絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波

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選択は人次第

log-186 逆鱗に触れし者/タクラミ

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―――正直言って、私は彼が強くなることに反対はしないが、前に出る必要はなく、私たちに任せてほしいと思うことがある。

 何故ならば、悪魔に対抗できるようになったとしても、前に出れば彼が傷つく可能性が大きくなる。

 大事な大事な、とても大切な、愛しい番。

 だからこそ、私もまた研鑽を積み、生まれ持って得ている力を驕らずに、いざという時も確実に守れるようにしたいのだ。

 でも、確実に守ることができないときもある。

 不可抗力、本当にどうしようもない事態。
 そうだと理解していたとしても、危機にさらされているのならば、どれほど屈辱的で…





【…それでいて、大事な番を害そうとしたその罪は…万死に値しますよね】
【異議はないぜ】
【主殿を守れぬのは、騎士として不覚である…ゆえに、ここでその責任を取って全滅させるか】

 すやすやと、ハクロの蜘蛛の背中の上でしっかりと堕ちないように固定され、寝息を立て始めたジャックを見つつ、ハクロ達は本気の殺意を周囲へまき散らす。

『『『ひぇっ…』』』

 普段の彼女たちからは信じられないような、恐怖…いや、畏怖すらも感じさせるほどの大きな怒りが実体化しているように見え、思わず天井の口々は戦慄の声を上げる。

 周囲の肉壁が少しでも距離を取ろうと蠢き、今のうちに逃げようとする口。

 しかし、逃走を彼女たちが許すはずもない。


 聖なる歌が流れて動きが鈍り、その隙に蔓と糸が捕縛し、凍てつく炎が氷結させ、隅々まで入り込んで固定化し、轟雷が打ち抜きとどめていく。


 逃げ場を奪うのは、もちろんのこと、その過程でもしっかりと償わせる。

 だが、これで足りるわけがない。

 地獄の蓋が今、開かれたのだから…



















―――カツン、カツン、カツ…

『うわぉ…こりゃ、酷いな』

 とある深い洞窟の中で、静かに響いていた足音が鳴りやみ、思わずその惨状を見て声が漏れる。

 大罪悪魔の一人…常識と憤怒のガルストは、悪魔の身でありながらも悪魔以上の所業が施されたものに、恐怖を抱いてしまう。

『一応、こうなる可能性があったとはいえ…まさか、本当になるとは』

 宣戦布告をして、敵対している以上誰にでもありえる可能性。

 まぁ、悪魔たちののもあって、やや焦る形で強硬な方法を取ったが…それゆえに、ここまで苛烈な反撃を喰らう可能性も高くなっただろう。


『生きているか?ケルダー…だったものというべきか』
『---問題は無い、腹が一つ、潰されただけだ』

 ガルストの問いかけに対して、どう考えてもそれで済むようなものじゃないという惨状になった、真面目と怠惰のケルダーが答える。

 これで、生きているのは奇跡と呼ぶべきか、それとも本当にその程度で済んでいるのか。

 その真偽は同族とてわからないが、少なくとも下手な手出しを出せば、それ以上のものがあるということが分かったというだけ良しとすべきか。


『なんにせよ、もう良い…どうせ、自分がやる分に関しては、もうなすべきことがないからこそ、この役を買って出ただけだ。あの国などは終わっているからな』
『そうか…それで良いなら、問題は無いのか』

 怠惰と名が付く割りには、大罪悪魔たちの中で実は一番やるべきことを終えているケルダー。
 
 だからこそ、この惨状になってしまったことに、悪魔と言えども流石に申し訳なさが湧くだろう。


『それに、楔は撃ち込んだ。喰らった限りでは、先にやっているものもいるが…』
『本当によく、仕事するなぁ…』

 できればもうゆっくりと眠りに付けと言いたいが、やるべきことは徹底的にやり遂げている様子。

 せめて、他の悪魔たちも同じぐらいの情熱などがあればよかったのではないかと、ガルストはそう考えこんでしまうのであった…




『ところで、今回の作戦において古いガワを使わせてもらったが、ゲラトはどうした?』
『奴なら先日、手に入れたガワでイキイキと実験しているらしい。流石、護衛騎士のガワだけあって頑強であり、苗床たちの悲鳴もより一層高らかに鳴り響くだとか…』
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