絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
90 / 238
移り変わる季節と、変わる環境

log-084 踊る宝石舞う輝き

しおりを挟む
―――竜種騒動を収めた冒険者たちへの、褒章の場兼祝いの場。

 会場はグラビティ王国の王城…ではなく、その近くに建てられている迎賓館のような施設だった。

 流石に王城で行わないのは、王族のいる場所だからこその警備面の問題もあり、だからこそ各国にはその手の特設会場となる場所や建物が確保されているらしい。

グラビティ王国ではこの邸がその手の会場として利用されており、祝いの場があればここで行われるのが基本らしい。


 もちろん、あくまでも冒険者たち向け…ほぼ平民の人たちばかりの場所用でもあり、貴族相手での祝いの場はまた別に建てられており、そちらの方がより豪勢な会場になっているようだ。


「でも、こっちでも十分豪華だよなぁ」
【そうですよね。褒章の場と言ってもそれまでは自由に会場を歩けますし、料理もおいしいですからね】

 もぐもぐと皿にのせた料理を食べ、そう答えるハクロ。
 彼女の装いは白いドレスであり、ただ白い糸で作ったのではなく何かしらの加工をしたのか星々のような小さなきらめきを纏っており、大きい布地がその蜘蛛の部分を覆っている。

「というか、ルミのほうも入り口付近で周囲を見回っているし…もうちょっとこう、祝いの場を楽しめばいいのに」
【武器を預けることになって、手元に剣がないからこそ、少し落ち着かないようですよ】

 透き通った湖のような、透明感のある蒼いドレスを着つつ、落ち着いた様子を見せないルミ。
 会場内の参加者たちも武器を預けており、全員丸腰の状態なのだがこちらはリラックスしている様子。

 まぁ、こんな場所に襲撃をかけるようなものがあるのかと言われればそうでもなく、警備の人たちもいる様なので安心はできるはずだが…それでも、普段鎧姿だからこそ、慣れていないドレスに落ち着かないようだ。

「お、やぁやぁジャック君にハクロさん、お久しぶりだね」
「ああ、輝きのラッパのダンデームさん。他の面子もお揃いですね」

 声をかけられてみれば、竜種騒動で一緒に動いた冒険者パーティ輝きのラッパの面々。
 それぞれドレスコードに合わせた衣服を着ており、普段とはまた違った印象を受けるだろう。

 しいて言うのであれば…

【あの、ダンデームさん?何で今日は、スキンヘッドなのでしょうか?前は髪が普通に生えていたような…】
「…ははは、実は竜種騒動後に色々と依頼を受ける中で、最悪な目に遭ってね…」

 会場の明かりによって反射する、つるつるの頭。
 以前あった時と比べて、変わり果てた姿に僕らは驚いた。

「それがな、我々のリーダは先日ある討伐依頼に向かったんだが…」
「そこで出会ったのが、凶悪なスライムで」
【あー、マッドポイズンスライムかナ?先日、その魔石を持ち込んできたから、そいつに頭からやられたんだろうなと思ったヨ】
「ひぇっ!?ス、スラスラスラ…ああ、何だファイさんか…ビビったよ、スライム特有のそのプルプル感に…」

 まるでGでも見たかのように飛び上がったダンデームさんだったが、声をかけてきた相手…燃え上がるような真っ赤なドレスを着たファイの姿を見て、ほっと安堵の息を吐いた。


「物凄いトラウマになっている…というか、あれ?他の皆さん、ファイを知っていたっけ?」
【あたし、ギルドでバイトしているからナ。王都ギルドに訪れる冒険者たちは大抵顔見知りになっているゾ】
「ああ、そういえばそうだった」

 竜種騒動前はいなかったファイに、何故輝きのラッパの面々が知っているのか一瞬疑問に思ったが、すぐに解消された。
 王都のギルドでアルバイトしている以上、彼らが彼女に遭遇する可能性はあるのだ。

「というか、マッドポイズンスライムって何?名前を聞く感じだと、思いっきり毒々しいスライムの姿想像できるけど…」
「その名の通り、おおよそイメージできているようだけど…今回、出会ったのはその変異種で、毛のみを確実に溶かすヤバい奴だったんだ」
「うわぁ…」
【変態性が極まっているな、そのスライム。同じスライムとして、どうしてそうなったのだと言いたいヨ】

 かくかくしかじかと話を聞けば、どうやらそのスライムは動物の毛だけを食する変わり者だったらしく、道行く人々の毛の危機が上がっていたらしい。
 なので、どうにか討伐しようと何人もの冒険者たちが挑むも、意外にも中々強く、悲惨な目に遭った方々もいるらしい。

 その犠牲者の中に、ダンデームさんもいたようだ。

【ついでに腕は確かのようで、綺麗に魔石は取れていたけど…特殊性癖過ぎて、不味かっタ】
「いや、食べたんかい」
【食べては無い、絶対に経験にしたくないなと思えたレベルだっタ。一体何をどうしたら、ああいうスライムになるのか、不思議だナ】
「こちらとしては、ファイさんのような人型のスライムのほうが不思議ですけれどね」

 ごもっともである。

「というか、さらに言えばそういう子たちを従魔にできるジャック君も不思議だよね」
「なんというか、そういうのを引き寄せる運でも持っているのか?」
「それを言われても、わからないからなぁ…」
【本当に不思議なことなの】

 うんうんとうなずく、落ち着いた新緑のドレスを着こなすカトレア。
 不思議と言われてもどうしようもないというか、カトレアもやってきた一体と言えるのだがそこはどうツッコミを入れるべきなのだろうか。


 とにもかくにも、今回の騒動で活躍した人たちへの褒美が授けられる時間が、もう間もなく来るのであった…
しおりを挟む
感想 488

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...