絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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面倒事の拭い去りは拒絶したくとも

log-105 悪意は悪意を呼び寄せる

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…悪意と言うのは、非常に厄介なもの。

 それは強烈な鉄槌を持って潰すことも出来たりするが、仕留め損ねれば勝手に蠢き、周囲へさらなる災厄を招きかねないこともあるだろう。

 そんな中、とある一人の悪意が…今まさに、さらなる厄介事を招こうとしていた。

「…間違いなく、この辺りにいるはずだが…道が悪いな」

 ガタゴトと山道を揺られていく馬車に乗っているのは、とある奴隷商人。

 そう、あのオーガの娘を買い取っていたはずだが、逃げられた上に違法性を指摘され…そのまま坂道を転がり落ちるようにして王都を追われた商人。

 やらかしたことをしっかり見つめなおして反省していたりすればよかったが…そううまういくほど性根が出来た者はいない。
 しかし、この商人は確かにやらかしたものではあるが、それでもその地位に上り詰めるだけの実力はあり…今、見事な逆恨みを原動力として、反撃の手を作り出そうとしていた。




 崩壊のきっかけになった、オーガの娘。
 その娘を最初に売り払ったオーガ。

 いくつかの経緯を経てやってきたようだが、それを遡り…そして、彼はたどり着いた。


「それで、あなた様が最初に売られましたオーガの娘に関して、現在正当な持ち主であるこのわたくしめのもとへ戻すように、お願いしに来たわけでございます」
【---その話を聞いて、動くと思うか?この俺様が!!同族を売り払い資金源にはしたが、売り払った後の面倒までは見てねぇぞ!!】


 商人の目の前にいるのは、あのオーガの娘を最初に売り払ったというオーガの前。

 どくんどくんっと赤黒い筋肉や血管が表面で蠢き、通常のオーガよりもはるかに大きく頑強さを兼ね備えた肉体をしたオーガは、商人に対してそう答える。

 売り払った以降は、自分の手元には無いので関係ないというようだが…

「し、しかしですね、取り返しに行くのに関しては、あなた様にも都合が良いかと思われます」
【それだけの利益が、何かあるんだろうな?人間共のいる王都とやらは、先日どこかの脳筋な悪魔がやらかしたせいで、警備も厳しいと聞く。ただの人間なんぞ、敵ではないがコバエを振り払うのも面倒だ】
「いえいえいえ、確かにその通りでございましょう。しかし、ただのコバエが相手ではないのです。そうですね…こちらの姿絵を見ていただければと」

 そう言いながら商人が懐から取り出したのは…王都内のとあるルート筋で手に入れていた、ある者たちが描かれた画集。
 場合によっては別方面で利用するための、参考資料として取っておいたのだ。


【これは…モンスターか。ああ、噂に聞く厄災級の美女か…こいつらのもとに、今いるのだな?】
「そ、そうでございます。こいつらも奴隷として売り払うのも良し、いえ、むしろあなた様が手に入れて、新たに売るための子を作らせるという手も…」

 いくらオーガとはいえ、所詮は雄。
 こういうもので釣ることで、動かしやすくなるだろう。

 そう考え、あくどい笑みを浮かべながらオーガに進める商人は、ここから有利に交渉ができると思って…

「それで、よろしけれ、」


【---ああ、もういいぞ、この情報だけで、お前はいらない】
「え…」」

グシャァァァ!!








【くくくく…まさか、このガワの娘がまだ生き延びていたとはな。新たな資金源として用意するのも良いが…こいつらも放置はできないか】

…血に染まった手を適当なその辺の葉っぱでふき取り、その場を後にして歩み始めるオーガ。
 その手には、商人からいただいた姿絵があり、それを見てつぶやく。

【あの蟲や筋肉馬鹿が言っていた、例のモンスターどもの元か…いつか、攻めに行こうかなとは思っていたが、こういう時はやる気がねえと面倒だった。ちょうどいいきっかけづくりとして、弁当として礼を言っておくぜ】


 ぷっと骨を吐き捨て、オーガは進む。

 考えてはいたが、何かしらの動機が無ければ少々面倒くさくもあったモンスターの相手。
 しかし、商人から他に得られた情報で、きっかけはできた。


【こんな美女共に、囲まれての生活か…ガワの娘とはいえ、羨ましいな、嫉妬するなぁ…良いぜ良いぜ、良い具合に嫉妬心がうずくな…】


 残念ながら、ここまで来た商人の馬車は、オーガが近づいてきたところ全速力でその場を去ってしまったため、徒歩になるだろう。

 少々時間はかかるが、それでも歩みを進めていくのであった…







【ウガァ!!!ウウーー!!】
【よしよし、良い具合に言葉だけはどうにかなってきましたね】
「どうにかなってんの、それ?」
【舌もボロボロでしたガ、こっちのほうが再生早かったでス。声帯が駄目でも、舌とお腹でどうにか話せるようにまでこぎつけられそうですネ】

…そんなことは知らず、王都の方ではその例の娘が、もう少しで真実を語れそうな状態になっているのであった。
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