絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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面倒事の拭い去りは拒絶したくとも

log-103 保護する流れもありつつも

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―――ここは、どこだろうか。

 彼女はそう思ったが、身体の自由はきかない。
 
 なすべきことがあるはずなのに、それをやれるだけの力が無い。

(…力も…ほぼ、失われた…)

 感覚的にわかるのだ。
 自分の父親に褒められた、大切な記憶の場所。

 そこが今、失われていることを。


 どんどん体が冷たくなり、このまま深い闇の底へ…沈み込みそうだった。


 しかし、ふと気が付く。

(…あれ?なんだろう、暖かい…)

 先ほどまで冷たい水底のような感覚がしていたというのに、今はそれが無い。
 なにかこう、ぬるっとしているような感じがしつつも暖かいものに包まれ、少しづつ体の冷え固まった部分が解け始め、じわじわと熱を持ち始める。

(これは一体…)

 何が起きているのかはわからない。
 ただ一つ、言えることとすれば死にかけていたこの身体を、誰かが助けてくれたことを‥‥




【グァ・・・ガッツ・・・ガッツ…】

「…っと、声が出てきたようだけど…大丈夫?」
【ガアッ…ガッ…】

 周囲の空気を温め、ファイのスライム布団(生暖かめ)で保温しじっくりと体温を上げていたオーガが目を覚まし始めたことにジャックたちは気が付いた。

 暴れられる危険性もあったが、そのような凶暴なそぶりも見せず、肉体の治療はできてきたが中身はまだボロボロのようだ。

【…駄目ですね、マスター。このオーガ、喉元が引き千切られてまス。事情を聴くのは難しいでしょウ】
「それってかなりの致命傷なんじゃ…」
【そこは大丈夫でス。スライムジェルでふさげますので、再生するまでは持つでしょウ。ただ、あくまでも表面を覆って補助するだけなので、発音まではできないでス】

 ファイのスライムボディは結構便利なようで、傷口がこれ以上細菌などによる悪化を防ぐ役目を果たせるようだが、流石に声帯の代わりにはならないらしい。
 

 それでも何とか一命はとりとめたようで、助けられていることがわかっているのか敵対心を向けられるようなそぶりもない。

【ガァ…グッ…】
「無理してしゃべらなくていいよ。…ここも治るよね?」
【問題ないはずなの。ミーの薬草はしっかり効くはずなの】
【モンスターの生命力を舐めてはいけないですよ。腕がひきちぎれようが、吹き飛ぼうが、栄養をたくさん取ってたっぷり時間をかけたり、あるいは成長して脱皮や進化すれば、治りますからね】
【しかし…主殿、こやつを治すのは良いが、どうする気なんだ?】


 ここは王都の外であり、このままオーガを放置するわけにもいかないだろう。
 治療しているとはいえ、手負いのモンスターをそのままにしておくほど、世界は甘くはない。

【んー…奴隷とかいろいろとヤバいことになって言るっぽいような情報もあるのガ…】

 オーガに関しての噂があるようで、どこかの奴隷商人の手元から逃げたという話がある。
 
 ほぼ違法とは言え、一時は誰かの所有物だったものを、勝手に扱って良いのかという問題もあり…色々と考えることが多い。

「まぁ、この寒い中行き倒れになっているような子を見放すわけにもいかなかったしね…とはいえ、オーガでだいぶ大きなイメージがあったけど、なんか同じくらいの少女っぽいな…」

 ファイのスライムジェルで汚れも色々と取れたようだが、改めてみると人型のモンスターと言えばそうだろう。
 角が折れているとはいえ、赤い地肌は人の者ではないが、それでも人の外見をいつだろうと思えば色々と隠すだけで多少はごまかせそうな気がしなくもない。

 そりゃ奴隷として目もつけられそうな気もするが…何かしらの事情もあるようだし、一旦保護したほうが良いと判断する。

「一応、モンスターの保護も可能だっけ?」
【適切な申請が必要ですが、従魔にしてなくとも可能ですネ】

 ならば、このままギルドのほうに向かって、保護申請をすべきなのかもしれない。
 そう考え、もう少しだけこのオーガの回復を待ってから、ジャックたちは動くのであった…


【…それにしても、このオーガの傷…何によるものだというものが分からないが…】
「どうしたの、ルミ?」
【いや、何かこう嫌な気配を感じてな。呪いとかがあるわけではないが、傷をつけた相手が何かこう、やばいような気がしてな…】
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