絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

文字の大きさ
97 / 238
移り変わる季節と、変わる環境

log-090 闘技場のメンテナンス

しおりを挟む
―――ベクトラン闘技場。

 いざという時の緊急避難所としても利用されるこの場所だが、大闘争会のための会場としても利用するために、しっかりと日頃から定期的なメンテナンスが施されており、放置されっぱなしの場所ではない。

 しかし、そもそもなぜこのような場所があるのかというのも謎があり、様々な調査が行われはしたが…

【それでも謎は解けず、結局のところ無害なのと頑丈なので、こういう時に使える全天候対応闘技場としての利用があると…メンテナンスしつつも、その内部構造や材質などは不明…本当に大丈夫な場所ですよネ?】
「そのはずだけれども、だからこそ万が一に備えて、生徒たちに何か起こらないように、闘技場の状態をギルドのほうでチェックを入れていくのよ」
「そうよ、ファイさんの主も今回の大闘争会に出るのでしょ?安全のためにも、しっかりと確認をしないとね」


 大闘争会まであと三日となった頃、その闘技場内ではギルド職員たちによってメンテナンスが行われており、その中にファイの姿もあった。
 
 ジャックの従魔であり、当初は経験目的でギルドの鑑定員としてのアルバイトに努めていた彼女だったが…なんやかんやあってその手腕が認められていき、今ではほぼ正式な職員と変わらない扱いとなっていた。

 そのおかげもあって、大闘争会の解説役も務めることになったが…事前の下見も兼ねて、このメンテナンスにも加わったのである。

【それにしても、謎が多いだけあって確かに不思議でス。ちょっと、経験の糧にしようと捕食を試みましたが、出来ないようでス】
「え?スライムってなんでも食べれるイメージがあったけど…」
【スライムに限らず、モンスターはやろうと思えば何でも自身の糧にできるのですが…駄目ですね、弾かれるような感覚がしまス】
「ふむ、今まで従魔の攻撃を当てて耐久力を測定し、避難所として優れた耐久性を確認していたが…そのような感想を述べるとは、人の言葉ができるならではの興味深い話になるな」

 腕を伸ばし闘技場のあちこちに触れてそう口にするファイの言葉に、他のギルド職員たちも興味深そうな声を上げる。

「ファイさん、慣れ親しんでいたけどそういえばスライムだっけ…スライムと言えば不定形だけど、人型だから普段忘れがちになるよね」
「いや、喧嘩をしていた冒険者相手に、0距離レーザーで脅した姿でモンスターだと分かるだろ…」
「セクハラをやろうとした馬鹿を、スライムならではの捕食で瞬時に衣服だけ全て溶かして社会的抹殺した光景も良かったよ」

 職員の仲間として過ごしている中で、忘れそうにもなるが…しっかりとスライムなのだ。

 そんなスライムの有名な特徴としては、色々と取り込めることだが…どうやらこの闘技場は取り込めないらしい。
 
 腐食性が高いのかと思われそうだが…どうやらそれとはまた別の何かがあるようだ。

「改めて、この闘技場の謎が出てきたわね…スライムで融解実験はやったことがあるらしいけれども、その時は単純に溶けない素材…でも、弾かれる感覚と言う感想は初めてのはず」
「そもそもまともなスライムが人の言葉を話せないから、感想を聞こうにも分らないよな」
【モンスターの言語は基本、圧縮されていますからネ。理解できなくとも無理はないというか、大抵鳴き声にしか聞こえないらしいですシ】

 感想が聞けたことで謎が増えたが、今はそれを詳しく追及できるようなものは無い。
 あくまでも今はメンテナンスのために来ただけであり、そのような情報は後でその手の専門家へ流し、調査を依頼するしかないのである。

 仕方が無いのでメンテナンスのほうに彼らは意識を向けつつも、一度疑問が出てくればその他のことにも追求したくなる思いがあふれ出てくるのであった…



「…それにしてもファイさんがスライムなおかげで、いちいち梯子など持ってこなくても、伸びたりするだけで片付くのが凄い楽よね」
【スライムですから、こういう作業はお手の物でス。レーザー…までいかずとも先端を光らせて暗い場所も見やすくしたり、隙間もこうやってじゅぞぞっと中に入り込めば…うん、問題なく確認できますネ】
「本当に便利だなスライム…クリーナースライムとかいうのが欲しがられたりするわけだ」

…ギルド内でも役に立つファイの能力。
 スライム系統は最弱のイメージも持たれやすいが、その利便性はかなり優れているのであった。
しおりを挟む
感想 488

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】辺境の魔法使い この世界に翻弄される

秋.水
ファンタジー
記憶を無くした主人公は魔法使い。しかし目立つ事や面倒な事が嫌い。それでも次々増える家族を守るため、必死にトラブルを回避して、目立たないようにあの手この手を使っているうちに、自分がかなりヤバい立場に立たされている事を知ってしまう。しかも異種族ハーレムの主人公なのにDTでEDだったりして大変な生活が続いていく。最後には世界が・・・・。まったり系異種族ハーレムもの?です。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

処理中です...