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1章 旅立ちと始まり

1-57 やらかす前に、仕掛けるのである

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…本日、いよいよゴルゾンボル王国に向け、テルタコヤン商会の護衛依頼を行う日となった。

 前日に護衛依頼を受けた冒険者たちとは顔合わせ済みであり、誰が誰なのか分かるのは集合場所ですぐに確認できるのは良いだろう。

「でも、出発早々に襲ってくる賊が出るとはなぁ」

 王都周辺は騎士たちが動いて治安が良い印象があったはずだが、運が悪いとその油断を狙った賊が出るという話は聞いていた。

 けれども、こちらは数が多いし冒険者ランクも全員Cだから平均的な強さもあるし、特に問題はない。

 しいて言うのであれば‥‥‥


【シュルル‥‥‥私達の出番、というか、護衛いるの、この商会?】
「いやいやいや、冒険者の皆さんがおらへんと意味がないでっしゃろ。まぁ、人間相手には最近出回って来た防犯グッズを試すという事で、ちょっとでることもあるんやけどな」

 ハクロの言葉に対して、ぶんぶんと首を振って否定する護衛対象の人。

 今回の王国へ向けての商隊を率いるリーダーの人、テルタコヤン商会の副商会長ナンデスヤンさんはそういうが、ハクロの言葉ももっともである。

「むぅ、この商会は最近旅に出る者へ向けたコメツクボ商会の商品もいくつか試験することもあるという話は合ったが、まさかここで眼にするとはな」
「そのおかげで、より楽に倒せたが‥‥‥えげつなくないか、あれ?」

 護衛がいるのに動いたのは、商人として商品を試すために、つい動いてしまったのが理由らしい。

 その商品というのが、まさかの以前お世話になった商会に関連した防犯グッズだったようだが、目の前の光景を見ると防犯って何だっけと疑問を持たざるを得ないだろう。


 襲ってきた賊たちは、全員なぜか木の実のようにまん丸にころころな体形に変わり果て、身動きが取れなくなっていたのだから。

「新防犯グッズ、襲ってくるなら動けないようにすればいいという事で、一時的な体形変化を引き起こす『アッポンマン』というガス爆弾やったんやけど‥‥‥こういう効果になるとはちょっと驚かされたで」

 まん丸で真っ赤な、甘い木の実の一種であるアッポンと呼ばれるものに似た姿にすることで、身動きを取りにくくして取り押さえやすくする道具だったようだが、効果はてきめん過ぎたようである。

 まぁ、さすがに真っ赤になるようなところまでは再現し切れなかったようだが、それでもこの惨状は酷いと言えるだろう。

 だって、そこまで肥大化しても衣服までは変化しなかったようで、全員衣服がはじけ飛んだのだから。

「‥‥‥えーっと、ナンデスヤンさん」
「我々がしっかり護衛するから」
「この手の防犯グッズは未知数だから」
「「「出来ればおとなしく、護衛されてください」」」
「はい」

 全員の言葉に対して、快く応じてくれたようであった。



 そんなトラブルがあったことはさておき、それを除けば旅路としては中々悪くはない状態のようだ。

 馬車の横を歩いてついていくようなイメージもあったが、流石に移動効率も考えて全員前や後ろなどに用意された馬車に乗って進むことになっており、無駄に体力を減らすことはない。

 周囲の監視もそれぞれが役割を分担して行うことが可能であり、異常があればすぐに発見しやすいのだ。

「とは言え、並大抵の魔物が出ることは当面ないかなぁ」
「お?それはどういうことだ?」
「だって、ハクロやラナがいるからね」
「あー‥・・・そうか、格上の魔物だからか」
【シュル?】
【グラ?】

 忘れがちだが、ダンジョン産の魔物を除いて、普通の魔物であれば彼女達がいる時点で寄ってくることはない。

 魔物たちは相手の力量が多少は理解しているらしく、格上の魔物がいる場所には寄り付かないようにしているのだとか。

 こちらから近付くとか、ダンジョン産の魔物だとか多少の例外があるとは言え、国滅ぼしクラスの魔物の格は大きすぎるらしく、小さな魔物すら一匹も自ら寄るようなことはないのだという。


