手を出そうとしても、隙を突かれた時点で一気に数の優位性を失い、みるみる間に数を減らして蹂躙されていく。
ガブムシャズルズルとかまれ啜られ吸いだされ、スライムたちはどんどん数を減らし、反撃の手段を摘み取られてしまい、あっというまに喰われゆく。
その勢いはまるで相手がただの水のようにがぶ飲みして飲み干していくようなものであり、ものの数分もしないうちに決着がつき…‥‥その場にスライムの残骸すら残すことなく、たらふく飯を食べて腹の膨れたオークたちしか残らなかった。
だが、それで終わりではない。お腹いっぱいになったところで、彼等にはまだ欲望があるのだから。
むしろ、一つの欲望を満たし事に寄り、より別の欲を満たしたいという欲求が本能的に強まり、物理的には満たされたというのに、欲望の飢餓感を覚える。
飢餓を抑えるために欲望を満たすために探り、己の敏感な耳と鼻をフルに稼働させて逃すまいと思いつつ周囲の状況を確認する。
‥‥‥そして、すぐに彼らは見つけ出してしまった。己の欲望を満たせるかもしれない異性の香りを感じ取って。
違う種族の、そして魔物としての格としてはあちらが上であり、通常であればむしろ避けていただろう。
だがしかし、飢える欲望が恐怖心を凌駕し、自分達の欲望を満たすために彼らの原動力となり、恐怖や畏怖といった感情を見事に踏み倒して力と化していく。。
【ブモワァァァブモッォォォォォォ!!】
【【【ブモッスワァァァァァ!!】】】
スライムを喰らい、己の糧にしたオークたちはエネルギーを蓄え、発散するために雄たけびを上げて団結力を高め、動き出す。
欲望に蠢くのは人だけではない。魔物たちでさえも、欲望に忠実に従うのだ。その欲望の甘露のような甘さに負けてしまい、傀儡と化してしまう。
その欲を満たすためだけに犠牲もいとわず、自分達が満たされるために欲し、求めて蠢き始めてしまい、己の欲望に忠実なる下僕と化したオークの群れは、感じ取れる香りを頼りに向かい、一切の迷いなく先へ急ぐ。
欲望が原動力となると、人でも魔物でも、凄まじい力を発揮してしまうようであった‥‥‥
【【【ブモブモブモワォォォォォォォォォ!!】
そしてそんなオークたちの勢いを見て、介入した第三者たちは己の計画通りに動いたと安堵の息を吐く。
下手をしたらスライムたちのすぐ後に狙われたかもしれないのだが、幸いなことに彼らの欲望の目にかかるようなものではなかったようだ。
「‥‥‥それでも、やつらが狙うのは彼女だけだろうけど、あんなに大勢で向かって利益になるのだろうか」
「撃退される可能性もあるが‥‥‥欲望に飢えた獣というのは、そんな事もどうでもいいのだろう。満たされるのであればいいという思考は、人にもあるからな」
「我々の主が、時たまオークっぽいと言われることがあるが」
「「「あれを見ると、すごく納得してしまうよなぁ‥‥‥」」」
うんうんと同意して頷き合ってしまうが、彼らの主を知っている者たちが他にこの場にいれば、全員納得しただろう‥‥‥
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