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選択は人次第
log-201 兎は獣に
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…予防接種から数週間後。
寒さがジワリジワリと襲い掛かってくる中で、従魔たちの体調は悪くはない様子。
この調子でいけば、何事もなく過ごせそうなものなのだが…
【…ですが、流石にちょっと無理しちゃったようです】
【やはり、薬でごまかしきれるものじゃなかったようだぜ…】
「…あの、ハクロ、ルトライト、なんか目が怖いんだけど…」
ゆったりとした休日前の真夜中、寮から出て明日はどこかへ遊びに行こうかと思って、彼女たちのいる邸に来たジャックではあったが…今、その一室にてハクロとルトライトの二人に押し倒されていた。
普段の彼女たちの争い合う様子とはまた違う目の色。
何と言うか、本能的な部分で警鐘が鳴り響かされるような…
【…ちょっとですね、先日処方された薬があったんですけれども…結構長く持つかなと思っていたんですよ】
【でも、これは消すのではなく、あくまでもせき止めるだけで…ああ、ちょっとやばいなと、自分でも思っているんだぜ】
処方された薬って、一体何を。
そう思ったジャックの視線の端で、その薬らしいものが目に映る。
「性欲減退薬…?…まさか」
表記されていた薬の名称を見て、すぐに理解させられる。
そう、彼女たちは今、その薬を服用して本能を一部抑えていたわけだが…それでも、限度はあったらしい。
解消するようなことではなく、あくまでもせき止めるだけの作用であるからこそ、適度な発散で対策などを行う必要性もあった。
しかしながら、悲しいことにその手の発散方法に関して試したところで、あふれ出る思いと言うのは止めがたいモノ。
特に、お互いに限界を迎えてくれば、どちらかがやらかせばストッパーのような役割を担いそうなものなのだが、いかんせん同じような目的になってしまうのであれば、むしろ協力し合うもの。
それゆえに今…この場には、狩られる兎と狩ろうとする獣が爆誕してしまったのである。
「ちょっとタンマタンマタンマ!!カトレア、ファイ、レイ、ルミ、誰でも良いからこの状況と止めに来て!!いや、まず何でこの時点で誰もいないわけ!?」
普段であれば、カトレアがいのいちばんに飛んできそうなものではあるが、気が付けばそのような姿を見かけていない。
【大丈夫ですよ、ジャック。皆、今寝てますからね】
【決して、オレたちが事前に気絶させたとかじゃないぜ】
「絶対に嘘だろそれ!?」
この二人ならやりかねない可能性は十分あり得る。
普段のやりとりならばともかく、純粋な実力勝負になった場合、まともにやり合えばどれほど強いのかも理解しているからこそ、抑えきれないこともあるだろう。
でも今は、そんな事よりも色々な意味で危険な目になっている。
可能であれば、今すぐにでもどこかで悪魔の襲撃でもあって、その対処に向かわなければいけない緊急事態でも起きてほしい。
『…誰が、そんなところへ向かうか?悪魔でも恐れそうな状況に、飛び込む馬鹿はいないだろ』
どこかの悪魔が言う言葉に、その他の見たことあるような悪魔たちが賛同する光景が想像できるが、状況がより絶望的になったと捉えるべきか。
「えっと、その、二人とも落ち着いて!!勢いでやったら色々と後悔すると思うんだけど!!」
【ふふふ、ジャック、私たちが後悔するとでも?】
【本気で、思っているのか?】
…ごめん、多分しない方だろうなとは思ってしまった。
でも、なされるがまま流されてはいけないことは馬鹿でもわかる。
というか、抑制が効いていない今、確実にそのままだと悲惨な未来しか見えないのが一番ヤバい。
【さぁ、あっちでおとなしく…】
「そうはいかないからね!!こんなこともあろうかと、カトレアが仕込んでおいたこれを!!」
【っつ!?】
身を守るための手段と言うのは、どれほどあっても困るものではない。
特に今は、前の悪魔による騒動も含めて自衛手段を根本的に見直してきており、色々と新しい手段を獲得している状況。
悪魔相手ではなく、ハクロ達なので傷をつけない手段なら…
「先に謝っておくよ!!多分、凄いヤバい!!」
そう言いながらジャックが懐から取り出したのは、乾燥した花びらのようなもの。
「『アクアボール』!!」
ハクロ達に押し倒されているからこそ、すぐに発動できる水の魔法で花弁を覆い、次の瞬間、ぶわっと何かの煙が噴き出した。
【これは…うぐぅづ!?】
【ほぎゅっ!?】
煙を嗅いだ瞬間、バタンと倒れた二人。
無理もないだろう。この花びらは、水で戻すことで本来の臭いを取り戻すのだから。
モンスターであるからこそ、人以上に敏感な嗅覚には…耐えがたいものだろう。
「いや、人間でもキッツいかも…カトレア、よくこれ護身用に生やしたなぁ…」
その花びらを宿すのは、強烈な悪臭を放つ『ヘルレシア』と言う花。
悍ましい臭いで特定の蟲以外を寄せ付けない自衛手段を持つ花であり、ちょっとした生物兵器レベルの扱いで取引が禁止されていたりするのだ。
乾燥すると無味無臭になるらしいが、水で戻せばその悪臭が復活するらしく…今回は見事に功をなしたのである。
とにもかくにも、気絶させたとはいえこの問題はそう簡単に片付くようなことではない。
「…いや、本気でそろそろ、その辺も考えないといけないか」
向けられているその思いに対して、何も感じていないわけでもなく…それでも、流石に襲われるのだけは勘弁してほしいと、ジャックは深い溜息を吐くのであった…