 だからこそ、彼女達がいる時点でこの旅路に関して警戒するのは魔物から人へと変わる。

 人であれば魔物とは違い気にすることはなく、堂々とやってくる可能性はある。

 それはもう、先ほどの賊たちが見事に証明を成し遂げてしまっているのであった…‥‥


「ところで、さっきから引きずっている赤玉になった人たちどうするの?」
「んー、道中の村にでもあるギルドで、引き取ってもらうしかないか」
「あの効果、どれだけ続くんだったか‥」
「2,3日程度らしいで。そのぐらいあればたとえ凶悪な犯罪者であってもそう簡単に動けず、治るまでの間に対応できる人が来れるようにという事になっているんや」

 意外にもそういう部分は考えられていたらしい。まぁ、防犯用として売り出すのであればそのぐらいのことは考えて作ってあるのかもしれない…









 ゴロゴロと引きずりつつ、ジークたちが道中を進んでいる丁度その頃。

 抜かすような形で先回りをするために急ぐ一団も、出来る限り離れつつも観察もしながら、先を進んでいた。

「賊共は駄目だったか‥野生の賊ではやはり、まだまだか」
「野生じゃない、家御用達の賊共ならばもう少しやれただろうが‥‥それでも多勢に無勢なうえに、国滅ぼしの魔物がいる時点でどうしようもないのは分かるからな」

 この先に例え、人でトラップを仕掛けたとしても容易くかかるようなことはないだろう。

 面子のバランスを考えると接近戦に寄っているので、遠距離から一方的に襲撃しようとしても、その距離をあの蜘蛛の美女は覆すすべを持っているという情報はあるし、宝箱のような魔物も魔法を使って攻撃が出来るそうなので、距離の差で優位性をつかむことは難しい。

 だがしかし、それはあくまでも多少の力しかないような者達だけでやる場合であり‥‥‥やり方次第ではどうにでもなる方法はあるだろう。

「それで、こっちの情報は大丈夫か?奴らの目的地に向かうまでの道中に、既に誘導しているよな?」
「ああ、大丈夫だ。本来ならば発見次第、ギルドの方に報告されて討伐隊が組まれる可能性があったのだが、見つからないように秘匿しながらやったかいはあった」
「そうか。それで仕上げとして向かう訳だが‥‥‥これで、うまくいくのだろうか?」

 不安がないわけではない。自分達で色々と考えた末に、これでもかと徹底的に見直した案なので、成功率は失われていないと思うことはできるだろう。

 だがしかし、それでも完全に制御しているわけでもなく、仮に成功したとしてもその後の後始末の方で面倒になる可能性もあるのだ。

「まぁ、どうしようもなかったら全部巻き添えにすればいい」
「さらに都合の良いことに、昨晩もう一軒情報が入ったが、同じ群れがあり、合流させることに成功したようだ。しかもこちらにはより異常な種も混ざったようで、成果は期待できるだろう」
「我々の主の下に、あの美女を出せなくなる可能性はあるのだが…‥‥無理だとしても、そこで尽きてしまえばそれはそれで、国滅ぼしの魔物がいなくなるという事で、不安も無くなるのだから問題あるまい」

 勝っても負けても、成功しても失敗しても、どちらに転んでも良いことはある。

 例え大きなデメリットがあっても、それもすでに織り込み済みであり、納得はしているのだ。

「後はもう、運を天に任せるのみ‥仕上げるために、さっさと向かうとしよう」

 準備はできた、細工は流々仕上げを御覧じろ。

 そう思い、彼らはすたたたっと走り抜け、自分達の用意したとっておきの罠を確認するために先を急ぐ。

 それがまた、別の脅威を生み出す可能性はあるのだが‥‥‥それでも今は、これが最善の策だと彼らは思いたいのであった…







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