「しかし、ハクロとルトライトの二人が、瞬殺されるってどれほどのやばい花だよ…カトレアからは、絶対に間近で嗅がないで下さいと言われたが…」
寒さがジワリジワリと襲い掛かってくる中で、従魔たちの体調は悪くはない様子。
この調子でいけば、何事もなく過ごせそうなものなのだが…
【…ですが、流石にちょっと無理しちゃったようです】
【やはり、薬でごまかしきれるものじゃなかったようだぜ…】
「…あの、ハクロ、ルトライト、なんか目が怖いんだけど…」
ゆったりとした休日前の真夜中、寮から出て明日はどこかへ遊びに行こうかと思って、彼女たちのいる邸に来たジャックではあったが…今、その一室にてハクロとルトライトの二人に押し倒されていた。
普段の彼女たちの争い合う様子とはまた違う目の色。
何と言うか、本能的な部分で警鐘が鳴り響かされるような…
【…ちょっとですね、先日処方された薬があったんですけれども…結構長く持つかなと思っていたんですよ】
【でも、これは消すのではなく、あくまでもせき止めるだけで…ああ、ちょっとやばいなと、自分でも思っているんだぜ】
処方された薬って、一体何を。
そう思ったジャックの視線の端で、その薬らしいものが目に映る。
「性欲減退薬…?…まさか」
表記されていた薬の名称を見て、すぐに理解させられる。
そう、彼女たちは今、その薬を服用して本能を一部抑えていたわけだが…それでも、限度はあったらしい。
解消するようなことではなく、あくまでもせき止めるだけの作用であるからこそ、適度な発散で対策などを行う必要性もあった。
しかしながら、悲しいことにその手の発散方法に関して試したところで、あふれ出る思いと言うのは止めがたいモノ。
特に、お互いに限界を迎えてくれば、どちらかがやらかせばストッパーのような役割を担いそうなものなのだが、いかんせん同じような目的になってしまうのであれば、むしろ協力し合うもの。
それゆえに今…この場には、狩られる兎と狩ろうとする獣が爆誕してしまったのである。
「ちょっとタンマタンマタンマ!!カトレア、ファイ、レイ、ルミ、誰でも良いからこの状況と止めに来て!!いや、まず何でこの時点で誰もいないわけ!?」
普段であれば、カトレアがいのいちばんに飛んできそうなものではあるが、気が付けばそのような姿を見かけていない。
【大丈夫ですよ、ジャック。皆、今寝てますからね】
【決して、オレたちが事前に気絶させたとかじゃないぜ】
「絶対に嘘だろそれ!?」
この二人ならやりかねない可能性は十分あり得る。
普段のやりとりならばともかく、純粋な実力勝負になった場合、まともにやり合えばどれほど強いのかも理解しているからこそ、抑えきれないこともあるだろう。
でも今は、そんな事よりも色々な意味で危険な目になっている。
可能であれば、今すぐにでもどこかで悪魔の襲撃でもあって、その対処に向かわなければいけない緊急事態でも起きてほしい。
『…誰が、そんなところへ向かうか?悪魔でも恐れそうな状況に、飛び込む馬鹿はいないだろ』
どこかの悪魔が言う言葉に、その他の見たことあるような悪魔たちが賛同する光景が想像できるが、状況がより絶望的になったと捉えるべきか。
「えっと、その、二人とも落ち着いて!!勢いでやったら色々と後悔すると思うんだけど!!」
【ふふふ、ジャック、私たちが後悔するとでも?】
【本気で、思っているのか?】
…ごめん、多分しない方だろうなとは思ってしまった。
でも、なされるがまま流されてはいけないことは馬鹿でもわかる。
というか、抑制が効いていない今、確実にそのままだと悲惨な未来しか見えないのが一番ヤバい。
【さぁ、あっちでおとなしく…】
「そうはいかないからね!!こんなこともあろうかと、カトレアが仕込んでおいたこれを!!」
【っつ!?】
身を守るための手段と言うのは、どれほどあっても困るものではない。
特に今は、前の悪魔による騒動も含めて自衛手段を根本的に見直してきており、色々と新しい手段を獲得している状況。
悪魔相手ではなく、ハクロ達なので傷をつけない手段なら…
「先に謝っておくよ!!多分、凄いヤバい!!」
そう言いながらジャックが懐から取り出したのは、乾燥した花びらのようなもの。
「『アクアボール』!!」
ハクロ達に押し倒されているからこそ、すぐに発動できる水の魔法で花弁を覆い、次の瞬間、ぶわっと何かの煙が噴き出した。
【これは…うぐぅづ!?】
【ほぎゅっ!?】
煙を嗅いだ瞬間、バタンと倒れた二人。
無理もないだろう。この花びらは、水で戻すことで本来の臭いを取り戻すのだから。
モンスターであるからこそ、人以上に敏感な嗅覚には…耐えがたいものだろう。
「いや、人間でもキッツいかも…カトレア、よくこれ護身用に生やしたなぁ…」
その花びらを宿すのは、強烈な悪臭を放つ『ヘルレシア』と言う花。
悍ましい臭いで特定の蟲以外を寄せ付けない自衛手段を持つ花であり、ちょっとした生物兵器レベルの扱いで取引が禁止されていたりするのだ。
乾燥すると無味無臭になるらしいが、水で戻せばその悪臭が復活するらしく…今回は見事に功をなしたのである。
とにもかくにも、気絶させたとはいえこの問題はそう簡単に片付くようなことではない。
「…いや、本気でそろそろ、その辺も考えないといけないか」
向けられているその思いに対して、何も感じていないわけでもなく…それでも、流石に襲われるのだけは勘弁してほしいと、ジャックは深い溜息を吐くのであった…
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